ものい)” の例文
我強がづよくも貫一のなほものいはんとはせざるに、やうやこらへかねたる鴫沢の翁はやにはに椅子を起ちて、ひてもその顔見んと歩み寄れり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一節—三節は彼のものいわざるを得ざる理由を述べたものであって、ヨブの言説に対して起したる青年ゾパルの憤りはさながら見るが如くである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
諸君雄豪誠実、あに退心あるべけんや、と云いければ、諸将あいあえものいうものあらず、全軍の心機しんき一転して、生死共に王に従わんとぞ決しける。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
背後うしろを青森行の汽車が通る。枕の下で、陸奧灣むつわん緑玉潮りよくぎよくてうがぴた/\ものいふ。西には青森の人煙ゆびさす可く、其うしろに津輕富士の岩木いはき山が小さく見えて居る。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
ものいわぬ高峰たかねの花なれば、手折るべくもあらざれど、被の雲を押分けて月の面影洩出もれいでなば、﨟長ろうたけたらんといと床し。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
背後うしろを青森行の汽車が通る。まくらの下で、陸奥湾むつわん緑玉潮りょくぎょくちょうがぴた/\ものいう。西には青森の人煙ゆびさす可く、其うしろ津軽つがる富士の岩木山が小さく見えて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一六八四年パリ板サントスの『東エチオピア史』一巻七章に、カフル人は猴はもと人だったが、ものいえば働かさるるを嫌い猴となって言わずと説くとある。
子曰く、求は千室の邑、百乗の家、これが宰たらしむべし、其の仁を知らざるなり。赤は何如。子曰く、赤は束帯して朝に立ち、賓客ひんきゃくものいわしむべし、其の仁を知らざるなり。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
紅梅のつぼみは固しものいはず
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
毎夜のやうにものい
堺へ帰らう (新字旧仮名) / 河井酔茗(著)
と呼べどものいはで
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
信婦人の車に乗じ、ただちに門に至りてまみゆることを求め、ようやく召入めしいれらる。されども燕王なおやまいを装いてものいわず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
唯継は彼のものいふ花の姿、温き玉のかたち一向ひたぶるよろこぶ余に、ひややかにむなしうつはいだくに異らざる妻を擁して、ほとんど憎むべきまでに得意のおとがひづるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
余はさながら不測の運命におそわれて悄然しょうぜんとして農夫の顔其まゝにものいわぬ哀愁に満ちた自然の面影にやるせなき哀感あいかんさそわれて、独望台ぼうだいにさま/″\の事を想うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お光はものいわぬさきに先ず歌ったと云っても宜い位だ。何を歌うのか。よく此島で歌う俚歌りかではない。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
看護員は傾聴して、深くそのことばを味いつつ、黙然もくねんとして身動きだもせず、やや猶予ためらいてものいわざりき。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(七) 子夏しか曰く、さかしきをとうと(尊)び、色をあなど(軽易)り、父母につかえてく其の力をつくし、君につかえて能く其の身をささげ、朋友と交わりものいいてまことあらば、未だ学ばずというといえど
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
英国で少女が毎月朔日ついたち最初にものいうとて熟兎ラビットと高く呼べばその月中幸運をく、烟突えんとつの下から呼び上ぐれば効験最も著しくき贈品随って来るとか(一九〇九年発行『随筆問答雑誌ノーツ・エンド・キーリス』十輯十一巻)
さすがの燕王も心に之をにくみて色よろこばず、風声雨声、竹折るゝ声、裂くる声、物凄ものすさまじき天地を睥睨へいげいして、惨として隻語無く、王の左右もまたしゅくとしてものいわず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
看護員は傾聴して、深くそのことばを味ひつつ、黙然として身動きだもせず、やや猶予ためらひてものいはざりき。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
曙染あけぼのそめ振袖ふりそで丈長たけながのいとしろ緑鬢りよくびんにうつりたる二八ばかりの令嬢の姉なる人の袖に隠れて物馴れたる男のものいふに言葉はなくて辞儀ばかりせられたる、蓄音機と速撮はやどり写真としき事のみ多し。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
貫一は不断にこのことばいましめられ、隆三は会ふ毎にまたこの言をかこたれしなり。彼はものいいとまだに無くてにはか歿みまかりけれども、その前常に口にせしところは明かに彼の遺言なるべきのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この看板の前にのみ、洋服が一人、羽織袴はおりはかまが一人、真中まんなかに、白襟、空色紋着もんつきの、廂髪ひさしがみせこけた女が一人まじって、都合三人の木戸番が、自若として控えて、一言もものいわず。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
衣の色さへわかち得ざればおもては況して見るべくも無けれど、浄土の同行の人なるものを、呼びかけて語らばや、名も問はばやと西行は胸に思ひけるが、卒爾にものいはんはあしかるべし
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
づる、またひらく、あふぎかなめ思着おもひついた、ほねあればすぢあれば、うごかう、あしびやう……かぜあるごとものいはう…とつく木彫きぼりざうは、きてうごいて、ながらも頼母たのもしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
既に火宅くわたくの門を出でゝ法苑の内に入らしめ終んぬ、聊か聞くところありしかば、眼前の迍邅ちゆんてんを縁として身後の安楽を願はせんと、たゞ一度会ひてものいひしに、親はづかしき利根のものにて
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
昌黎しやうれいものいふことあたはず、なんだくだる。韓湘かんしやういはく、いまきみ花間くわかん文字もんじれりや。昌黎しやうれい默然もくねんたり。ときおくれたる從者じゆうしやからうじていたる。昌黎しやうれいかへりみて、うていはく、何處いづこぞ。藍關らんくわんにてさふらふ
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なかいづれがものいふ? 中気病ちゆうきやみのやうなけた、した不足たらず
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、青年わかもの息切いきゞれのするこゑで、ものいふのをけ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)