当座とうざ)” の例文
旧字:當座
私の顔が何か新しいものでも持って来たと見えて、来た当座とうざは、闇の中でぱっとものが光ったように、S君の心持ちも一時生々した。
帰途 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
「じゃ、弦之丞様、今夜はちょっとお暇をいただいて、うちの様子を見たり、また、当座とうざものを少し仕入れてまいりますから——」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おおきなくにと、それよりはすこしちいさなくにとがとなっていました。当座とうざ、その二つのくにあいだには、なにごともこらず平和へいわでありました。
野ばら (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼はその当座とうざどこへ行っても、当然そこにいるべき母のいない事を見せられると、必ず落莫らくばくたる空虚の感じに圧倒されるのが常であった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたくしどもとても、幽界ゆうかいはいったばかりの当座とうざは、なにやらすべてがたよりなく、また飽気あっけなくおもわれて仕方しかたがなかったもので……。
「それとも、やっぱりあれは、血のあとか。いや大きに、御苦労だった。こいつは、少ないが、当座とうざのお礼だ」
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さて、こうして、おねえさまたちは、めいめいに、はじめて海の上へ浮かんで出てみた当座とうざこそ、まのあたりみた、めずらしいもの、うつくしいものに心をうばわれました。
儂が越して来た当座とうざは、まだ田圃向うの雑木山に夜灯よるあかりをとぼして賭博をやったりして居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お新の部屋の行李こうりの中から、溜めた金の五両を取り出し、外に私の手許てもとにあった、当座とうざの雑用五両——それは主人から預った金でございますが、兎も角もそれを添えて十両にまと
されども渠等かれらいまだ風もすさまず、波もれざる当座とうざに慰められて、坐臥行住ざがぎょうじゅう思い思いに、雲をるもあり、水を眺むるもあり、とおくを望むもありて、その心には各々無限のうれいいだきつつ
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その当座とうざのジェンナーの心配はみなさんに察することができましょう。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
そこにきました当座とうざは、そとて、やまや、たに景色けしきをながめてめずらしくおもいましたが、じきに、おな景色けしききてしまいました。
町のお姫さま (新字新仮名) / 小川未明(著)
じつ私自身わたくしじしんも、はじめてこちらの世界せかいました当座とうざは、ただ一図いちず口惜くやしいやら、かなしいやらでむねが一ぱいで、自分じぶん場所ばしょがどんなところかというようなこと
近隣の水を当座とうざもらって使ったが、何れも似寄によった赤土水である。墓向うの家の水を貰いに往った女中が、井をのぞいたらごみだらけ虫だらけでございます、と顔をしかめて帰って来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その当座とうざは、彼らも気まりがわるいと見えて、おとなしく神妙にしていたが、時間がたつに従って、元にもどっていったん悪運に乗るモレロは、翌朝になると早くも次のもくろみに手をつけた。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのから、広場ひろばで、まえのようにフットボールがはじまりました。子供こどもたちは、その当座とうざをつけてまりを大事だいじにしました。
あるまりの一生 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたくし他所よそ情婦おんなをつくりましたのは、あれはホンの当座とうざ出来心できごころで、しんから可愛かわいいとおもっているのは、矢張やは永年ながねんって自家うち女房にょうぼうなのでございます……。
東京から引越ひっこし当座とうざの彼等がざまは、笑止しょうしなものであった。昨今の知り合いの石山さんをのぞく外知人しりびととてはもとよりなく、何が何処にあるやら、れを如何どうするものやら、何角なにかの様子は一切からず。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「だれでも、その当座とうざは、戦争せんそうわるいこと、おそろろしいことをにしみてかんじますが、それを、じきわすれてしまうのです。」
夢のような昼と晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしは、いえなくしてから、もう三ねんになります。わたし主人しゅじんたちは、わたしててどこへかうつってゆきました。わたしは、その当座とうざどんなにか、きましたか。
小ねこはなにを知ったか (新字新仮名) / 小川未明(著)
その当座とうざのこと、ははは、そうじをしに、わたしのへやへはいってこられると、おき時計どけいをごらんになって
時計と窓の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
きた当座とうざは、自転車じてんしゃるけいこを付近ふきんにいって、することにしました。また、電話でんわをかけることをならいました。まだ田舎いなかにいて、経験けいけんがなかったからです。
空晴れて (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれは、こんなはなしをして、当座とうざは、名人めいじんつくったさかずきが、にはいったことをよろこんでいました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのから時計とけいはりまえのごとく、うごきはじめました。よっちゃんは、当座とうざは、いままでのように、おちついて、昼寝ひるねも、おかあさんにかれながらするようになりました。
時計とよっちゃん (新字新仮名) / 小川未明(著)
ほかの子供こどもにも、母親ははおやや、あねなどが、なにぶんあがった当座とうざのことで、ついてきたけれど、たいていは、教室きょうしつそとにいたし、運動うんどうするときは、れつそとって、はなれてていたものです。
だれにも話さなかったこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
その当座とうざは、みんなが、問屋とんや主人しゅじんをわるくいわないものはなかったよ。
万の死 (新字新仮名) / 小川未明(著)
みんなは相談そうだんをして、ボンをていねいにおてら墓地ぼちほうむりました。そうして、ぼうさんにたのんでおきょうんでやりました。その当座とうざ正雄まさおはボンがいなくなったのでさびしくてなりませんでした。
おじいさんの家 (新字新仮名) / 小川未明(著)
父親ちちおやは二年前ねんまえに、うみりょうかけたきりかえってきませんでした。その当座とうざ、たいへんにうみれて、難船なんせんおおかったといいますから、きっと父親ちちおやも、そのなかはいっているのだろうとかなしみなげきました。
ろうそくと貝がら (新字新仮名) / 小川未明(著)
やはり、その当座とうざ、一つのうわさがたちました。
白い影 (新字新仮名) / 小川未明(著)