おか)” の例文
おかの麦畑の間にあるみちから、中脊ちゅうぜい肥満ふとった傲慢ごうまんな顔をした長者が、赤樫あかがしつえ引摺ひきずるようにしてあるいて来るところでありました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
水戸家のお下屋敷かどから堀川を左に曲がって、瓦町かわらまちからおかへ上がると小梅横町、お賄い方組屋敷までへは二町足らずの近さでした。
右門捕物帖:30 闇男 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
まさか伊之吉が舟を持って来て連れていったとは知れよう筈がない。海の中にいるんでげすからおかを探したとて跡のつく気遣いなし。
丁奉は、馬にのって、陸地を江岸づたいに急ぎ、やはり孔明の舟を追って来たのであるが、いまの様子をおかから見ていたものと見え
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最初に着いた港で船荷を売払って、他の品物を仕入れる。ポケットに金があるうちはおかで好き放題に遊んで、金がなくなればまた航海さ
……(かもめ、鴎、鴎に故郷はない。……おかも自分の故郷ではない、海も自分の故郷ではない。……今日もまた空の下のてない漂泊……)
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「あぶねえあぶねえ。冗談じゃねえ。汽笛ふえを鳴らさねえもんだから反響がわからねえんだ。だからおかに近いのが知れなかったんだ」
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おかがってきょろきょろまわしていますと、そこのまつの木のえだにまっかおをして、まっなおしりをしたものがまたがっていました。
くらげのお使い (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
人間の癖に水のなかに棲んでいて、時々におかや船にあがってくる。まったく河童の親類のような奴だ。葛西かさいの源兵衛堀でも探してみるかな
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雙喜はわたしの母親に向って何か言ったが、わたしも前艙いちのまの方へ出た。船は平橋に来て停った。われわれはごたごたおかあがった。
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
にち、このみなと外国がいこくから一そうのふねはいってきました。やがて、いろいろなふうをした人々ひとびとが、みなとおかへうれしそうにがってきました。
港に着いた黒んぼ (新字新仮名) / 小川未明(著)
男女の乗客はいずれもおかへと急いだ。高い波がやって来てはしけを持揚げたかと思ううちに、やがてお種は波打際なみうちぎわに近い方へ持って行かれた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そしてドルフが無事でおかに上がつた時、身のめぐりを囲んで、「どうも己達皆を一つにしても、おぬし一人程の値打はないなあ」
「狭いんで驚いちゃ、シキへは一足ひとあしだってめっこはねえ。おかのように地面はねえとこだくらいは、どんな頓珍漢とんちんかんだって知ってるはずだ」
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
船や馬車でやって来て、いま朝飯をやっているところです。もう少し経つと、おかのほうをもっと先まで出かけますが、夕方には帰って来ます。
船のり風には、おかに上ったというところだ。鉄屑の山々の裾を曲りくねり、鋼管の守衛詰所に立ち寄って、口髯の黒い守衛に通門票をもらった。
ダルマ船日記 (新字新仮名) / 山之口貘(著)
ただ私のいちばん大きな悲しみは、おかにいる古くからの仲間たちに、これから自分の見る神秘を話してやることができまい、ということでした。
片瀬へ着いたのは大嵐の真っ最中、忘れもしない二百十日の厄日のあくる日、おかから見ると江の島が泡の中へ湧き上がるような恐ろしい景色でした。
それで、こんどは、おかの方を見ました。すると、島のまん中ほどに、大きな、白い、まる屋根のようなものが見えました。
石段を登り切ったところで、哀れな乞食は、おかの上へあがった泥亀どろがめのように、臆病らしく四下あたりを見廻していたが、するうちまた這い歩きはじめた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それからおばあさんは、ざぶりざぶり水の中にはいって、撞木杖で小舟をおさえて、それをおかのほうへひっぱってきて、ゲルダをだきおろしました。
あひるがおかへ上がってよちよち歩くときの格好は、およそ醜い歩行の姿の典型として引き合いに出るくらいであるが
沓掛より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これはおかで探るより、船で見る方が手取てっとり早うございますよ。樹の根、いわの角、この巌山の切崖きりぎしに、しかるべきむろに見立てられる巌穴がありました。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どう今日きょう船出ふなで寿ことほったのもほんのつか、やや一ばかりもおかはなれたとおぼしきころから、天候てんこうにわかに不穏ふおん模様もようかわってしまいました。
海女同士の喧嘩は、おかぢやもつたいない。波の上といかう、波の上と……。イソギンチャクで眼をこすつて来い。
定はおかを怖れてゐたので街をうろつくことは無かつたものの、その様な夜更けには板子の上に突つつてはげしくしかし声もなく月に向つてえわめいた。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
長竿、短竿、引張釣、浮釣、船におかに何れでもやれるし、又其の釣れる期間が永いですから、釣るとして不可なる点なしで、釣魚界第一の忠勤ものです。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
東雲しののめ橋、洲崎、葛西かさい橋、小松川と東京湾へ流れ出す川口は、日曜ともなると、女子供、家族連れで、おか張りが何千人というくらいたいへんな人出になる。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
おかへ上ったら、直ぐに飲める水が有るか、ねえか、そこのところの用心だ、時候がわりの土地へ来て、うっかり悪い水を飲んじゃあ、取返しがつかねえぜ
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私はそして、あの絶壁の上から、彼女の首を抱いて海の中に飛込んだのであるが、幸か不幸か私は、彼女の首を海の中に失ったままおか匍上はいあがることが出来た。
下の方には海の色が真青に見えていて、そのずっと向うに、紫色にけむって、丁度牛のた形で、どこかのおかが見えるのです。私、時々思うことがありますわ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
洲の後面うしろの方もまた一尋ほどの流れでおかと隔てられたる別世界、まるで浮世のなまぐさい土地つちとは懸絶かけはなれた清浄しょうじょうの地であったままひとり歓び喜んで踊躍ゆやくしたが
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私がおかに上ったのは、かれこれ夜の八時頃でした。あたりには、家も人も見あたりません。いや、とにかく、ひどく疲れていたので、私はねむいばっかしでした。
高々三月か四月しかおかにいないんだから、後は寝て暮らそうとどうしょうと気儘きままなもので……それに、もらう方でなるべく年寄りのある方がいいという注文なんだから
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「なまじおかで浮かれたせいで、妙に落ちつけないんだろう。何だかみんなの影が薄いじゃないか。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
いずれも同説で、れからおかあがって茶屋見たような処に行て、散々さんざん酒をのんでサア船に帰ると云う時に、誠に手癖てくせの悪い話で、その茶屋の廊下の棚の上に嗽茶椀うがいぢゃわんが一つあった
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
『わたしは先へ帰るよ』と吉次は早々そうそうおかへ上がる後ろよりそんならわたしたちも上がる待っていてと呼びかけられ、待つはずの吉次、かたきにでも追われて逃げるような心持ちになり
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
河野氏に懇々こんこんさとされたぐらいでは折角せっかくの思い付を止めるはずがない。其夜彼等は脱獄し海上三里を泳ぎ渡り羽田からおかへ上がったが其儘そのまま何処へ行ったものかようとして知ることが出来なかった。
おかに跳び上がって、二つある岩路いわみちの左手を択んで、断崖をうねって行った。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
あの時わたしは海でなければ聞けないような音楽を聞いていましたわ。おかの上にはあんな音楽は聞こうといったってありゃしない。おーい、おーい、おい、おい、おい、おーい……あれは何?
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
罪悪の暴露を恐れて上海シャンハイした人間に再びおかを踏ませることは決してなかった。絶対に日光を見ない船底の生活、昼夜をわかたない石炭庫の労働、食物其他の虐待から半年と命の続く者は稀だった。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
向河岸の方を見ると、水蒸気に飽いた、灰色の空気が、橋場の人家の輪廓りんかくをぼかしていた。土手下から水際みずぎわまで、狭い一本道の附いている処へ、かわるがわる舟を寄せて、先ず履物はきものおかへ揚げた。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
船でおやじオウルド・マンと言うと船長のことだ。そして、船から上っておかおやじさんオウルド・マンといえば、それは直ちにわがリンピイのような港の売春宿の御亭主オウルドマンを意味する。だから、リンピイは若いくせに老人オウルド・マンだった。
将軍濡鼠のごとくなっておかに上がり、茶屋でボロ洋服を乾かす。
もう一つは「おかの獅子」と呼ばれている。魚の形をしている。
とたんにおかの方から何だかオーイオーイの声がする。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おかにいるのに、為方しかたで、水を吹き出す真似をして
組の解体は彼等をおかに上がった河童かっぱにした。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
「そいつあ豪気だ、——おかを行くかい」
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「船で参れ。おかは人目に立つ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)