往々おうおう)” の例文
ことによると人間の弱点だけをつづり合せたように見える作物もできるのみならず往々おうおうその弱点がわざとらしく誇張されるかたむきさえあるが
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何事がなくても、こうした興味がある上に、そこには、往々おうおうにして、滑稽こっけいな、悲惨な、或は物凄い光景が、展開されています。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
机上の案というものは往々おうおうにしてどこかに手落ちのあるもので、この時犯人はヌキサシならぬ心理上の足跡を残してしまった。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
しかしそうばかりではなくこの世には、実に不思議なことが往々おうおうにしてあるものだから、今私がお前だちにもはなしてきかせよう
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
彼はただ対者の欠陥を察し、これに智慧の光を注ぐことをもって、畢生ひっせいの念願とする。それが真の仁者である。が、世には往々おうおう仁者の偽物がある。
直感のするどい人の常として、それがれて猜疑化することは往々おうおうにしてある。信長は表面の理由といきさつだけを以て事実とは聞かなかった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし日本の兵が直ちに支那の国境に臨むという事には往々おうおうにして誤解を生じ易い。誤解は嫉妬を生じ、嫉妬はやがて平和を攪乱する事ともなる。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
世人往々おうおうこの事実を知らずして、政治の思想要用なりといえば、たちまち政治家の有様を想像して、おのれ自から政壇にのぼりてまつりごとをとるの用意し
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
女の子供などは往々おうおうそのくき交互こうごに短くり、皮でつらなったまま珠数じゅずのようになし、もてあそんでいることがある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
甚だしきは、歴史上実在の人物の逸事いつじとして伝えられていることが、実は支那小説の翻案であったというような事も、往々おうおうに発見されるのでございます。
たとえば常人が往々おうおう口にしていた風流と野暮との差別なども、是が無かったらもう知りようが無いのであるが、それはあまりに皮肉だからいてかない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
細君の選択には往々おうおうにして媒介者ばいかいしゃの言に一任し、しかして結婚の式を挙げたのち、始めて両者の気象きしょうの合わぬことを発見し、離婚する場合がはなはだ多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
世間には往々おうおう伯を頑固なる守旧家の如くに思っている人もあるようなれども、我輩の伝聞し、または自ら伯に接して知るところに依れば、伯は識見極めて高く
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
往々おうおうにあったのだが、その頃に、其処そこあとから汽車で通過とおりすごすると、そんな山の中で、人家の無い所に、わいわいいって沢山の人々があつまっているのが、見えるのだ。
大叫喚 (新字新仮名) / 岩村透(著)
文化ぶんか以降北斎の円熟せる写生の筆力は往々おうおう期せずして日本画古来の伝統法式より超越せんとする所あり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
往々おうおう悲歌ひかしてひと流涕りゆうていす、君山くんざん剗却さんきやくして湘水しようすい平に桂樹けいじゆ砍却しやくきやくして月さらあきらかならんを、丈夫じようふ志有こころざしありて……
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
よく友人たち一口ひとくちに「君、それは鼠だろう」とけなしてしまう、成程なるほど鼠のるべきところなら鼠の所業しわざかと合点がてんもするが、鼠のるべからざるところでも、往々おうおうにして聞くのだ
頭上の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
それから急いで主人のいるほうへ走って行くのを見かけることが往々おうおうあるが、かかる場合にはこの骨はわらの下にかくされてあるため他の者に奪い去られるうれいはなく
動物の私有財産 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
武芸小伝に微塵流往々おうおう存するよし見えたれば、兎角が末流近世までも行なわれしがごとし。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
世間には往々おうおうこれを伝うるものありと見え、現に客冬かくとう刊行の或る雑誌にも掲載けいさいしたるよし
瘠我慢の説:01 序 (新字新仮名) / 石河幹明(著)
学術的な体裁をそなえた著書論文でも、往々おうおうにしてそうしたものがあるのである。その意味で語られた言葉を額面通りに受取ることは、政治の場合は幼稚でかつ危険なのである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
上世じょうせいの歴史を見るに、たいてい荒唐こうとう疑うべきもの多し。しかれども数千年ののちにありて、またこれを如何いかんともすべからざるなり。西洋太古の伝説もまた、往々おうおう疑うべきものあり。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
それはあだかも、彗星ほうきぼしが出るような具合に、往々おうおうにして、見える。が、彗星ほうきぼしなら、天文学者が既に何年目に見えると悟っているが、御連中ごれんちゅうになると、そうはゆかない。何日いつ何時なんどきか分らぬ。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくし時折ときおり種々いろいろなことを妄想もうぞうしますが、往々おうおう幻想まぼろしるのです、或人あるひとたり、またひとこえいたり、音楽おんがくきこえたり、またはやしや、海岸かいがん散歩さんぽしているようにおもわれるときもあります。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しかも、かくのごとき驚くべき暗合がつづいて起こるというのは、必ずしも疑うべきことではなく、こういう場合も往々おうおうにあり得るということを勘定のうちに入れておかなければならない。
かの子 女の方も女の権利とか位置とかをたてにして案外浅薄せんぱくな利己主義な、お芝居気しばいけを満足させるための気障きざなのも往々おうおうにして見受けます。むしろ一般の風潮ふうちょうが多くそうであると云いい位です。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
仕込むにも火の出るようなすさまじい稽古をつけ往々おうおう弟子に体刑たいけい
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
世界の歴史にも往々おうおう見ることだが、他の力を当てにして一日の偸安とうあんを計るということが一番おそるべしだ。これは支那の歴史にはいくつもその例がある。
自殺者は往々おうおう最も生きたい奴だと昔彼は考えたのだが、自分のような奴はことにその一人であったらしいと思った。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
近世ではそんな特権は無視され、擾乱じょうらんのあとでは公卿も斬られ天皇さえ流竄るざんの例を往々おうおうにしてみてきたが、よもや死を以て迎えるようなことはあるまい。
年齢としはその頃十九だったが、容貌きりょうもよし性質も至って温雅な娘でまたことの方にかけてはすこぶ天稟てんりん的なので、師匠の自分にも往々おうおう感心する様なことがあったくらいだ。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
専門以外の部門に無識にして無頓着むとんじゃくなるがため、自己研究の題目と他人教授の課業との権衡けんこうを見るの明なきがため、往々おうおうわが範囲以外に飛びえて、わが学問の有効を
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人身攻撃じんしんこうげきのごとき、あるいは卑怯ひきょうなる言葉におちいって、自己が弁護せんとする議題をもかえってそこなわれ、加うるにおのれの人品じんぴんまで下劣にすることは往々おうおうにして見ることである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
世の訴訟事件には往々おうおうこうした秘密がある。獄を断ずる者は深く考えなければならない。
春に山地に行くと、往々おうおうオキナグサという、ちょっと注意をく草に出逢であう。全体に白毛はくもうかぶっていて白く見え、他の草とはその外観が異っているので、おもしろくつ珍しく感ずる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
されば吾人は既に述べしが如く北斎がその円熟期における傑作品の往々おうおうにして日本らしからぬ思をなさしむるに反し、広重の作品に接すればただちに日本らしき純粋なる地方的感覚を与へらる。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
故に上士の常に心を関するところは、尊卑そんぴ階級のことに在り。この一事においては、往々おうおう事情に適せずして有害ゆうがい無益むえきなるものあり。たとえば藩政の改革とて、藩士一般に倹約けんやくを命ずることあり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
また一匹のモグラが左に向うて穴をうがち偶然多数の蚯蚓を掘り当てたに反し、他の一匹は右に向うて穴をうがったために不幸にもついに一匹の蚯蚓にも出あわぬというごとき場合も往々おうおうあろう。
動物の私有財産 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
健全なる精神をもち、健康なる体躯たいくを有する青年であって、それで成功が出来ないということがあるものか。世の中には往々おうおう泣き言を述べる青年達がある。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
甚だ飄逸ひょういつ自在、横行闊歩かっぽを極めるもので、あまりにも専門化しすぎるために、かなり難解な文学に好意を寄せられる向きにも、往々おうおう、誤解を招くものである。
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
大きいというのか、複雑と称すべきか、多角的といっていいのか、とにかく、彼があたりまえなこととして運んでゆくことも、往々おうおう、人には、意表外な感をもたれた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
往々おうおうこういう不思議の女に出逢った経験があるそうで、ある人は試みに銅盤をその胴体にかぶせて置いたところ、首はいつまでも戻ることが出来ないで、その女は遂に死んだという。
僕は決していかなる場合においても表裏の存在は止むを得ぬといって、これを奨励しょうれいせんとする意ではないが、攻撃的に表裏々々と非難ひなんする中には、往々おうおうにして非難にあたいせぬものがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
藩中に商業行わるれば上士もこれを傍観ぼうかんするに非ず、往々おうおうひそかに資本をおろす者ありといえども、如何いかんせん生来の教育、算筆さんひつうとくして理財の真情を知らざるが故に、下士に依頼いらいして商法を行うも
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
おのおのその名称と詠吟の法則とを異にすといへども、もしこれをある形式の短詩として看来みきたるや、全く同工異形にしてその差別往々おうおう弁じがたきものあり。これ既に柳亭種彦りゅうていたねひこが『用捨箱ようしゃばこ』にいふところ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
新湖しんこのこととて、だ生々しいところが、往々おうおうにして見える、船頭の指すがままに眺めると、その当時までは、村の西にあって、幾階段かを上ったという、村の鎮守の八幡のやしろも、今吾人ごじんの眼には
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
またこのオニユリは往々おうおうはたけに作ってあるが、なお諸処に野生やせいもある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
宗教家などにはそういう嘘をく人が往々おうおうある。これは空念仏からねんぶつといって我輩の取らざるところのものである。
始業式に臨みて (新字新仮名) / 大隈重信(著)
寸前の運命が分らないのと同様に、寸後の転換だってまたはかり知れないことは往々おうおうといっていい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
保守家で事なかれの小心者でも往々おうおうにして野心を起して投機とうきなどにひっかかるのは世の中に良くある例だが、こういうてあいが慾にからみ我を失うとあくどいことをする。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)