しも)” の例文
あわただしく作られた軍用市は機能を喪失し、川に沿ったかみしもの町は、機械的に一本の道路で貫かれているだけで、麻痺に陥った。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
これだけは蕪村ぶそんの大手腕もつひに追随出来なかつたらしい。しもに挙げるのは几董きとうの編した蕪村句集に載つてゐる春雨の句の全部である。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「きみは杉山あたりのまねをしちゃなりませんぞ。かみにまじわりてへつらわずしもにまじわりておごらず、男らしくやってもらいたい」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
長安には太清宮のしも許多いくたの楼観がある。道教に観があるのは、仏教に寺があるのと同じ事で、寺には僧侶そうりょり、観には道士が居る。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
爾来かみは皇室を始め奉り、しもは一般庶民に至るまで、その祖神として天神・地祇を崇祭すること、あえてその間に区別を置かない。
いかなる階級の人も、かみはお公卿くげさまから、しもはいやしい民にいたるまで、天然痘の病原体は、なんの容赦ようしゃもなくおそいかかりました。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
当人もあまりうまくないと思ったものか、ある日その友人で美学とかをやっている人が来た時にしものような話をしているのを聞いた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
 (重兵衛は太吉を横目に睨みながら、自在じざい湯沸ゆわかしを取ってしものかたへ行き、棚から土瓶どびんをおろして茶の支度をする。ふくろうの声。)
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ゆっくりと町の通りを行くように、通りが、曲ればそのまま曲って行きや。」生絹はしもノ者にそういいつけ、簾の間から町々を眺め
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「旧幕の頃には天領として郡代ぐんだいが置かれたものでして、ついこのしもの土手に梟首場さらしくびばの跡がございますが」と町長、椅子から伸びあがった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
酉陽雑俎いうやうざつそに、狐髑髏どくろいたゞ北斗ほくとはいし尾をうちて火を出すといへり。かの国はともあれ我がまさしく見しはしからず、そはしもにいふべし。
支那しな帝使を西班牙スペイン帝使のしもに座せしめ、わがたり友たる西帝せいていの使を、賊たり無頼の徒たる支那帝の使の下にせしむるなかれといしと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「わしは長年、竹山城の御城下宮本村から、しもしょうの辺りへは、ようあさの買い出しに行くが、近頃、さる所でふと、噂を聞いてな」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かみは総監からしもは巡査刑事に至るまで一人残らず旧式の拷問応用の見込捜索ばかりを、飽きもせずに繰り返していたものである。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
が、その時はもう怪我でもした様子で、滅茶滅茶に苦しんで、しもへ下へと流れて行きました、——水は真っ赤になったようでした
幇勢最も盛んな時は、かみは役人よりしもは游民に至るまで、あらゆる階級の人々を吸集し、清末頃からは女入幇者も沢山あるようになった。
もはや、西のしもせきの方では、攘夷を意味するアメリカ商船の砲撃が長州藩によって開始されたとのうわさも伝わって来るようになった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大体福島県は紙漉の村が多いのでありまして、岩代いわしろの国では伊達だて山舟生やまふにゅう安達あだち郡のかみおよびしもの川崎村や耶麻やま熱塩あつしお村の日中にっちゅう
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
遥か川しもには油堀あぶらぼりの口にかかったしもはしと、近く仙台堀にかかったかみはしが見え、また上手には万年橋まんねんばし小名木川おなぎがわの川口にかかっている。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しもの者は物をおおぎょうに言いふらすものであるからと思い、あまり人の寄って来ない陰のほうの座敷へ拾った人を寝させた。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
B かみは精養軒の洋食からしもは一膳飯、牛飯、大道の焼鳥に至るさ。飯屋にだってうまい物は有るぜ。先刻さっき来る時はとろろ飯を食って来た。
御前様づきのお側女中との二人が一人のしも女中を雇っている世帯へ、食事は御番ごばん——主人の食事係が賄うことにして、部屋だけ居候だった。
さればこそ立法者、道徳者達は、常に徴税を以て暴政の表象となし、これを以てかみ王者をふうしも官僚を戒めて来たものである。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
エニンは昔のエンガンニム、海抜約六百五十フイート、人口二千左右さう小邑せういふ、サマリヤの山尽きしもガリラヤの平原起る所のさかひにあり。
ワーリャ (ヤーシャに)お前のおっ母さんが村から出て来て、きのうからしもの部屋で待ってるよ、ちょっと会いたいって……
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その歩き方は持ち前だが、これをうしろから見るたびに、かの女のまだ本統に直らないしもの病を義雄は思ひ出さずにはゐられないのであつた。
例へばかみ十二文字またはしも十二文字を得ていまだほかの五文字を得ざる時、色々に置きかへ見るべし。その置きかへるは即ち動くがためなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
言われるままに小平太はふたたびなよなよとしもに坐った。おしおはその膝に取縋って、涙を持った眼に下からじっと男の顔を見上げながら
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
武助さんは、さををあやつりながら、流しめに良寛さんを見てゐた。良寛さんは、へさきに小さくかがまつて、川のかみしもの方をながめてゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
夜中に、寝巻きの肩をふるわせて、奥としものあいだの廊下にしょんぼり立って泣いているところを、朋輩にみつかったりした。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
たとえば『倭名類聚鈔』には、「髭」「鬚」をそれぞれ「かみひげ」「しもひげ」などと訓んでいるが、こんなことはいわない。
辞書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
その堤は毎日通う小学校の続きになるので、名高い大橋に対して小橋という、学校の傍の石橋のしもになって、細いながれが土手下を通っています。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
目のきれの長い、まつげの濃い、しもぶくれの優しい顔が、かりそめに伝うる幽霊のように、脱落骨立こつりつなどしているのでない。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その有徳の名声は、七年前からしもブーロンネーにあまねく響いていたが、ついにはその狭い地方を越えて、二、三の近県までひろがっていた。
普通だったらしもじもの女にでもその御文を届けさせようものを、あの方は役所で私の父に先ず真面目とも常談ともつかずにほのめかされて置いて
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
かみ、亀山上皇は、御身を以て国難に代らんと、皇大神宮に祈請を凝らし給ひ、しも、鎌倉の将士は驀進して敵艦を襲つて、顧ることをしなかつた。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
五条の大橋際からしもの方へ、鴨川の流れを背にした狭い、穢なくるしい一筋街で、丁度六条の宿への途すがらであつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
と是から急に手紙を書いて下総しもふさしも矢切村へ出し、どうか伊之助さんの方へはなしを附けてくれろと云うので、早速矢切の叔母さんが出てきました。
それは批評的な半ば科学的な方法で事件を論じようと試みたものだった。記者はしもにその主要部分を抄出してみたい。
もっともしもの方に一軒いい家があるにはあるが、それがその肺病人ぶらぶらやまいがはいった家だで、お前様たちでは入れさせられないて、気を悪くすべと思ってな
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
ぶんいはく、『かず』と、いはく、『つのものみなしもでて、くらゐかみくははるは、なんぞや』と。
北枝ほくしが「元日や畳の上に米だはら」という句をんだ時、芭蕉は「さて/\感心不斜ななめならず、神代のこともおもはるゝと云ける句のしもにたゝん事かたく候、 ...
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
しもぶくれのうりざね顔で目は大きすぎるほどぱっちりとして髪を二つに割って両耳のところで結び玉をこさえている。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
さればこれらの分配通信の機関は火の原をくがごとく、水のしもに就くがごとく、かの政治的の境界をば日に侵掠しんりゃくして経済的の領地となさしめたり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
しもは子孫の教育を厳にし、永遠なる幸福の基礎を定め、勤倹平和なる家庭と社会とを立て得るに至らん事を祈るなり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
その軽紗うすものを漉して射す日の光が、茶の葉をおもむろに柔かく育て、駿河・遠江にわたるかみなかしもの川根のお茶をあんなにうまくさせてゐるのである。
お茶好き小話 (新字旧仮名) / 吉野秀雄(著)
上の方が小さく、下の方が大きければ、しもぶくれの形になる。くぼんでいる部分は、彎曲率をにとればよいのでその凹み方も、負の値の大小できまる。
もっと護謨ごむ同様に紳縮のびちゞみする樹皮きのかわなれば其穴はおのずかふさがりてだ其傷だけ残れるを見るのみなれば更にくつがえしてしもの端を眺ればこゝには異様なる切創きりきずあり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「ずっと流れて、殆んど十町ばかりしもで、人に救われたのだが、右手に釣糸を握ったままで、その糸の先にはまだ、その大きな鯉が付いていたそうだ」
爺さんが渡仙わたせん(羽後の名立たる高利貸の渡辺仙蔵)の手代をしていた頃、大番頭の丸尾さんというのが大そう主人の気にいりで、しもの者にも受けがよい。
神楽坂 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)