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俯
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うつむ
ふりがな文庫
“
俯
(
うつむ
)” の例文
薄暗い浴槽の中ですが、慣れた眼には、たった一と目で、その中に若い女が、
俯
(
うつむ
)
きになって、上半身を沈めているのが判ったのです。
銭形平次捕物控:033 血潮の浴槽
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
お定は顏を赤くしてチラと周圍を見たが、その儘返事もせず
俯
(
うつむ
)
いて了つた。お八重は顏を
蹙
(
しか
)
めて、忌々し氣に忠太を横目で見てゐた。
天鵞絨
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
されば汝が未だこれに入らざるさきに、
俯
(
うつむ
)
き望みて、いかばかりの世界をばわがすでに汝の足の下におきしやを見よ 一二七—一二九
神曲:03 天堂
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
ぼんやりと
俯
(
うつむ
)
いて歩いていましたから、もう、娘が何を聞いたかを、覚えておりません。歩いていたら、娘がまた、呼んでいるのです。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
暫らくは、強い緊張の
裡
(
うち
)
に、父も子も黙っていた。が、父はその緊張に
堪
(
た
)
えられないように、面を
俯
(
うつむ
)
けたまゝ、
呟
(
つぶや
)
くように
云
(
い
)
った。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
▼ もっと見る
「これだからな。女は仕末に悪いや」と熱寒の咬み合うべそ掻き笑いをして
俯
(
うつむ
)
きます。時刻はよしと、わたくしは止めを刺します。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
遊覧せんとありしには似で、貴婦人の目を
挙
(
あぐ
)
れども
何処
(
いづこ
)
を眺むるにもあらず、
俯
(
うつむ
)
き勝に物思はしき
風情
(
ふぜい
)
なるを、静緒は怪くも
気遣
(
きづかはし
)
くて
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
田舎者らしくない風采をした彼は、
俯
(
うつむ
)
きがちに私たちのそばを通りすぎようとしましたが、そのとき私たち一行のうちの巡査は
白痴の知恵
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
二三人が、船頭に合せて、槍を、
揖
(
さお
)
の代りにして、舟を押出していた。旗本は、一固まりになって、小さく、無言で
俯
(
うつむ
)
いていた。
近藤勇と科学
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
袷
(
あわせ
)
では少し
冷
(
ひや
)
つくので、
羅紗
(
らしゃ
)
の
道行
(
みちゆき
)
を引かけて、出て見る。門外の路には
水溜
(
みずたま
)
りが出来、
熟
(
う
)
れた麦は
俯
(
うつむ
)
き、
櫟
(
くぬぎ
)
や
楢
(
なら
)
はまだ緑の
雫
(
しずく
)
を
滴
(
た
)
らして居る。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
その女が
俯
(
うつむ
)
いているので
縹緻
(
きりょう
)
のほどはわからない、只、はばかりに行こうとするのを邪魔立てしている眼の位置なのだ。
われはうたえども やぶれかぶれ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
と云われてお若は深く恥いりましたか、
俄
(
にわか
)
に
真赤
(
まっか
)
になってさし
俯
(
うつむ
)
いております。伊之助はそんなことは知りませんから
根岸お行の松 因果塚の由来
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
「われはその
菫花
(
すみれ
)
うりなり。君が
情
(
なさけ
)
の
報
(
むくい
)
はかくこそ。」少女は
卓越
(
たくご
)
しに伸びあがりて、
俯
(
うつむ
)
きゐたる巨勢が
頭
(
かしら
)
を、ひら手にて抑へ、その
額
(
ぬか
)
に
接吻
(
せっぷん
)
しつ。
うたかたの記
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
と、にべもなく
言
(
い
)
ひすてて、袖も動かさで立ちたりき。少年は上目づかひに、腰元の顔を見しが、涙ぐみて
俯
(
うつむ
)
きぬ。
紫陽花
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
俯
(
うつむ
)
いて歩いてゐると、疲れ切つた目の中に、チクチクとしみるやうに雪が光つた。私は急ぐ気力もなくなつてゐた。
イボタの虫
(新字旧仮名)
/
中戸川吉二
(著)
「ふむ!」とばかり、男は
酔
(
え
)
いも何も
醒
(
さ
)
め果ててしまったような顔をして、両手を組んで差し
俯
(
うつむ
)
いたまま
辞
(
ことば
)
もない。
深川女房
(新字新仮名)
/
小栗風葉
(著)
ムスメはつひに
俯
(
うつむ
)
いたまヽ、いつまでも/\
私
(
わたし
)
の
記臆
(
きおく
)
に
青白
(
あをじろ
)
い
影
(
かげ
)
をなげ、
灰色
(
はいいろ
)
の
忘却
(
ばうきやく
)
のうへを
銀
(
ぎん
)
の
雨
(
あめ
)
が
降
(
ふ
)
りしきる。
桜さく島:見知らぬ世界
(新字旧仮名)
/
竹久夢二
(著)
聟
(
むこ
)
養子を貰つた婚礼の折の外は、一度も外の髪に結つたことのない、お文の新蝶々を、
俯
(
うつむ
)
いて家出した夫の手紙に読み耽つてゐるお文の頭の上に見てゐた。
鱧の皮
(新字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
『かうやつて君を待たせておいて』——
俯
(
うつむ
)
きながら
独
(
ひと
)
り
言
(
ごと
)
のやうに『なぜ今絵なぞを描くか知つてゐるかね』
南京六月祭
(新字旧仮名)
/
犬養健
(著)
仰げば
蓋
(
かさ
)
を張つたやうな樹の翠、
俯
(
うつむ
)
けば碧玉を
溶
(
と
)
いたやうな水の
碧
(
あを
)
、吾が身も心も緑化するやうに思はれた。
華厳滝
(旧字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
拾うため
俯
(
うつむ
)
いて
他
(
かれ
)
の足を見せしむると、足がなくてニョッキリ尾ばかりあったので、蛇精が化けたと判り、寡婦寺に
詣
(
もう
)
で身を
浄
(
きよ
)
めたといい、北欧の神話にも
十二支考:04 蛇に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
そして、正勝は腕を組み、唇を噛み締めてじっと
俯
(
うつむ
)
いていた。
嵐
(
あらし
)
を
孕
(
はら
)
める沈黙だ。いままさに、鉄砲の
火蓋
(
ひぶた
)
が切って落とされようとしているような沈黙だった。
恐怖城
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
憎悪とか反感とか言った
刺
(
とげ
)
や毒が
微塵
(
みじん
)
もないので、
喧嘩
(
けんか
)
にもならずに、継母は仕方なしに
俯
(
うつむ
)
き、書生たちは書生たちで、相かわらずやっとる! ぐらいの気持で
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
古ぼけた大きな
折鞄
(
おりかばん
)
を小脇にかかえて、やや
俯
(
うつむ
)
き加減に、物静かな足どりをはこんでゆく紳士がある。
国際殺人団の崩壊
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
編笠扮装
(
あみがさでたち
)
の施主が新らしい紋付の肩を揃へて静かに
俯
(
うつむ
)
いて行く。導師、副導師の馬車。その後から会葬の車が幾十台、みな塗色美しい母衣を下して長く/\続いた。
茗荷畠
(新字旧仮名)
/
真山青果
(著)
大九郎が私のことを、と乾は
俯
(
うつむ
)
いたまま云った。三味線や太鼓はうまいかもしれないが、剣術はなっていないと云った、というのである。隼人は小野大九郎を見た。
ちくしょう谷
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
モオラン(Morning-run)と称する、朝の
駆足
(
かけあし
)
をやって帰ってくると、森さんが、合宿
傍
(
わき
)
の六地蔵の通りで背広を着て、
俯
(
うつむ
)
いたまま、何かを探していました。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
少女は又
俯
(
うつむ
)
きて坐せり。
前
(
さき
)
にアヌンチヤタの我に語りし希臘の神女も、石彫の像なれば
瞻視
(
せんし
)
をば
闕
(
か
)
きたるべし。今我が見るところは殆ど全くこれに
契
(
あ
)
へりとやいふべき。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
餘りに年の寄つた銅色の顏の老爺が火鉢の縁を指先で撫でながら何も知らぬやうに
俯
(
うつむ
)
いてゐた。
京阪聞見録
(旧字旧仮名)
/
木下杢太郎
(著)
「ええ」お里は恥と口惜しさで
俯
(
うつむ
)
いて心では祈っていた。しかしお里には子は授からなかった。
地上:地に潜むもの
(新字新仮名)
/
島田清次郎
(著)
お花は
孰
(
いづ
)
れも木綿の
揃
(
そろひ
)
の中に、
己
(
おの
)
れ
独
(
ひと
)
り
忌
(
いま
)
はしき
紀念
(
かたみ
)
の絹物
纏
(
まと
)
ふを省みて、身を縮めて
俯
(
うつむ
)
けり
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
青年は書物の上に
俯
(
うつむ
)
いていることが多く、僕に見られていることには気がつかない。僕は便所に入ったとき、青年の姿を見かければ、いつも一寸視線をその顔のうえに止める。
落穂拾い
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
瀧口が顏は少しく青ざめて、思ひ定めし眼の色
徒
(
たゞ
)
ならず。父は
暫
(
しば
)
し
語
(
ことば
)
なく
俯
(
うつむ
)
ける我子の顏を
凝視
(
みつ
)
め居しが、『時頼、そは
正氣
(
しやうき
)
の言葉か』。『
小子
(
それがし
)
が一生の願ひ、
神
(
しん
)
以
(
もつ
)
て
詐
(
いつわ
)
りならず』
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
蓮
(
はす
)
の葉を一枚緑に画いて、
傍
(
かたわ
)
らに仰いで居る
鷺
(
さぎ
)
と
俯
(
うつむ
)
いて居る鷺と二つ画いてあるが如きは、複雑なものを簡単にあらはした手段がうまいのであるが、簡単に画いたために、色の配合
病牀六尺
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
奥様は
俯
(
うつむ
)
いて、御顔を紅らめて、御返事をなさいません。やがて懐しそうに
旧主人
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
「私ねえ。此頃少し體工合が變なんですよ」と言つて照ちやんは
俯
(
うつむ
)
いた。照ちやんは先刻から櫻の花を見て居たのではなかつた。照ちやんの見て居たのは櫻の花を透しての曇つた空であつた。
続俳諧師:――文太郎の死――
(旧字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
忙
(
あわただ
)
しく拾おうとする姫の
俯
(
うつむ
)
いた背を越して、流れる浪が、泡立ってとおる。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
兵馬は答えないで、火鉢の前にじっと
俯
(
うつむ
)
いている様子。
大菩薩峠:21 無明の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
立ちて
俯
(
うつむ
)
き双の目をしかと大地に据ゑ付けつ
イーリアス:03 イーリアス
(旧字旧仮名)
/
ホーマー
(著)
とても高いので、僕は
俯
(
うつむ
)
いてしまふ。
山羊の歌
(新字旧仮名)
/
中原中也
(著)
お定は顔を赤くしてチラと周囲を見たが、その儘返事もせず
俯
(
うつむ
)
いて了つた。お八重は顔を蹙めて
厭々
(
いまいま
)
し気に忠太を横目で見てゐた。
天鵞絨
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
白井刑事は、どきまぎしながらも、とにかく、俊夫君の言うままに手錠をかけますと、斎藤は死人のように青白い顔をして
俯
(
うつむ
)
いていました。
髭の謎
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
と私が
覗
(
のぞ
)
き込んだ
刹那
(
せつな
)
、突然青年は、さし
俯
(
うつむ
)
いた。ゴホゴホと絶え入れるように
咳
(
せき
)
入って、片手がまさぐるように、
枕許
(
まくらもと
)
のハンカチへ行く。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
俯
(
うつむ
)
き
窺
(
うかゞ
)
ひつゝみないひけるは、メヅーサを來らせよ、かくして彼を石となさん、我等テゼオに襲はれて怨みを報いざりし
幸
(
さち
)
なさよ 五二—五四
神曲:01 地獄
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
宮は
俯
(
うつむ
)
きて唇を咬みぬ。母は聞かざる
為
(
まね
)
して、折しも
啼
(
な
)
ける
鶯
(
うぐひす
)
の
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
を
窺
(
うかが
)
へり。貫一はこの
体
(
てい
)
を見て更に
嗤笑
(
あざわら
)
ひつ。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
而して彼はさし
俯
(
うつむ
)
くおかみに向うて、
此
(
この
)
家
(
うち
)
の最初の主の稲次郎と密通以来今日に到るまで彼女の
不届
(
ふとどき
)
の数々を烈しく責めた。彼女は終まで俯いて居た。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
いきなり
俯
(
うつむ
)
けになっているお雪の顔へ、顔を押当て、翼でその細い
項
(
うなじ
)
を抱いて、
仰向
(
あおむ
)
けに
嘴
(
くちばし
)
でお雪の口を
圧
(
おさ
)
えまして、すう、すうと息を吸うのでありまする。
湯女の魂
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
親父は腕を組んで、ぽろりぽろり泣きながら、己の忰に
斯様
(
こん
)
な悪党が出来るとは何たる因果だろう、此の餓鬼が真人間ならばと云いながら、下を
俯
(
うつむ
)
いていたが
塩原多助一代記
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
お道は黙って
俯
(
うつむ
)
きます。
金輪際
(
こんりんざい
)
物を言うまいとしている様子——女が一番反抗的になった態度です。
銭形平次捕物控:119 白紙の恐怖
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
その男が、立木へ手をかけて
俯
(
うつむ
)
いた横顔をみて思った。その途端鈴田の凭れている木の枝が、べきんと、
裂
(
さ
)
き折れて、大きい枝が、鈴田の頭、すれすれにぶら下った。
近藤勇と科学
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
俯
漢検1級
部首:⼈
10画
“俯”を含む語句
俯伏
俯向
俯臥
真俯向
俯瞰
差俯向
突俯
俯仰
真俯伏
打俯
下俯
内俯
俯目
差俯
俯居
俯視
眞俯向
俯仰天地
俯向形
俯向加減
...