賄賂わいろ)” の例文
木の上にゐた子供も下りて來て、取つたのを二人で分けながら、賄賂わいろのつもりか、よくれてゐるのを擇つて、二つ三つ私に呉れた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
小学校の生徒間にも、教員が児童保護者からの賄賂わいろで、成績の発表を故意に上下にするということが、お互いの間で云い合っていた。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
黄吏部は典獄に賄賂わいろをおくって周に飲食をさせないようにした。そこで典獄は周の弟が食物を持って来ても入れることを許さなかった。
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
こもごもに嘆願した上、船中から携えてきた南方の佳酒やら珍味を取り出して、まず番将へ賄賂わいろすると、吟味もにわかに柔らいで
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
または元値もとねを損して安物を売る等、様々さまざまの手段を用いてこれに近づくときは、役人は知らずらずして賄賂わいろの甘きわなおちいらざるを得ず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
賄賂わいろ公行の時代ではあったし、大役が、儀式の指揮に任ずる上野介に心こめて贈り物をすることは当然の儀礼ではあったとしても
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
しかし関所の在る所を通って来る時分にはどうしても多分の賄賂わいろを使わなければ通してくれぬということはかねて聞いて居りましたから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
賄賂わいろも取れば請託せいたくも受けた。その代わり自分でも施しをした。顕職を得たいと思う者が、押すな押すなの有様で、彼の門を潜ったそうだ。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
賄賂わいろを取るときまつたその頃の役人のなかで、これはまた打つて変つた潔白者けつぱくもので、他人ひとからの進物といつては何一つ手にしなかつた。
其方ども支配とは申ながら松本理左衞門申おもむきに相任あひまか賄賂わいろの金銀受納じゆなふ致せし而已のみならず不都合つがふの吟味に及び候條不屆至極に付主家しうか門前拂申付る
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「その市野某なる者が怨み憎まれているという原因には、人民側のために大いに同情すべき理由があるのだ。この勘定方がしきりに賄賂わいろを取る」
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「君は誰と一緒に乗っていたかな。多代子さんに賄賂わいろでも使って置かないと、飛んでもないことを素っ破抜かれるぜ。」
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まじめな天聲もなか/\話せる樣になつた、な」と、氷峰はからかひ半分に、「賄賂わいろなどを取つて、けしからん。」
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
出世したさに上役へ賄賂わいろを贈り饗応きょうおうをする、しかもそれが他人から借りた金だし、その金のために婚約をしながら、うまくおれをおだてて娘を押付け
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
つまり、利休を「まいす」と呼んだのは、彼が自己の位置を利してしばしば賄賂わいろをとったり、道具の売買の上前うわまえをはねたりしたことを指すのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ですから反対党の人達は大喜びで、そんな受取証を握り潰しておいて、父がそんなものを賄賂わいろに貰ったように検事局に投書したらしゅう御座いますの。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
高家というのは例の吉良上野介のような役目で、公家くげと武家との間に立って両者の交渉をつかさどる職務であるところから、自然賄賂わいろを受ける機会も多くなる。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
人民の幸福を増進すると共に賄賂わいろ公行、盗賊跋扈ばっこというが如き悪俗から脱却することが出来れば、其処そこで初めて国運を復活せしむることが出来るであろう。
某村の戸長こちょうは野菜一車ひとくるまを優善に献じたいといって持って来た。優善は「おれ賄賂わいろは取らぬぞ」といってしりぞけた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「ほほう、申したな。笑おうぞ、笑おうぞ、そのように猛々たけだけしゅう申さば、賄賂わいろ止めのこの制札が笑おうぞ」
私は色の白い友達にはてんで頭が上らなかつた。黒坊主黒坊主と言はないものには、いゝ褒美ほうびを上げるからと哀願して、絵本とか石筆とかの賄賂わいろをおくつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「捕物小説の与力や目明かしは、決して賄賂わいろを取らない」とある人はいった。いかにも面白い言葉である。
変であって見ればどうかしなければならん。どうするったって仕方がない、やはり医者の薬でも飲んで肝癪かんしゃくみなもと賄賂わいろでも使って慰撫いぶするよりほかに道はない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
継母まゝはゝの兄と云ふのも、みんな有名な御用商人なんだから、賄賂わいろの代りに早速承諾したんだ、所が我が梅子嬢はどうしても承知しないんだ、到頭たうとう梅子さんをいざなひ出して
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
もちろんまた、何か相当な賄賂わいろでも期待して訴訟を見かけだけ続行するということも、ありうることはありうるが、今から言っておきますが、まったくむだですね。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
賄賂わいろの出し方が少ないというので、今度の日光修営に、副役ともいうべきお畳奉行を当てられた人で。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
岡部駿河守おかべするがのかみらをはじめ奸吏かんりども数多くこれありて、井伊掃部頭いいかもんのかみ安藤対馬守あんどうつしまのかみらの遺志をつぎ、賄賂わいろをもって種々奸謀かんぼうを行ない、じつもって言語道断、不届きの至りなり。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今度の役人に賄賂わいろは利かぬと見たので、お祭り騒ぎの行列も減じ、伺候する村役人もほとんど絶えた。
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
職務しよくむるのはまへにも不好いやであつたが、いまなほそう不好いやたまらぬ、とふのは、ひと何時いつ自分じぶんだまして、かくしにでもそつ賄賂わいろ突込つきこみはぬか、れをうつたへられでもぬか
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
赤髯あかひげの大佐だったがな、そいつが何のかの難癖つけて困るから、番頭をやって例の菓子箱を出すと、ばかめ、賄賂わいろなんぞ取るものか、軍人の体面に関するなんて威張って
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
それに比較すれば重吉はさほどその身をはじるにも当るまい。女の厄介になって、のらくらしている位の事は役人が賄賂わいろを取って贅沢ぜいたくをするのに比べれば何でもない話である。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
追従ついしょうと暗中飛躍と賄賂わいろとがあまりによくくのに愛想をつかして、隠退する者が多くあった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
少なからぬ賄賂わいろを使い、其の力で到頭病院から死骸を引き取り、外の所へ葬ると云う許可を得たのです、爾して死骸を連れ出して、直ちに幽霊塔の庭へ葬った様に見せ掛けたが
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
賄賂わいろに到りては、その物自身既に罪悪なれば、吾人ごじんは敢てこれを嘉尚かしょうせんと欲せず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
をもつて歐洲をうしうぼう強國きやうこく結托けつたくして、年々ねん/\五千萬弗まんどるちか賄賂わいろをさめてために、かへつて隱然いんぜんたる保護ほごけ、をりふしそのふね貿易港ぼうえきかう停泊ていはくする塲合ばあひには立派りつぱ國籍こくせきいうするふねとして
そこで豊雄の大盗だいとうの疑いは晴れたが、神宝を持っていた罪は免がれることができないので、牢屋ろうやに入れられていたのを、豊雄の父親と兄の太郎が賄賂わいろを用いたので百日ばかりでゆるされた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
馬琴は改名主あらためなぬしの図書検閲が、ろうを極めてゐる例として、自作の小説の一節が役人が賄賂わいろをとる箇条のあつた為に、改作を命ぜられた事実を挙げた。さうして、それにこんな批評をつけ加へた。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
た当年の苦艱くかんかえりみる者なく、そが細君すらもことごとく虚名虚位に恋々れんれんして、昔年せきねん唱えたりし主義も本領も失い果し、一念その身の栄耀えいよう汲々きゅうきゅうとして借金賄賂わいろこれ本職たるの有様となりたれば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
可哀想に、華族様だけは長いきさせてあげても善いのだが、死に神は賄賂わいろも何も取らないから仕方がない。華族様なんぞは平生苦労を知らない代りに死にぎわなんて来たらうろたえた事であろう。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
家内うち/\もめるにそのやうのこと餘地よちもなく、つて面白おもしろくない御挨拶ごあいさつくよりかだまつてはうがよつぽど洒落しやれるといふくらゐかんがへで、さいはひに賄賂わいろけがれはけないでんだけれど
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かくせり合ってついに双方一果も余さぬに及んだ。裁判好きの輩判官に賄賂わいろを重ねて両造ともにからけつとなるを「猴に裁判を乞うた」というのだそうな(スキート著『巫来方術篇』一八七頁)。
賄賂わいろを飼われたのだとか、そんなことが書いてあった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
賄賂わいろに等しい付届だと、一口におっしゃるが
吉良上野の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「こらっ、待て。まだ百は打ッていないぞ。なぜサバを読むか。さては、なんじら皆、追放人のこうから、賄賂わいろをもらっておるな」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに出入しゅつにゅう差引きして余りあるははなはだ怪しむべし。いわゆる役得にもせよ、賄賂わいろにもせよ、旦那の物をせしめたるに相違はあらず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そこでパーリーで保証人を頼もうとすると非常に金をむさぼられるのみならず旅行券を得るにも多分の賄賂わいろを使わなければならぬ。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
賄賂わいろをとり損って仏頂顔の護送役と共に、文覚は伊勢国阿能あのの津から船で東国へ下った。遠江国天竜灘にさしかかったとき、海が俄かに荒れた。
そこで勢い岡っ引は他に副業を求めるか、ないしは地道の町人をいたぶり、賄賂わいろを取らなければ食って行けなかった。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
というのは、わたしたちの役所では、事を簡単にして不必要な話なんか避けるために賄賂わいろを取るには取りますけれど、それによって得るところなど何もないんです。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
けれども、かれら伴天連一味の者からいえば、賄賂わいろによって一度は事の暴露を未然に防ぎ、わずかに急場を免れたというものの、やはり、長助は目の上のこぶでした。