顔色かほいろ)” の例文
旧字:顏色
医者と云ふものは、病状の診断を、患者の顔色かほいろからも、こしらへるものだからね。それは、君のモラアルも、僕にはよくわかつてゐるさ。
創作 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つまあをざめた顔色かほいろやうやはなのためにやはらぎ出した。しかし、やがて、秋風あきかぜが立ち出した。はな々はを落す前に、そのはならすであらう。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
だから横町の野蕃漢じやがたらに馬鹿にされるのだと言ひかけて我が弱いをはづかしさうな顔色かほいろ、何心なく美登利と見合す目つきの可愛かわゆさ。
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
始めは秋雨あきさめに濡れたつめたい空気にかれぎたからの事と思つてゐたが、座に就いて見ると、わるいのは顔色かほいろばかりではない。めづらしく銷沈してゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
元気の無ささう顔色かほいろをして草履を引きずり乍ら帰つて来た貢さんは、裏口うらぐちはいつて、むしつた、踏むとみしみしと云ふ板ので、雑巾ざふきんしぼつて土埃つちぼこりの着いた足を拭いた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
不安ふあん段々だん/\あがつてた。それ打消うちけさうとするそばから、「あの始終しゞうひと顔色かほいろんでゐるやうなそこには、何等なんらかの秘密ひみつひそんでゐるにちがひない。」と私語さゝやくものがある。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
顔色かほいろあをざめたすみ法衣ころもの、がんばり入道にふだうかげうすさも不気味ぶきみ和尚をしやうなまづでもけたか、とおもふたが、——く/\の次第しだいぢや、御出家ごしゆつけ、……大方おほかた亡霊ばうれい廻向えかうたのむであらうとおもふで、功徳くどく
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それから二三年たつたのち、彼は何かの話の次手ついでにふと彼女にこの情事を話した。すると彼女は顔色かほいろを変へ、「あなたはあたしを欺ましてゐた」と言つた。
貝殻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
千代ちいちやんひどく不快わるくでもなつたのかいふくくすりましてれないかうした大変たいへん顔色かほいろがわろくなつてたおばさん鳥渡ちよつと良之助りやうのすけこゑおどかされてつぎ祈念きねん
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
門野かどのたゞへえゝと云つたぎり、代助の光沢つや顔色かほいろにくゆたかな肩のあたりを羽織の上から眺めてゐる。代助はこんな場合になると何時いつでも此青年を気の毒に思ふ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
和上のきづ二月ふたつきで癒えたが、其の傷痕きづあとを一目見て鎌首かまくびを上げたへびの様だと身をふるはせたのは、青褪あをざめた顔色かほいろの奥方ばかりでは無かつた。其頃在所ざいしよ子守唄こもりうたに斯う云ふのが流行はやつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
小生と同じ宿に十二三歳の少女有之これあり腎臓病じんざうびやうとか申すことにて、らふのやうな顔色かほいろを致し居り候。付きひ居り候は母親にや、但し余り似ても居らぬ五十恰好がつかうの婦人に御座候。
伊東から (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
けれども、代助は今相手の顔色かほいろ如何いかんに拘はらず、手に持つたさいげなければならなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
少し御新造ごしんぞは機嫌かいなれど、目色顔色かほいろみこんでしまへば大した事もなく、結句おだてに乗るたちなれば、御前おまへの出様一つで半襟はんゑり半がけ前垂まへだれひもにも事は欠くまじ、御身代は町内第一にて
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「御風邪かぜはもういの。大事になさらないと、ぶりかへしますよ。まだ顔色かほいろくない様ね」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それは芸者の顔色かほいろでも、やはり派手過ぎると思つてゐることは、はつきりお上さんにわかつた為だつた。が、芸者もまた何も言はずにその帯を貰つて帰つたのち、百二十円の金を届けることにした。
貝殻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なんだとヱりやうさんに失礼しつれいだがおへりあそばしていたゞきたいとあゝさうまをすよりやうさんおきゝのとほりですからとあはれやはゝきやうするばかりむすめは一呼吸こきふせまりてる/\顔色かほいろあほくはつゆたま今宵こよひはよもとおもふに良之助りやうのすけつべきこゝろはさらにもなけれど臨終いまはまでこゝろづかひさせんことのいとを
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
待合所まちあひじよ這入はいるや否や、梅子から顔色かほいろくないと云ふ注意を受けた。代助はなんにも答へずに、帽子をいで、時々とき/″\れたあたまを抑えた。仕舞にはあさ奇麗きれいけたかみがもぢや/\になつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
はるゝにこたへんとすればあかつきかねまくらにひびきてむるほかなきおもゆめとりがねつらきはきぬ/″\のそらのみかはしかりし名残なごり心地こゝちつねならず今朝けさなんとせしぞ顔色かほいろわろしとたづぬるはゝはそのことさらにるべきならねどかほあからむも心苦こゝろぐるひるずさびの針仕事はりしごとにみだれそのみだるゝこゝろひとゞめていま何事なにごとおも
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此歯と此顔色かほいろとは三四郎に取つて忘るべからざる対照であつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)