普通なみ)” の例文
障子も普通なみよりは幅が広く、見上げるような天井に、血の足痕あしあともさて着いてはおらぬが、雨垂あまだれつたわったら墨汁インキが降りそうな古びよう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
普通なみのものが其様な発狂者を見たつて、それほど深い同情は起らないね。起らないはずさ、別に是方こちらに心をいためることが無いのだもの。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
こういう有様であるから、とても普通なみの小供のように一通りの職業を習得するは思いも寄らず、糊口くちすぎをすることがせきやまでありました。
... 一斤ずつも使うと随分高いものになります。普通なみの処は何で拵えますか」お登和嬢「普通のペースは牛の生脂なまあぶら即ちケンネ脂で致します。 ...
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
木の枝に腰をかけたり、怪しいことばかりがあるのだからなあ……普通なみの人間の分け入るのを、いとっているのだよ、この森はな。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
可哀かわいそうに! 普通なみの者なら、何ぼ何でも其様そんなにされちゃ、手をおろせた訳合わけあいのもんじゃございません、——ね、今日こんにち人情としましても。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お庭は随分お広うござんすから、夜の景色は中々よろしゅうございましょう、しかし貴方、アノ窓は普通なみの窓よりほど低く出来ていますから
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「どうしても普通なみの人間では無い。不具かたわでは……白痴ばかでは無論ないけれども確に普通なみではない。あれで人間としての價値があるだらうか。」
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
人情の花もなくさず義理の幹も確然しつかり立てゝ、普通なみのものには出来ざるべき親切の相談を、一方ならぬ実意じつの有ればこそ源太の懸けて呉れしに
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その庭は、かく半世紀以上も手を入れられずに放棄されていたので、普通なみならぬ様になり一種の魅力を持つようになっていた。
来る事は来るが、みんな驚いて逃げ出しちまいまさあ。全く普通なみのものの出来るわざじゃありませんよ。悪い事は云わないから御帰んなさい。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なべから鍋へとったり来たりして、味をみ、意見を述べ、確信ある調子で料理の法を説明していた。普通なみの料理女はそれをかしこまって聞いていた。
戸の隙から、一寸ちょっと覗いて見ると、やはり眼をつぶって何事をか念じているように、太い、白い眉は、何処か、普通なみの僧でないという感じを抱かせた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
最前列には、口髭と房髪チューブをたくはへて、頤を剃りたてた、頸の太い貴族や普通なみの百姓たちが、ずらりと立ち並んでゐた。
普通なみの絵具は生徒が買合せの安物の水絵具で辛抱してゐたが、緑青と群青ぐんじやうとだけは、自分のうちから懐中ふところぢ込んで来てそれを生徒に売つてゐた。
大錦君は下戸で四五杯も猪口を受けると全く紅くなる、それで居て飯もタント食はぬ。牛肉も半斤とは食はずして茶漬を普通なみ茶碗に四杯軽く流し込んだ。
相撲の稽古 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
外國の美しい女優を見馴れた義男は、この平面な普通なみよりも顏立ちの惡るいみのるが舞臺に立つといふ事だけでも恐しい無謀だとしきや思はれなかつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
泥棒どろぼう監獄かんごくをやぶつてげました。つきひかりをたよりにして、やまやま山奥やまおくの、やつとふか谿間たにまにかくれました。普通なみ大抵たいてい骨折ほねをりではありませんでした。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
たった一軒の漁師のうちがある、しかし一軒が普通なみの漁師の五軒ぶりもあるうちでわれら一組が山賊風でどさどさはいっていくとかねて通知しらせしてあったことと見え
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あれはたまごなかにあまりながはいっておりましたせいで、からだつきが普通なみ出来上できあがらなかったのでございます。
恐らく生来うまれつきであらう、左の方が前世に死んだ時の儘で堅く眠つて居る。右だつて完全な目ではない。何だか普通なみの人とは黒玉の置き所が少々違つて居るやうだ。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
普通なみ汁粉しるこだちよいちよいと焼塩やきしほれるだけの事だ、それから団子だんご道明寺だうみやうじのおはぎなどがあるて。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
假初ながら十日ごしも見馴れては他處よその人ともおもはれぬに、歸るに家なしとかいひし一言のあやしさをおもへば、いづれ普通なみならぬ悲しき境界さかいをさまよふにこそ
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
有り難いことには普通なみものを作るので、手荒い仕事で終っているのである。この事情が仕事を救っている秘密である。特に高台こうだいの削りの如き昔風で、他に例を見ない。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あきないのことなどわからない普通なみの女であると思っているだけに、集まっている和泉屋の者一同にとっては、かなり迷惑なことでもあり、また業腹ごうはちにも感じられた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私は私があの方に見すてられて空虚うつろとなった心持ちをあの鼓のにあらわしたのだ。だから生き生きとした音を出させようとして作った普通なみの鼓とは音色が違う筈である。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
女に「何を飲むか」と僕が問ふと「茶を」と云つた。女は普通なみの女で無くて近頃この街の寄席よせ折折をりをり踊る踊子であつた。無邪気な若い女で僕等の問ふまゝ色色いろいろの事を話した。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
もっとも、それは、きん坊とあんぽんたんだけで、あとの人は普通なみに、器楽の方を主にして教えはしたが、二人の子供は歌の方が三日、きんの方は一日で自分から弾けてしまった。
それから白木へ行って、大島絣の普通なみのを一反買った。柄は河野が見立ててくれた。
未来の天才 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
見ると、脊は普通なみより高い、痩形で、黒羅紗のチヤンとした正服を着て居る。
昨夜ゆうべもお話した様なわけでネ、自分ながら思案に暮れましたの、どうせ泥水商売してるからにや、普通なみひとの様なこと思つたからとて、せんないことなんだから、いつそ松島と云ふひとの所へ行つて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それは実に見事なもので、大道を普通なみの人が歩くのと異らなかった。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
娘はもう意識がもうろうとしているらしく、片方の足をいま一方の足へのせていたが、その上げ方が普通なみよりもずっと高かった。あらゆる点から見て、往来にいることさえも意識していないらしい。
普通なみの人ならの鰻で気絶してからは来なくなるのが当然あたりまえだ。井上さんなんか乃公が眼をつっついて見てからは死んだか生きたかさえ分らなくなってしまった。然るに此教師は全くしょうこりもない奴である。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
丑松が根津村ねづむらの学校へ通ふやうになつてからは、もう普通なみ児童こどもで、誰もこの可憐な新入生を穢多の子と思ふものはなかつたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そこから東へ坂道を上れば、七面岩の上へ出ると、木場の人達が云っていたよ。普通なみの道に比べると、三分の一だということだよ
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
普通なみの小さきものとは違いて、夏の宵、夕月夜、ひともす時、黄昏たそがれには出来いできたらず。初夜すぎてのちともすればその翼もて人のおもておおうことあり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少しずつ入れてはばして行って普通なみの味噌汁より濃い位なドロドロにしてそれをまたお鍋へ入れてザット煮て出すのだよ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あけた窓、しめた窓、暖炉のすみ、肱掛椅子ひじかけいす普通なみの椅子、床几しょうぎ、腰掛け、羽蒲団はねぶとん、綿蒲団、藁蒲団わらぶとん、何にでもきまった金をかけておくことだ。
「外交官の試験に落第したって、ちっとも恥ずかしがらないんですよ。普通なみのものなら、もう少し奮発する訳ですがねえ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人情の花もくさず義理の幹もしっかり立てて、普通なみのものにはできざるべき親切の相談を、一方ならぬ実意じつのあればこそ源太のかけてくれしに
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なんでもない普通なみの嗅煙草を嗅ぎ始める様子を見ても、自然と頭が下るやうな人徳といふものが窺はれるのぢや。
普通なみの犬ころなどとちがって品のいものでなかなか賑やかで愛嬌あいきょうがある。そこで第一に一つ彫り初めました。
第一君にも氣の毒だ。僕の働きなんてものは、普通なみの男の以下なんだから。僕はたしかに君一人養ふ力もないんだから一時別になつてくれたまへ。その代り君を
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
容色きりょうも悪くはなし年だって私とおんなじなら未だいくらだって嫁にいかれるのに、ああやって一生懸命に奉公しているんだからね。全く普通なみものにゃ真似まねが出来ないよ。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
種々いろんな人に接触して居たし、随つて一寸普通なみの人には知れぬ種々な事が、目に見えたり、耳に入つたりする所から、「要するに釧路は慾の無い人と真面目な人の居ない所だ。」
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
これが普通なみの女であったらわア/\騒いで屹度きっと人を呼びましょう、それでも助ける人がなければ可愛や食物くいものはなし棺の中で飢死うえじにに死んで仕舞うだけ、実にどうも非道の致し方で
よって、貸した借りたとは申しても、普通なみの借銭とは、おのずからことわりをべつにしておる
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私もそれは同じ想だ。泣出しそうなかおをして、バタバタと駆出し、声の聞えない処まで来て、漸くホッとして、普通なみ歩調あしどりになる、そうしていつも心のうち反覆くりかえし反覆し此様こんな事を思う
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
背丈けが普通なみの女以上にスラリとしているので、チエ子の手を引いて行くのはいくらか自烈度じれったいらしかったが、それでも、二人とも新しいフェルトの草履ぞうり穿いて、イソイソとしていたので
人の顔 (新字新仮名) / 夢野久作(著)