)” の例文
そして淡巴菰の火が消えているのに気がいたようにして、足許の燃えさしに吸いつけてむ。村の男はそのさまをじろじろと見る。
下宿人の靴へ、しかもその片方かたっぽうへ、おかみさんが水をいっぱいぎこんでおこうとは、どうしても考えられない。が、事実は事実だ。
みかん、お茶をいただく、たれが入れたのか、煎茶茶碗に、ひかえ目にがれて来た緑茶のうまかったこと。お茶では、旅中第一味。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
床屋は西洋剃刀かみそりを取上げて、せつせと革砥かはとに当て出したが、急に何か気がいたやうに、剃刀を持つた儘ぐたりと椅子に尻を落した。
ぎ込んで三十分ほど置くとパンへよく浸み込みますからやはりテンパンの湯へベシン皿を載せてテンピの中で二十五分間焼きます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
S夫人はテーブルの上のチェリー・ブランデーの瓶をとって、美しいカット・グラスにいで自分も呑み、私にもすすめながら云った。
蛇性の執念 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
口のけてある瓶は、いでしまふ度にせんをして、さかさに閾に寄せ掛けて置くのである。八は妙な事をするものだと思つて見てゐる。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
多分僕に茶をいでくれた客もあったろうし、甲板の上でいろいろと話しかけた人もあったろうが、何にも記憶に止まっていない。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
さくらは火鉢の横から酒徳利を取り、膳の上にある湯呑茶碗を持って、その酒をぐと、一と口すすってから功兵衛の顔を指さした。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
キャラコさんは、ふと気がついて、ルックザックから魔法瓶テルモスを取り出し、熱い紅茶を茶碗にいで、それを梓さんのほうへ押しやった。
「お前様達、もうそんな話をやめて下さい、姉さんがいやがるわいね、」とお夏が注意したので、皆始めて気がいた様に黙つた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
二月九日は東北ではヤサラと称して、八つの皿に濁酒にごりざけなどをいで神を祭る日であり、あるいはまたこの日を女の悪日あくびという処もある。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
幸子は瀬越ががれればいくらでも酒杯を傾けるらしい様子に、あの飲みっ振りではなかなか行けるに違いないとさっきから見ていた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
冬子がいで出す茶を一杯飲んで、忠一は鉄縁てつぶちの眼鏡を掛け直しながら、今や本論にろうとする時、の七兵衛がふすまから顔を出した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ミユンヘン麦酒ビイルの産地だけに大きな醸造ぢやうが幾つも有つての醸造ぢやうでも大きな樽からすぐ生麦酒なまビイルさかづきいで客に飲ませるのであるが
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「まだ其處そこつくるけえしちや大變たえへんだぞ、戸棚とだなへでもえてけ」勘次かんじ注意ちういした。卯平うへい藥罐やくわんいで三ばいきつした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
客から取る金と自分が學校や雜誌から取つてぎ込む金とがどう云う風に支出されてゐるのか、充分調べて見なければ置かないのである。
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
二合目で、今まで気がかなかった山中湖が、半分ほど見えて来た、室は無論人はいないが、それでも明けッ放しになっている。
雪中富士登山記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
母も、今夜は、余計なおしやべりはつゝしんでいるようにみえたが、しばらくたつて、彼が、茶碗をおくと、それへ茶をぎながら
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
夕日は障子の破れ目から、英文典の上に細い黄ろい光線ひかりを投げてゐる。下女はランプに油をいで、部屋々々へ持ち廻つてゐる。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
浜からはよく強い洋酒などをもらって来て、黄金色したその酒を小さいコップぎながら、日にすかして見てはうまそうになめていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そうしてその白湯さゆりにった茶碗にいで、上から白紙の蓋をして、その上に、黒い針みたような崑崙の緑茶を一抓ひとつまみほど載せます。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一寸ちょいとお若を見ますると変な様子でげすから、伊之助もなんとなく白けて見え、手持無沙汰でおりますので、お若さんもようよう気がいて
ボーシスが二つの鉢にそれをいで、客の前に出してしまうと、その壺の底には、ほんの少ししか牛乳が残っていませんでした。
「あれなら暗がりで手を貸して馬車に乗せてやりがいのある美人だね、ダーネー君!」と彼は、新たな杯に酒をぎ込みながら、言った。
お金がぎ込みにばかりなっていて、とてもこっちには送ってくだされないの、わたしの家はあなたも知ってのとおりでしょう。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼は其所にある塩煎餅しおせんべいを取ってやたらにぼりぼりんだ。そうしてその相間あいま々々には大きな湯呑ゆのみへ茶を何杯もえて飲んだ。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その土産らしい西洋菓子の函を開き、茶をいで、静子も其処に坐つた。母屋の方では、キヤツ/\と小妹いもうと共の騒ぐのが聞える。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
野幇間のだいこを稼業のようにしている巴屋ともえや七平は、血のような赤酒をがせて、少し光沢つやのよくなったひたいを、ピタピタと叩くのです。
赤いうすのような頭をした漁夫が、一升びんそのままで、酒を端のかけた茶碗ちゃわんいで、するめをムシャムシャやりながら飲んでいた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
すると顔つきまでがぐったりして、とろんとした眼つきになる。……ゆっくりと自分の杯にヴォトカをいで、こう言う。——
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ふと、彼の腰掛のすぐ後に、ふらふらの学生が近寄ってくる。自分の上衣うわぎのポケットからコップを取出し、それに酒をいでもらっている。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
ぐしゃりとひしゃげたように仕切にもたれて、乗出して舞台を見い見い、片手を背後うしろへ伸ばして、猪口を引傾ひっかたむけたまま受ける、ぐ、それ、こぼす。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「では澤山召上つてその證據を見せて下さらなくては。私がこの段をんでしまふ間に、あなたはその急須きふすにおぎになつて下さらない。」
さて其処に気がかないと誠に善い性格の人でも、その人が物に接する道を工夫した事も修業した事もないといふ事を示す。
些細なやうで重大な事 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
絹の飛白かすりのような服に紅いバンドを締めた夫人は、葡萄酒ぶどうしゅを一同にぎながら梶のそばまで来ると優しく梶に握手をして彼の横へ腰を降ろした。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
消防隊員は総出そうででもって、穴の中にしきりにセメントの溶かしたものをぎいれている。もちろんそれは蟹寺博士の指図さしずによるものであった。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「何だねえ、確乎しっかりして御行おいでよ」と私は叱るように言いまして、菎蒻こんにゃくを提げさせて外へ送出す時に、「まあ、ひどい雪だ——気をけて御行よ」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして珍らしい客でも来ると、南蛮渡来の髑髏盃じゃと、このように云うてあの義明は、その盃に酒をぎ、さも心地よげに飲み干すのじゃ……
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あんたは黙っていらっしゃい。——じゃ、最初にスープを持ってゆくわ」と、レーニはKに言い、スープを皿にいだ。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
老栓は忙しそうに大薬鑵おおやかんを提げて一さし、一さし、銘々のお茶をいで歩いた。彼の両方のまぶたは黒い輪に囲まれていた。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
そして、子供こどもが、どんなかなしいおもいにふけっているかということもらずに、徳利とくりると、さっそくそのさけさかずきいでみはじめました。
幸福のはさみ (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれはこわがつて慄ひ乍ら酒をいで出すと、異人は黙つて飲み乾し、また遊の方へ顔を向けて、あたりには構ひませなんだ。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
そこンところは知らないが、芸が身を助ける不仕合わせ、——といったところでしょうな。おい、おばさん、いでくれ
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
彼はそのぎ込みし薬の見る見る回るを認めしのみならず、叔母の心田しんでんもとすでに一種子の落ちたるありて、いまだ左右とこうの顧慮におおわれいるも
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
彼女はそう言って、彼らのコップにサイダーをいだりした。秋川の妹であったころに比べると、彼女はいかにも若妻らしいしとやかさを見せていた。
街頭の偽映鏡 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
すると陳さんはすっかり感激して、もっと飲みなさいもっと飲みなさいとコップに老酒をいで呉れ、以後友人としてつき会って欲しいなどと言う。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ホモイはそれをけとってかいの火を入れたはこぎました。そしてあかりをけしてみんな早くからねてしまいました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それはバタの油をこしらえてラサの釈迦牟尼如来しゃかむににょらいの前にならんである黄金の燈明台に、そのバタの油をいで上げるのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「金持の道具ではかなわぬが、貧乏人の台所なら高が知れておる。それに一通り酒をいで片っ端から呑み乾すのだ」
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)