かわ)” の例文
そのいでたちを見るに、緋房ひぶさのついた鉢兜はちかぶと鋳物綴いものつづりの鍍金ときんよろい、下には古物ながら蜀江しょっこうの袖をちらつかせ、半月形はんげつなりかわ靴をはいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、いつも、いつも、こんなひどいめにあわされるなら、かわやぶれて、はやく、やくにたたなくなってしまいたいとまでおもいました。
あるまりの一生 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼らは、また、皆、鎮西八郎為朝ちんぜいはちろうためともが、はめていただろうと思われるような、弓の手袋に似たかわ手袋の中で、その手を泳がせている。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
ガチョウのせなかには、黄色いかわズボンをはき、みどりのチョッキを着て、白い毛織けおりの帽子ぼうしをかぶったチビさんがのっていました。
彼は素直に調子のそろった五本の指と、しなやかなかわで堅くくくられた手頸てくびと、手頸の袖口そでくちの間からかすかに現われる肉の色を夜の光で認めた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どんな容子の人だとくと、かばんを持ってる若い人だというので、(取次とりつぎがその頃わたしが始終げていたかわ合切袋がっさいぶくろを鞄と間違えたと見える。)
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「いつも呻いている無数の滑車と、いつも噛み合っている無数の歯車と、そうしていつも走り廻わっている数百本の調しらかわと」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
庄屋しょうやらしいはかまをつけ、片肌かたはだぬぎになって、右の手にゆがけかわひもを巻きつけた兄をそんなところに見つけるのも、お民としてはめずらしいことだった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それにくつぬぎもあればかわのスリッパもそろえてあり馬の尾を集めてこさえた払子ほっすもちゃんとぶらさがっていました。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
リュック・サックを負うたものもあり、入塾のためにわざわざ買い求めたとしか思えないような真新まあたらしいかわのトランクをぶらさげているものもあった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「ここもなかなか暑いね」道太は手廻りの小物のはいっているバスケットを辰之助にもってもらい、自分はかわの袋を提げて、扇子せんすを使いながら歩いていた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あいつが電車へ乗った所が、生憎あいにく客席が皆ふさがっている。そこでかわにぶら下っていると、すぐ眼の前の硝子ガラス窓に、ぼんやり海の景色が映るのだそうだ。
妙な話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
記録というのは、真赤なかわ表紙であわせた、二冊の部厚ぶあつな手紙の束であった。全体が同じ筆蹟ひっせき、同じ署名で、名宛人なあてにんも初めから終りまで例外なく同一人物であった。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二人は畳にこうべをすりつけて謝した。其ひまに男は立上って、手早く笛を懐中して了って歩き出した。雪に汚れたかわ足袋たびの爪先のあとは美しい青畳の上に点々といんされてあった。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこで、一日じゅう、二匹の兎と、五羽の鷓鴣しゃことをかついで廻るようなことがある。彼は獲物嚢えものぶくろかわの下へ、あるいは手を、あるいはハンケチを差し込んで肩の痛みを休める。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そうして寝台の上に長くなっているヤングの脂切あぶらぎった大きな背中を、小さなかわの鞭で
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さてさて困ったと困り抜いていると、それもなんでもない事だと小さい太鼓のかわをはがして、その中へたくさんのはちを入れ、びょうを打ちなおしてむりな殿さまのところへ持参させた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
はだが淡褐色でかわのようだったあたりに、ほんのりぬられて、あわい臙脂えんじがめざめるのを、今の今まで血のけのなかったくちびるが、いちごいろにもりあがるのを、頬と口のふかいしわが
ベンチの上にはれいのノートが三さつかわひもでしばっておいてある。
紙に書くのか、かわに書くのか、石や金にるのかい。
中に立つは、われらのかわ人形!
身ぐるみかわきて
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
下駄作げたづくりの家、鍛冶師かじしの小屋、紙すきの家族、かわをなめす人たち。——染屋は、手くびに自分の色を持ったこともなく、かせいでいる。
かれは、右手みぎてでしっかりとかわにぶらがっていたが、あちらへおされ、こちらへおされしなければなりませんでした。
村へ帰った傷兵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やがてふすまをあけてポッケット入れの手帳を持って出てくる。表紙は茶のかわでちょっと見ると紙入のような体裁である。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かわズボンに木靴きぐつといった、労働者ろうどうしゃのようなかっこうです。おばあさんは、すぐに小人こびとだなと気がつきましたので、すこしもこわくはありませんでした。
変てこなねずみいろのだぶだぶの上着を着て、白い半ずぼんをはいて、それに赤いかわ半靴はんぐつをはいていたのです。
風の又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そこには顔も身なりも悪い二十四五の女が一人、片手に大きい包を持ち、片手にかわにつかまっていた。電球は床へ落ちる途端に彼女の前髪をかすめたらしかった。
年末の一日 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
入側様いりがわようになりたる方より、がらりと障子を手ひどく引開けて突入し来たる一個の若者、芋虫いもむしのような太い前差、くくりばかまかわ足袋たびのものものしき出立、真黒な髪、火の如き赤き顔、輝く眼
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もはや雪道かと思われる木曾の方のふるい街道を想像し、そこを往来する旅人を想像し、かわのむなび、麻のはえはらい、紋のついた腹掛けから、たてがみ尻尾しっぽまで雪にぬれて行く荷馬の姿を想像した。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
資本制は、労働者に一人ひとり残らず狭窄衣きょうさくい——監獄で狂暴な囚人に着せるかわの衣類、それを着ると、からだは自由がきかなくなって、非常な苦痛を感じる——を着せて、手錠、足錠をはめているのだ
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
滑車の音、歯車の軋り、飛び違い馳せ違う調しらかわの唸り。……それらの音をおおい包み、何んとも云われない豪壮の音が陰々鬱々と響いて来たが、これぞ恐らく水車へ注ぐ大瀑布の水音でもあろう。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今朝からかわぶくろのように硬ばっていたみずおちを、そうして湯の中でんでいると、眠くなるような快さが血管をめぐってくる。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先生は紀元前の半島の人のごとくに、しなやかなかわで作ったサンダルを穿いておとなしく電車のそばるいている。
ケーベル先生 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
セララバアドは小さなかわの水入れをかたからつるして首をれてみんなのといやアラムハラドの答をききながらいちばんあとから少しわらってついて来ました。
少年は鏡の中に、とんがり帽子ぼうしをかぶり、かわズボンをはいたちっぽけな小人をはっきりと見たのです。
かわを巻いた弓、黒塗りのえびらたかの羽の征矢そやが十七本、——これは皆、あの男が持っていたものでございましょう。はい。馬もおっしゃる通り、法師髪ほうしがみ月毛つきげでございます。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
吉左衛門は半蔵に言いつけて、古い箱につけてあるかわひもを解かせた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「地下で調しらかわが廻わっている」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この渓谷けいこくの水が染物そめものによくてきし、ここの温度おんどかわづくりによいせいだというか、とにかく、おどしだに開闢かいびゃくは、信玄以来しんげんいらいのことである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
栗毛くりげこまたくましきを、かしらも胸もかわつつみて飾れるびょうの数はふるい落せし秋の夜の星宿せいしゅくを一度に集めたるが如き心地である。女は息を凝らして眼をえる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「もうわらのオムレツが出来あがったころだな。」とつぶやいてテーブルの上にあったかわのカバンに白墨のかけらや講義の原稿げんこうやらを、みんな一緒いっしょに投げ込んで、小脇こわきにかかえ
忙牙長ぼうがちょうはおうっと吠えて、またがっている怪獣の尻をぴしっとかわでなぐった。馬ではなく、それは大きな角を振り立てて来る水牛であった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると聯想れんそうがたちまち伴侶つれの方に移って、女が旦那だんなから買ってもらったかわの手袋を穿めている洋妾らしゃめんのように思われた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雪童子はわらってかわむちを一つひゅうと鳴らしました。
水仙月の四日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「あの、いつか、先生に預けといた、かわ巾着きんちゃく——お父っさんのお遺物かたみの——あれを先生はまだ持っていてくれますか」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出勤刻限の電車の道伴みちづれほど殺風景なものはない。かわにぶら下がるにしても、天鵞絨びろうどに腰を掛けるにしても、人間的なやさしい心持の起ったためしはいまだかつてない。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
炎天を、騎行きこうして来たので、鎧のかわ小貫こざねけきっていた——大汗にまみれて彼は今、ようやくたどり着いた田楽狭間でんがくはざまの芝山で駒の背から降りた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これを緒口いとくちに、かわの手袋を穿めた女の関係を確かめたい希望が三ついっしょに働らくので、元からそれほど秩序の立っていない彼の思想になおさら暗い影を投げた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
七は、短い脇差をさし、素わらじに紺の脚絆きゃはんだった。あいみじんの袖をかわだすきに締めこんで、筒の前に膝を折った。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)