晴衣はれぎ)” の例文
姫の姿はその間にまじり、次第に遠ざかりゆきて、おりおり人の肩のすきまに見ゆる、きょうの晴衣はれぎの水いろのみぞ名残りなりける。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すれば、當國このくに風習通ならはしどほりに、かほわざかくさいで、いっち晴衣はれぎせ、柩車ひつぎぐるませて、カピューレット代々だい/\ふる廟舍たまやおくられさッしゃらう。
ある日千代さんは、石和いさわという町に片づいている姉のもとから突然電報でよび寄せられた。千代さんは大急ぎで他所よそゆきの晴衣はれぎを着て出かけて行った。
だが、一歩大宮に入ると、のきごとに万燈まんどうをともし、幕をもって壁をかこい、花をけ、金屏風きんびょうぶをすえ、人はみな晴衣はれぎを着て、町中、大祭のような賑いであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もうそろそろお正月も近づいたし、あたしは是非とも晴衣はれぎが一枚ほしい、女の子はたまには綺麗きれいに着飾らなければ生きている甲斐かいが無い、この白絹を藤色ふじいろに染め
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
翌日の夕まだ「アヱ、マリア」の鐘鳴らぬほどに、人々我を伴ひて寺にゆき、母上に暇乞いとまごひせしめき。きのふ祭見にゆきし晴衣はれぎのまゝにて、狹き木棺のうちに臥し給へり。
村落むらもの段々だん/\器量きりやう相當さうたう晴衣はれぎ神社じんじやまへあつまつた。つのは猶且やつぱりをんなで、疎末そまつ手織木綿ておりもめんであつてもメリンスのおび前垂まへだれとが彼等かれらを十ぶんよそほうてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
三箇条といふのは、第一、お客のわるてんがうに腹を立てぬ事。第二、晴衣はれぎの汚れを気にしない事。
木之助はよそ行きの晴衣はれぎにやはり袴をはき、腰に握り飯の包みをぶらさげ、胡弓を持っていた。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
七通りの晴衣はれぎもそろえてやれないようなことじゃ、お粂だって肩身が狭かろうからね。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お花は心のさまさして悪しからず、ただ貧しき家に生れて、一年ひととせ村の祭礼の折とかや、兄弟多くして晴衣はれぎの用意なく、遊び友達の良き着物着るを見るにつけても、わがまとえる襤褸つづれうらめしく
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
兄は、その頃、すでに、共産党のシンパサイザァだったらしいのですから、ぼくや母の杞憂きゆうは、てんで茶化していたようでしたが、さすがに、一人の弟の晴衣はれぎとて心配してくれたとみえます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
影の隣りに糸織いとおりかとも思われる、女の晴衣はれぎ衣紋竹えもんだけにつるしてかけてある。細君のものにしては少し派出はで過ぎるが、これは多少景気のいい時、田舎いなかで買ってやったものだと今だに記憶している。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
卒業式に晴衣はれぎを着飾ってくる女生徒の群れの中にもかれの好きな少女が三四人あった。紫の矢絣やがすり衣服きもの海老茶えびちゃはかまをはいてくる子が中でも一番眼に残っている。その子はまちはずれの町から来た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
晴衣はれぎ亘長ゆきたけを気にしてのお勢のじれこみがお政の肝癪かんしゃくと成て、廻りの髪結の来ようの遅いのがお鍋の落度となり、究竟はては万古の茶瓶きゅうすが生れも付かぬ欠口いぐちになるやら、架棚たな擂鉢すりばち独手ひとりで駈出かけだすやら
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
晴と褻との対立は、衣服においては殊に顕著であったように考えられている。晴衣はれぎという語は標準語中にもなお存し、褻衣けぎという語も対馬つしま五島ごとう天草あまくさなど、九州の島々には方言として行われている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そばていたははも、『モー一なおって、晴衣はれぎせてたい……。』とって、してしまいました。んなはなしをしていると、わたくしにはいまでもその光景ありさまが、まざまざとうつってまいります……。
その日の午後、姉は晴衣はれぎを着て母とともに二台の車にのった。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
葱坊主夕づく遅し晴衣はれぎ着て戻れる子等はいまだにあり
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
枕元にたゝまぬ春の晴衣はれぎかな 格堂かくどう
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
姫の姿はその間にまじり、次第に遠ざかりゆきて、をりをり人の肩のすきまに見ゆる、けふの晴衣はれぎの水いろのみぞ名残なりける。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ヂュリ 乳母うばや、一しょに部屋へやて、明日あすねばならぬいっ似合にあ晴衣はれぎ手傳てつだうてえらんでくりゃ。
數月の間行李の中に鎖されゐたる我晴衣はれぎはとり出されぬ。帽には美しき薔薇の花を揷したり。身のまはりにて、最も怪しげなりしははきものなり。靴とはいへど羅馬のサンダラに近く覺えられき。
テーブルを前にして、それ相当の晴衣はれぎを着た子供達がずらりと並んでいる。
さらにはかにごつとつたかぜもりこずゑ散亂さんらんしてあざやかなひかりたもちながら空中くうちうひらめいた。數分時すうふんじのち世間せけんたちまちに暗澹あんたんたるひかりつゝまれて時雨しぐれがざあとた。村落むら何處どこにも晴衣はれぎ姿すがたなくつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
絵も香も髪も律呂しらべ宝玉はうぎよく晴衣はれぎも酒も
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
こんしてじゅなるはかならずしも良縁りゃうゑんならず、こんして夭折えうせつす、かへって良縁りゃうえん。さ、なみだかわかして、迷迭香まんねんくわう死骸なきがらはさましゃれ。そして習慣通ならはしどほり、いっ晴衣はれぎせて、教會けうくわいおくらっしゃれ。
さうして家族かぞくぼつしたにしても何時いつになくまだあかるいうちゆあみをしてをんなまでがいた菖蒲しやうぶかみいて、せはしいあひだをそれでも晴衣はれぎ姿すがたになる端午たんごるのをものうげにつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)