貴方あなた)” の例文
「まあ、宇佐美さん、断然久し振りねエ、何んという風の吹き廻しでしょう、近頃はわたし貴方あなたの禿げ振りを夢に見て仕様が無いのよ」
青い眼鏡 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ハツ/\うも御親切ごしんせつ有難ありがたぞんじます、何卒どうか貴方あなたたくかへつてくださいまし。金「かへらんでもいからおあがりな、わつしの見てめえで。 ...
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
何時いつ貴方あなたがお堅くしておられますから、すこしは、うきうきなされるようにと、それで奥様からくだされたものでございましょう」
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
貴方あなたのお力になりましょう。そうですね、僕はさっそく明日の午前十時、白堊館へまいります。又そこでお眼にかかりましょう!」
幽霊屋敷の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
貴方あなたのように世間を広く渡っておられる方に、その理由わけというのを聞いて頂いたら、何か適当な御意見が聞かれはしまいかと思って
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「あれ、貴方あなた……お手拭てぬぐいをと思いましたけれど、唯今ただいまお湯へ入りました、私のだものですから。——それに濡れてはおりますし……」
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いいえ違いますよ」支配人バー・テンは烈しく首を振りながら、「君ちゃんは、もう貴方あなたがたのほうで、落第になってるじゃアありませんか」
銀座幽霊 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「ダンスなンて知らないわ。貴方あなたなさるの?」「少しはね」「そう、いい方があるンでしょう? それでお金がいるンじゃないの?」
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
禁止なされたのも、貴方あなたの御発意と申すことで、実業界からかる愛国の手本が出ますると云ふのは、実に近来の快事で御座りまする
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
で、貴方あなた時代じだいやうとすましてもゐられるでせうが、いや、わたくしふことはいやしいかもれません、笑止をかしければおわらください。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
助けられた恩からでございます……それにいたしましても貴方あなた様に——未来の良人のあなた様に、そのようなことを疑われましては
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わたくしが、貴方あなたのために、どんなことをしたか、どんなことをするか、それをお試しになるために、直ぐ此の自動車でいらしつて下さい!
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
いつそこりや貴方あなたに御願ひ申して、手短く書いて頂きたいと思ひまして——どうして女の手紙といふものは斯う用がもとらないのでせう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
可愛相かあいさうにねえ貴方あなたその書面しよめんによると亞尼アンニーは、弦月丸げんげつまる沈沒ちんぼついて、私共わたくしどもまぬとあまになつたのですよ。その事柄ことがら一塲いちじやう悲劇トラジデーです。
「いや六条さん。班長さんはじめ幹部の連中が、いま手が放せなくなったのですよ。貴方あなたもついでに、見合せなすったらどうですかね」
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ちゃんとわかりますわ。貴方あなたの眼で。それからあなたはまだおひとりですか? あまりだしぬけな問ですが、それとももう……」
秘密 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
貴方あなたは、んかてえとうちが淋しい淋しいツて有仰おつしやいますけれども、そりや家に病身の人がゐりや、自然しぜん陰氣いんきになりもしますわ。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
自分はもと洛中を騒がした鬼だが、余り悪戯いたづらが過ぎるとあつて貴方あなたの御先祖安倍晴明殿のために、この橋の下にふうぜられてしまつた。
貴方あなたから借りてかうと思ふんです」と云つて、改めて誠吾のかほを見た。あには矢っ張り普通の顔をしてゐた。さうして、平気に
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「よかないわ。貴方あなた不機嫌ふきげんになられて、ダンスを見る気分も壊れてしまったわ。だからお誘いしたら素直に来て下さるものよ。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その前の年は観世の河原猿楽御覧、更には、これは貴方あなたさまよく御存じの公方くぼうさま春日社御参詣、また文正ぶんしょうの初めには花の御幸。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
わたくしがこちらを持つ、貴方あなたはそちらを握って、決して離してはいけませんよ。闇でもわたしは行けるから、恐れることはありません。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「じゃ、貴方あなたがたが御覧になった石橋さんという方の、欠点とでもいったようなものは……一口にいったら、どんなところでしょうか?」
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
三百円やそこらの端金はしたがね貴方あなたの御名誉をきずつけて、後来御出世の妨碍さまたげにもなるやうな事を為るのは、私の方でもして可好このましくはないのです。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
はからずも貴方あなたの御助けに預かりし事まことに有難く存じ奉つる此御恩このごおん生々しやう/″\世々せゝ忘却ばうきやく仕まつらず候と夫婦諸共もろともに涙を流して申しけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「なんですよ、あんまり貴方あなたの評判がいゝもんですから、さういふ方ならぜひ一度自宅うちでも診ていたゞきたいと思ひましてね」
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
だしに使ったわけ。……だけど、貴方あなたはべつですよ。貴方には、私がほかに用事があるから誘ったんです……。だから、怒らないで下さいね
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしたらある晩、学校から帰って来たX君をつかまえて、奥さんが「貴方あなたこの頃ずっと顔色が悪いようだが、どこか悪いのじゃありませんか」
百科事典美談 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「気狂いのくせにバタが欲しいなんて斯んな僭越せんえつな奴があるでしょうか、ねえ貴方あなた……」ひどくれ馴れしく斯う言い乍ら
(新字新仮名) / 坂口安吾(著)
批評家ツてものは口が悪いの子、貴方あなたの作を浅薄だの軽浮けいふだのと失敬だワ。わたしは貴方の小説が一番好きよ、肩が張らなくツて読心よみごゝろが好いツと。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
貴方あなたはお気の毒ながらたいへん醜いおかたゆえ、私のところにとどまっていただこうとは思いませぬから、ほんとうのことを申しますが、実は
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
恋しいあなたがただお一人のみゆえこんなにも悲しむのです、というので、この歌の「人」は貴方あなたというぐらいの意味である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「どんな事と云って、そう一口には申せませんがな。——しかし、貴方あなたがたは、そんな話をお聞きなすっても、格別面白くもございますまい。」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
出版所の秘書が云いにくそうに「これでは、ひょっとすると、Lord すなわち貴方あなただと読者が思うかもしれませんが」
レーリー卿(Lord Rayleigh) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「まあ、貴方あなたでしたか。ほんとによくいらつしやいました。先刻さつきから皆さんがお待兼でいらつしやいますよ。」と招じた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
貴方あなたは、このへやにどうして調度が少ないのか、お訊きになりたいのでしょう」鎮子が最初発した言葉が、こうであった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「この際、しかしはありませんよ。これは意志の問題なんで、貴方あなたの学んだパリのソルボンヌ大学では、どういう教育をしたか存じませんがね」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
余所目よそめにもうらやまるゝほどしたしげに彼れが首に手を巻きて別れのキスを移しながら「貴方あなた、大事をおとりなさい、うちにはわたくしが気遣うて待て居ますから」
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
貴方あなたに書き直しさせたと言って、この二、三日大自慢で、それだけ、私は、小さくなっていなければならず、まことに味気ないことになりました。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
貴方あなたの心は近頃大変に若やいで来た。それわかつて居る。年寄つた自分にあきが来て、あのアルマンに移つてくのでせう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「あら、本当ほんと? 本当ほんとに買って来て下すったの? まあ、嬉しいこと! だから、貴方あなたじつが有るッていうンだよ……」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そりゃあ貴方あなた、わたくしだって、人を縛るばかりが能じゃあない。時にはこういう立役たちやくにもなりますよ。はははははは
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
貴方あなたは——』と言ふより早く、智惠子の手は突然男の肩に捉まつた。烈しい感動が、女の全身に溢れた。強く強く其顏を男の二の腕にこすり附けて
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
貴方あなたも御存知のように、僕は世間知らずの一介の貧乏画家だし、言葉の使用法にあまり敏感なたちじゃありません。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
銅貨の中へ混ぜて、貴方あなたがこれを私にくれて、顔を赤くしながら逃げるようにして走って行ったのを、今でも覚えていますよ。私はそれから、この指輪を
喫煙癖 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
あいちやんはすこぶ失望しつばうしてだれかにたすけてもらはうとおもつてた矢先やさきでしたからうさぎそばたのをさいはひ、ひく怕々おど/\したこゑで、『萬望どうぞ貴方あなた——』とひかけました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「わたくしはもう京をはなれることがございませんが、それでいいのでしょうか。わたくしの貴方あなたにお聞き申したいことはただ一つそのことでございます。」
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
竹取翁 何を云っておられるのかな?……わしにはどうも貴方あなたのおっしゃることがよくのみ込めんのじゃが……
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「別に何にも怪しい物音などは聞きませんでした。貴方あなたも一度お起きになったようじゃァございませんか」
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
何うか、貴方あなたが来たのを機会に、昔のやうには行かなくとも、本堂も修繕し、庫裡くりももう少し住み好いやうにし、寺としても余り人に馬鹿にされない寺にしたい。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)