かい)” の例文
なにしろそういう人々はこと生命財産に関係することだとあって、衣服が破れ、鼻血を出し、靴の脱げ落ちることなど一向いっこう意にかいせず
わずかに雪の蒼白い光が四辺あたりにおぼめくばかりである。しかし修験者は意にもかいせず歩み慣れた道を行くがように歩調を早めて進んで行く。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どこか上品じょうひんで、ものごしのしずかなたびさむらいが、森閑しんかんとしている御岳みたけ社家しゃけ玄関げんかんにたって、取次とりつぎをかいしてこう申しれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ミルクイというかいがあって、またミルガイともミロクガイとも称えられ、その学名は Tresus Nattalii Cornad. である。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
かくてこそ、これからなお雲竜の刀陣にかいして、更生の栄三郎が思うさま神変夢想の秘義を示し得るわけ……だが?
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
世間とは君を知らぬ人のいである。君を知らぬ人がかれこれ批評することは、さほど意にかいするに及ばぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かいしての、R大使館たいしかんからの招待日せうたいびだつたので、そのかれはかまなどつけて、時刻じこくがまだはやかつたところから、I下宿げしゆくつて一とはなししてからかけた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
それにかいに手を挟まれてくるしむ内、潮に溺れ命を失うたのも猿田彦は老猴を神としたに相違ない証拠だ。
ただ植物や昆虫やかい類を調べることを主とした従来の博物家の研究の態度から起こった誤解をすみやかに除いて、生物学の真価をひろく世に知らせたいと思うのである。
誤解せられたる生物学 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
実験をかいして無限に展開することもできるが、文化科学の問題は、一般に時と所と人との複雑な現実条件の中での具体的妥当性の問題であって、普遍的抽象的な公式が
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
御徒士町の研屋五兵衞は、一かいの町研屋から身を起して、後には武具刀劍萬端の拵へを扱かひ、七けん間口二軒建の店を張つて、下町切つての良い顏になつて居りました。
先生咸臨丸かんりんまる米行べいこうきょありと聞て、予が親戚しんせき医官いかん桂川氏かつらがわしかいしてその随行ずいこうたらんことを求められしに、予はこれさいわいの事なりと思い、ただちにこれをがえんじ、一けんきゅうのごとし。
よし/\、本来の田舎漢ゐなかもの、何ぞ其様な事を気にかいせむや。吾此の大の眼をみはりて帝国ホテルに寄りつどふ限りの淑女紳士をにらみ殺し呉れむず。昔木曾殿どのと云ふ武士もありしを。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
さて景一光広卿をかいして御当家御父子とも御心安く相成りおり候。田辺攻たなべぜめの時、関東に御出おんいで遊ばされ候三斎公は、景一が外戚がいせきの従弟たる森三右衛門を使に田辺へ差立てられ候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
さてロセツが何故なにゆえに浅田を指名して診察しんさつもとめたるやというに、診察とは口実こうじつのみ、公使はかねて浅田が小栗に信用あるを探知たんちし、治療ちりょうに託してこれにしたしみ、浅田をかいして小栗との間に
英語の通弁官をかいしネパール語で「この書物は沢山はない。ただ四十一ちつだけ集めることが出来た。これはあなたの贈物に対する返礼として上げるのであるからそのつもりで受取るがよい」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
打石斧だせきふ磨石斧ませきふ石鏃せきぞく把手とつて破片はへん土瓶どびんくち、そんなものは、どのくら數多かずおほ採集さいしふしたかれぬが、發掘はつくつをしてこといので、茶店ちやみせ息子むすこかいして、地主ぢぬし政右衞門まさうゑもんといふひと
〔譯〕寛懷かんくわい俗情ぞくじやうさかはざるは、なり。立脚りつきやく俗情にちざるは、かいなり。
と云うのは、一高時代の友人の津村と云う青年、———それが、当人は大阪の人間なのだが、その親戚しんせきが吉野の国栖くずに住んでいたので、私はたびたび津村をかいしてそこへ問い合わせる便宜べんぎがあった。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
顎十郎は、意にもかいさない様子で
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
まことにわらうべきおちょかいです。
意にかいしない面を具えている。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
義辰は子を助けたさに、先月らい、望んで寄手の陣に加わり、その子をかいして、ひそかに二心をかよわせていたのである。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天下の大法と紀州の若君との苦しい板ばさみにかいして法も曲げず、源六郎をもそこなわず、自分の役儀も立てたあっぱれな忠相の扱いにすっかり感服して
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ゆえに世に処するものは悪口の六、七は聞流しにすべきもの、意にかいする価値なきものと僕は信ずる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ポルトガルの一武士の乗馬これを見、驚いて海に入ったのを救い上げて見ると、その武士の衣裳全く杓子貝に付きおおわれいた。霊験記念のためこのかいを、この尊者の標章とする由。
将軍は、そう聞くと、人々が憂えている夫人の事は、意にかいしないもののように、司令部の方へもどって行った。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貴様が、自分の栄耀えいように眼がくらんで、子をかまいつけなんだように、わしは、わし自身の芸術たくみの心にのみしたがって、貴様のことなど、意にもかいせんのじゃ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
佐藤一斎のいわゆる俗情におちいらざるこれをかいというと教えたのはこの点であって、如何いかに外部の圧迫が強くとも、己の心にいさぎよしとせざることに従わぬところを俗情におちいらずというのである。
自由の真髄 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その肉は腥靭せいじんにして食うべからず、鱁鮧ちくい塩辛しおから」に製すればやや食うべし、備前および紀州の人このかい化して鳥となるといい、試みに割って全肉を見れば実に鳥の形あり、唐山にもこの説あり
かいして、持明院統の院宣いんぜんおう。——いくさはここまで勝ってきたが、院宣を持たねば、遂にさいごのは結ぶまい。その者ならば、居所は分っているのか
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この猴甚だ牡蠣かきを好み、引き潮に磯におもむき、牡蠣が炎天にさらされて殻を開いた口へ小石を打ち込み肉を取り食う。たまたま小石がすべれて猴手をかいはさまれ大躁おおさわぎのところを黒人に捕え食わる。
寛懐かんかい俗情にもとらざるはなり、立脚りっきゃく俗情にちざるはかいなり」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かいして、大御所(尊氏)より山門の行宮あんぐうへ、密々、和をうの御上書がさしあげられたには相違ございません
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かい若僧わかそうにすぎない忍剣のこの手なみに、さすがの黒具足組くろぐそくぐみきもをひやした。——知る人は知る。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
肥後ひごの加藤清正から、彼と昵懇じっこんな黒田長政をかいして、正式に兵庫をその家中へ懇望して来た折も
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうえ高徳は、守護の松田父子をかいして、大覚ノ宮にも拝謁した。——さらには今、後醍醐の輦輿れんよがこの中国路の目のさきを越えて行く——。まさに千載せんざい一遇いちぐうである。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しょせん、おれは一かい田舎漢いなかものよ。何やら分らぬことだらけだ。したが、その分らぬ小智恵では、なまじ帝座のめぐりへ近づかなんだ方が、かえってよかったことかもしれぬ。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かいの目薬売りも、田を持ち、馬を飼い、人を養い、いつか姫路の丘に石垣を築いて、兵器と実力をたくわえれば、四隣の国々とまではゆかなくても、近郷の治安と秩序を握って
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉をるに、今は、家康でさえこう思意せずにいられないのに——佐々成政のごとき、単純なる一かい武弁ぶべんが、北陸の一隅などから、旧殻きゅうかくだっしきれない頭脳などをもって
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
直接でなく人をかいした意見となれば、いよいよ義貞が素直にれる可能性はすくなくなる。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上皇には、そんな御記憶もあって、忠盛を、一かい武弁ぶべんとばかりは、見ておられなかった。
(おまえの心意気か知らないが、そんなおせっかいに出なさんして、忠さんによいのかえ)
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かいしてなら、どんなこともかなうと見て、何かと思惑おもわくを抱くやからは、手づるを求め、縁故をたどり、いまや三位の廉子さまでなければ、夜も日も明けぬというほどなあがめ方なのでして
「ところで、信長様へお会い遊ばすには、どなたか、織田家の宿老中でも、もっとも信長様のご信任あついお方をかいして、お目通りを願い出られるのが、上策ではございますまいか」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわゆる院政の権をかたくされ、朝廷をすら、意にかいし給わぬ御存在です。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
の御返事を、密々に、尊氏へおこたえになられたが、なお忠円僧正をかいして
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敗るるも勝つも、小幡民部こばたみんぶの名は、おしくもなき一かい軍配ぐんばいとりじゃ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)