豆腐屋とうふや)” の例文
八六 土淵村の中央にて役場小学校などのあるところを字本宿もとじゅくという。此所に豆腐屋とうふやを業とする政という者、今三十六七なるべし。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして、お使つかいにいって、お豆腐屋とうふやまえに、赤犬あかいぬ姿すがたえなかったとき、としちゃんは、どんなにさびしくおもったかしれません。
小さな年ちゃん (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ヘエ、この先の豆腐屋とうふやで、もっとも、裕福というわけじゃアござんせんが、ナニ、その日に困るというほどじゃあねえので」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
最後に意を働かす人は、物の関係を改造する人で俗にこれを軍人とか、政治家とか、豆腐屋とうふやとか、大工とか号しております。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ソンキの岡田磯吉おかだいそきちの家が豆腐屋とうふやで、タンコの森岡正もりおかただし網元あみもと息子むすこと、先生の心のメモにはその日のうちに書きこまれた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
日々ひび得意先を回る魚屋さかなや八百屋やおや豆腐屋とうふやの人々の中に裏門を通用する際、かく粗末そまつなる木戸きどをくぐらすは我々を侮辱ぶじょくするなりといきどおる民主主義の人もあるまい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
界隈かいわい景色けしきがそんなに沈鬱ちんうつで、濕々じめ/\としてるにしたがうて、ものもまた高聲たかごゑではものをいはない。歩行あるくにも内端うちわで、俯向うつむがちで、豆腐屋とうふやも、八百屋やほやだまつてとほる。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
幾何きかや物理や英語、それだけでもいまでは異国人のように差異ができた、こうして自分が豆腐屋とうふやになりだんだんこの人達とちがった世界へ墜落ついらくしてゆくのだと思った。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ある日の日暮ひぐれどき私たちはこの遊びをしていた。私に豆腐屋とうふや林太郎りんたろう織布しょくふ工場のツル——の三人だった。私たちは三人同い年だった。秋葉あきばさんの常夜燈じょうやとうの下でしていた。
花をうめる (新字新仮名) / 新美南吉(著)
時々豆腐屋とうふやすゞの音、汽笛きてきの音、人の聲などがハツキリと聞える。また待乳山まつちやまで鰐口が鳴ツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
潰しましたよ。——最初は何んとかの水差で、次は肴屋さかなやとか、豆腐屋とうふやの茶碗
髪結かみゆいのおたつと、豆腐屋とうふやむすめのおかめとが、いいのいけないのとあらそっているうちに、駕籠かごさらおおくの人数にんず取巻とりまかれながら、芳町通よしちょうどおりをひだりへ、おやじばしわたって、うしあゆみよりもゆるやかにすすんでいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
豆腐屋とうふやまえに、おおきな赤犬あかいぬがいました。としちゃんは、そのまえとおるのが、なんだかこわかったのです。けれど、赤犬あかいぬは、あちらをいていました。
小さな年ちゃん (新字新仮名) / 小川未明(著)
初時雨はつしぐれと云うのだろう。豆腐屋とうふやの軒下に豆をしぼった殻が、山のようにおけにもってある。山のいただきがぽくりと欠けて四面から煙が出る。風に連れて煙は往来へなびく。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
與吉よきち父親ちゝおやめいぜられて、こゝろめてたから、きしあがると、おもふともなしに豆腐屋とうふやそゝいだ。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
豆腐屋とうふやは未明に起きねばならぬ商売だ、チビ公は昼の疲れにうとうとと眠くなった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「何だ、騒々そうぞうしい。豆腐屋とうふやを呼びに行くんじゃあるめえし、矢鱈やたらに走るな」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
石に不自由せぬ国と見えて、下は御影みかげで敷き詰めた、真中を四尺ばかりの深さに掘り抜いて、豆腐屋とうふやほどな湯槽ゆぶねえる。ふねとは云うもののやはり石で畳んである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はこれを読んで、いきなり唐土もろこし豆腐屋とうふやだと早合点はやがてんをした。……ところうでない。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
としちゃんは、かえりに、またお豆腐屋とうふやまえとおらねばなりません。赤犬あかいぬが、あちらをいていてくれればいいがとおもいました。けれど、今度こんどは、赤犬あかいぬは、じっととしちゃんのかおていました。
小さな年ちゃん (新字新仮名) / 小川未明(著)
豆腐屋とうふやのチビ公はいまたんぼのあぜを伝ってつぎの町へ急ぎつつある。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
豆腐屋とうふや喇叭らっぱを吹いて通った。喇叭を口へあてがっているんで、ほっぺたがはちされたようにふくれていた。膨れたまんまで通り越したものだから、気がかりでたまらない。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あきふかくなって、日脚ひあしみじかくなりました。かれこれするうちに、はや、晩方ばんがたとなりますので、あちらで、豆腐屋とうふやのらっぱのがきこえると、おかあさんのこころは、ますますせいたのでありました。
赤い実 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たん電柱でんちうばかりでない、鋼線はりがねばかりでなく、はしたもと銀杏いてふも、きしやなぎも、豆腐屋とうふやのきも、角家かどやへいも、それかぎらず、あたりにゆるものは、もんはしらも、石垣いしがきも、みなかたむいてる、かたむいて
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
どんな田舎いなかへ行ってもありがちな豆腐屋とうふやは無論あった。その豆腐屋には油のにおいんだ縄暖簾なわのれんがかかっていて門口かどぐちを流れる下水の水が京都へでも行ったように綺麗きれいだった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
きよちゃんは、吉坊よしぼうって、ているのをっていました。しかも、きょう学校がっこうかえりに、豆腐屋とうふや長二ちょうじに、自分じぶんがいじめられているのを、吉坊よしぼうたすけてくれたのを、けっしてわすれませんでした。
父親と自転車 (新字新仮名) / 小川未明(著)
其内そのうちうすしもりて、うら芭蕉ばせう見事みごとくだいた。あさ崖上がけうへ家主やぬしにははうで、ひよどりするどいこゑてた。夕方ゆふがたにはおもていそ豆腐屋とうふや喇叭らつぱまじつて、圓明寺ゑんみやうじ木魚もくぎよおときこえた。ます/\みじかくなつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「僕の小供の時住んでた町の真中に、一軒豆腐屋とうふやがあってね」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)