くそ)” の例文
万一小染が下手人でなかったら、あんまり綺麗な細工じゃねエが、たった一つしかねエこの雁首がんくびをやると言うがいい。くそ面白くもねエ
そのうち最前からのつかれが出て、ついうとうと寝てしまった。何だか騒がしいので、が覚めた時はえっくそしまったと飛び上がった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この頃光子さんの綿貫に対する態度だんだん焼けくそになって来なさって、どないなとなれいうような素振そぶり見せなさるもんですさかい
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……勅令……内務省令、くそらえだ。いよいよ団結を固くして、益々大資本を集中しつつ、全国的に鋭敏な爆薬取引網を作って行く。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
折々「くそ」「畜生」などと云う、いかがわしい単語を口の内でつぶやいているのである。昌平橋に掛かる時、向うから芸者が来た。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
一寸やってはあごの下に入れて暖めているのを見るに見兼ねて、「えくそッ!」という気になり、ストーヴをたきつけてやったと云っている。
母たち (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
俳諧歌となりと、狂歌となりと、味噌みそとなりと、くそとなりと思ふやうに名づけられて苦しからず。われらは名称などにかかはらざるなり。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「ようし、てめえっちのような、兎のくそみてえなチビに、挨拶しても仕方がねえ、後から、秩父ちちぶの熊五郎が返答にゆくから引っ込んでろ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いない……時を……見……何故なぜ、何故言難い、いやしくも男児たる者が零落したのを耻ずるとは何んだ、そんな小胆な、くそッ今夜言ッてしまおう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「どっちにしても、おれらのためにゃあ正勝さんだよ。いくら姿ばかり立派でも、敬二郎の野郎じゃくその役にも立たねえから」
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
その足跡は里犬よりも大きく、くそは毛と骨で——雨晒あまざらしになったのを農夫が熱の薬に用いる。それは兎や鳥なぞを捕えて食うためだという。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ちょっと側を通ってもはえの大群が物すごい音を立てて飛び立った。「肺病のたれたくそや食い残しじゃ肥しにもなりゃしねえ」
(新字新仮名) / 島木健作(著)
自由気儘きままにグングン訳し、「昔のようなくそ正直な所為まねはしない、まずい処はドンドン直してやる」と、しばしば豪語していた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「間、貴様は犬のくそかたきを取らうと思つてゐるな。遣つて見ろ、そんな場合には自今これからいつでも蒲田が現れて取挫とりひしいで遣るから」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
仁右衛門はいわれる事がよく飲み込めはしなかったが、腹の中ではくそらえと思いながら、今まで働いていた畑を気にして入口から眺めていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして些と娘の方を見て、「ですから私等も、とつ頃は可成かなりに暮してゐたものなんですが、此う落魄おちぶれちやくそですね。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「さうだ。汚いとも。耳はボロボロの麻のはんけちあるいは焼いたするめのやうだ。足さきなどはことに見られたものでない。まるで乾いた牛のくそだ。」
月夜のけだもの (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
誰も知人のない東京なので、恥かしいもくそもあったものではない。ピンからキリまである東京だもの。裸になりついでにうんと働いてやりましょう。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
お年はお十七とのこと、これが若様なれば余程よっぽどよろしゅうございますに、お武家様にお嬢様はくそったれでございますなア
くもあみをむすびて九二諸仏を繋ぎ、燕子つばくらくそ九三護摩ごまゆかをうづみ、九四方丈はうぢやう九五廊房らうばうすべて物すざましく荒れはてぬ。
大勢の見物人の前だから、初めは標準語でやっているが、たちまち心乱れてくると「何んやもう一ぺんいうて見い、あほめ、くそたれめ、何ぬかしてけつかる」
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
「似合わねえな。波田君、くそだらけの服と、澄み切ったひとみの処女とは、どう工面して見たって、縁がねえなあ」
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
くそ。冬になりゃあ、こんな天気になるのは知れているのだ。出掛けさえしなけりゃあいいのだ。おれの靴は水が染みて海綿のようになってけつかる。」
橋の下 (新字新仮名) / フレデリック・ブウテ(著)
このように、作家と作品に距離があるということは、その作家が処世的に如何いかほどくそマジメで謹厳誠実であっても、根柢的に魂の不誠実を意味している。
デカダン文学論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
娘さんは二階へ行き、やがて、おじさんがくそまじめな顔をして二階から降りて来た。悪党のような顔をしている。
未帰還の友に (新字新仮名) / 太宰治(著)
遊女から振られた腹癒はらいせに箪笥たんすの中にくそを入れて来たことなどを実験談のようにして話しているが、まだ、少年の私がいてもすこしも邪魔にはならぬらしい。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
無理に二階へ押し上げると、柳吉は天井へ頭をっつけた。「痛ア!」もくそもあるもんかと、思う存分折檻した。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
また、ほかの家にて蚕児を盗まれたとの届け出に対し、警官が出張して検閲せしときに、そのうせたる場所に鼠くその残れるを発見したことも聞いている。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「帰りがけに今一言いっておく。親類もくそもあるもんか、懇意も糸瓜へちまもねいや、えい加減に勝手をいえ、今日限りだ、もうこんな家なんぞへ来るもんか」
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
俗に「くそ味噌みそも一しょにする」というが、味噌みそを見てくそのようだというのと、糞を見て味噌のようだというのとは、その人の態度たいどに大差あるを証明する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
米はあきらめて黙って紙石盤かみせきばんを出して来ると腹這はらばいになって画をかき始めた。一頁に一つずつ先ず前の軍人から始めて二枚目にくそを落している馬を描いた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
寺では二三日前から日傭ひよう取りを入れて掃除をしておいたので、墓地はきれいになっていて、いつものようにしきみの枯葉や犬のくそなどが散らかっていなかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そして彼はその上にたんを吐きかけるのみでは足れりとしない。数と力と物質との優勢の圧迫の下に、彼は心に一つの言葉を、くそを見いだす。くり返して言う。
されどもピラミッド全体は、長い間の惰性に引きずられて眠っている。ただ現在に固執している。死体のごときずっしりとした重さでくそ落着きに落着いている。
らせんといふなららん。らうとおもへば、どんなことつてもきつつてせるが、ナニ、んなくそツたれ貝塚かひづかなんかりたくはい』とさけぶのである。
しかし、うしためぐり合せか私には不運が続いた。ころべばくその上とか言ふ、この地方のたとへ通りに。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「ちぇっ、勝手にしろ! どうして貴様はまた、発作が起こることに決めてやがるんだ、本当にくそ! いったい貴様はこのおれをからかっているのか、どうだ?」
将軍忽ち岸の草陰に隠れてくそをひる。これも何かの好紀念であろう。四人手をり躍り上りて万歳を三呼さんこ。ああ、かくして我々の痛快なる旅行はおわったのである。
將棋せうきでは何くそつと力みかへつて遠慮えんりよなしにかしたりかされたりする事既に五六年にもならうか?
その蛇の中にはくそがある、という愚にもつかないことを音読みでやっているだけのことなんです。
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ソ連の参戦もくそもあるか。頭を強く二三度振り、今までの考えから抜け出ようと努力しながら、歌でも歌おうとよろめく足をふみしめ、卓に手をかけ立ち上ろうとした。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
……具体的もくそもあるもんか! 問題は、なよたけを大納言の手から救い出せばそれでいいんだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
わざとくそ落ちつきに落ついて、おのぶが不承不精に出す湯呑へ、手酌てじゃくでなみなみとつぎ入れた。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
捨身成仏しゃしんじょうぶつということがある。大事な物を捨てた時、そこへ解脱がやって来る」「また談義か、くそでも食らえ」「アッハハハ、面白いなあ」「何が面白い、生臭坊主め!」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうして彼はその少女の靴へほんの少し蟋蟀こおろぎくそほどの泥がはねあがっているのを見つけた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
はつきりりいたあはねえんだから、それからくそつかんでねえやつぢや駄目だめだつちんだ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
こんなことぢや駄目です。こんなぢや、わたしはいつまでも、生臭坊主のくそ坊主です。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
ぼくは自己批判もくそもなく、あまくて下手な歌や詩を作り、酩酊めいていしている時が多かった。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
尤も今日は、刻限こくげんおそいせいか、一羽も見えない。唯、所々ところどころ、崩れかゝつた、さうしてそのくづれ目に長い草のはへた石段いしだんの上に、からすくそが、點々と白くこびりついてゐるのが見える。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
伊勢屋稲荷に犬のくそと、江戸の名物のようにいわれたほど、おいなりさんは江戸時代の流行はやりものだが、秀郷祀るところの神さまと、どうして代ったのかというと、それにも由縁ゆえんはあるが