俳諧はいかい)” の例文
「突き当りが、俳諧はいかいの宗匠で其月堂鶯谷きげつどうおうこくの裏口、俳諧はからっ下手だそうですが、金があるのと、つんぼなのでその仲間では有名ですよ」
次いで寧親も八年四月に退隠して、詩歌俳諧はいかい銷遣しょうけんの具とし、歌会には成島司直なるしましちょくなどを召し、詩会には允成を召すことになっていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼は豪放磊落らいらくなれど、酒を好み、老年に及ぶまで遊里にでいりし、俗曲、俳諧はいかいに長じ、日常のようすには不拘束なことが少なくなかった
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
当時いちばん若かったKちゃんが後年ひとかどの俳人になって、それが現に銀座裏河岸うらがしに異彩ある俳諧はいかいおでん屋を開いているのである。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
後年芭蕉ばしょうあらた俳諧はいかいを興せしもさびは「庵を並べん」などより悟入ごにゅうし季の結び方は「冬の山里」などより悟入したるに非ざるかと被思おもわれ候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
そもそも世間は、あまりに日本人的なる、あまりに俳諧はいかい的なる「詩人」の観念から、いつまでたったら僕等を解放してくれるのか。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
此福一はとしわかけれど俳諧はいかいもざれ哥をもよむものなれば、あるじ、こはおもしろしとて兎角とかくがかきたるをよませてきけば、そのうたに
でも、香蔵さん、吾家うち阿爺おやじ俳諧はいかいを楽しむのと、わたしが和歌を詠んで見たいと思うのとでは、だいぶその心持ちに相違があるんです。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
俳諧はいかい史のお話をするとしまして、あなた方は俳諧略史を御存じになるだけでたくさんと心得ますからもっともおおまかなお話をいたします。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
青年時代の俳諧はいかい三昧ざんまい、それをもしこの年まで続けて居たとすれば、今日の淡々如きにかうまで威張いばらして置くものではない。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
つまみよせたような眼の、キンカン頭の藤木さんは、俳諧はいかいでもやりそうな渋仕立しぶじたての道行き姿になって、宗匠頭巾ずきんのような帽子を頭にのせている。
祖父のものは、俳諧はいかい連歌れんがか何かを記入したものであつたが、父のものには、『品々万書留帳しなじなよろづかきとめちやう』といふ、明治七甲戌きのえいぬ年二月吉日にこしらへたものである。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
俳諧はいかいでは花火を秋の季に組み入れているが、どうもこれは夏のものらしい。少なくとも東京では夏の宵の景物けいぶつである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なかには主人あるじ宗匠そうしょう万年青おもとの鉢を並べた縁先えんさきへ小机を据えしきり天地人てんちじんの順序をつける俳諧はいかいせんに急がしい処であった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おそらく世界に類例が無いと思う俳諧はいかいなるものの社会的地位、是と我々通常人との交渉が、特にどういう側面において意義が深いかを考えてみたい。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
早晩、俳諧はいかい歳時記など書き改めねばならなくなりそうだ。とはいっても、やはりしゅんのものに越したことはない。
胡瓜 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
俳諧はいかいは大阪にいた頃点取てんとりということを人から勧められたけれど、宗匠の人物に不服だったのと、無学の人にもかなわなかったりするのでめたのだそうです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「先様では、よう知っておいでられる。其許そこもとには二、三度ほど、当岡崎で俳諧はいかいの席へ顔を出されたであろうが」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし彼の自然を見る目に多少の鋭さを加えたのはやはり何冊かの愛読書、——就中なかんずく元禄の俳諧はいかいだった。
俳諧はいかいには、ふゆになつてたはずだが、みゝづくは、はるすゑから、眞夏まなつあきく。……ともすると梅雨つゆうちの今頃いまごろが、あの、忍術にんじゆつつかひ得意とくいときであらうもれぬ。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さうして、彼の逃げて仕舞つた妾の代りに、二人の十と七つとの孫娘を、自分の左右に眠らせたとこのなかで、この花つくりの翁は眠り難かつた。彼は月並の俳諧はいかいふけり出した。
然程さるほどに新吉原松葉屋にては彼のお高をかゝへ樣子をみるに書は廣澤くわうたくまなこと生田流いくたりう揷花いけばなは遠州流茶事より歌俳諧はいかいに至るまで是を知らずと云ふ事なくこと容貌ようばう美麗うるはしく眼に千金の色を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彫刻、彩色、縫箔ぬいはく、挿花、盆栽、庭作り、建築等、みな美術なり。詩文、和歌、謡曲、義太夫ぎだゆう、発句、俳諧はいかいも美術なり。わが国にありては、茶の湯、習字に至るまで美術に属す。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
連作とは連歌れんが俳諧はいかいごときものであろう。第一の発句ほっくは余り限定的でない方がよろしい。わきはこれをいかようにも受けとるであろう。第三はまたそれを別の方向に転化するであろう。
「悪霊物語」自作解説 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それより近衛このえ公をして、宗鑑が姿を見れば餓鬼つばた、の佳謔かぎゃくを発せしめ、しがたって宗鑑に、飲まんとすれど夏の沢水、の妙句を附けさせ、俳諧はいかい連歌れんがの歴史の巻首を飾らせるに及んだ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
蹴鞠けまり・茶道・あるいは連歌れんが俳諧はいかい・碁・将棋しょうぎ等の遊び業これあるところ、今にては御旗本に似合わざる三味線さみせん浄瑠璃じょうるりをかたりこうじては川原ものの真似を致すやからも間々これある由
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この人は我楽多文庫がらくたぶんこだいころすでに入社してたのであるが、文庫ぶんこには書いた物を出さなかつた、俳諧はいかい社中しやちう先輩せんぱいであつたから、たはむれ宗匠そうせうんでた、神田かんだ五十稲荷ごとふいなりうらんで
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ほのかにうけたまわれば世間には猫の恋とか称する俳諧はいかい趣味の現象があって、春さきは町内の同族共の夢安からぬまで浮かれるく夜もあるとか云うが、吾輩はまだかかる心的変化に遭逢そうほうした事はない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
俳諧はいかいだか何だかお得意なんだそうで、あたしは、はじめっから気がすすまなかったのに、娘が惚れ込んでしまっているものだから、仕方なく一緒にさせたら、銭湯へ行ってそのまま家へ帰らないとは
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
まず俳諧はいかいの宗匠と踏みたいのである。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
夕映えの空にくっきりと浮いた富士を眺めながら、歌にも俳諧はいかいにも縁の遠い思案をしていると、往来の人はジロジロ顔を見て通ります。
概念の代わりに「印象」を、説明の代わりに「詩」を、そうして、三面記事の代わりに「俳諧はいかい」を提出したであろうと想像される。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
俳諧はいかい、謠曲、淨瑠璃じやうるりに至るまで、(淨瑠璃のある部分を除く外は)おほむね理想詩(叙情派)に屬すといひて、世相派の詩少きをなげきつ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
そこへ多吉をたずねて門口からはいって来た客がある。多吉には川越かわごえ時代からのふるいなじみにあたる青物問屋の大将だ。多吉が俳諧はいかい友だちだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それからまた二、三年たって他のある友人のうちで其角きかくという俳諧はいかい師の名前を聞かされたことがありました。その人から
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
主人の徳兵衛は肥えていて躯が大きく、いつでも酒臭い息をして、店へは殆んど出ず骨董いじりや俳諧はいかいに凝っていた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なかには主人あるじ宗匠そうしやう万年青おもとはちならべた縁先えんさき小机こづくゑしきり天地人てんちじんの順序をつける俳諧はいかいせんいそがしいところであつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そこに俳諧はいかいの余技があり、気質本二篇を書いては居るが、これは古今を通じて多くの遊蕩児中には、ままある文学へきの遺物としてのこつたに過ぎない。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
俳諧はいかい季寄きよせ雪車そりを冬とするはあやまれり。さればとて雪中の物なれば春のには似気にげなし。古哥にも多くは冬によめり、じつにはたがふとも冬として可なり。
女と俳諧はいかい、この二つは何の関係も無いもののように、今までは考えられておりました。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「いいや、つかぬことを伺うが、床の御風雅、御主人は、俳諧はいかいでもおやりかの」
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
既に忘れられて名も知れなくなってしまった当時の卑俗俳諧はいかいの宗匠たちが、俳人番附ばんづけの第一席に名を大書し、天下に高名をうたわれている時、わずかその末席に細字で書かれ、漸く二流以下の俳人として
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
「突き當りが、俳諧はいかいの宗匠で其月堂鶯谷きげつだうあうこくの裏口、俳諧はからつ下手だ相ですが、金があるのと、つんぼなのでその仲間では有名ですよ」
それでそういう事に特に興味のある人たちにはその点がおもしろいのかもしれないが主として詩と俳諧はいかいとを求めるような観客にとっては
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
発病後は父も日ごろ好きな酒をぱったりやめ、煙草たばこもへらし、わずかに俳諧はいかいや将棋の本なぞをあけて朝夕の心やりとしている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
俳諧はいかいの師二世かつらもと琴糸女きんしじょの授くる所の号である。山内水木みきが一月二十六日に歿した。年四十九であった。福沢諭吉が二月三日に六十八歳で歿した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
日本橋本町二丁目の唐物からもの商で、長者番付にも載るほどの富豪だという、主人あるじの喜左衛門は茶人としても名高く、歌、俳諧はいかいなども堪能だという評判だった。
落葉の隣り (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さて元禄のころ高田の御城下に細井昌庵ほそゐしやうあんといひし医師ありけり。一に青庵といひ、俳諧はいかいよくしてがう凍雲とううんといへり。
もしこれが明暦めいれきの大火事や天明てんめい飢饉ききんのような凶年ばっかり続いた日にゃ、いくら贅沢ぜいたくがいたしたくてもまさかに盆栽や歌俳諧はいかいで日を送るわけにも行きますまい。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それをさいわひ、こちらもまだ遊び盛りの歳だものだから、家を外に、俳諧はいかい戯作げさく者仲間のつきあひにうつつを抜した。たまにうちへかへつてみると、お玉の野暮やぼさ加減が気に触つた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)