いず)” の例文
従って、屡々しばしば自分の頂戴ちょうだいする新理智派しんりちはと云い、新技巧派と云う名称の如きは、いずれも自分にとってはむしろ迷惑な貼札はりふだたるに過ぎない。
羅生門の後に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
センティメンタリズム、リアリズム、ロマンティシズム——この三つのイズムは、そのいずれかをいだく人の資質によって決定せられる。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかしその菫菫菜が我がスミレのいずれにあたるかは今にわかに分り兼るがかくスミレのある一種の名でそれは支那でそういうのである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
わたくしはだんだんそんなふうかんずるようになったのでございます。いずれ、あなたがたにも、そのあじがやがておわかりになるときまいります……。
送って出た女房や子供が連れ立ってこの聚落しゅうらくの出外れまでいて来ていた。いずれにせよ彼らにとってはこれも門出にちがいなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
しかしいずれにせよ、慾と敬愛と、折合わない二つのものを、一つ対象に抱くなどという例はほかになかった。義経だけが例外であった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
至極しごく静かに知らせるといっていたが、それはかくいずれの僧侶に訊ねても、この寺へ知らせに来るというのは、真実のものらしい。
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
他馬匹も同く、予は群馬のうちに囲まれて、いずれも予に接せん事を欲するが如く最も親しく慣るるは、此れ一種言うべからざるの感あり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
真理は断じてる教義教条の独占物ではない。むろんいずれの教義にも真理の種子はある。が、いずれの教義にも誤謬ごびゅう夾雑物きょうざつぶつがある。
と其の場をはずして次の間へ退さがり、胸にたくみある蟠龍軒は、近習の者にしきりと酒をすゝめますので、いずれも酩酊めいていして居眠りをして居ります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかしそのいずれにせよ、認識することなしに芸術は有り得ない。なぜなら芸術は表現であり、そして表現は観照なしに有り得ないから。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
梅子の態度は、父の怒りから代助をかばう様にも見えた。又彼を疎外そがいする様にも取れた。代助は両方のいずれだろうかとわずらって待っていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いずれ大西郷さいごうなどがリキンでとう/\助かるようになったのでしょう。れは私のめには大童信太夫おおわらしんだゆうよりか余程よほど骨の折れた仕事でした。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さてこの二つの意義のいずれにおいても、これまで一般に日本の上代史といわれているものは、まちがっている、といい得られる。
先ずしといずれも安心したが、何ぞ測らん右の蛙がそもそも不思議の発端で、それからこの邸内に種々の怪異あやしみを見る事となった。
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、いずれにしても今の場合土岐の力を借りるより外、この気の弱い青年には縋るものが無かったので、前後も無く早口にこう話し出した。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そんないらぬ心配よりも早く金を呉れというのである。彼が教会と言ったのは、コロールに在る独逸ドイツ教会か西班牙スペイン教会かのいずれかである。
南島譚:03 雞 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「さんぞうろういずれもの旦那衆にさように勧進かんじんを申し上げて御用をつとめまいらせ候、今法界坊とは、やつがれのことに御座あり候」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
若い坊主一名、ドイツの学生一名、スペインの詩人一名、其他九名の愛書家を殺したのであるが、いずれも一度売った書物を取戻す為だった。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
いずれにもせよ、彼は賊の罠に陥り自由を奪われてしまったものに相違ない。ひょっとしたら、それ以上の危害をさえこうむっているかも知れぬ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
博識才能あるもの何ぞ一派の特有物ならんや、余にして自己の信仰を定むるあたわざれば余は果していずれの派に己を投ずべきか、カルヂナル
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
いずれ又ゆっくりお願いに上ります。関校長も連れて参りましょう。先生、教え子の中から初めて学士が出たと言って大喜びをしています」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いずれにせよXの町のこの豪家には、必ず老人の番人がいるに相違ない。而して誰が訪ねて行くとも決してその大きな青い門から中へ入れない。
薔薇と巫女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いずれは何処かへ身をかためなくちゃならないんだけど……そういうことについて、別に相談する所も、親身になって下さる所もないのでしょう。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
いずれにしても我々は御身の同僚でまた友人であるから、御身がこの家の掟に反して夜分外出なさる理由を承るのが正当じゃ
忠五郎のはなし (新字新仮名) / 小泉八雲(著)
おれはこんな男に対して、どんな手段を取るだろう、俺がしょくの都へくのは、ねて往くのではない、苦しいから逃げて往くのだ、いずれにしても
倩娘 (新字新仮名) / 陳玄祐(著)
五十万ママを以て三隻の水雷船すいらいせんを造り、以て敵をみなごろしにすべしなど真に一じょう戯言ぎげんたれども、いずれの時代にもかくのごとき奇談きだんは珍らしからず。
かつ阿媽港あまこう呂宋ルソンを征せんと欲し、「図南の鵬翼ほうよくいずれの時にか奮わん、久しく待つ扶揺万里の風」と歌いたる独眼政宗も
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
性根まで溶らかされ魔に魅入られたが如く心乱れ、ついにはいずれも命まで失う有様、しかもこの若衆というは色里にさ迷うこと既に数年に及べども
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
同時にかくの如き人がいずれの国を問わず国民のうちにあったならば、それこそいわゆる国の師ともいうべきものであって
真の愛国心 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いずれ議会の開期中だから、左様遠くもあるめエ、然しネ、オイ、斯様こんな一目瞭然の事実を山の鬼共はどう糊塗ごまかす積かナア、一寸思案が付かねエがナア
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
いずれもその時の私の心境を率直、如実に告白致したいために、日記の記録する通りに文章を取纏とりまとめたものですから……。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
思えば、明治文学の早い開拓者の多くは、欧羅巴ヨーロッパからの文学を取り入れる上に就いて、いずれも要領の好い人達であった。そこに自国の特色がある。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
翁の臨終りんじゅうには、かたちに於て乃木翁に近く、精神に於てトルストイ翁に近く、而していずれにもない苦しみがあった。然し今はつまびらかに説く可き場合でない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それはいずれしても教育はあるし家柄はよし、人によってはかえってこの方を好むものだ、などと贔屓ひいきの考えもしてみた。
縁談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
いずれにしても若い将校たちの蹶起が民衆の感情と何処か微妙なところで喰いちがっていることを伍一は昂奮に声を顫わせてまくしたてたが、しかし
菎蒻 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
すると山内さんないの方から、二人曳ににんびきで威勢よくけて来た車が、いずれ注意をしたものだろうが、私はそれが耳にも入らず中央まんなかに、ぽつりと立っていたので
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
目的はいずれも土地の力を強くする呪法じゅほうであって、それには一年の特にめでたい日を選べばよく、ぜひともこの日に限るということはなかったのだが
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いずれも似たり寄ったりの、区民相手の中以下の日用品店のみだといっても大したおしかりを受けることもないだろう。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
しかし、いずれにしても、そのような実験からガリレイが自由落下の法則を見つけ出したのには違いないのでしょう。
ガリレオ・ガリレイ (新字新仮名) / 石原純(著)
「わが郷関きょうかんいずれの処ぞこれなる、煙波江上、人をして愁えしむ」と魚容は、うっとり呟いた時、竹青は振りかえって
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
思想の発達せぬなま若い者の感情、追付おっつけ変って来るには相違ないと殿様の仰せ、行末は似つかわしい御縁を求めていずれかの貴族の若公わかぎみいれらるゝ御積り
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
張儀は、友人蘇秦の合従策が成功している間は、ノンビリと構えて、秦王に仕えて、いずれにも仕事をしなかった。
今昔茶話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
日本中の大名等に対して、いずれをも軽蔑して、彼等と話すには、自分の部下に対する様であつた。気宇が大きく、又忍耐に富み、戦が不利でも驚かない。
いずれも同じような物であったが、その代り、どこかにローカル・カラーといって好いような、食物の上にもいちじるしく異なった個性が現れていたようである。
四谷、赤坂 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
しかし当人はいずれにしてもつまりは空々若々くうくうじゃくじゃくである。自分はどういう訳で好かれるのか、またどういう訳で下賤さげすまれるのか、そんな事は更に考えはせぬ。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし、これとても浮世の無情、有為天変ういてんぺんまぬがれません。いずれはうたかたのはかないものと思って居ります。
ある日の蓮月尼 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いずれにせよ、自分の性質には思い切って人に逆らうことの出来る、ピンとしたところはないので、心では思ってもおこないに出すことの出来ない場合が幾多いくらもある。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
翌朝になると早速さっそく裏木戸や所々ところどころと人の入った様な形跡あとを尋ねてみたが、いずれも皆固くとざされていたのでその迹方あとかたもない、彼自ら実は少し薄気味悪くなり出したが
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
私ののぞいた店は、町でもかなり大きな本屋であったが、いずれの棚にも私の欲しいものは見当らなかった。