無益むやく)” の例文
転宅の事を老人に語るも無益むやくなり、到底その意に任せて左右せしむ可き事に非ずとて、夫婦喃々なんなんの間に決したることならんなれども
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
張箍はりわ女袴をんなばかま穿いた官女くわんぢよよ、とちよ、三葉形みつばがたぬひを置いて、鳥の羽根はねの飾をした上衣うはぎひきずる官女くわんぢよよ、大柄おほがら權高けんだかで、無益むやく美形びけい
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
とめても無益むやくと綾子は強いず、「しかしこのままお別れは残惜のこりおしい。お住居すまいは? せめてお名だけ。」と余儀無く問えば、打笑いて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浜育ちとはいいながら、無益むやく殺生せっしょうはせぬものじゃ。この蟹を海へ放してやれ。その代りにわしがよいものをやりましょうぞ。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その時までの記章かたみにはおれが秘蔵のこの匕首(これにはおれの精神たましいもこもるわ)匕首を残せば和女もこれで煩悩ぼんのうきずなをばのう……なみだは無益むやく
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
その翼を張りておそろしき荒海の上に飛び出でたるはかの猶太教徒の惠なりといひかけて、忽ち頭をり動かし、あな無益むやくなる詞にもあるかな
雙脇もろわきいたく痩せたるはミケーレ・スコットといひ、惑はし欺く無益むやくわざにまことに長けし者なりき 一一五—一一七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ことに、深い宿意があって打ち果したという敵じゃなし、女房の命まで取るのは無益むやくだと思ったから、斬りかかる懐剣の下を潜って、相手の利腕を捕えた。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
取次いでも無益むやくなれば我が計ふて得させんと、甘くあしらへば附上る言分、最早何も彼も聞いてやらぬ、帰れ帰れ、と小人の常態つねとて語気たちまち粗暴あらくなり
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
なさるべきではありません。御病中にも私は姫君がたにもお逢いにならぬがよろしいと申し上げていたのですから、こうなりましてから、互いに無益むやくな執着を
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
客來きやくらいにやあらんをりわろかりとかへせしが、さりとも此處こゝまでしものをこのままかへるも無益むやくしゝと、にはよりぐりてゑんあがれば、客間きやくまめきたるところはなごゑ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
われもかれさへ亡きものにせば、躯はさのみ要なければ、わが功名てがら横奪よこどりされて、残念なれども争ふて、きずつけられんも無益むやくしと思ひ、そのまま棄てて帰り来ぬ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
うえればかぎりもないが、したればまだ際限さいげんもないのです。何事なにごとみなふかふか因縁いんねん結果けっかとあきらめて、おたがい無益むやく愚痴ぐぢなどはこぼさぬことにいたしましょう。
「おゝ、萬事その方が申す通りに致して遣はさう。出來る出來ぬの詮議は無益むやくの沙汰ぢや。」
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「三ごうに悪を造らず、諸々もろもろ有情うじょういためず、正念しょうねんに空を観ずれば、無益むやくの苦しみは免るべし」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
無益むやくことばを用ゐんより、唯手柔ただてやはらかつまみ出すにかじと、直行は少しもさからはずして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さは云へ折角の御芳志ならば、今すこしばかり彼方かなたの筑前領まで御見送り賜はりてむや。さすれば御役目とどこり無く相済みて、無益むやく殺生せっしょうも御座なかる可く、御藩の恥辱とも相成るまじ。此儀如何や。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分は三沢の話をここまで聞いてぞっとした。何の必要があって、彼はおのれの肉体をそう残酷に取扱ったのだろう。己れは自業自得としても、「あの女」の弱い身体からだをなんでそう無益むやくに苦めたものだろう。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見つけばつさりやつて見れば一文なしの殼欠がらつけつ無益むやく殺生せつしやうに手下の衆を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
損じることも無益むやくと考えて今日まで黙っておりましたが……
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
へびの如きわが無益むやくなる肌身はだみ
神にる身は無益むやくならぬを。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
さては無益むやくその労が。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
無益むやくの、腕立て」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
無益むやくにも……
北原白秋氏の肖像 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
十兵衞も分らぬことに思へどもいなみもならねば、はや感応寺の門くゞるさへ無益むやくしくは考へつゝも、何御用ぞと行つて問へば、天地顛倒こりやどうぢや、夢か現か真実か
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「許しておけば無礼な雑言ぞうごん、重ねていはば手は見せまじ」「そはわれよりこそいふことなれ、爾曹如きと問答無益むやくし。怪我けがせぬうちにその鳥を、われに渡してく逃げずや」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
仮名書きの物を読むのは目に時間がかかり、念仏を怠ることになり、無益むやくであるとしたのです。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
「おゝ、万事その方が申す通りに致して遣はさう。出来る出来ぬの詮議は無益むやくの沙汰ぢや。」
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
上からは無益むやくに藤蔓を投げてみたが、彼はそれに取りすがることも出来ないのであった。
くろん坊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、なにもうしましてもおんな細腕ほそうでちからたのむ一ぞく郎党ろうとうかずもよくよくのこすくなになってしまったのをましては、再挙さいきょ計劃けいかく到底とうてい無益むやくであることが次第次第しだいしだいわかってまいりました。
彼はさすがに見捨てかねたる人の顔を始は可傷いたましとながめたりしに、その眼色まなざしやうやく鋭く、かつは疑ひかつは怪むらんやうに、忍びてはまもりつつ便無びんなげにたたずみけるに、いでや長居は無益むやくとばかり
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
殺せば兩人の口より密計みつけい露顯ろけんに及は必定ひつぢやうなりされば兩人ともいかし置難し無益むやく殺生せつしやうたれど是非ぜひに及ばず此兩人をも殺害せつがいすべしさてかの兩人を片付る手段といふは明日各々方に山見物させ其案内あんないに兩人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さすれば我はこのに用無し。長居は無益むやくと何気無く
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「悲哀」のきんの絲のを、ゆしあんずるぞ無益むやくなる。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「問答無益むやく
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
十兵衛も分らぬことに思えどもいなみもならねば、はや感応寺の門くぐるさえ無益むやくしくは考えつつも、何御用ぞと行って問えば、天地顛倒てんどうこりゃどうじゃ、夢かうつつか真実か
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
問答無益むやくとみて、弥次右衛門も身がまえした。それからふた言三言いい募った後、ふたつの刀が抜きあわされて、素姓の知れない若侍は血みどろになって弥次右衛門の眼のまえに倒れた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「この小倅に何が出来るもんか? 無益むやく殺生せっしょうをするものではない。」
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
妖物ばけもの屋敷に長居は無益むやくだ。直ぐ帰るから早く渡せ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「悲哀」のきんの糸のを、ゆしあんずるぞ無益むやくなる。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
上人様はきさまごとき職人らに耳はしたまわぬというに、取り次いでも無益むやくなれば我が計ろうて得させんと、甘くあしらえばつけ上る言い分、もはや何もかも聞いてやらぬ、帰れ帰れ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この一切の無益むやくなる世の煩累わづらひを振りすてゝ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「問答無益むやくだ。源三郎、河原へ来い」
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
弟夫婦は年少としわかきまま無益むやく奢侈おごりに財をついやし、幾時いくばくも経ざるに貧しくなりて、兄のもと合力ごうりょくひに来ければ、兄は是非なく銭十万を与へけるに、それをも少時しばしつかひ尽してまた合力を乞ひに来りぬ。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
この一切の無益むやくなる世の煩累わづらひを振りすてゝ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)