床下ゆかした)” の例文
そのふたりは、おまえのおかあさんの食物部屋の床下ゆかしたに住んでいるんだよ。あそこは、とても住みごこちのいいところなんだって!
「何という野郎だ、——サア八、これで風向きが変ったろう。金の茶釜は、この小屋になきゃ増屋だ、床下ゆかしたも天井も、みんな捜せ」
自分の法衣ころもをずたずたに引き裂いて庫裡くり床下ゆかしたへ投げ込んで、無断で寺を飛び出した。興津に父を頼って来たのはその時であった。
「わしは敵でもなければ味方でもない。そうもうすおまえがたこそ、深夜に床下ゆかしたからしのびこんできて、ひとの家へなにしにきた!」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうかこの包みを受け取って下さい。また昨日きのうまでに集めた金は、あなた方御夫婦も知らない内に、この茶室の床下ゆかしたへ隠して置きました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……それが、どぶはしり、床下ゆかしたけて、しば/\人目ひとめにつくやうにつたのは、去年きよねん七月しちぐわつ……番町學校ばんちやうがくかう一燒ひとやけにけた前後あとさきからである。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
高いと知りながらも低きにつくのは、自から多年の教育を受けながら、この教育の結果がもたらした財宝を床下ゆかしたうずむるようなものである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なぜって、いまのこの身の上では、牛小屋の床下ゆかしたあなよりもましなうちに住むことなど、とても望めないことですからね。
雲雀ひばりは鳴いて居たが、初めて田舎のあばら住居ずまいをする彼等は、大穴のあいた荒壁あらかべ、吹通しの床下ゆかした建具たてぐは不足し
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「それで、ほんものを床下ゆかしたにうずめ、にせもののほうを、床の間に飾っておくという、はかりごとだったね。」
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
肉体にくたい通例つうれい附近ふきん森蔭もりかげ神社やしろ床下ゆかしたなどにかくき、ただいたたましいのみを遠方えんぽうすものでござる。
そこで毎晩まいばん御所ごしょまも武士ぶしおおぜい、天子てんしさまのおやすみになる御殿ごてん床下ゆかしたずのばんをして、どうかしてこのあやしいごえ正体しょうたい見届みとどけようといたしました。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「もうこの建物は天井から床下ゆかしたまで調べましたが、異状がありませんでした。ただ残っているのは、あの三つのタンクですが、お言葉を信用してそのままにして置きます」
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
食事終りて牢内を歩むに、ふと厚き板の間のすきより、床下ゆかしたの見ゆるに心付き、試みにひとみらせば、アア其処そこに我が同志の赤毛布あかげっとまといつつ、同じく散歩するが見えたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
昨日きのう富家ふうかの門を守りて、くびに真鍮の輪をかけし身の、今日は喪家そうかとなりはてて、いぬるにとやなく食するに肉なく、は辻堂の床下ゆかしたに雨露をしのいで、無躾ぶしつけなる土豚もぐらに驚かされ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
翁は狼狽あわてて懐中ふところよりまっち取りだし、一摺ひとすりすれば一間のうちにわかにあかくなりつ、人らしきもの見えず、しばししてまた暗し。陰森いんしんの気床下ゆかしたより起こりて翁が懐に入りぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しもに、はやくもよわてた蟋蟀こおろぎであろう。床下ゆかしたにあえぐ細々ほそぼそかれた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
が、家宅捜索かたくそうさくをすると、時価じか概算がいさん億円おくえん相当そうとうする金塊きんかい白金はくきん、その地金ぢがね居室きょしつ床下ゆかしたから発見はっけんされたため、ついにつつみきれずして、刈谷音吉かりやおときち毒殺どくさつのてんまつを自供じきょうするにいたつた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
何処どこへ隠したか、何処へ置いて来たか、穴でも掘ってけてあるのではないか、床下ゆかしたにでも有りはしないか、何しろ彼奴あいつの手に証書を持たして置いては、千円ってもたもつ金ではない
根太板を剥がれた床下ゆかしたは、芥溜ごみためのように取り散らしてあった。そのなかに一つの大きい橙の実が転げているのを拾わせて、半七は手に取って眺めた。橙には龍という字があらわれていた。
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
比嘉春潮ひがしゅんちょう君の話によれば、かの島でモノにさらわれた人は、木の梢や水面また断崖絶壁のごとき、普通に人のあるかぬところを歩くことができ、また下水げすいの中や洞窟どうくつ床下ゆかした等をも平気で通過する。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
取調とりしらぶるに道庵方にて紛失ふんしつせし單物一枚出たる故女房は家主へあづけ甚兵衞は直に召捕めしとりなほ懷中くわいちう其外所々改めし所胴卷どうまきに金十二兩餘あり又同人宅の床下ゆかしたに金二十八兩是あり都合四十兩の金出しにより其金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
床下ゆかしたに月の光は射し入れり球根が見ゆ數あかる蟻
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
と、四つンばいになって、のこのこはいこんだのは、八神殿しんでん床下ゆかした藁蓙わらござを一枚かかえこんで、だんだんおくのほうへいざってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それに、家の者ぢや刃物を隱しやうはあるめえ。下水や床下ゆかしたへ投り込んだところで、直ぐ知れるに決つてゐる——」
まだ水の引き切らない床下ゆかしたのぴたぴたにれた貸家に畳建具たたみたてぐも何も入れずに、荷物だけ運んでありました。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そいつは、ぬしのおくさんが大すきだったんだ。それで、そのおくさんをよろこばせてやろうと思って、とてつもなくでかい卵をうんでよ、それを穀物倉こくもつぐら床下ゆかしたにかくしておいたんだ。
丁度ちやうど上口のぼりくちあたり美濃みの蓮大寺れんたいじ本堂ほんだう床下ゆかしたまで吹抜ふきぬけの風穴かざあながあるといふことを年経としたつてからきましたが、なか/\其処そこどころの沙汰さたではない、一生懸命しやうけんめい景色けしき奇跡きせきもあるものかい
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
頭上ずじょうの星も、霜夜も、座下の荒莚あらむしろも忘れて、彼等もしばし忘我の境に入った。やがてきり〻〻と舞台が廻る。床下ゆかしたで若者が五人がゝりで廻すのである。村芝居に廻り舞台は中々贅沢ぜいたくなものだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
床下ゆかしたに月の光は射し入れり球根が見ゆ数あかる蟻
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
右手めてに、名刀般若丸はんにゃまるを、ひだりの手では、地や蜘蛛くもをなでまわしながら、ソロリと、八神殿の床下ゆかしたをはいだしてきた者がある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先刻床下ゆかしたで破片だけ見付かつたやうな、梅干瓶が三つ、澁紙の蓋を並べて、儼然と並んでゐるではありませんか。
ちょうどこの上口のぼりぐちの辺に美濃みの蓮大寺れんだいじの本堂の床下ゆかしたまで吹抜ふきぬけの風穴かざあながあるということを年経としたってから聞きましたが、なかなかそこどころの沙汰さたではない、一生懸命いっしょうけんめい景色けしき奇跡きせきもあるものかい
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして、それを螺旋らせん締棒しめぼうの下に押込んで、をぐるぐると廻し始める。油は同時にしぼられて床下ゆかしたみぞにどろどろに流れ込む。豆は全くのかすだけになってしまう。すべてが約二三分の仕事である。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そっと体を横にねじって、床下ゆかしたから上をのぞくと、銀五郎の半身は、濡るるを忘れて、弦之丞の帰りを気づかいながら、また独りごとを洩らしている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天井てんじょうから床下ゆかしたから、押入も、戸棚も、土竈へっついの中も、羽目板の後ろも、絶対に見落さないはずですが、夜中までかかって、小刀一挺、いや、針一本見付からなかったのです。
「知れないうちは、五日でも七日でも、ここの床下ゆかしたひそもう。紋太夫が訪れている晩は今夜に限るまい」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「信吉、この縁の下に潜って、お猿をあの床下ゆかしたの格子から中へ入れてみてくれないか」
布を投げたような曲線が、釣殿つりどの床下ゆかしたをとおり抜け、せんかんたる小川の末は、東の対ノ屋の庭さきから、さらに木立こだちをぬい、竹林ちくりんの根を洗って、邸外へ落ちてゆく。
「音松が殺されて居るんだらう。押入か床下ゆかしたへ首を突つ込んで」
「御子は、あした、横山ノ牧へ、行くんでしょう。そしたら、途中の武蔵野で、殺されますよ。わたしは、叔父御さまたちが、密談しているのを、床下ゆかしたで聞いていた……」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
床下ゆかしたや天井裏や押入には」