たふ)” の例文
猫は額を射られて、後ろ足で衝立つゝたち上つて、二三度きりきり舞をしてゐたが、その儘ばたりとたふれて、辞世も何もまないで死んでしまつた。
それから両人は互に文通して、励まし合つてゐたが、いくばくも無くスタインホイザアが瑞西スイスのベルンで卒中そつちうたふれてしまつた。
〔譯〕此の學は吾人一生の負擔ふたんまさたふれて後にむべし。道固より窮り無し。堯舜の上、善盡くること無し。
有志之士、不堪杞憂きいうにたへずしば/\正論讜議たうぎすと雖、雲霧濛々もう/\がうも採用せられず。すなはち断然奸魁かんくわいたふして、朝廷の反省を促す。下情壅塞ようそくせるより起ると云ふは即是也すなはちこれなり
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
お勝手の水甕みづがめ——早支度をするので飯炊きの權三郎が前の晩からくみ込んで置いた水の中には、馬を三十匹もたふせるほどの恐ろしい毒が仕込んであつたのです。
此の山は九四大徳だいとこひらき給うて、土石草木どせきさうもく九五れいなきはあらずと聞く。さるに九六玉川のながれには毒あり。人飲む時はたふるが故に、大師のよませ給ふ歌とて
はらす其爲にやいばを振つてあだたふす實に見上げたる和女そなた心底しんてい年まだ二十歳はたちに足らざる少女の爲可きわざにはあらざりける男まさり擧動ふるまひこそ親はづかしき天晴あつぱれ女然れども人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
人目ひとめ附易つきやす天井裏てんじやうゝらかゝげたる熊手くまでによりて、一ねん若干そくばく福利ふくりまねべしとせばたふせ/\のかずあるのろひの今日こんにちおいて、そはあまりに公明こうめいしつしたるものにあらずや
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
されどもその一旦のいきどほりは、これを斥けしが為に消ゆるにもあらずして、その必ず得べかりし物を失へるに似たる怏々おうおうは、吾心を食尽はみつくし、つひに吾身をたふすにあらざれば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
頭が空虚になると同時にたふれると云ふ話だが、われ/\作家は、みんな「金脳の人」なのだ。
差押へられる話 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
また慾にかわいて因業いんごふ世渡よわたりをした老婆もあツたらう、それからまただ赤子に乳房をふくませたことの無い少婦をとめや胸に瞋恚しんいのほむらを燃やしながらたふれた醜婦もあツたであらう。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ころはらが一ばん危險きけんだといはれてごとくおしなはそれが原因もとたふれたのである。胎兒たいじは四つきぱいこもつたので兩性りやうせいあきらかに區別くべつされてた。ちひさいまたあひだには飯粒程めしつぶほど突起とつきがあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
或る物は手にてただちにぎりしなるべく、或る物にはつかくくり付けしならん。使用しようの目的は樹木じゆもくたたり、木材を扣き割り、木質ぼくしつけづり取り、じうたふし、てききづつくる等に在りしと思はる。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
彼はむしろどこまでも自分の道を求めて、追うて、やがてたふるゝべきである。そしてまた彼の子供もやがては彼の年代に達するであらう、さうして彼の死から沢山の真実を学び得るであらう——
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
つて之を争ひしが為めにワルレンスタインは悲苦の境界に沈淪ちんりんしたり。マクベスは間接に道徳に抵触したる所業をしたり。天神記の松王は我愛子を殺したり。娘節用の小三は義利の刀にたふれたり。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
彼は起き上り、そして自分を捕へに来た者を再び蹴らうと足を上げた時、「助けてやらう。おなさけだ!」と云ふ声が後ろにして、刀が背中から彼の胸を突き抜いた。彼は足を宙に上げたまゝたふれた。
また、高窻の鬱金香うこんかう。かげにたふるる白牛しろうし
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
おれはおもふ、たふされたふたりの同志どうし
自らまた力尽きてたふれる旱魃かんばつの河!
象徴の烏賊 (新字旧仮名) / 生田春月(著)
僕の知人は震災の為めに何人もこの界隈かいわいたふれてゐる。僕の妻の親戚などは男女九人の家族中、やつと命をまつたうしたのは二十はたち前後の息子むすこだけだつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
案じゐるよしたしかに知たる忠相ぬしひとりつく/″\思ふ樣お光は奇才きさい容貌ようばうとも人にすぐれしのみならず武士の眞意しんいを能くわきま白刄しらはふるつて仇をたふすに其父もまた清廉せいれんにて是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
オリイヴ・シユライナア女史の書いたものに、その製作のために段々痩せ衰へる画家があつた。の色はこの世のものとも思へぬ程朱に燃えてゐた。画家はやがて製作の前にたふれた。
二十二年の十月発行の廿にぢう七号を終刊しうかんとして、一方いつぱうにはみやこはなが有り、一方いつぱうには大和錦やまとにしきが有つて、いづれもすこぶ強敵きやうてき版元はんもと苦戦くせんのちたふれたのです、しかし、十一月にまた吉岡書籍店よしをかしよじやくてんもよふし
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
に赤きこまたふれむ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
サア・オルコツクは、徳川幕府とくがはばくふ末年まつねんに日本に駐剳ちうさつした、イギリスの特命全権公使である。その日本駐剳中には、井伊大老ゐいたいらう桜田門外さくらだもんぐわい刺客せきかくの手にたふれてゐる。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
取出しあたへければ犬は尾をふりよろこ喰居くひゐるを首筋くびすぢつかんでえいやつてなげつけ起しもたゝず用意の小刀こがたなを取出し急所きふしよをグサと刺通さしとほせば犬は敢なくたふれたり寶澤は謀計はかりごと成りと犬の血を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それ等の絵には義和団ぎわだん匪徒ひと英吉利イギリス兵などはたふれてゐても、日本兵は一人も斃れてゐなかつた。僕はもうその時にも矢張やはり日本兵も一人位ひとりくらゐは死んでゐるのに違ひないと思つたりした。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)