おどろ)” の例文
この要求に立って考えて見ると、世界史と各国の歴史との扱われかたが、従来の文化の中では何と機械的であったろうかとおどろかれる。
とにかくおどろいたのは金博士ばかりではない。全世界の全人間が愕いた。殊に最もひどい感動をうけたものは、各国参謀軍人であった。
しかし、その後、きょうまでの五日間にこのエスプリのたちまちわたくしの胎内にはびこり育ったことはわれながらおどろくべきほどだった。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
すると、何千羽とも知れない水禽みずとりが、いちどに翼をって飛び立った。面々の駒はおどろいて、幾頭かは沼水の深いところへ跳ねこんだ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかもこの小山ほどといふのは、誇張でない、ぎつしりと隙間すきまのないまでに積まれてゐるので、自分は来る度毎たびごとに驚きおどろいたものである。
三年 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
しかし、次の情景が私達を更におどろかした。不意の闖入者と花子とがひしと抱き締めて、ものも云わずに黒い地面にうずくまったからである。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
それはカドリイルの練習だったが、トニオ・クレエゲルの烈しくおどろいたことには、彼はインゲ・ホルムと同じ角陣カレエの中にいたのである。
今までのよりずっとその輪廓りんかくがはっきりしていて、そしてその苦痛の度も数層倍はげしいものであることを知って私はおどろいたのであった。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それどころか、すでにこれに備えるために新しい大砲ができているらしく、特殊の構造の弾丸が飛来ひらいしてかえって英軍をおどろかした。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
さても彼は、安政六年五月二十五日において、いよいよおおやけの筋より江戸檻致かんちの命を聞くに至れり。彼はこれを聴いて、ごうおどろく所なし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
春枝はるえ大分だいぶん愚痴ぐちます。をんなはあれだからいかんです。はゝゝゝゝ。けれどわたくしも、弦月丸げんげつまる沈沒ちんぼつみゝにしたときにはじつおどろきました。
森のふくろうとか幻想のにじとかいったハイカラなもので、私はその少女の作品から、「神秘的」なと云うおどろくべき上品な言葉を知った。
私の先生 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
それから二三十けんも行ったであろうか、道の両側が畠のようにひらけているところまで来て、またまたおどろかされてしまったのだ。
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
余り唐突に姿を現わしたので、冬子はおどろき、あれッ! と叫んで仙ちゃんに縋りついた。もう駄目です。譲治は前後を忘れて飛びかかった。
深夜の客 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「うむ。おれア実あ、さっきからそいつを見ておどろいているんだが、まるでおいらにそっくりじゃアねえか。なあお絃」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「さあ、どうかお入り下さい。」と叮寧ていねいに云うものですから、その通り一足中へはいりましたら、全くおどろいてしまいました。そこは玄関げんかんだったのです。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
おどろきと怖れとに、その刹那せつな、心臓の鼓動もとまったかとさえ思ったくらいだった。けれど私はじきに、私の心臓の鼓動が激しく打ち始めたのを感じた。
犬は腹を立てて追ふ。鶏はちよつと身を引く。腹を立てた犬は吠え立てたけれども鶏の一群は別におどろかなかつた。
「どうも取んだ事で、阿父おとつさんの様子はどんな? 今朝新聞を見るとおどろいて飛んで来たのです。容体ようだいはどうです」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
不審いぶかしみつゝともなひ出また小西屋は何ごとやらんとおどろくよりして長左衞門病氣と稱して出もせず其代人は管伴ばんたう忠兵衞丁稚でつち和吉をともに連れ奉行所へ出腰掛こしかけへ和吉を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
君の思ひがけない失神、T博士の診断、そしてF高原への転地……つめたい言ひ方かも知れないが、君は自分の生理におどろいたにすぎないのではないだらうか。
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
叫ぶように云って、狂おしくすがりつく娘の顔、正吉は息も止るかとおどろいた。なんという不思議な運命であろう、それはまぎれもない筑紫屋の娘お美津であった。
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は私を見つけておどろいたらしかったが、前からこういうときでも少しも表情に顕れない彼だった。すッと進んで来ていう。彼はある種の武術の習練者である。
あれと同じことさ。あっしは、一度盗ろうと考えたら、そいつを手に入れねえ中は、おちおち夜も眠れねえんで——。因果な根性で、自分でもおどろいていやすよ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
従容しょうようとして去る。庸の諸将あいかえりみておどろるも、天子の詔、朕をして叔父しゅくふを殺すの名を負わしむるなかれの語あるを以て、矢をはなつをあえてせず。このまた戦う。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
最後さいごわたくしが、最近さいきんたき竜神りゅうじんさんの本体ほんたいおがましていただいたはなしいたしますと、ははおどろきは頂点てうてんたっしました。
深夜火器をろうして閨中の人をおどろかせしバイロン、必らずしも狂人たりしにあらざる可し、蓋し女性は或意味に於てはなはだ偏狭頑迷なる者なり、しかして詩家も亦た
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
三人声を揃えて突喊とっかんすると、おどろいた一群は小石を蹴って跳び上りさま、これも上河内の方面に逃げ去った。
大井川奥山の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
阿園が問いに何心なくさようと答えつ、後にてハッとおどろきたれども舌に及ばざりき、女房はき立てり
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
彼はおどろいて話をめた。そして両がんを大きくみひらいた。手に持っているハンカチは次第に桃色から赤に変り、それをかざしていた手も同じ様に赤く染って行った。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
幸村、喜んで「御働きの程、目をおどろかしたり。敵はこれよりわれ等が受取ったり」と言って、軍を進めた。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ここで、マアセルをおどろかせないように、しずかに、ごく静かに、いささか話しを後へ戻す必要があるのだ。
めくらにして七十八歳のおきなは、手引てびきをもれざるなり。手引をも伴れざる七十八歳のめくらの翁は、親不知おやしらずの沖を越ゆべき船に乗りたるなり。衆人ひとびとはその無法なるにおどろけり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
周はおどろいてそのわけを問うた。成は剣を出して周に見せた。それにはなまなまと血がついていた。
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
昨日の私がほんとうの私か、今日の私がほんとうの私か?———嘆き、悲しみ、おどろきの涙に暮れつつも、自分で自分を省ると、何処どこからともなくそう云う声が聞えます。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
待てど二郎十蔵ともにで来たらず、口々に宮本宮本、十蔵早くでよと叫べども答えすらなし、人々は顔と顔と見合しておどろき怪しみ、わが手を握りし岡村の手は振るいぬ。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と、その跫音あしおとおどろいたとりどもは、宿木とまりぎの上で、きゃあきゃあ騒ぐ。にんじんは怒鳴どなる——
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
と思つて眼を轉じた時、自分はひやりと許り心をおどろかした。そして、呼吸いきをひそめた。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ジョンソン大尉インドバハール地方で猴群におどろかされてその馬騒ぎのがれし時、鉄砲を持ち出して短距離から一猴をてしに、即時予に飛び掛かるごとく樹の最下枝に走り降り
おどろかない、そこで、では面目ないから手前が切腹するという、やはりどうぞ御勝手にと愕かない、最後に、ではこの真与太郎殿を殺すといわれ、初めておきせは顔面蒼白してしまう。
「金をおとした」と答えると「いくら」とき、金額を話すと「オウ」とまゆしかめたり、肩をすぼめたり、おおげさにおどろいてみせ、一緒いっしょさがしに行く、といいはってきかないのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
内部の情景を一目見せられた私は、想わずあっとおどろきの叫びを立てましたが、にわかに体中がふるえ出し、奥歯のかちかち触れ合うのが止みません……何というむごたらしい出来ごとでしょう。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
女はおどろいた。なんと返事をして好いかも分らなくなつた。ただ男の顔を見つめた。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
それは、おどろきでもありません、嘆美でもありません。さればと云って、よく世間で云っております、あの、雷にどかーんと撃たれたような気持、——ああしたものでもありませんでした。
(新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
この時廊下に足音がせずに、障子しょうじがすうっといた。主客はひとしおどろた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
だが、今、その考え方に気づくと、邦夷は、水を浴びたようなおどろきを覚えた。目をみはった。すると、刻々近づきつつある郷里と自分の間に、悲しみと喜びが見境えもなく紛乱するのであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
由布院が見える頃になると、この斜面一帯に牛が放牧されている。自動車の行手ゆくてにも平然としていて、怪訝けげんそうにこちらを見ていることもある。そしてずっと近くになってやっとおどろいて逃げ出す。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
発作的に気がれて拳銃ピストル自殺をしたに相違ないと云うのだ、おどろいたろう
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
身に悪痛いたみを感ずるような寒気が沙原に降る。怖れとおどろきにいずれの方角を撰ぶという余裕がなかった。彼は闇の中に幾たびかつまずいた。そのたびに柔かな沙地にひざまずいた。最後に、急な崖から転倒した。
薔薇と巫女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
忠太郎 あッおかみさんは憶えがあるんだ(思わず膝を進め)顔に出たそのおどろきが——ところは江州阪田の郡、醒が井から南へ一里、磨針峠すりはりとうげの山の宿場で番場ばんばという処がござんす。そこのあッしは。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)