寝床ねどこ)” の例文
旧字:寢床
会議が終ると、女体じょたいの山形警部は、食事をとってそのあと、ねむいねむいといって、寝床ねどこをとってもらって、その中にもぐりこんだ。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
木こりは、ばん寝床ねどこへはいってからも、あれやこれやと考えると、心配しんぱいで心配でねむることもできず、ねがえりばかりうっていました。
もう何度も、寝床ねどこのことで不幸な出来事が起こったので、にんじんは、毎晩、警戒をおこたらないようにしている。夏は、楽なもんだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
身繕みづくろいしてやゝしばし寝床ねどこ突立つったって居ると、忍び込んだと思った人の容子ようすは無くて、戸のそとにサラ/\サラ/\忍びやかな音がする。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
生徒は鬼魅きみが悪くなったので、寝床ねどこを飛びだして二階へあがり、洋燈ランプを明るくしてふるえていると、間もなく二人の生徒が帰って来た。
女の姿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かれは朝に目をさますと寝床ねどこの中で校歌を一つうたう、それからとこをでて手水ちょうずをつかい茶の間へゆくと父と母と妹が待っている。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ニールスははね毛の中にうずまっているので、返事をすることができません。でも、これは、あたたかくて、すてきな寝床ねどこです。
菊富士ホテルにいられた宇野浩二うのこうじ氏をたずねて、教えを乞うたことがありましたが、宇野氏は寝床ねどこの中から、キチンと小さく坐っている私に
文学的自叙伝 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
その結果、ひる間は一つのたくかこんで食事もし、本も読み、事務もとり、夜は卓を縁側えんがわに出して三人の寝床ねどこをのべるといったぐあいであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
(わたしは寝床ねどこに入る前には、必ず母にお休みを言い、祝福してもらうことにしていた)が、こうなってはもう仕方がない!
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そこはむろん土間で、南側と北側とには日本の床よりも少し高い寝床ねどこが設けられて、その上には古びたむしろが敷いてあった。
雪女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ようや寝床ねどこはなれたとおもえば、モーすぐこのようなきびしい修行しゅぎょうのお催促さいそくで、そのときわたくし随分ずいぶんつらいことだ、とおもいました。
我が胸板の上にせたが胸が氷のごとく冷えるのに反し顔は寝床ねどこのいきれのためにかっかっと火照ほてって歯痛がいよいよはげしくなるのにたまりかね
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おどろいたことには、こまかいことまで、とてもはっきりと、かんできたのです。わたしは、きゅうにはっとして、いた寝床ねどこの上に起きなおりました。
あくる日のばん、また一人のお客が、この宿にまりました。このお客も前夜のお客と同じように親切にもてなされて、いい気持ちで寝床ねどこにつきました。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
藤田老人は寝床ねどこから夜半よなかに起きて自殺したものらしく、警察医の死後の経過時間の鑑定と比較して考えても、別に怪しむべきところはありませんでした。
自殺か他殺か (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ちっぽけな、みにくい魔物まものの姿になって、寝床ねどこのはしにすわり、熱い湯をおれたちにひっかけるんです。どうか、きて、そいつらを追っぱらってください。
あるとき天皇は、お昼寝ひるねをなさろうとして、お寝床ねどこにおよこたわりになりながら、おそばにいらしった皇后に
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
やわらかいぞやわらかいぞ、お大名だいみょう寝床ねどこだって、こんなに上等じょうとうじゃああるまいなあ、などとまきをとかれた山羊やぎみたいに、ワザとごろごろころがってみた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
学士は昨夜、礫川こいしかわなるそのやしきで、たしか寝床ねどこに入ったことを知って、あとは恰も夢のよう。今をうつつとも覚えず。
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
掛布団かけぶとんはしねられた寝床ねどこ人形がゆかに落ちて俯向うつむきになっていた。鼻を床につけて正直にうつ向きになっていた。ただそれだけが彼女を一時間も悲しく泣かした。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「あの時は実際弱りました。唐紙からかみ開閉あけたてが局部にこたえて、そのたんびにぴくんぴくんと身体からだ全体が寝床ねどこの上で飛び上ったくらいなんですから。しかし今度こんだは大丈夫です」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そういう時、妻はわざわざ私の所へやって来て、『おそくなりますから、お先へ休ませていただきます』と言う、丁寧ていねいに三つ指をついてお辞儀をし、それから自分の寝床ねどこへ入る。
もうお日様がずっと高くなってからやっと目をましまして、仕方がないのでやっと寝床ねどこから起き出したのですが、不断からの心がけが悪いので食べ物が少しもないのです。
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
良吉りょうきちは、毎晩まいばん寝床ねどこなかはいると、まどからもれるほしひかりていろいろのことをかんがえていました。——すると、あるばんのこと、不思議ふしぎにもまどから、かれ手招てまねぐものがあります。
星の世界から (新字新仮名) / 小川未明(著)
からだをすっかりふいてやったおとうさんが、けががひどいから犬の医者をよんで来るといって出かけて行ったるすに、ぼくは妹たちに手伝ってもらって、わら寝床ねどこを作ってやった。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私が寝床ねどこのなかで雨音かと思っていたのは、それ等の落葉松の細かい葉にたまっていた雨滴が絶えず屋根の上に落ちる音だったのだ。私はさて、まぶしそうな眼つきで青空を見上げた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
父親は柳吉の姿を見るなり、寝床ねどこの中で、何しに来たと呶鳴どなりつけたそうである。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
寝床ねどこの中でいろいろ考えつづけていた大石先生は、茶の間にむかって呼びかけた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
身仕度が終ると家を出てよいの六時まで散歩し六時に外で中食ちゅうじきを済せ、夫から多くはゲルボアの珈琲館に入り昔友達と珈琲をのんだり歌牌かるたを仕たりして遅くも夜の十一時には帰て来て寝床ねどこに就きました
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
しまいに、彼は寝床ねどこを指して言った。
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
そこで、狩人かりゅうどは、へやのなかへはいりました。そして、寝床ねどこのまえまでいってみますと、そこにはオオカミがねているではありませんか。
それからお三根みねさんの部屋へはいりこんだ。めずらしい部屋なので、Qはよろこんで踊りまわっていると、お三根が寝床ねどこから起きあがった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おだやかに、寛大に、母親らしく、始末をしてやる。そればかりか、翌朝は、甘ったれた小僧のように、にんじんは、寝床ねどこを離れる前に食事をする。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
またかまどひるへび寝床ねどこもぐ水国すいごく卑湿ひしつの地に住まねばならぬとなったら如何であろう。中庸は平凡である。然し平凡には平凡の意味があり強味つよみがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そしてその夜は、しろ公の寝床ねどこを土間のすみへわらでつくってやって、自分はおじいさんといっしょにねました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
額堂がくどうは吹きさらしだし、拝殿はいでん廊下ろうかへねては神主かんぬしおこるだろうし、と、しきりに寝床ねどこ物色ぶっしょくしてきた蛾次郎がじろう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、手にいききかけて、かじかんだゆびあたためると、いきなり、寝床ねどこいたの上にあった自分の帽子ぼうしをつかんで、そっと手さぐりで、地下室ちかしつからぬけだした。
天皇は非常におなげきになって、どうしたらよいか、神のお告げをいただこうとおぼしめして、御身おんみきよめて、つつしんでお寝床ねどこの上にすわっておいでになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
わたしは、帰ろうとしてはたたずみ、帰ろうとしては佇みしていたが、やがて自分の部屋へ、自分の冷えはてた寝床ねどこへ帰った。わたしは、異常な興奮を感じていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
かれはがっかりして家へ帰った、かれは黙々もくもく先生の夜学を休んで早く寝床ねどこにはいった。翌朝起きて町へでた。もうかれの考えは全然いままでとかわってしまった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
東の六じょうに始め、千穂子たちは寝ていたのだけれども、朝晩の寝床ねどこのあげおろしに時間がとれるので、いつの間にか、千穂子達は万年床のままで置くにふさわしい
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そのため母親は、毎晩その子の寝床ねどこのそばにすわって、その子が『主の祈り』をとなえるのを聞いてやるのでした。そのあとで、その子はキスをしてもらうのです。
やがて二階に寝床ねどここしらえてくれた、天井てんじょうは低いが、うつばりは丸太で二抱ふたかかえもあろう、屋のむねからななめわたって座敷のはてひさしの処では天窓あたまつかえそうになっている、巌乗がんじょう屋造やづくり
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしはその瞬間しゅんかんから現在げんざいいたるまで、ただの一寝床ねどこうえたいとおもったおぼえはございませぬ。
ともしてその行燈あんどんを提げたまま屏風びょうぶの向うにいてある春琴の寝床ねどこの方へ行ったそしてぼんやりした行燈の灯影ほかげが屏風の金地に反射する覚束おぼつかない明りの中で部屋の様子を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
木村さんが寝床ねどこへ入って、うとうととしたかと思うと、何か工場の方から異様な物音がしてきたので、早速とび起きて、工場の扉をあけて見ると、中は真っ暗であったが
暗夜の格闘 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
君らにとっては、その誠意よりも、寝床ねどこの中のぬくもりのほうがはるかにたいせつだったのだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そうしてみると、ゆかの上にたおれているおばあさんは、きっと死んでいるのにちがいありません。おそらく、寝床ねどこにはいるひまもなく、急にたおれてしまったものでしょう。
朝日が強く差し込むへやなので、看護婦を相手に、寝床ねどこを影の方へ移す手伝もさせられた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)