風説うわさ)” の例文
下座語げざがたりの懐へ、どろんと消え、ひょいと出る、早替はやがわりの達人と、浮世床にて風説うわさの高き、正三位しょうさんみくん何等、大木戸伯爵と申すはこれなり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
龍華寺りようげじ信如しんによしゆう修業しゆげうには立出たちいづ風説うわさをも美登利みどりえてかざりき、あり意地いぢをばそのまゝにふうめて、此處こゝしばらくのあやしの現象さまれをれともおもはれず
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なんかんと風説うわさしております、そのうちに張見世はりみせの時刻になりましたが、総仕舞で八重やえ揚代ぎょくが付いて居りまするから、張見世をするものはございません、皆海上の来るのを待っている。
例の上平館かみひらやかたの開墾が起りまして、そこに一種の理想を抱く修行者——同志が集まって、一王国の生活を企てている、そういう風説うわさを聞きましたものですから、僕は越前の福井からかけつけて
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何も知らぬ人にまで。いろいろな風説うわさを皆いいますから。人の口ほどこわいものはござりません。私しのように引込み思案にしていてもいけませんが。マアまだ社会へ出ないで生徒でいるうちは。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
ちまた風説うわさは、ただこの沙汰さたばかりのようであった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「あ、あ、あ、ひとしきりそんな風説うわさがございましたっけ。有福かねもちの夫婦をり殺したとかいう……その裁判があるのでございますか」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
龍華寺の信如が我が宗の修業の庭に立出たちいづ風説うわさをも美登利は絶えて聞かざりき、有し意地をばそのままに封じ込めて、此処しばらくの怪しの現象さまに我れを我れとも思はれず
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もっぱら当代の在五中将ざいごちゅうじょうと言ふ風説うわさがある——いや大島守、また相当の色男がりぢやによつて、一つは其ねたみぢや……負けまい気ぢや。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
思ひのままに遊びて母が泣きをと父親てておやの事は忘れて、十五の春より不了簡ふりようけんをはじめぬ、男振をとこぶりにがみありて利発らしきまなざし、色は黒けれど好き様子ふうとて四隣あたりの娘どもが風説うわさも聞えけれど
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
自分と露地口まで連立って、一息さきへ駆戻ったお千世をとらえて、面前まのあたり喚くのは、風説うわさに聞いたと違いない、茶の缶をたたく叔母であろう。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おもひのまゝにあそびてはゝきをと父親てゝおやことわすれて、十五のはるより不了簡ふりようけんをはじめぬ、男振をとこぶりにがみありて利發りはつらしきまなざし、いろくろけれど樣子ふうとて四隣あたりむすめどもが風説うわさきこえけれど
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
高田の下男銀平は、下枝を捜しいださんとて、西へ東へ彷徨さまよいつ。ちまた風説うわさに耳をそばだて、道く人にもそれとはなく問試むれど手懸り無し。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まだゑんづかぬいもとどもが不憫ふびんあね良人おつとかほにもかゝる、此山村このやまむら代〻だい/\堅氣かたぎぱう正直しようじき律義りちぎ眞向まつかうにして、風説うわさてられたことはづを、天魔てんまうまれがはりか貴樣きさまといふ惡者わる出來でき
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
悪くすると(状を見ろ。)ぐらいは云うらしい主税が、風向きの悪い大人の風説うわさを、耳を澄まして聞き取りながら、いたく憂わしげな面色おももちで。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いざと移したる小萩原ひとり錦をほこらんころも、觀月のむしろに雲上の誰れそれ樣、つらねられけるたもとは夢なれや、秋風さむし飛鳥川の淵瀬こゝに變はりて、よからぬ風説うわさは人の口に殘れど
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
時ならぬ温気うんきのためか、それか、あらぬか、その頃熱海一町ひとまち、三人寄れば、風説うわさをする、不思議な出来事というのがあった。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まだ縁づかぬ妹どもが不憫ふびん、姉が良人おつとの顔にもかかる、この山村は代々堅気一方に正直律義を真向まつかうにして、悪い風説うわさを立てられた事も無き筈を、天魔の生れがはりか貴様といふ悪者わるの出来て
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
近頃は風説うわさに立つほど繁昌はんじょうらしい。この外套氏が、故郷に育つ幼い時分ころには、一度ほとんど人気ひとけの絶えるほど寂れていた。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて風説うわさ遠退とおのいて、若菜家は格子先のその空地に生える小草おぐさに名をのみとどめたが、二階づくりの意気に出来て、ただの住居すまいには割に手広い。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一度は、深川さ、私たちも風説うわさに聞いて知っているが、木場一番といわれた御身代がそれで分散をなすったような、丸焼。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒い外套を来た湯女ゆなが、総湯の前で、殺された、刺された風説うわさは、山中、片山津、粟津、大聖寺だいしょうじまで、電車で人とともに飛んでたちまち響いた。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
辻の風説うわさ、会うものごとに申し伝えて、時計の針が一つ一つ生命いのちを削りますようで、皆、下衣したぎの襟を開けるほど、胸が苦しゅうござりましたわ。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いえ、まさかとは思っても、こないだ中のような風説うわさを聞くと、好い心持はしませんよ、私も気になっていたんです。」
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
才発さいはじけた商人あきんど風のと、でっぷりした金の入歯の、土地の物持とも思われる奴の話したのが、風説うわさの中でも耳に付いた。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かんざしの蒼い光ったたまも、大方蛍であろう、などと、ひそひそ風説うわさをします処へ、芋※ずいきの葉に目口のある、小さいのがふらふら歩行あるいて、そのお前様
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日蝕にっしょくがあるからそれを見にまた出懸ける、東洋じゃほとんど皆既蝕かいきしょくだ。)と云いましたが、まだ日本には、その風説うわさがないようでございますね。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うぐいはやごりの類は格別、亭で名物にする一尺の岩魚いわなは、娘だか、妻女だか、艶色えんしょく懸相けそうして、かわおそくだんの柳の根に、ひれある錦木にしきぎにするのだと風説うわさした。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さあ、その風説うわさが立ちますと、それからこっち両三年、悪いと言うのを強いて越して、ふもとへ下りて煩うのもあれば、中には全く死んだもござる。……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄々青柳町に囲ってある、めかけだ妾だという風説うわさなきにしもあらずだったもんですから、多くは知らんにもせい
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぱっと風説うわさたちますため、病人は心が引立ひったち、気の狂ったのも安心して治りますが、のがれられぬ因縁で、その令室おくがたの夫というが、旅行たびさきの海から帰って
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時はそうとも思わず、ははあ、こりゃやはり自分たちと同様風説うわさばかりで、一体、実際縦覧をさせるか、させぬか、そこどころちとあやふやな華族の庭。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
して見ると、風説うわさを聞いて、風説の通り、御殿女中、と心得たので、その実たしかにどんな姿だか分りませぬ。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
話にその小使の事も交って、何であろうと三人が風説うわさとりどりの中へ、へい、お待遠様、と来たのが竹葉。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……もしこれが間違って、たとい不図ふとした記事、また風説うわさのあやまりにもせよ、高尚なり、意気なり、婀娜あだなり、帯、小袖をそのままで、東京をふッと木曾へ行く。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「畜生。今ごろは風説うわさにも聞かねえが、こんな処さ出おるかなあ。——浜方へ飛ばねえでよかった。——漁場へげりゃ、それ、なかまへ饒舌しゃべる。加勢と来るだ。」
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
われら町人の爺媼じいばば風説うわさであろうが、矯曇弥の呪詛のろいの押絵は、城中の奥のうち、御台、正室ではなく、かえって当時の、側室、愛妾あいしょうの手に成ったのだと言うのである。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれども、ここの露地口と、分けて稲葉家のその住居すまいとに、少なからず、ものの陰気な風説うわさがある。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いやいや、余り山男の風説うわさをすると、天井から毛だらけなのをぶら下げずとも計り難し。この例本所の脚洗い屋敷にあり。東京なりとて油断はならず。また、恐しきは
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
丸岡の建場たてばくるまが休んだ時立合せた上下の旅客の口々から、もうお米さんの風説うわさを聞きました。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それこそ、徳川の末の末の細流は、よどみつ、濁りつ、消えつつも、風説うわさは二の橋あたりへまで伝わり流れて、土地のおでん屋の耳から口へ、ご新姐であったとも思われる。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東京の何とやら館の壮士が、大勢でこのさきの寺へ避暑に来てでございますが、その風説うわさを聞いて、一番妖物退治をしてやろうというので、小雨の降る夜二人連で出掛けました。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
饂飩酒場の女房が、いいえ、沼には牛鬼が居るとも、大蛇おろちが出るとも、そんな風説うわさは近頃では聞きませんが、いやな事は、このさきの街道——なわての中にあった、というんだよ。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ついては、ちっと繕って、まあ、穏かに、里で言う峠の風説うわさ——面と向っているんですから、そう明白あからさまにも言えませんでしたが、でも峠を越すものの煩うぐらいの事は言った。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おや、風説うわさをすれば、三太夫、罷出まかりいでて、「はッ番町の姫様ひいさま御入来おんいりにござりまする。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これが風説うわさの心中仕損しそこない。言訳をして、世間が信ずるくらいなら、黙っていても自然おのずから明りは立つ。面と向ってきさまが、と云うものがないのは、君が何にも言わないと同一おんなじなんだ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
畳を歩行あるくよりたしかなもの、船をひっくりかえそうたって、海が合点がってんするものではねえと、大丈夫に承合うけあうし、銑太郎もなかなか素人離れがしている由、人の風説うわさも聞いているから
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とこの桑名、四日市、亀山と、伊勢路へかかった汽車の中から、おなじ切符のたれかれが——そのもよおしについて名古屋へ行った、私たちの、まあ……興行か……その興行の風説うわさをする。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
銅像が、城の天守と相対して以来、美術閣上の物干を、人は、物見と風説うわさする。
私も驚きました、御慈悲深い、お情深い、殊に仏学をお修めなすって、道徳抜群という風説うわさの高い貴女のお嫁御があんなに薄命でおいでなさろうとは、はい、夢にも思いはしませんでした。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)