ござ)” の例文
さうして東隣ひがしどなりからりてござが五六まいかれた。それから土地とち習慣しふくわん勘次かんじきよめてやつたおしな死體したいは一さい近所きんじよまかせた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
図210は蔓のあるひさごの形をしている。葉及び昆虫の翅のような平な面は、ござ編みで出来ているが、他の細部はみな本当の籠細工である。
ござと戸板と丸太と縄を持って、いそいそした心持で松林の避難所に帰って行ったが、一郎の心には岡部の事がいっぱいだった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
御膳ごぜん何人前、さら何人前と箱書きのしてある器物の並んだ土蔵のたな背後うしろにして、ござを敷いた座蒲団の上に正香がさびしそうにすわっていた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「すみませんが、六尺を一本ずつ切って戴きたいもんで。」安公は座敷にござを敷いて、仏に湯灌を使わそうとするとき、女連おんなれんの方へ声かけた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
栄玄はこれを認めて子としたのに、「あんなきたない子は畳の上には置かれない」といって、板のござを敷いて寝させた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
お延は隅にあった酒徳利からひやのを茶碗にいで、グ、グ、グ、グ、グ……と一息に飲み干して、後はござの上へ人魚のように足を投げだした。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
多分、貧窮組の捨てて行った米の空俵や、ござむしろたぐいであろうと思われる。それをじっと立って見ていた米友が、また一思案を思い浮べました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして地面にはござが敷いてありますがお客があると取って置きのニキノを出してすすめます。お客用のだからと云っても、矢張り黒く煤けていました。
馬糞にたかつてゐる蛇の目蝶とござを煽つて行く私、——それがこの急な路の上に、生きて動いてゐるすべてであつた。
槍ヶ岳紀行 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
絶えざる低い大太鼓おおだいこの音に例の如く板をバタバタたたく音が聞えて、左手の辻番小屋のかげから仲間ちゅうげんござを抱えた女とが大きな声で争いながら出て来る。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこには蒲団と毛布が箱の中に入れてあって、その上にござが冠せてあった。それを引出し、偃松の上に蓙を敷き蒲団四枚と毛布を使って寝床を作った。
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
「何分電気のコードから、蒲団ふとんの皮まで盗られたので、どうにもなりません。畳は表のござだけ切り取って行きましたよ」と言うと、皆が怪訝けげんな顔をする。
硝子を破る者 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
仕方がないから、また布団の上へすわって、煤掃すすはきの時にござを丸めてたたみたたくように、そこら近辺を無暗にたたいた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのふとんとござの間を長くこゝに住みなれ、おそらくは(原文七字缺)の血を吸ひとつたであらう、貪慾な夜の蟲どもが列をみだして逃げまどふのであつた。
盲目 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
転びとは大道へござを敷いて商品を並べるもの、ぼくというのは植木屋、引張とあるは香具師やしのことである。
夜中に大地震があって、みんな戸外に飛び出し、家の前の空地にござを敷いて、そこにたむろして夜を明かした。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
客座敷なぞは疊がへをした上へござを敷いて、其の上へまた澁紙を敷いて、乾餅かきもちが干し並べてあつたりした。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その間に例によって宝物を拝観したが、此処のは蛇身鳥じゃしんちょうの牙だの石や鐘の破片かけらだので古道具とまでも行っていない。品が粗末なだけに縁先のござの上に列べてあった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
尾田はあたりを見廻したが、脱衣籠もなく、ただ、片隅に薄汚ないござが一枚敷かれてあるきりで
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
彼の郷里熊本などは、昼間ひるまは百度近い暑さで、夜も油汗あぶらあせが流れてやまぬ程蒸暑むしあつい夜が少くない。蒲団ふとんなンか滅多に敷かず、ござ一枚で、真裸に寝たものだ。此様こんなでも困る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
主人が持参したござのうえに着物を脱ぎ捨て、ふたり湯の中にからだを滑り込ませる。かず枝のからだは、丸くふとっていた。今夜死ぬる物とは、どうしても、思えなかった。
姥捨 (新字新仮名) / 太宰治(著)
店内は日本の品物をもってうずまり、ござ・雨傘・浮世絵・屏風・茶碗・塗物・呉服・小箱・提灯ちょうちん・人形・骨董・帯地・着物・行李こうり・火鉢・煙草盆——一口に言えば何でもある。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
ともかく、二人の先触さきぶれ小僧が、小川湯へつくと、ほか浴客おきゃくがあろうがなかろうが、衣類きものぎ場をパッパッと掃きはじめ、ござを敷く、よきところへ着物を脱ぐ入れものをおく。
若殿は恍惚うっとりとして、見惚みとれて、ござの上に敷いてある座蒲団ざぶとんに、坐る事さえ忘れていた。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
老僧は船長や船童に扶けられて通ひ船に乘り移り、ござの上にきちんと坐られた。そして舷側を離れるとともに恰も佛の前に稽首ぬかづくやうに、三度ばかり鄭寧に頭を下げて謝意を表せられた。
湖光島影:琵琶湖めぐり (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
それもこの気息奄々きそくえんえんたる場面を活気づけようとして、わざわざ姿を現わしでもしたように、ござがけの荷を積んだ荷馬車で偶々たまたま一人の百姓がそこへ乗りこんで来たればこそで、いつもだったら
貧乏で何一つ食べさせる物もないが、せめて大火おおびいてあたらせると、七人はござを頭からかぶってのはたで睡ってしまい、夜が明けて元日の朝日がさし込むのにまだ起きようともしなかった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「入らツしやいましたよ。」繼母はお鳥の先きへ立つてやつて來て、持つて來たござの座蒲團を床の間の前に置き、「さあ、あなたもぢかによくお頼みなさいよ」と、お鳥を置いて去つてしまつた。
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
まだ午前であつたが、湯殿山の谿合たにあひにかかると風の工合があやしくなつてきてたうとう『御山おやま』は荒れ出して来た。豪雨が全山をでて降つてくるので、かさは飛んでしまひ、ござもちぎれさうである。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
唐津出来からつでき茶碗ちゃわんや、さらどんぶりなどを、ござを敷いて
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
この人を裏の土蔵の方へ導こうとして、おまんは提灯ちょうちんを手にしながら先に立って行った。半蔵もござ座蒲団ざぶとんなぞを用意してそのあとについた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
絶えざる低い大太鼓おほだいこの音に例のごとく板をバタバタたゝく音がきこえて、左手の辻番つじばん小屋のかげから仲間ちゆうげんござかゝへた女とが大きな声で争ひながら出て来る。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
竜之助は財布さいふを取り出して、小銭百文をパラリと縁台のござの上へ投げ出して、その取るに任せると、黒坂は横目で
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あしには脚絆きやはん草鞋わらぢとを穿はいにはござうてる。ござえずかれ背後はいごにがさ/\とつてみゝさわがした。かれつひ土手どてかられてひがしへ/\とはしつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
仕方がないから、又布団の上へ坐つて、煤掃の時にござを丸めて畳を叩く様に、そこら近辺を無暗にたゝいた。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
豊臣家とよとみけにはなんのしたくもなく、見物けんぶつにまじってぶらりとやってきた三名は、さしずめ、そこらののしたにござでもしいて一晩ひとばん明かすよりほかにしかたがない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
素早く戸板やござを持って来て、仮の場席をこしらえ、怪我人けがにんや子供を寝かしているのもあった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
土のうへに藁を敷詰めて、上にござをしいたゞけである。どこもかしこもじめじめしたもので、こゝにスキイヤアが、多勢泊ることもあるらしいが、無論都会人向きではない。
霧ヶ峰から鷲ヶ峰へ (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
椅子は駿介の手製のもの一脚きりだつたから、卷いて壁に寄せかけてあつたござをのべ、そこへ布團を敷いて請じた。二人は向ひ合つて坐つた。互に短く挨拶の言葉を云つた。
生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
庭一面の落葉は道具の調べや荷づくりをするにはござや薄べりを敷くよりも遥にあつらえ向きなものであった。
写況雑記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
馬丁の吹き鳴らす喇叭らっぱの音が起る。薄いござを掛けた馬のからだはビッショリとぬれて、あらく乱れたたてがみからはしずくしたたる。ザクザクと音のする雪の路を、馬車の輪がすべり始める。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お吉はござなどを持って来て、すすめるものだから、主膳もついそこへ上り込んでしまいました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かぶってきたござをすてて焚火たきびのそばへふるえついたのは、おなじ姿の呂宋兵衛だった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
衣物きものだつていくらもいんだらうがね、それにまあどうしてかはへなんて其麽そんなとほくへござばかりつてね、くうちにやのみもみんなんでしまふだらうがね、まあさういのもめぐあはせだね
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
病室には、糺が知合いの医員に話して、自由をかせて、特別に取り入れた寝台のうえに、叔父が一人、毛布を着てごろりと転がっていた。ゆかの上には、ござを敷いて幸さんも寝ていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
金網の張ってある重い戸があくと、そこは半蔵夫婦が火災後しばらく仮住居かりずまいにもあてたところだ。ござでも敷けば、客のいるところぐらい設けられないこともなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
プロペラ船のお客もまばらで、ござの上に、おのおの、足腰をのばしたせいか、内輪同士のくつろぎに、旅も、きょうあたりから、なんとなく、旅情の子らしいわびしさにとらわれてくる。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この時、後ろの方からござのような巻いたものを抱えて、三人連れの女がやって来ました。その三人の女をよく見ると、その一人は手拭をかぶらないで、頭の上へ御幣ごへいのような白紙を結んでいます。
ござのうへに一緒くたに取り出された帯揚を取りあげたりした。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)