あつ)” の例文
イエスはラザロの病あつき報知を受けたが、「この病は死にいたらず、神の栄光のため、神の子のこれによりて栄光を受けんためなり」
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
「これまで原田は、情のあつい、心の温かい人間だといわれて来た、彼だけは敵がなく、みんなに好意をもたれて来たそうではないか」
弱くおろかなる人で無いことはたしかに信ずると篠田さんは言うてでしたよ、——姉さん篠田さんは貴嬢をくまであつく信じて居なさいますよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
お縫は、つとめて、ほほ笑みを作り、どうして、久しぶりの良人を慰めようか、自分も、楽しもうか、そぞろ、やまいあついのも忘れて
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信仰のあついHさんの従姉いとこは、久しく肉の汚れに染められた聖堂のなかを、一まづ清掃してはどうかと司祭さんに提議したのでした。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
医者はそこを去るように知らせたが、その心のあつい婆さんは、立ち去る前に臨終の人に向かってこう言わないではおられなかった。
かへつてはなはだあつかりしかば、デ・クインシイもまたその襟懐に服して百年の心交を結びたりと云ふ。カアライルが誤訳の如何いかなりしかは知らず。
シェンキヰッチの「何処へ行くクオ・ヴァディス」等の歴史小説でも、当時なお人心宗教にあつかりし時代に於て、それは宗教的宣伝小説であった。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「然うさ。これから先のことを考えているんだよ。大将は一度信用したら、何処までも引き立てる。我儘だけれど人情にはあつい」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
すると大変に感心して、シナの坊さんというものはそんなに道徳心即ち菩提ぼだい心のあついものであるかと大いに悦んで随喜の涙にむせびました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そういう風情を失わずに、何げなく保存するにはあつい信仰と繊細な心が必要なのだが、そういう心もいまは途絶えがちである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
私たちが互に信じ互に結ばれ、そうして自然に一切を任せている限り、あつい信仰と不動な安心とをもって、仕事に専念精進しょうじんする事が出来る。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
毎月一度ということは信心のあついうちはよいが、あまり回数が多いとかえって粗末になりやすく、時や費用の上からも大きな祭は出来ない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大先生の尊顔そんがん久々ひさびさにておがみたいし、旁々かたがたかの土地を見物させて貰うことにしようかと、師恩しおんあつき金博士は大いに心を動かしたのであった。
燕王此の勢を、国に帰れるよりやまいたくして出でず、これを久しゅうして遂にやまいあつしと称し、以て一時の視聴をけんとせり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
庄屋風情しょうやふぜいながらに物を学ぶ心のあつかった先代吉左衛門が彼に呼びかけた心は、やがて彼が宗太にも正己にも森夫にも和助にも呼びかける心で
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それ愛の最もあつからんには、利にも惑はず、他に又ふる者もあらざる可きを、仮初かりそめもこれの移るは、その最も篤きにあらざるをあかせるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そうして回復の上病院を出たら礼にでも行こうと思っていた。もし病院で会えたらあつく謝意でも述べようと思っていた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
同情のみが彼らの心を占領したらんには、彼らはただちにヨブにちかづいてあつき握手をなし以て慰藉いしゃことばを発したであろう。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
チャイコフスキーの情誼じょうぎあつさと、その人の好さは、この美しいトリオと共に千万年の後までも語り伝えられるだろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
南京子も愛人の母病あつしと聞き、大和航空機製作所女工員の勤めをしばらく休んで、この病院に泊り込み、博士未亡人の看病に当っていたのである。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大日向の本願は、老少善悪のひとを選ばれず、ひたすら信心の心あついものをいとしみ給ふ。煩悩ぼんなう熾盛しせいの衆生をたすけ給はんが為の御心にてまします。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
病が次第にあつくなり、焦眉しょうびの問題として真剣に後嗣のことを考えねばならなくなった時、叔孫豹はやはり仲壬を呼ぼうと思った。豎牛にそれを命ずる。
牛人 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼はみずから信ずるのあつきのみならず、その執着力の強靭きょうじん果鋭なるにおいては、王安石もまた三舎さんしゃを避くる程なりき。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
尼子経久此のよしを伝へ聞きて、兄弟信義のあつきをあはれみ、左門が跡をもひてはせざるとなり。一四三ああ軽薄の人と交りは結ぶべからずとなん。
午後に僕はアララギ発行所に行き、赤彦君と親交のあつた二三の方々に赤彦君の病のすでにあつきことを告げた。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
自分に、し、もう少し和歌のこころざしあつく、愚直の性分があつたら、あの流儀は自分がやりさうなことであつた。その「ただ言歌」の心要として蘆庵のんだ
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
お師匠さんは乗物が嫌いで、取分け自動車と船とが苦手であったこと。それでも信仰心があつくて、毎月廿六日には欠かさず阪急沿線の清荒神きよしこうじん参詣さんけいしたこと。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二、黒田藩士が上下を問わず人情にあつく、従って藩公に対する忠志が、他藩の藩士以上に潔白であった事。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
王同然に給事あつくする者なくては大いに怒り、呪詛して王位を失わしめまた殺すだろうと心配の余り、王女に汝我に代りよく供養すべきやと問うに、能くすと答う。
然し翁はみずから信ずることあつく、子を愛すること深く、神明しんめいに祈り、死を決して其子をす可く努めた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
武の家の者は七郎の礼儀を知らないのを怪しんだが、武はその誠のあついのを喜んでますます厚遇した。それから七郎はいつも三、四日武の家に滞在していくようになった。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
二、あつく仏法を敬へ。三、みことのりは謹しんでけよ。四、群臣は礼を重んぜよ。五、私慾を棄て、訴訟を裁け。六、悪をたゞし、善を勧めよ。七、官職は人を得なければならぬ。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
これは、自分じぶん大事だいじおもつてゐるひとたいするあつこゝろあらはれで、なにもわざ/\おきのひとんでいつてゐるのではなく、かりにさうしたありさまを、むねうかべたゞけです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
またやまいあつきに当たって死後の備えをする弟子に対し自分は身分あるものとしてよりはただ一夫子として、門人たちの手に死ぬることを欲すると言った。ただそれだけである。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
明治の大儒として名声中外に著聞する中村敬宇けいう先生のよりも、天子の師範として近代の書聖と仰がれる長三洲ちょうさんしゅう先生のよりも、近世の大徳として上下の帰依あつ行誡ぎょうかい上人のよりも
そのとき長男海舟は十六、貧乏暮しの不平も云わずシシとして勉学に励みオヤジにはあつく孝行をつくし弟妹をいたわってよく面倒をみてやるという大そうな模範少年に育っていた。
安吾史譚:05 勝夢酔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
『では、袋を外し、竿き出しにして、往きませう』と言ふと、『それがいでせう』と、賛成してくれるので、あつく礼を述べて別れ、それから、竿の袋を剥き、魚籃を通して担ぎ
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
有名な『中庸』という本に「ひろく之を学び、つまびらかに之を問い、慎んで之を思い、明らかに之を辨じ、あつく之を行う」という文句ことばがありますが、けだしこれはよく学問そのものの目的
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
これより先、師匠のやまいあつしと聞き、彼の亀岡甚造氏には見舞いに来られました。
近頃メーソンという米国人が『東方の光』の題の下に一小冊を公にした。その中に印度は宗教霊的の天恵に富み、支那は礼儀芸術の道にあついけれども、両民族とも功利活用の才能に乏しい。
東西相触れて (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かたの如く菩提寺ぼだいじはうむわづかなる家財かざい調度てうど賣代うりしろなし夫婦が追善のれうとして菩提寺へをさ何呉なにくれとなく取賄とりまかないと信實しんじつに世話しけりされば村の人々も嘉傳次がを哀み感應院のあつなさけかんじけるとかや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
寺の本堂に寄宿しているころは、清三は荻生さんをただ情にあつい人、親切な友人と思っただけで、自分の志や学問を語る相手としてはつねに物足らなく思っていた。どうしてああ野心がないだろう。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その情義のあつき志を知りては、妾も如何いか感泣かんきゅうの涙を禁じ得べき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ゐやにはあつき「歌」なれば、よしそれたゞ
歌よ、ねがふは (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その好情のあつきはもとより論をたず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こう云うのが常のことで、さすがに本場修業だけのことはあると、檀家の人々は舌を巻いて、信仰ますますあついということだった。
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
怏々おうおうとして御憂悶の深かった上皇の侍側にあって、一糸、烏丸光広などと共に、かげにあって、勤王精神にあつかった傑僧であった。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中でも松平兵部少輔ひょうぶしょうゆうは、ここへかつぎこむ途中から、最も親切にいたわったので、わき眼にも、情誼のあつさが忍ばれたそうである。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
検事を信ずることのあつい帆村探偵は、誰が何といおうと、それが間違いであることを信じていた。しかし何ごとも証拠次第で決まる世の中だった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)