つと)” の例文
つとに入れたは何だか知らねえ、血で書いた起請きしょうだって、さらけ出さずに済むものか、と立身上たつみあがりで、じりじり寄って行きますとね。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ナットノオトコ 越後の各郡では歳の暮に納豆を寝せるのに、藁を引き結んだものをそのつとの中に入れ、これを納豆の男といっている。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ひとりの百姓が、竹竿の先にとりの蒸したのをつとにくるみ、それを縛って、肩にかつぎながら、寄手の曹操の陣門近くをうろついていた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
畠を耕して自給自足の生活を初めると同時に、小川の魚を釣って干物にしたり、木の実を煮てつとに入れたりして、冬籠ふゆごもりの準備を初めました。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
情熱だけが濡れた唇に遺って風が吹いて、つとの花がふらふら揺れるときには一層悩ましそうに見える。そしてこの花はこういってるようである。
唇草 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
庭にほうり出されたあのおみやげのわらつとを、かさかさ引いた、たしかにその音がしたとみんながさっきも話していました。
とっこべとら子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
六茎を括りつけていないのはない、猟士の山帰りのつとにも、岩魚を漁るかますの中にも蕗が入れてある、同じく饗膳に上ったことは、言うまでもない。
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
茄子なすび大根の御用をもつとめける、薄元手を折かへすなれば、折からの安うてかさのある物より外はさをなき舟に乘合の胡瓜、つとに松茸の初物などは持たで
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
冥途よみじつともたらし去らしめんこと思えば憫然あわれ至極なり、良馬りょうめしゅうを得ざるの悲しみ、高士世にれられざるの恨みもせんずるところはかわることなし、よしよし
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そういうことに役に立てばはなはだ満足ですといって、早速書生さんにつとを拵えさせ、一匹ずつ入れて、両方になわを附けて、げて持てるようにしてくれました。
と一生懸命に組付いて長二の鬢の毛を引掴ひッつかみましたが、何を申すも急所の深手、諸行無常と告渡つげわたる浅草寺の鐘の冥府あのよつとあえなくも、其の儘息は絶えにけりと
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
貧乏なお婆さんと見え、冬もボロボロのあわせを重ねて、足袋たびもはいていないような、可哀かあいそうな姿をしておりました。そして、納豆のつとを、二三十持ちながら、あわれな声で
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
メロンは唐茄子なすのやうな形も中味の色もつた真桑瓜まくはうりに似た味の瓜で氷でひやしてあるのを皮を離して砂糖を附けて食べるのである。五しきの藁のつとなかば包まれた伊太利亜イタリアの赤い酒も来た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
つとをやうやく破つたばかりの、白つぽいやうな芽だの、赤味を帯びたやうなものだの、紫がかつたものだの、子供等は道ぐさ食ひながらさういふ木の芽をぽきりと摘んで口の中でもてあそぶものもゐる。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
竹のつとしきり散らへり日向辺の音のかそけきのはひりかも
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
袖にむものならませば鶯のこゑや都のつとにしてまし
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
つと割れば笑みこぼれたり寒牡丹かんぼたん
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
黙って背後うしろから、とそのうなじにはめてやると、つとは揺れつつ、旧の通りにかかったが、娘は身動きもしなかった。四辺あたりにはたれも居ない。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今でも覚えているのは旧十月のの日の晩に、と称して新藁しんわらで太いつとを巻き立て、地面を打ってまわる遊びがあった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
出前でさきらしい容子に気づいて、環は、急に長座を詫び、たずさえて来た土産物みやげものの山繭織まゆおり一反と、山芋のつととを、奥へ渡して
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虫を捉えて食べるという苔、実の頭から四つの羽のつとが出ている寄生木やどりぎの草、こういうものも翁には珍らしかった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
茄子なすび大根だいこの御用をもつとめける、薄元手を折かへすなれば、折からの安うてかさのある物よりほかさほなき舟に乗合の胡瓜きうりつと松茸まつたけの初物などは持たで
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おどして抱いて寝る積りで、胡麻の灰の勇治がすらり抜くと山之助も脊負しょっているつとから脇差を出そうかと思ったが、いや/\怪我でもしてはならぬ大事の身体と考え直して
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それから、買う時につとをのぞいて、一目でよしあしを見わけるのは大抵江戸ッ子である。
私達は、又学校へ行く道で、納豆売のお婆さんにいました。その日は、吉公きちこうばかりでありません。私もつい面白くなって、一銭で二銭のつとだまして取りました。すると、ほかの友達も
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
かんなを持つては好く削らんことを思ふ心の尊さは金にも銀にもたぐへ難きを、僅に残す便宜よすがも無くて徒らに北邙ほくばうの土にうづめ、冥途よみぢつとと齎し去らしめんこと思へば憫然あはれ至極なり、良馬しゆうを得ざるの悲み
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
竹のつとしきり散らへり日向辺の音のかそけきのはひりかも
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
正月の十五日、または二月十月の月半ばなどに、わらで作った馬に餅団子もちだんごつとを背負わせて、それをこの神の石像の前へ子供に持って行って供えさせる。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
茄子なすび大根だいこ御用ごようをもつとめける、薄元手うすもとでをりかへすなれば、をりからやすうてかさのあるものよりほかさほなきふね乘合のりあひ胡瓜きうりつと松茸まつたけ初物はつものなどはたで
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして昼間ひろげていたいのこの露店をしまい、猪の股や肉切り庖丁などをつとにくくって持つとまた馳けだした。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すぐまへなるはしうへに、頬被ほゝかぶりした山家やまが年増としまが、つとひらいて、一人ひとりひとのあとをとほつた、わたしんで、げて、「おほき自然薯じねんじようておくれなはらんかいなア。」
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と云ったが敵に逃げられては成らぬと云うので富川町の斯々これ/\斯々と聞くや否や飛立つばかりの喜びで、是からぐに巡礼の姿に成って、つとの中へ脇差を仕込み、是を小脇に抱え込んで飛出し
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「一銭のつとですか、二銭の苞ですか。」と言いました。
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
家のつと卵ほどなる大きなる瑪瑙の玉は妻にぶべし
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
つとからポンと出たとこ勝負、ものは何でも構わねえ、身ぐるみ賭けると、おじいが丁で、わっしが半。」
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鵜匠は、突然云い出して、頼朝の帯びている刀を、自分の携えている山芋やまいもつとへ入れ代えてくれた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ツトクズシ 巻蒲鉾まきかまぼこのことを、肥前の唐津からつなどではそういう。クズシは西国一般に魚の肉をたたいて集めたもの、すなわち東で蒲鉾というもののことで、それをつとで包むから苞クズシである。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
百姓は、鶏のつとを刺していた竹のふしを割って、中から一片の密書を出して曹操の手へ捧げた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けてながめうとおもはなを、つとのまゝへやかせていて、待搆まちかまへたつくなひのかれなんぢや! つんぼの、をうしの、明盲人あきめくらの、鮫膚さめはだこしたぬ、針線はりがねのやうな縮毛ちゞれつけ人膚ひとはだ留木とめきかをりかはりに
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「嫌いではないけれど、つとに入れたり、籠に入れたり、鶯が可哀そうですもの。籠に入れて飼わなくても、ひろい天地に放しておけば、いくらでもを聞かしてくれるでしょ……」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
都鳥と片帆の玩具おもちゃつとに挿した形だ、とうっとり見上げる足許あしもとに、蝦蟇ひきがえるが喰附きそうな仙人掌サボテン兀突こつとつとした鉢植に驚くあとから、続いて棕櫚しゅろの軒下にそびえたのは、毛の中から猿が覗きそうでいながら
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「愛くるしい娘だ。その芋のつと、持っているだけ求めてやるがよい」と、言った。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
、旅薬のつとと間違えて、そちの手から、あの雨露次の妻へ与えてしもうたらしい
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
権三は腹巻をゆすぶッて、革のつとにつつまれた一封の書状を出して示しながら
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
惜しそうに吉千代は田螺のつとを捨て、手を洗ってその手を袴でこすった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つとにくるんだ土民の衣裳やら草鞋わらじなどであった。牛若の衣裳はすべて脱がせ、代りにそれを着せて、むさいぼろきれで顔をつつんだ。背には背荷せお梯子ばしごとよぶ物をしょわせて、短い山刀を腰にさして与えた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日吉は、泥だらけな手に、泥だらけなわらつとを下げていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つとの鶯のように、この冬は、城の外へ出なかった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、つとに入った長芋ながいもを老爺にくれた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、つとを出して見せた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)