しらみ)” の例文
人目を避けて、うずくまって、しらみひねるか、かさくか、弁当を使うとも、掃溜はきだめを探した干魚ほしうおの骨をしゃぶるに過ぎまい。乞食のように薄汚い。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのまぐさを積んだような畳の中央にしらみに埋まったまま悠々と一升徳利を傾けている奈良原を発見した時には、流石さすがの僕も胸が詰ったよ。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「えらいしらみでな。風呂へ入れるいうて着物べゝ脱がさはつたら、大変や。身体中一面真赤に腫れ上つててな、見られしまへんどしたんえ。」
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
それが、三年經つた此年の夏あたりから、又もや江戸に舞ひ戻つて、荒し殘した大町人有名人の家を、しらみつぶしに荒し始めたのでした。
えつやの髪にしらみがいっぱいたかっていたことを、母が呆れたように云っていたのを覚えている。家の玄関には大きな姿見が置いてあった。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
一事に取り懸ると、その関頭を越えるまでは、体が垢にくさくなろうが身にしらみを見ようが、幾十日でも平気でいる習慣の良人である。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼らは列を作った機械の間へしらみのように挟まったまま錆びを落した。機械を磨く金剛砂が湿気のために、ぼろぼろと紙から落ちた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「ホホウ、娘に虫がついた。恋ごろも土用干しせぬ箱入りのむすめに虫のいつつきにけむ……やはり、のみしらみの類でもあるかな?」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
できるならば片端からしらみつぶしに調べて行って、そうしてそれらの現象の中に共通なる何物かを求めることが望ましく思われる。
量的と質的と統計的と (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あまり清潔な名ではないが、日本の浄瑠璃本にも、しらみ本なんていうのがあるから、おしめ本だって、そんなに遠慮する事はない。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
所が此奴こいつきたないとも臭いともいようのない女で、着物はボロ/\、髪はボウ/\、その髪にしらみがウヤ/\して居るのが見える。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そこで庭球部からすごい苦情が出て、さあ誰が昨日最後にラケットを握つたかをしらみつぶしに突きつめられた果、私の不注意といふことになり
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
むかしひとは、しらみとなじみがふかかつたゝめに、なんでもなく、かういふうたつくつてゐます。そしてきたならしいあの昆蟲こんちゆうにくんでばかりもゐません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
木のやはらかい処や葉の裏には数へる事も出来ない位にびつしりくつつき合つて、真黒なびろうどのやうなしらみがしつかりくつついてゐました。
また付近の住宅をしらみつぶしに調べて行けば、まだ十二時前だったのですから、この辺を歩いていた人がないとも限りません。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこは、ルンペンプロレタリアがサンパン押しとして、しらみのように、ウヨウヨ小さな家の中に詰め込まれていた。そこは、昼も夜もなかった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
米粒の小さいやうなもので、こまかいこまかい足が生えてゐて、陽のさす方へうぢうぢとつてゆく。それはしらみであつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
しきりに身体をかいているが、しらみでもいるのだろう。稲垣足穂に寝台をとりあげられるようでは、虱も仕方がなかろうと、おかしくて仕方がない。
しらみだった。中からいでてきたらしかった。首筋を明るいところまでくると、ちょっと迷ったとでもいうふうに方向をかえて、襦袢じゅばんえりに移った。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
予行年ようやく五旬になりなんとして適々たまたま少宅有り、其舎に安んじ、しらみ其の縫を楽む、と言っているのも、けちなようだが、其実を失わないで宜い。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しらみひねる事一万疋に及びし時酒屋さかや厮童こぞうが「キンライ」ふしを聞いて豁然くわつぜん大悟たいごし、茲に椽大えんだい椎実筆しひのみふでふるつあまね衆生しゆじやうため文学者ぶんがくしやきやう説解せつかいせんとす。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
そして、寒いのでするのか、それとも、しらみが湧いているのか、絶えず身体からだと着物とをこすり合わせるようなことをしたり、着物の上から撫でたりした。
再度生老人 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
春江の客や情人じょうじんの探索が、しらみつぶしに調べられて行った。岡安巳太郎や、岩田の京ぼんも、調べられた一人だった。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「仕方がないから、襯衣シャツを敷居の上へ乗せて、手頃な丸い石を拾って来て、こつこつたたいた。そうしたらしらみが死なないうちに、襯衣が破れてしまった」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分の身体にくっついたしらみを怨む前に、まず私どもは虱をつけている自己の身体の不潔を反省せねばなりません。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
それからさらに、ルピック氏は、彼のもじゃもじゃの頭髪あたまへ手を通し、そして、しらみでもつぶすように爪をぱちんと鳴らす。これが、先生得意の戯談じょうだんである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
それらの弱い醜い貧しいきたなみじめな者たちを、くつかかとのすり切れたしらみだらけの従僕を、重々しく窓に押しかけてる無格好なおびえてる顔つきの者どもを
黒眼鏡をかけたスパイは、スパイとして使ひものにならないのと同樣に、所謂「詩人らしい」虚榮のヒステリズムは、文學の不潔なしらみだとさへ思つてゐた。
郷愁 (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
しらみがわいたとかで、つむりをくりくりとバリカンで刈ってしもうた頭つきが、いたずらそうに見えていっそう親の目にかわゆい。妻も台所から顔を出して
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
彼はほろ酔い機嫌で町なかを歩いていると、垣根の下の日当りに王鬍ワンウーがもろ肌ぬいでしらみを取っているのを見た。たちまち感じて彼も身体がむずがゆくなった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
『新増犬筑波いぬつくば集』に「秘蔵の花の枝をこそ折れ」「引き寄せてつぶり春風我息子」「しらみ見るまねするは壬生猿みぶざる
「出られるんじゃないかしら。きっとしらみだらけになって来ると思って、ちゃんと着物を用意しているんだけれど……こないだ行って親子丼をたべさせて来た」
一九三二年の春 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
いつもどこかの粗朶そだ置場か納屋に寝る。風呂へはいることなどはむろんないし一年じゅう顔を洗うこともない、しらみだらけである、——それがこのお繁なのだ。
お繁 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おやじは、また、郭進才の場合のように呉の床箆子の附近をさがしまわって、破った、しらみのいる肌着が一枚丸めて放ってあるのをつまみ上げ、舌打ちをした。
国境 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
ここにその矢を持ちて奉りし時に、家に率て入りて、八田間やたまの大室一一に喚び入れて、そのかしらしらみを取らしめたまひき。かれその頭を見れば、呉公むかでさはにあり。
僕は一週間たたない内に、「しらみ」といふ短篇を希望社へおくつた。それから——原稿料の届くのを待つた。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
谷間たにあひゆゑ雪のきゆるも里よりはおそくたゞ日のたつをのみうれしくありしに、一日あるひあなの口の日のあたる所にしらみとりたりし時、熊あなよりいで袖をくはへて引しゆゑ
こうして牢畳の上で日向ぼっこをしてしらみをとっているまでのことでございます、をあげろとおっしゃるなら、いつでも兵助相当の音をあげてごらんに入れます
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しらみを殺す位の小さな罪を非常に恐れてからして遠廻りする位の事をやって居ながら、男色だんしょくふけるとか牧畜ぼくちくを遣って生物いきものを殺すような仕事をして居るではないか。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
紀昌は再び家にもどり、肌着はだぎ縫目ぬいめからしらみを一匹探し出して、これをおのかみの毛をもってつないだ。そうして、それを南向きの窓にけ、終日にららすことにした。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
曲亭馬琴と署名して「春の花しらみの道行」を耕書堂から出版したのは、それから間もなくのことであったが、幸先よくもこの処女作は相当喝采を博したものである。
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「さあ、その点までまだよくわかりません、今、それらしいところをしらみつぶしに探しているところです」
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「それも反物たんものつてるのをらしてさうだよ、それからもつとやすくも出來できるのさ、むらみせなんぞぢやぜにばかりとつてしらみもぐさうなのでね」内儀かみさんは微笑びせうした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
花弁はなびらが一輪ヒラ/\/\と舞込みましたのをお嬢さんが、斯う持った……圓朝わたくし此様こんな手附をすると、宿無やどなししらみでも取るようで可笑おかしいが、お嬢さんはほっと溜息をつき
姉さまのお顔に戦災で引つれができてゐるわけでも、片眼がつぶれておいでのわけでも、しらみだらけの乞食こじきのなりをしておいでのわけでも、またはそれとあべこべに
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
「だから、白状すると、犯人はこの僕じゃないということになるんだ。僕が、どうしてるもんか。君は、この女を、人世のしらみを——僕がひねり潰したとでも云うのかね」
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
門司へ着くまで、その柊の枝はとても生々していました。門司から汽船に乗ると、天井の低い三等船室の暗がりで、父は水の光に透かしては、私の頭のしらみを取ってくれた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
が、それはまだ我慢もできるとして、どうにもこうにも我慢のできないのは、少し寝床の中がぬくまるとともに、のみだかしらみだか、ザワザワザワザワと体じゅうを刺し廻るのだ。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
と重吉やかやとも相談してしらみだらけの着物をぬがせ、頭を坊主にして家へ入れたのであった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
それから大声で(それは麦畑の穂の列を吹き抜けて行く、乾いた快い風のやうな響きを帯びてゐた)彼の持牛についたしらみをとる薬はやはり人間にも同じがあるのかね
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)