瞬間しゅんかん)” の例文
そんな素直すなおかんがえもこころのどこかにささやかないでもなかったのですが、ぎの瞬間しゅんかんにはれいけぎらいがわたくし全身ぜんしんつつんでしまうのでした。
しかし、あまりとりうつくしいので、つかまえるがにぶったか、指先ゆびさきが、にふれんとした瞬間しゅんかんきゅうとりは、おどろいてちました。
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私は林太郎にみられたと気づいた瞬間しゅんかんぬすみの現行げんこうをおさえられたようにびくっとした。私はとっさのあいだにごまかそうとした。
花をうめる (新字新仮名) / 新美南吉(著)
つぎの瞬間しゅんかんには、もう、いかにも得意らしくあたりを見まわし、自分をみんなに印象づけようとするかのような態度を見せていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
が、当節とうせつ評判の人物だから、話に聞いて、大体の想像はつく。ハテナ、喬之助ではないかナ——と思った瞬間しゅんかん、長庵はすぐ思い返した。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかし、その瞬間しゅんかん、ぼくがつばをすると、それは落ちてから水溜みずたまりでもあったのでしょう。ボチャンという、かすかな音がしました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その瞬間しゅんかん、ネコはいままでのネコとは思えないほど、すっかりわってしまいました。毛をさかだて、せなかをまるめ、足をのばしました。
何かしら思いめているのか放心して仮面めんのような虚しさにあおざめていた顔が、瞬間しゅんかんカッと血の色をうかべて、ただごとでないはげしさであった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
富田とみただんとモンクスがしっかと握手あくしゅした。左右七メートルへだててぱッと飛びのいた。その瞬間しゅんかんに、勇ましい試合開始のかね
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
が、その次の瞬間しゅんかんには、私はその同じ茂みのうちに殆ど二三十ばかりの花と、それと殆ど同数の半ば開きかかったつぼみとを数えることが出来た。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
瞬間しゅんかんのうちに、森の枝葉かれはの茂みの上にぬけ出て、それから空高く舞い上がり、一時間に何百里という早さで、どこともなく飛んで行きました。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
その瞬間しゅんかん、お姫さまは、すっかりうれしくなりました。王子が、海の底の、自分のそばへくるものと思ったからです。
それから手を放そうとした瞬間しゅんかんです。頭の方がぐらりとゆれたかと思うと、そのまま、サァッ——と落ちて来ました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
ワーッという喊声かんせいが、船をゆるがしたせつな、大鷲はまぢかに腹毛を見せたまま、ななめになってクルクルと海へ落ちてきた——と見えたのは瞬間しゅんかん
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぎょっとして、目を見はると、ふいに、すみの方でピカッと光ったものがある。自分は瞬間しゅんかん、ぞおっとして、立ちすくんでしまった。光りものは二つ。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
まるでそれは、瞬間しゅんかんゆめのように、とぶ鳥のかげのようにすぎた。だが、だれひとり夢と考えるものはいなかった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
やがて司会者はって五、六分間、紹介のことばを述べた。このかんは僕にとって、生涯しょうがい忘れられぬ苦痛の瞬間しゅんかんである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
わたしの折角の控え目な磊落さも、ものものしい態度も、その瞬間しゅんかんに消しとんでしまったばかりか、それと一緒いっしょに、うじうじした当惑の感じもなくなった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
……みなさん、後にわが人類を救った種痘法しゅとうほうなるものは、実にこの瞬間しゅんかんに考えだされたものであります。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
例えば走者第一基にあり、これより第二基にいたらんとするには投者ピッチャーが球を取て本基(の打者ストライカー)に向って投ずるその瞬間しゅんかんを待ち合せ球手を離るると見る時走り出すなり。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ちょうどそのとき、七年という年月のさいごの瞬間しゅんかんがすぎさったのです。と、空にバタバタというはねの音がして、十二のカラスがとんできて、地面じめんにまいおりました。
まるでへたへたになった岩漿がんしょうや、上からしつけられて古綿のようにちぢまった蒸気やらを取って来て、いざという瞬間しゅんかんには大きな黒い山のかたまりを、まるで粉々に引きいて飛び出す。
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
『人生でいちばん楽しい瞬間しゅんかんは』とゲーテが言ってる。『だれにも解らない二人だけの言葉で、だれにも解らない二人だけの秘密や楽しみやを、愛人同士で語り合っている時である』
透明人間がま近にきたな、と感じた瞬間しゅんかん、ケンプ博士は、したたかにあごに一げきをくらった。倒れたところを脾腹ひばらをけられ、つづいて胸を重いものがおさえつけ、のどをしめつけられた。
されば佐助は当夜枕元へ駈け付けた瞬間しゅんかん焼けただれた顔をひと眼見たことは見たけれども正視するにえずしてとっさに面をそむけたので燈明の灯のゆらめく蔭に何か人間離れのしたあやしい幻影げんえい
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そうしてそのかんがえはただ一瞬間しゅんかんにしてえた。昨日きのうんだ書中しょちゅううつくしい鹿しかむれが、自分じぶんそばとおってったようにかれにはえた。こんどは農婦ひゃくしょうおんな書留かきとめ郵便ゆうびんって、それを自分じぶん突出つきだした。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
聖者の顔も一変して、猿の骸骨がいこつのようになっていた。聖者の身体はすーッと宙に浮いた。と見る間に、聖者の身体は瞬間しゅんかん金色に輝いた。が、その直後、聖者の身体は煙のように消え失せてしまった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私はおどろきとおそれと喜びに瞬間しゅんかん棒立ぼうだちになった。
浪打際なみうちぎわあるいたようにかんじたのはホンの一瞬間しゅんかん私達わたくしたちはいつしか電光でんこうのように途中とちゅうばして、れいのおみや社頭しゃとうっていました。
過去三年の間にどんな進展を見せているかを暗々裡あんあんりに通告されたような気がして、それを読み終わった瞬間しゅんかん、頭がかっとなった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
くまは、ザブリとおどんでひたりました。ひたったかとおもうと、またおどがりました。ちょっと、その瞬間しゅんかんだけいい気持きもちがしたのでした。
白いくま (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのリズムに乗ってしまえばしめたもので、カタンと足で蹴り身体をたおした瞬間しゅんかん、もう上半身は起き上がり、スウッと身体は前に出てゆきます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
矢数やかずはひょうひょうとにじのごとくはなたれたが、時間はほんの瞬間しゅんかん、すでに大鷲おおわしは町の空をななめによぎって、その雄姿ゆうし琵琶湖びわこのほうへかけらせたが
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてこの瞬間しゅんかん喝采かっさいのことも、美しい歌姫のことも、その歌声やほほえみのことも、だれひとり知る者もなく、忘れられ、過ぎ去ってしまうのです。
「あっ」という恋人こいびとさけび声を耳にしたと思ったつぎの瞬間しゅんかん、若者は自分のからだ羽根はねぶとんのようにかるがると水の上に浮かんでいることに気がついた。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
大迫玄蕃は、とこの間へ行って刀を取り上げながら、自分でもおかしくなって、瞬間しゅんかん、ふッとせせら笑った。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
瞬間しゅんかん、十二人は一つの気持にむすばれ、せまい道ばたの草むらの中に一列によけてバスをむかえた。コトエさえももう泣いてはいず、一心にバスを見まもっていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
我々の入った部屋は、家具も幾分はましで、その並べ方も、前の部屋より趣味しゅみがあった。もっともその瞬間しゅんかん、わたしはほとんど何ひとつ目に留める余裕よゆうがなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ところが、ニールスがあらわれでた瞬間しゅんかんに、コウノトリは動きだしました。そして、コウノトリがよくやるように、頭をさげ、くちばしを首にしつけて立ちました。
瞬間しゅんかんそれがきらきらと少女の眼ざしのようにかがやく……家の中からは夕餉ゆうげ支度したくをしている
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
伊藤公が先生にしかられたその瞬間しゅんかんに起こった一時の感情が同公をして政治家たらしめたかとただせば、その時始めて「寝耳ねみみに水」のごとくこの教訓が公の耳朶じだを打ったとは思われぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その瞬間しゅんかん、ザクンと一打ひとうち、大きなくまの手が、かれの右のひたいから頭にかけて打ちおろされた。男は、むちゅうでバネ仕掛じかけのようにとび上がって、あとはどうしたのか自分にはわからない。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
と、つぎの瞬間しゅんかん
れいによりてその飽気あっけなさ加減かげんったらありません。わたくしはちょっとこころさびしくかんじましたが、それはほんの一瞬間しゅんかんのことでございました。
けれど、あわれな母親ははおやには、とっくにそれがわかっていて、こうしてやすんでいる瞬間しゅんかんにも、むねくるしめているのでありました。
石段に鉄管 (新字新仮名) / 小川未明(著)
とりわけ次郎にとっては、それがかれの最も緊張きんちょうしていた瞬間しゅんかんのできごとであったために、そのおかしみが倍加されていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
手帳は、空中で風を受け、瞬間しゅんかん止まったようでしたが、ふっとき飛ばされると、もう、はるかの船腹におちていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
け死ぬか、のがれだせるか、人間最高の努力どりょくをふりしぼる瞬間しゅんかんには、かれもこれも、おそろしい無言むごんであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、その瞬間しゅんかん、大きなさかながおよいできたかと思うと、ぱっくり、兵隊さんをのみこんでしまいました。
瞬間しゅんかん、絶望的なものがしおのように押しよせてきたが、昔のままの教室に、昔どおりにつくえ椅子いすを窓べりにおき、外を見ているうちに、背骨せぼねはしゃんとしてきた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)