かな)” の例文
深く且つかたき基礎を有せり、進歩も若し此れにかなはざるものならば進歩にあらず、退守も若し此れにあはざるものならば退守にあらず。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
けれども、まだ初心のこととて、自分の腕にかないそうなものでなければ手が附きません。そこで思い附いて彫り出したのが鼠であった。
それは連絡をとっている松山藩の老職から思わしい知らせがなく、いつになったら望みがかなえられるか段だん不安になりだしたからだ。
日本婦道記:二十三年 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ああ嬉しや、私は本望がかなった。貴下に逢えばしんでもい。と握りたる手に力を籠めぬ。何やらん仔細あるべしと、泰助は深切に
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そなたはしきりに先刻さっきから現世げんせことおもして、悲嘆ひたんなみだにくれているが、何事なにごとがありてもふたた現世げんせもどることだけはかなわぬのじゃ。
今までのはたちまちにして起り、忽ちにして消えても、それは音律にかなった音調。今度のは市人が路傍でガヤガヤと騒ぎ出したのです。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
只管ひたすら彼女に智力と天才とを認むるばかりで女子の天性を覚醒することをあやまるが如き男子も等しく彼女にかなはざる者である。
婦人解放の悲劇 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
その望みがかなって、此程、僅かな日数ではあったが、其処に滞在して、一種の渇望を満たすことが出来たのは、此上ない幸福でありました。
「奈良」に遊びて (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
殊にお掛屋かけやの株を買って多年の心願の一端がかなってからは木剣、刺股さすまた袖搦そでがらみを玄関に飾って威儀堂々と構えて軒並のきなみの町家を下目しために見ていた。
丸井は火鉢の上に身をかがめつゝ「ぢや、先生、其の兼吉かねきちと云ふのは、恋のかなはぬ意趣晴らしツてわけでは無かつたんでげすナ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ここの人への心づかひのみならば、郵便もあめれど、それすらひとり出づること稀なる身には、かなひがたきをおもひやり玉へ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
と詠じし心にかなひしは實に此半四郎のこと成べし茲に其素性そのすじやうを尋るにもと讃州丸龜在高野村の百姓半左衞門と云者二人のせがれもてり兄を半作とよび弟を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一 道をおなじうし義相かなふを以てあんに集合せり、故に此理を益研究けんきうして、道義に於ては一身を不、必ずふみ行ふべき事。
遺教 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
枝のしなやかなる、葉のこは/\しからぬ、花のおもむきにかなひて憎からず。この花を位無しとは我もおもへ、あはれげ無しとは人も云はざらん。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
子遠もしく同志とはかり内外志をかなえ、この事をして少しく端緒あらしめば、吾の志とする所もまた荒せずというべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
単なるドグマに捕えられず、あくまで合理的に真理を求めんとする心掛こころがけ——それでなければ神慮しんりょにはかなわない。われ等は心から、そうした態度を歓迎する。
爾は自己にかなへる衣を択び自己の詩想を発揮すべき詩形を択べ、爾自己のを歌へ、古人の蘇言機たること勿れ。
詩人論 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
さて、右の如く人民の迷惑も大ならず、且神慮にもかなひさうな地が見たてられて後、第一に起るべき問題は、何を以て神案内の目標とするかと言ふことである。
髯籠の話 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
然れども思え、いたずらに哭してどうして、墓前の花にそそぎ尽したる我が千行せんこうなんだ、果して慈父が泉下の心にかなうべきか、いわゆる「父の菩提ぼだい」をとむらい得べきか。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それには渡左衛門尉わたるさえもんのじょうを、——袈裟けさがその愛をてらっていた夫を殺そうと云うくらい、そうしてそれをあの女に否応いやおうなく承諾させるくらい、目的にかなった事はない。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
されどわが姫を悦ぶ心はこれがためにすこしも減ぜず。このをさなき振舞はかへりてあやしく我心にかなひき。
何故かといふに彼女の精彩ある眼を見るものは、それをあの好色漢の趣味にのみかなふ媚を帯びたどんよりとした羚羊の眼に代へたらなどと思ふ筈もあるまいからである。
北村君は又芝公園へ移ったが、其処そこは紅葉館の裏手にあたる処で、土地が高く樹木が欝蒼とした具合が、北村君の性質によくかなったという事は、書いたものの中にも出ている。
北村透谷の短き一生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
秋宵只一人の為めに長く孤愁は時に甚だ堪ふべからず。つれづれのあまり旧稿を思ひ出でて再び見んことを願へどもかなはず。けだし転々たるわが流寓のうちに失はれたるなり。
ふたつながらに師のめがねにかなって、やがてその一人むすめを恋妻に、二代法外を名乗って弓削家へ養子にはいろうとしている伴大次郎と、おんなの誠心まことのすべてを捧げて
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もしそういう人があったなら、その人は一つ一つの出来事に、それにかなった尺度を持って行って当てるわけではないでしょうか。無意識にそれに協った尺度を当てるのですね。
そしてそれにかなった幾つかの規矩準繩きくじゅんじょうを作って只管ひたすらにそれを実行しようとしておる。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
天を敬うのもまた道徳の立場においてである。天を敬いさえすれば福を得る、というのではなく、道にかないさえすれば天によみされる、というのである。ここに思想史上の革新がある。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
吁々、かなはずば世を捨てんまで我を思ひくれし人の情の程こそ中々に有り難けれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
望みをかなえてくれねば重信の一子を殺害するとていい寄った浪人磯貝浪江は思いを遂げてのち正直の下僕正介を脅かして手引きをさせ、ついに落合の蛍狩の夜重信をも暗殺してしまった。
かなわぬのぞみを無理にとおそうとしているのでしょうか、開拓使が、もし、夷人のお雇い教師一人に一万ドルを支払うというのならば——ですよ、同じ日本人である身どもらに、一人ではない
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
正当なる結婚の下に夫婦となり、正当なる父母の間に子女を教育してこそ文明人の根本精神にかなうのですが、その位の事理は今更識者の注意を受けなくても只今の女子は十分に知っております。
女子の独立自営 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
基督が「十字架を取りて我に従はざる者は我にかなはざる者なり」
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
「どうです、まだ任せられませんか、もう理屈は尽きてるから、理屈は抜きにして、それでも親のおきてかなわない子だから捨てるというなら、この薊に拾わしてください。さあ土屋さん、何とかいうてください」
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
かのハドソンの河口に立つ自由の女神の精神にかな
大大阪のれいめい (新字新仮名) / 安西冬衛(著)
念力ねんりき無論むろん大切たいせつで、念力ねんりきなしには小雨こさめひとらせることもできぬが、しかしその念力ねんりきは、なにいても自然しぜん法則さだめかなうことが肝要かんようじゃ。
彼処あそこへ避難所をこさいて置いて、ざといえば直ぐ逃げ出す用意はしていた。アナーキストでも地震の威力にはかなわない、」
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
幼君えうくん其時そのとき「これにてよきか」とものたづねたまへり。「天晴あつぱれ此上このうへさふらふ」と只管ひたすらたゝへつ。幼君えうくんかさねて、「いかになんじこゝろかなへるか、」
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わが邦にてはふるきよしみある人をとて、御使おんつかいえらばるるやうなるためしなく、かかる任に当るには、別に履歴なうてはかなはぬことを、知ろしめさぬなるべし。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
源兵衛はほくほくもので、「その方ほどの婿を持って家中への面目、わしにできる事なれば何でもかなえてやるぞ」
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
何の御遠慮が御座いませう、ればかりは御自分の御気にかなうたのでなければ末始終すゑしじゆうの見込が立たぬので御座いますから、——奥様は何とおつしやらうとも
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
彼翁汝がおとなしきを見て、娘にも逢はせんをり、汝我がために娘に説かば、我戀何ぞかなはざることを憂へん。されど此手段を行はんには、決して時機を失ふべからず。
という句を得たまいて、ひそかに御懐ぎょかいかないたるようおぼしたまいたる時、文時もまた句を得て
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
当時の急務は外国との交際を講明しないではかなわないとの趣意に出たものであった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小松殿逝去せいきよと聞きては、それもかなはず、御名殘おんなごり今更いまさらしまれて、其日は一日ばう閉籠とぢこもりて、内府が平生など思ひ出で、𢌞向三昧ゑかうざんまいに餘念なく、夜に入りては讀經の聲いとしめやかなりし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
この時、幕府、夷書を下して言路を開く。余、同志と議し、いやしくも二、三の名侯心をかなえ力をあわせ、正義を発し俗説を排するもの有らば、則ち天下の論定まらんと。しばしばこれを政府にもうす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
此方こつちからして金まで付離縁りえんなしたる其なさけは結句けつく此身のあだとなり役人しうの詞にも所詮しよせん存命ぞんめいかなはぬと云れしなれば此覺悟かくごされど其方は此事の御とがめはよも有まい程に御所刑濟ば田畑でんばた居屋敷ゐやしき家作かさく家財かざいは其方へ下さるゝで有うゆゑ殘らず其を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なんなりともかなひたるを、あくまでしよくすべし」と強附しひつけ/\、御菓子おんくわし濃茶こいちや薄茶うすちや、などを籠中かごのなかところせまきまでたまはりつ。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かみ創造さう/″\御心みこゝろ人間にんげんたのしましめんとするにありてくるしましめんとするにあらず。無為むゐ天則てんそくなり、無精ぶしやう神慮しんりよかなへり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
わしはこちらでまだ三浦みうら殿様とのさまに一もおにかかりませぬが、今日きょうひいさまのお手引てびきで、早速さっそく日頃ひごろのぞみかなえさせていただわけにはまいりますまいか。