何人なにびと)” の例文
源氏もまったく何人なにびとであるかの見分けがつかなかったわけではなかったが、右大臣家の何女であるかがわからないことであったし
源氏物語:08 花宴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
青きあわせに黒き帯してせたるわが姿つくづくとみまわしながらさみしき山に腰掛けたる、何人なにびともかかるさまは、やがて皆孤児みなしごになるべききざしなり。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、中味は、手の切れる様な十円札が、ふるえる指先で勘定かんじょうして見ると、丁度十枚、外でもない、それは何人なにびとかの月給袋なのである。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何人なにびとも初めは一見して彼を大尉と認めていたが、ほんとうの大尉その人に比較して能く視ると、まるで似付かないほどに顔が違っていた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それに連れて二人の助太刀も、同じ門下の兄弟子二人と知れましたが、それにしてもその返りうちにした片相手は何人なにびとであろう。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
身体からだが大きくて腕力もあるが人と争うたことはないので何人なにびともかれと親しんだ、木馬の上に立ったかれを見たとき、人々は鳴りをしずめた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
庁内の法廷ともいえる拭き磨いたような板じきの広間にも、まだ何人なにびとも見えていない。“審問ノ間”“対決ノ廂”などとここをいっている。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、この問答は、おそらく宗教的な意味をもって何人なにびとかに創作されたものであり、決して単なる常識上の議論のやりとりではありません。
青年の思索のために (新字新仮名) / 下村湖人(著)
何人なにびとにも許さるる作、誰もが用いる器、汗なくしてはできない仕事、それが美の浄土に受け取られるとは、驚くべきこの世の神秘ではないか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「飛んでもない、父上、——それにしても、お茂世殿をこのやうな姿にした下手人は捨て置き難い、何人なにびとの仕業で御座る」
法律ほうりつてらしても明白あきらかだ、何人なにびといえども裁判さいばんもなくして無暗むやみひと自由じゆううばうことが出来できるものか! 不埒ふらちだ! 圧制あっせいだ!
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
何人なにびとも、まず天馬の背に跨がることが出来なければ、地に生れたカイミアラと闘おうとしてはならないのでした。
この瓶もし千尋ちひろの海底に沈まずば、この瓶もし千丈の巖石がんせきに砕けずんば、この地球上にある何人なにびとかは、何時か世界の果に、一大秘密の横たわる事を知り得べし
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
われに与えんとならば、まずひそやかに与えよかし。われらかたみに持てる想いを、何人なにびともさとらぬぞよき。
もはや心のうちで何人なにびとをもとがめず、また子供に愛せられてる今となっては、ごく老年になるまで生き長らえるに及ばないという理由は何ら認められなかった。
良水を欠く料理、それがなにを生むかは何人なにびとにもうなずける事実である。その良水がパリにないとのことである。ビールより高価な壜の水を飲んでいる市民である。
フランス料理について (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
潮来と牛堀うしぼりの間の蘆の中に棄てられて、息も切れる程いて居たのを、万作が拾い上げて来たので、何のしるしもなかったから、うみの父母は誰か何人なにびとか一切分らぬ。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
然し何うも、郡視学も郡視学ではありませんか? ××さんにそんな莫迦な事のあらう筈のない事は、いやしくも瘋癲ばか白痴きちがひでない限り、何人なにびとの目も一致するところです。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
もううなっては何人なにびとも神仏を頼むよりほかに道はございませぬ。二人の船頭も大声を挙げて思い/\の神々を祈って居りますが、風雨は一向む模様はございませぬ。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
場内を卓から卓へ軽卒あわたゞしく歩き廻つて何人なにびとにも愛嬌あいけう振撤ふりまくのを見ると其れが人気者たる所以ゆゑんであらう。僕がこの人と物を言ふのは今夜が初めで多分又同時に最後であらう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しかしそれよりも、此手紙のぬし何人なにびとであろうか、と、云う好奇心が第一に起るのであった。
仙人掌の花 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
それが何人なにびとであって何のためにする声だかわかりません。こちらへ来る人の声であるか、またはどこかへ一団ひとかたまりになっている人々の声であるかもよくわかりませんでしたが
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かへ團扇うちはおもひをせしときくからず打笑うちゑみし口元くちもとなんど、たゞさきたりて、らず沈思瞑目ちんしめいもくすることもあり、さるにても何人なにびと住家すまゐにや、人品ひとがら高尚けだかかりしは
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ホホウ、上泉伊勢守殿とか。それはよい師を持たれたの。その他何人なにびとかれたかな?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
汝には何人なにびとも英傑であり、如何いかなる婦人も淑女であり、そして如何なる場所も神聖であれ
人格を認知せざる国民 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ふねなかで、合図あいずをしているようにおもわれました。かれは、がけをおりようかとおもいましたが、ほんとうに、自分じぶんむかえにきてくれたのなら、何人なにびとか、ここまでやってくるにちがいない。
希望 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一週間ばかり前に天岳寺の境内を通抜けたら、義士の墓の門札が、何人なにびと悪戯たわむれか『ぎしばか』としてあった。其時は笑って過ぎたが、今日通ったら、門札は依然『ぎしばか』でいる。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
宮は何人なにびとの何の為に入来いりきたれるとも知らず、おどろきつつも彼を迎へてかたちを改めぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
のちには晝の日なかにも蒼白い幽靈を見るやうになつた。黒猫の背なかからにほひの強い大麥の穗を眺めながら、さきの世の母を思ひ、まだ見ぬなつかしい何人なにびとかを探すやうなあどけない眼つきをした。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
何人なにびとかゞかる惡例あくれいつくつたのがつひに一つの慣例くわんれいとなつたのであらう。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
だから鑑賞かんしやうの上から云へば、菊池の小説を好むと好まざるとは、何人なにびとも勝手に声明するがい。しかしその芸術的価値の批判にも、粗なるが故に許し難いとするのは、好む所にへんするのそしりを免れぬ。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
何時自分が東京を去ったか、何処いずこを指して出たか、何人なにびとも知らない、母にも手紙一つ出さず、建前が済んで内部うち雑作ぞうさくも半ば出来上った新築校舎にすら一べつもくれないで夜ひそかに迷い出たのである。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
(もはや、何人なにびとであろうとも、おれたち二人を離すことは出来ない)
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
よろづ数奇すきを備へて粋士の住家とは何人なにびとも見誤らぬべし。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
第三十六条 何人なにびとモ同時ニ両議院ノ議員タルコトヲ得ス
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
何人なにびときられたるや有體に申せとにらみ付らるゝに勘兵衞も命のきはなれば何分白状なさず因て先入牢申付られ劇敷はげしく拷問がうもんに及びしかば終に舊惡きうあく悉皆こと/″\く白状しける故右海賊共と一處に引廻ひきまはしうへ獄門ごくもんに行はれたりされば勘兵衞の妻は今更いまさら詮方せんかたなく漸々やう/\くび
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかも惟光これみつ以外の者は西の対の主の何人なにびとであるかをいぶかしく思っていた。女王は今も時々は尼君を恋しがって泣くのである。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
時勢が進むに連れまして生存競争に打ち勝とうとするものは何人なにびとも是非共この表現の方法を一応は心得ていなければならぬものだそうでございます。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
法律はふりつてらしても明白あきらかだ、何人なにびといへども裁判さいばんもなくして無暗むやみひと自由じいううばこと出來できるものか! 不埒ふらちだ! 壓制あつせいだ!
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
のみならず、私の覗き眼鏡の秘密をすら、まだ何人なにびともさとり得ないではありませんか。あの短刀、あの血潮、あれがどうしていたずらなどでありましょう。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ついては、両名の処置、又、勅使饗応役の跡に代る者、何人なにびとに仰せつけられましょうや。そのために、おきたて申し上げました段、平におゆるしの程を願いあげまする
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
災難や過失は何人なにびともまぬかれることはできない、が、その場合に父母に叱られることをおそれたり
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
あるいは何人なにびとかのためになるべきを思ってわれわれがジャン・ヴァルジャンの憂うつな物語をなすのに耳を傾けてくれる人々、われわれのあとに従ってきてくれる人々を
初めに子供たちが遊びに来た時分には、お辞儀などをする殊勝な奴は一人もなかったが、このごろは、まず、子供たちが何人なにびとに対しても朝晩の挨拶をするようになっている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
机の上に算盤が一つ、その先がすぐ雨戸で、雨戸には小指の先ほどの小さい穴があいておりますが、始終何人なにびとひもでも通して合図をしたものか、穴のへりが摺れているのも疑えば疑えます。
何人なにびとも満足にねむっていた者は無かったものと見え、いずれもムクムクと頭をもたげて
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
されども、おのづか見識越みしりごしならぬはあきらかなるに、何がゆゑに人目をさくるが如きかたちすならん。華車きやしやなる形成かたちづくりは、ここ等辺らあたりの人にあらず、何人なにびとにして、何が故になど、貫一はいたづら心牽こころひかれてゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
『不思議をおあらわしになる旅の方々かたがた御身おんみ達は何人なにびとであらせられますか?』
文「いや、其の方は何人なにびとじゃ、おゝ、お町ではないか」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ああ、何人なにびとが、つぎのような事実じじつろう。
奥さまと女乞食 (新字新仮名) / 小川未明(著)