とげ)” の例文
グイミは杭実クイミ、すなわち換言すればとげの意である。すなわち刺枝ある樹になるのでグイミ、それが略されてグミとなったのである。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
中にも北米カリフォルニア州のバーバンクという人のごときは、種々の植物を人為的に改良して、とげのないシャボテンまでも造りだした。
民種改善学の実際価値 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
見ると、とげか何かを抜いたアトを消毒したものらしいが、ヨディムチンキをそんな風に使う女なら、差し詰め医師の家族か、看護婦だろう
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして、まっ白な鋭い歯のあいだから例のとげのある異様に長い舌が、一匹の無気味な生きもののようにうごめくのがながめられた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この覇王樹さぼてんも時と場合によれば、余のはくを動かして、見るや否や山を追い下げたであろう。とげに手を触れて見ると、いらいらと指をさす。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は高く手を延べてその枝を捉へた。そこには嬰児えいじの爪ほど色あざやかな石竹色の軟かいとげがあつて、軽く枝を捉へた彼の手を軽く刺した。
お常がために目の内のとげになっているお玉ではないか。それを抜いて安心させて遣ろうと云う意志が自分には無いではないか。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
ほんとに鰯のうろこつてなかつたが、不断女房かないとげのある言葉を食べつけてゐる者にとつては、魚のうろこなどは何でもなかつた。
この下りではボウダラの棘やイバラや木苺きいちごとげで大に苦しめられた。一時間ももがいてやっと水のある沢に出られたが道の行衛は不明である。
初旅の大菩薩連嶺 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
どの指へとげをたてたとか埒もないことをしやべりあつて、お互に意気投合すればなんといふこともなく あははははは と笑ふ。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
さうしてとげえた野茨のばらさへしろころもかざつてこゝろよいひた/\とあふてはたがひ首肯うなづきながらきないおもひ私語さゝやいてるのに
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
丁度黄昏どきのわびしさの影のようにとぼとぼとした気持ちで体をはこんで来た、しきりにせいとげとか悲哀の感興とでもいう思いがみちていた。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
孫四郎の調子にはもうやゝ、とげがあつた。その刺にさゝれて、隣りの四畳で針仕事をしてゐた細君はやぶれたふすまをあけた。
ゆき子は、その言葉に、千万のとげを感じたが、さからはないやうにして黙つてゐた。加野は時々激しくせきをしながら、癖のやうに、頭を振つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
まあ、おはやくいらつしやい、草履ざうりうござんすけれど、とげがさゝりますと不可いけません、それにじく/\湿れててお気味きみわるうございませうから
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ところへ又何人だれかやって来た。能く人の来る家だ。今度は十歳ばかりの女の子が手にとげを通して抜いて貰いに来たんだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
御身のこれまでの快楽には必要なとげが無かつた。己は其刺を御身におくるのだ。御身は己に感謝しても好からう。さらばよ。我指はもう拘攣して来た。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
アドルフ・マイはこのことについて、とげを含んだ穏やかな注意を一度ならず与えたことがあった。一字の誤植も雑誌の名誉を傷つけると言っていた。
おお、死よ、なんじのとげはいずこにありしや? おお、墓場よ、しからば、なんじの勝利はいずこにありしや?
をさくとは、めじりを、とげのようなものでいて、すみれて、いれずみをすることをいふ、ふる言葉ことばであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
木の葉は色くろずみて緑なるなく、枝は節だちくねりて直く滑かなるなく、毒をふくむとげありて實なし 四—六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
でもとげがあるのは本当に円満でない証拠だ、と信子は云った。円満なものにも自身を保護する権利はある、悪を近づけないためには刺が必要だ、と木下は云った。
二つの途 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
木登りの惡戲いたづらから脚に大きなとげなどが差さつても親達に見つかる迄はそれを隱して居るといふ方でしたが、私はひとの身體の疼痛いたみを想像するにも堪へませんでした。
憎悪とか反感とか言ったとげや毒が微塵みじんもないので、喧嘩けんかにもならずに、継母は仕方なしにうつむき、書生たちは書生たちで、相かわらずやっとる! ぐらいの気持で
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
とげを逆立てた恐るべき生きたやぶが、身を震わし、動き回り、のたうち回って、暗黒を求め、恐ろしい姿をし、目を怒らしているのを、眼前に見るかとも思われる。
店の前までくると、入口の擦硝子すりがらすの大戸の前には、冬の午後の、かじかんだ日ざしをうけて、一つ一つの葉の先に、とげのあるらんの小さい鉢が二つおいてありました。
(新字旧仮名) / 新美南吉(著)
柄にもねえ切口上で、意地の惡い御殿女中のやうに、うはべは美しく云ひまはしながら、腹にはとげを持つてゐるのが面白くねえ。第一、お禮に來たとはなんの事だ。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
それは小さいとげのやうにいつまでも彼等夫婦の間に波瀾を起すたねになつてしまつた。彼は彼女と喧嘩をしたのち、何度もひとりこんなことを考へなければならなかつた。
貝殻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
時のたつのは何と早いものだろう! オーレンカの家はすすぼけて、屋根はび、納屋はかしぎ、庭には丈の高い雑草やとげのある蕁麻いらくさがいっぱいにはびこってしまった。
可愛い女 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ぼけは、緋なるも白きも皆好し、とげはあれど木ぶりも好ましからずや。これを籬にしたるは奢りがましけれど、処子が家にもさばかりの奢りはありてこそ宜かるべけれ。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
とげのあるこれらの手榴弾しゅりゅうだん雨霰あめあられと彦太郎の背後に落下したけれども、そのけたたましい音を耳にしながらも、彦太郎はそれが自分を襲う敵弾だと考え及ぶには、幸にも
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
彼等はみんな大変な元気だったが、ただ一人小さなダンデライアンは、可哀そうに、栗のいがの上に坐っていたので、そのとげが針山にささったように彼にささっていた。
一説に爾時そのとき女神急ぎ走りてとげで足をいため元白かった薔薇花を血で汚して紅色にしたと、しかればスペンサーも「薔薇の花その古は白かりき、神の血に染み紅く咲くてふ」
恐らくは人の我を見、われに聞くところに過ぎて我を思うことあらん。我は我が蒙りたる黙示の鴻大こうだいなるによりて高ぶることの莫からんために肉体に一つのとげを与えらる。
パウロの混乱 (新字新仮名) / 太宰治(著)
とげがいっぱいにつきたっているように見えるくらい、りむかれてざらざらになっていました、——が私はまた、そのなかには少しもいたんでいないものもあったことを
そこには、するど無数むすうとげがあって、そとからのてきまもってくれるであろうし、そのやわらかな若葉わかばたまご孵化ふかして幼虫ようちゅうとなったときの食物しょくもつとなるであろうとかんがえたからでした。
冬のちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
朝倉先生が答えた時には、次郎はもう椅子いすをはなれて棒立ちになっていた。田沼先生の言った「小細工」という言葉が、するどとげのようにかれの胸をつきさしていたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
イエスの復活によって罪と死とは人を刺すとげを抜かれ、人を滅ぼす力を奪われた。しかもその罪とはイエス御自身のものではなく——彼には罪あることなし——我らの罪です。
お互いに年寄りはちょっと指さきにとげが立っても、一週間や二週間はかかるが、旦那なんざお年が若いものだから——とにかく結構おめでたい事でした。御隠居も御安心ですね
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
とげがささったんじゃあるまいし……兄さんあなた早く行って水を持っていらっしゃい」
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そこに指で押しながら考えをまとめるに都合よくさいわい山査子には小さいとげがあった。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もはやそのとげに満ちた死屍が、麻酔に入らうとする私にとつての、優しい魅力であつた。
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
つたからむ、いばらとげは袖を引く、草の実は外套からズボンから、地の見えぬまで粘りつく。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
その瞬間に握ったのでもあろう、起き上った時に右の手に、野茨のいばらの花を握っていた。枝も一緒に握ったものと見えて、その枝のとげに刺されたらしく、指から生血がにじみ出ていた。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すすきのえた穂と唐糸草からいとそうの実つきと、残りの赤い色を細かにつけた水引草みずひきぐさと、それにとげなしひいらぎの白い花を極めてあっさりと低くあしらったものである。至極の出来である。
ところが、彼女はあのけがれのない老嬢たちの保護のもとに、はずかしげにほころびて、みずみずしく美しい婦人になろうとして、あたかもとげに守られて色づく薔薇ばらつぼみのようだった。
この夜は七年のとげ多き浮世の旅路を忘却し、安らかなる眠りに入りて楽しかりけり。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
と不破の関守氏の言うこと、いささかとげがあったので、三公が仰山らしくあわてて
暗灰褐色の樹皮が鱗状うろこじょうき出しかけている春楡の幹、水楢みずならかつらの灰色の肌、鵜松明樺さいはだかんば、一面にとげのある※木たらのき栓木せんのき白樺しらかばの雪白の肌、馬車は原生闊葉樹の間を午後の陽に輝きながら
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
そして、すべてわれわれに快い感覚を与える光音香味の元子は丸くなめらかであり、不快に感ぜらるるものの元子はかどがあり粗鬆そしょうであると考える。暑さと寒さの元子はいずれもとげがある。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)