うなづ)” の例文
二人は稍得意な笑顔をしてうなづき合つた。何故なれば、二人共尋常科だけはへたのだから、山の字も田の字も知つてゐたからなので。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
まげは短くめてつてゐる。月題さかやきは薄い。一度喀血かくけつしたことがあつて、口の悪い男には青瓢箪あをべうたんと云はれたと云ふが、にもとうなづかれる。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「宜からう。」とうなづいて、風早學士は林檎を一ツツた。そして彼は、此の少女に依ツて、甚だ強く外部からの刺戟を受けたのであツた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
病人びやうにんはK夫人ふじんかほしたで、小兒こどものやうにあごうなづいてせた。うへはう一束ひとたばにしたかみが、彼女かのぢよを一そう少女せうぢよらしく痛々いた/\しくせた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
うなづたまひ、卷返まきかへしてたか右手めてさゝげられ、左手ゆんでべて「もく、」「は」とまをして御間近おんまぢか進出すゝみいづれば、くだん誓文せいもんをたまはりつ。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さて人々その車のめぐりを踊りめぐれば、王はいづかたへも向ひてうなづきたり。やゝありて人々は自ら車の綱取りてき出せり。
この有名な話をドンリヷルが僕等に語ると、ムネ・シユリイは微笑ほゝゑんで「うだ、まつたくタルマがボン、ジユウルと言つてうなづいた様に感ぜられた」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
我が意を得つとはんやうに荒尾はうなづきて、なほも思に沈みゐたり。佐分利と甘糟の二人はその頃一級さきだちてありければ、間とは相識らざるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これが母親の気持だとうなづくことは出来なかつたし、又、卯女子が居て自分がさう云ふ立場になれるわけもなかつたが
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
と言つて軽くうなづいた。それからといふもの、少将が家来の前では成るべく痘面あばたづらをにこ/\させたのは言ふ迄もない。
「うむ‥‥」と、河野かうのうなづいた。「しかし、演習地えんしふちあめ閉口へいこうするな‥‥」と、かれはまたつかれたやうなこゑつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
暫く沈黙が続いた後、俊吉は静に眼を返して、「鶏小屋とりごやへ行つて見ようか。」と云つた。信子は黙つてうなづいた。鶏小屋は丁度檜とは反対の庭の隅にあつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
錢形の平次は一人うなづきながら、宵闇の中をすかして、唐花屋からはなやの裏口から出て行く駕籠の後を追ひました。その中にお靜が入れてあることは最早疑ふ餘地はありません。
どうも日本はどこまでも翻訳国で、さすがに翻訳会社の出来るのも無理はないとうなづかれる。
翻訳製造株式会社 (新字旧仮名) / 戸川秋骨(著)
さうして物覺ものおぼえのよい但馬守たじまのかみがまだ半年はんとしにもならぬことを、むざ/\わすれてしまはうとはおもはれないので、なに理由わけがあつてこんなことをふのであらうと、玄竹げんちくこゝろうなづいた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
彼はたゞ大様おほやううなづいたきりであつたが、やがて女の傍を離れて、母屋おもやの方へ行つた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
烟草をしづかゆつくり吸ひ込み、軽い穏な雲を吹き出し、時としては烟管を口から引き出し、匂ひの善い烟に鼻のあたりで環を書かせ、物体もつたいらしくうなづいて、その腹からの大賛成を表します。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
眼顔でうなづいて父は廊下の曲り角まで行くと、も一度振り返つてぢつと私を見た。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
その時、みよりの者にでも叱られたやうに、さびしげにやさしく、だまつてうなづいたのを、私は大變痛くこたへた。ふふ、と笑へないものがあつたのだらうと思へばいたましくてならない。
三十五氏 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
武士は黙つてうなづいた。心の中では医者のいふことなど聞いてゐはしなかつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「えい、うから——」私は懐しげな眼で彼女を見ながらうなづいた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「‥‥」お鳥が高いあたまを少しうなづかせるのが見えた。
お時は默つてうなづいてゐるばかりなのです。
反古 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
松男君は泣きやめて、うなづきました。
原つぱの子供会 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
娘は黙つてしづかにうなづいた。
駆落 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
やがて微笑ほゝゑみてうなづきぬ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
私はうなづいた。
そして刀自のことを聞いた時、なるほどさうかとうなづかざることを得なかつた。かく眞志屋と云ふ屋號は、何か特別な意義を有してゐるらしい。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
すべてをキユビズムでつた書斎も悪くない。この画風が装飾的にのみ意義と効果のある事がます/\うなづかれる。その次には織物や刺繍の図案が目を引く。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
やまたかさもたにふかさもそこれない一軒家けんや婦人をんな言葉ことばとはおもふたが、たもつにむづかしいかいでもなし、わしたゞうなづくばかり。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かゝる時は昔の少女、その嬌眸をみひらきて水底みなそこより覗き、或はうなづき或は招けり。とある朝漁村の男女あまた岸邊に集ひぬ。
彼は微笑してうなづいてゐた。僕は彼の内心では僕の秘密を知る為に絶えず僕を注意してゐるのを感じた。けれどもやはり僕等の話は女のことを離れなかつた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
若い令嬢は黙つてうなづいてみせた。耳の遠いエデイソンには言葉をかけるよりも頷いてみせた方が解り易かつた。
實際それは彼の兩戰役の際の我々の經驗を囘顧して見れば、誰にでもうなづかれる事なのである。日清戰役の時は、我々一般國民はまだほんの子供に過ぎなかつた。
大硯君足下 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
娘は案内せんと待構へけれど、紳士はさして好ましからぬやうにうなづけり。母はゆがめる口を怪しげに動して
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お萩はうなづきました。それを翌る日になつて平次に見せたのは、音次郎がその晩自分を裏切つてお京と心中をやり損ねたことに對する非難の現はれだつた事は疑ひもありません。
香雲は相變らず横柄わうへいうなづいてゐたが、やがて、「天南といふものが先生のお世話になつて居りますさうで、あれはわしの長男ですから、寺を相續する身分ぢやで、一應お歸しを願ひたい。」
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「さうだ。學校に頼んでへて貰はう。更へてくれなきやあ最後の手段だ。」と、級長の谷が激越な態度で云つた。みんなは一種の叛逆的な氣分の快さに醉はされたやうに暗默裡にうなづいた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
卯女子はどうしていゝか解らないので、そのまゝ通じると母はうなづいた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
夫人ふじん言葉ことばに、病人びやうにん感謝かんしやするやうに、素直すなほうなづいた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
お糸さんはこつくりとうなづいた。そして雄辯に言つた。
日本橋あたり (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
栄蔵はもう仕方がないと思つて、こつくりとうなづいた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
お雪伯母は微笑みながらうなづいて
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「‥‥」向う向きにただうなづいた。
むねれたやうにうなづいてつたが、汽車きしやられていさゝかの疲勞つかれまじつて、やまうつくしさにせられて萎々なえ/\つた、歎息ためいきのやうにもきこえた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これでこそ深沈な研究とあまねき同情との上に立脚して動揺ゆるぎの無い確かな最新の芸術が沸き出るのだとうなづかれる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そのいにしへ蒲生飛騨守氏郷がもうひだのかみうじさとこの処に野立のだちせし事有るにりて、野立石のだちいしとは申す、と例のが説出ときいだすを、貫一はうなづきつつ、目を放たず打眺うちながめて、独りひそかに舌を巻くのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
『然うです。美術學校で同級だつたんですが、……あゝ御存知ですか! 然うですか!』と鷹揚おうやううなづいて、『甚麽どんなで居るんでせう? まだ結婚しないでせうか?』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
明子はやはり踊つてゐる友達の一人と眼を合はすと、互に愉快さうなうなづきを忙しい中に送り合つた。
舞踏会 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
徒士は変な顔をしたが、まさか医者が自分を産婦と取違へもすまい、これは屹度自分の聞違へに相違なからうと思つたので、「さうです」と言つて軽くうなづいてみせた。