おとず)” の例文
年に一度の歓会しかない七夕たなばた彦星ひこぼしに似たまれなおとずれよりも待ちえられないにしても、婿君と見ることは幸福に違いないと思われた。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
実家さと両親りょうしんたいへんにわたくしうえあんじてくれまして、しのびやかにわたくし仮宅かりずまいおとずれ、鎌倉かまくらかえれとすすめてくださるのでした。
ですから、ここをおとずれる人々は芝生をりとらせました。はだの見える地面が、大きな文字や名前となって現われています。
それからまた一ねんたって、二めのはるおとずれてくる時分じぶんには、保名やすなむすめあいだにかわいらしい男の子が一人ひとりまれていました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
一人の比丘尼びくにおとずれて来た。女中が「お比丘尼さまがお見えになりました」といって丁寧に取次いだ。会ってみると、姿を変えたさきの少女である。
迎える門は、水を打ち、くりや(台所)をきよめて、気をつかっていたが、やがて、どやどやおとずれる方は、一歩前まで、勝手な放談を楽しみつつやって来た。
私の屡しばおとずれたところのそのヴィラは、数年前に最後に私の見た時とはすっかり打って変っていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
辛抱しんぼう辛抱しんぼうかさねてたとどのつまりが、そこはおんなみだれるおもいのがたく、きのうときょうの二つづけて、この仕事場しごとばを、ひそかにおとずれるになったのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
お六の家をおとずれるのは、浜路にとっては初めてであった。恋人宗三郎の目的が、道人探しにあると聞くや、思い出したのは彦兵衛の事、道人の住居を知っているらしい。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とわめきながら、四辺あたりあるきまわりました。そして、しまいには一けんけん、よそのうちおとずれて
少年の日の悲哀 (新字新仮名) / 小川未明(著)
時あって是よりニライをおとずれたという語が、後世にもくり返されていたごとく、セヂがニルヤの使者によって、人界にもたらされるという信仰は、なお久しい間続いていた。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
春のおとずれを最も早く感ずるのは、あらゆる野草のうちで福寿草が一番早いような気がします。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
第十五夜のリューネブルク、第二十五夜のフランクフルトには一八三三、四年におとずれている。
絵のない絵本:02 解説 (新字新仮名) / 矢崎源九郎(著)
彼はもう間もなくおとずれて来るに違いない。あたしはまた鏡に向って、髪かたちをととのえた。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこへ、ガラッ! 威勢いせいよくおもての格子こうしがあいて、聞きれない人のおとずれる声がする。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
武蔵野の家族が斗満とまむおとずれた其二周年が来た。かりは二たび武蔵野の空にいた。此四ヶ月の間には、明治天皇の崩御ほうぎょ乃木翁のぎおう自刃じじん、など強い印象を人に与うる事実が相ついだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
おなじ里の某氏の許をおとずれ、古今のよもやまばなしをしてはなしに興がのってきたとき、壁一重へだてた隣室から、人の苦しそうなうめき声が聞えてきて、いかにも可哀そうだったので
しかし空は青々と、吾々のおとずれに味方してくれた。どこの細道も知りぬいている人力である。小路こうじをぬって目指す町へと向った。だがある横町を過ぎた時、はたと私たちの眼に映ったものがある。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
まことに不自由な花のようだが、実はそれがそう不自由でないのはおもしろいことではないか。なんとなれば、そこには花粉の橋渡はしわたし役をつとめるものがあって、えずこの花をおとずれるからである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
彼は一人うなずいてから、山間さんかんの森の中に山の神をおとずれました。
コーカサスの禿鷹 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
落城後らくじょうごわたくしがあの諸磯もろいそ海辺うみべ佗住居わびずまいをして時分じぶんなどは、何度なんど何度なんどおとずれてて、なにかとわたくしちからをつけてくれました。
今夜の月のおとずれはあまりに短いものでした。しかしわたしは、人からいやしまれているその狭い小路に住む年とった婦人のことを考えてみました。
かがみのおもてにうつした眉間みけんに、ふかい八のせたまま、ただいらいらした気持きもち繰返くりかえしていた中村松江なかむらしょうこうは、ふと、格子戸こうしどそとひとおとずれた気配けはいかんじて、じッとみみすました。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
秀吉のおとずれも、実に無造作むぞうさな突然であったが、景勝の迎え方も、虚飾きょしょくのない率直さであった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小僧こぞうさんは、こんなにしてたおれていたけれど、ときどきおもしたように電車でんしゃのうなりおとおとずれてくるほかは、だれもそばへよってきて、ようすをたずねるものもありませんでした。
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
かりそめにも京へ出ることをせず、物思いをしてこもっていることを知って、世間の人も故人を薫が深く愛していたことを知り、宮中をはじめとして諸方面からの慰問の使いが山荘を多くおとずれた。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
友だちのところをおとずれることも、まれであった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは、この一行のだれもが考えていることでした。だから赤々と輝く暁の光は、ふたたびおとずれてくるであろう幸運の太陽の福音ふくいんのように思われたのです。
ある敦子あつこさまがわたくしもとおとずれましたので、わたくしからいろいろいきかせてあげたことがございました。
東叡山とうえいざん寛永寺かんえいじ山裾やますそに、周囲しゅういいけることは、開府以来かいふいらい江戸えどがもつほこりの一つであったが、わけてもかりおとずれをつまでの、はすはな池面いけおも初秋しょしゅう風情ふぜい
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
また、おりふしおとずれた白髯はくぜん高士こうし意見いけんもここにくわわっているのである。その高野の僧の名は明かしがたいが、高士の名はあかしてもよい。それは、鞍馬くらま隠士いんし僧正谷そうじょうがたに果心居士かしんこじである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、三がつ季節きせつとなりました。はるがこのむらにもおとずれてきたのであります。
村へ帰った傷兵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、兼好法師のおとずれを彼に取次いだ。それは、彼にも意外だったに相違なく
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はるのころ、一この谷間たにまおとずれたことのあるしじゅうからは、やがて涼風すずかぜのたとうとする今日きょう谷川たにがわきしにあったおないしうえりて、なつかしそうに、あたりの景色けしきをながめていたのであります。
谷間のしじゅうから (新字新仮名) / 小川未明(著)
「漁師の家と見える、ひとつ、おとずれてみよう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六星、だんに誓う門外に、またおとずれる一星のこと
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのとき、庵の外で、おとずれがしていた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東北にはすでに早い秋がおとずれている。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、おとずれらしいぞ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)