和睦わぼく)” の例文
源氏の縁坐で斯様かやうの事も出来たのであるから、無暗むやみに将門をにくむべくも無い、一族の事であるからむし和睦わぼくしよう、といふのである。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「それで、その、わたしの考えではね、どうしてもこれは、その、共同一致、団結、和睦わぼくの、セイシンで、やらんと、いかんね。」
クねずみ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ベンヺ いや、これは和睦わぼくさせうためにしたことぢゃ。けんをさめい、でなくば、そのけんもっわしともに、こいつらを引分ひきわけておくりゃれ。
秀吉は、変を知ると、中国高松城の水攻めを、毛利家との和睦わぼくに中止して、疾風のごとく陣を返し、山崎の一戦に、光秀をほうむり去った。
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飛行機は、あのとおり無惨な姿になってしまったから、いくら暴れても、この島をのがれることは出来ないだろう。どうだ。和睦わぼくせぬか。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
世の中にきながら世の中との縁が切れてしまうのだ。木村との婚約で世の中は葉子に対して最後の和睦わぼくを示そうとしているのだ。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
和睦わぼくするときには、ただ握手するのにさえ夢中になりすぎて、今まで争っていたものをすっかり敵にせしめられてしまいがちだ。
弾正政高の病死したのを好機会に、室町殿の扱いがあって双方とも永年の意趣を水に流し、和睦わぼくのしるしとして婚儀が成立したのである。
死はいかなる敵をも和睦わぼくさせると言ふではないか。であるのに、死んだ後までもなほその死骸を葬るのを拒むとは、何たる情ない心であらう。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「いや、こっちへ来ないんだろう。僕の考えでは、むしろ喜んでいて、今に汽笛を鳴らして通ると思うな。和睦わぼくの汽笛を」
汽笛 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
そのうち合戦も止めになり双方和睦わぼくともなったる際には、吾ら必ずそなたを連れて、木曽へ参るでござろうほどに……
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その間もトウルゲネフは、相手の顔色をうかがひながら、少しでも其処に好意が見えれば、すぐに和睦わぼくする心算つもりだつた。
山鴫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この戦は十二月十七日に和睦わぼくとなり、いったん両軍は兵をおさめたけれども、あくる元和元年五月ふたたび開戦となった、すなわち夏の陣がこれである。
青竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
旅宿は狹けれど、猶おん身が憩はん程のへやはあるべし。をぢ君の性急なるはおん身も兼ねて知れるならずや。この和睦わぼくをばわれ誓ひて成し遂ぐべしといふ。
しかし二人はただちにまた和睦わぼくする。女道士仲間では、こう云う風に親しくするのを対食と名づけて、かたわらから揶揄やゆする。それにはせんともまじっているのである。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
きょうはその意地の悪い詞が出ないので、女は感謝しなくてはならないように思った。きょうの男の優しさには、和睦わぼくするような、恩恵を施すようなおもむきがあった。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
卯平うへいふたゝ煙管きせるくちにして沈默ちんもくした。みなみ亭主ていしゆ勘次かんじ卯平うへいせま戸口とぐちみちびいた。勘次かんじ平常いつもならば自分じぶんこゝろからけつして形式的けいしきてき和睦わぼく希望きばうしなかつたはずである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
で、その時始めて確かに各国連合軍が北京を陥れ、皇帝はいずれへか難を避け、やがて和睦わぼく調ととのうたその結果こういう詔勅しょうちょくを発せられたものであるということが分った。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「シナの時勢にかんがみておたがいに和睦わぼくしたのにきさまはなんだ」と鹿毛しかげがいった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
この戦争に、シナで人命を失うもの百万人、シナの港々は言うに及ばず、南京ナンキンの都まで英国に乗っ取られ、和睦わぼくを求めるためにシナより英国へ渡した償金は小判こばんにして五百万枚にも及んだ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「マア、やっと……江戸を出てから今まで、ほんとうに気が気ではございませんでした。でも、丹波と和睦わぼくをされたとのこと、これからは道場も平穏、こんなうれしいことはございません」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その後、家康が秀吉と和睦わぼくしたので、昌幸も地勢上、家康と和睦した。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
和睦わぼくが出来るくらいに考えていまして、大谷さんがはじめて私どもの店にあらわれた時にも、たしか、久留米絣くるめがすりの着流しに二重廻しを引っかけていた筈で、けれども、それは大谷さんだけでなく
ヴィヨンの妻 (新字新仮名) / 太宰治(著)
榮燿ええうくらすやに相見あひみさふらふ、さるにても下男げなん下女げぢよどもの主人しゆじんあしざまにまをし、蔭言かげごとまをさぬいへとてはさらになく、また親子おやこ夫婦ふうふ相親あひしたしみ、上下しやうか和睦わぼくして家内かない波風なみかぜなく、平和へいわ目出度めでたきところはまれさふらふ
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ソレで錨は薩摩の手に這入はいったが、二万五千ポンドの金を渡して和睦わぼくをしたその時に、英人が手軽に錨をかえして貰いたいと云うと、やすい事だといって何とも思わずに古鉄ふるがねでも渡す積りで返して仕舞しまった様子だが
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
成経 (和睦わぼく愛憐あいれんの表情をもって)
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
したが、こゝな浮氣者うはきもの、ま、わしと一しょにやれ、仔細しさいあって助力ぢょりきせう、……この縁組えんぐみもと兩家りゃうけ確執かくしつ和睦わぼくへまいものでもない。
愚おもえらく、営中の事は事大小となく、ことごとくこれにはからば、かならずよく行陣をして和睦わぼくし、優劣をして、所を得しめん。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「恨みがあると云うではなし、和睦わぼくしようとならば和睦もしよう。義兄弟の約を結ぶことは、互いに素姓を明かした上で、また改めて致すと致そう」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
関白の命をこうむって仙道の諸将との争を和睦わぼくさせようと存じたが、承れば今度和議が成就した由、今後また合戦沙汰になりませぬよう有り度い、と云って来た。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
村の人々、無情なる村の人々、死してもなほ和睦わぼくする事をあへてせぬ程のひやゝかなる村の人々の心! この冷かなる心に向つて、重右衛門の霊は何うして和睦せられよう。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
武田のほろびた天正十年ほど、徳川家の運命のはかり乱高下らんこうげした年はあるまい。明智光秀あけちみつひでが不意に起って信長を討ち取る。羽柴秀吉はしばひでよし毛利もうり家と和睦わぼくして弔合戦とむらいがっせんに取って返す。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
和睦わぼくもへちまもあるものか、きさまはおれの貴重な鼻をガンと打ったね」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
娘は籠の内なる丸の有らん限を我頭にげ付け、續いて籠を擲げ付けしに、われ驚きてをどり下るれば、車ははや彼方へ進み、和睦わぼくのしるしなるべし、娘のうしろざまに投じたる花束一つ我掌に留りぬ。
……そして、社長はこんども妻君とうまく和睦わぼくしたらしかった。
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
降伏は受け難いが、和睦わぼくを結ぶなれば悪しかるまじ、その代りに、自分は質子ちしとして、筒井家にとどまる——という存念と相見える
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「飾り玉を百個くれるなら敵の土人と和睦わぼくして、火事を消し止めてお目にかけるとこの酋長が云っているのです」
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
チッバ なんぢゃ、いてゐながら、和睦わぼくぢゃ! 和睦わぼくといふことば大嫌だいきらひぢゃ、地獄ぢごくほどに、モンタギューの奴等やつらほどに、うぬほどにぢゃ。卑怯者ひけふものめ、覺悟かくごせい!
戦乱の世というものは何時も其下と其上と和睦わぼくし難いような事情が起ると、第三者がひそかに其下に助力して其主権者を逐落おいおとし、そして其土地の主人となってしまうのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
相変わらず小さい争闘と小さい和睦わぼくとの刻々に交代する、にぎやかな生活を続けている。
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今日、それがしを向けて、あなたに和睦わぼくを乞わしめようとする曹操の本志は、和議にあらず、ただ民心の怨嗟えんさ転嫁てんかせんための奸計かんけいです。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勿論彼らは丹生川平と、戦いをするために来たのではなくて、和睦わぼくするために来たのであった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これ一切経いっさいきょうにもなき一体の風流仏、珠運が刻みたると同じ者の千差万別の化身けしんにして少しも相違なければ、拝みし者たれも彼も一代の守本尊まもりほんぞんとなし、信仰あつき時は子孫繁昌はんじょう家内和睦わぼく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たったいま調印交換をすましたばかりの和睦わぼくなどは、頭のうちから消し飛ばして、陣々の諸士も、囂々ごうごう私議紛説しぎふんせつを放ちあい
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どんな人物がやって来るか、相手の使者の人物次第で戦いとなるか和睦わぼくとなるか……」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
秀吉に致されてじき和睦わぼくして終ったり、又父の本能寺の変を鬼頭内蔵介から聞かされても嘘だろう位に聞いた程のナマヌル魂で、彼の無学文盲の佐々成政にさえ見限られたくらいの者ゆえ
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「先頃から両軍のあいだに、和睦わぼくの内談がすすめられ、愚衲ぐのうがその折衝せっしょうに当って、数次、羽柴方と会見しておりましたが」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……しかし俺はどうあっても一度は彼奴きゃつを取って押え、思い知らせてくれなければならない。和睦わぼくも同盟もその後の事だ。今度の企ては失敗ながら俺にとってはいい経験であった
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
石川数正は、和睦わぼく成立の祝使として、酒井忠次とともに、桑名へ行った。そして信雄に会い、また、縄生なおうの秀吉を訪れて
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここにおられるこのお方がきっと俺達二人の者を和睦わぼくさせてくださるに相違ない。——さっき俺達は喧嘩したねえ。そしてもう俺は逢わぬと云ってお前の所から飛び出して行った。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)