艶々つやつや)” の例文
旧字:艷々
赤い布のかかった艶々つやつやしい髪の下、栞の肩へ、老人の白髪しらが頭が載っている。白芙蓉のような栞の顔が、頬が、老人の頬へ附いている。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
荒廃したほの暗い金堂の須弥壇しゅみだん上に、結跏趺坐けっかふざする堂々八尺四寸の金銅坐像ざぞうであるが、私は何よりもまずその艶々つやつやした深い光沢に驚く。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
かく言ひつつ彼は艶々つやつやあからみたる鉢割はちわれの広き額の陰に小く点せる金壺眼かねつぼまなこ心快こころよげにみひらきて、妻が例の如く外套がいとうぬがするままに立てり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
炉辺ろばたは広かった。その一部分は艶々つやつやと光る戸棚とだなや、清潔な板の間で、流許ながしもとで用意したものは直にそれを炉の方へ運ぶことが出来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「花も散ったが、お門辺かどべ箒目ほうきめ立って、いつもおきれい。部屋も縁も、艶々つやつやと明るう、御主人が留守とも見えぬ。……いや、陰膳かげぜんまで」
帯腰のしなやかさ、着流しはなおなよなよして、目許めもとがほんのりと睫毛まつげ濃く、つぼめる紅梅の唇が、艶々つやつやと、しずかびんの蔭にちらりと咲く。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
化粧をしないおせいの顔が艶々つやつやと光つてみえる。富岡は、魂のないうつろ眼差まなざしで、おせいのどつしりとした胸のあたりを見てゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
珠子は、果して大悦おおよろこびだった。私の予期した以上の悦び方だった。私の両手を握って見較みくらべ、以前よりも艶々つやつやしてきたと褒めた。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
艶々つやつやしたる島田髷しまだまげも少しとけかかり、自由自在に行きつもどりつして泳ぐさまは、たつの都の乙姫おとひめが、光氏みつうじを慕って河に現じたり。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その少女は艶々つやつやしたおびただしい髪毛かみのけを、黒い、大きな花弁はなびらのような、奇妙な恰好に結んだのを白いタオルで包んだ枕の上に蓬々ぼうぼうと乱していた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
マリユスの美しい髪は艶々つやつやとしてかおっていた。その濃い巻き毛の下には所々に、防寨ぼうさいでの創痕きずあとである青白い筋が少し見えていた。
顔色も白く透きとおるようになっただけでくろずんでは来なかったし、体も、痩せ細ってはいたものの手足にしまいまで艶々つやつやしさが残っていた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
都を立出でて、既に六十日、今や盛夏を告げ顔なる、蝉や、ひぐらしの声などが聞える。それにしてもこの艶々つやつやしい池の畔の草木の緑葉の眺めかな。
森の妖姫 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あの艶々つやつやしい黒髪としなやかな白い肌、その美しい肉体のなかに、どうしてこんな下劣な魂が宿ってるのであろうかと不思議でならなかった。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
秀三郎は、友達の浅黒い、艶々つやつやした肌を見る度に、自分の毛深かさに対して、子供心にも、激しい嫌悪を感ずるのでした。
足の裏 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
大きい石で畳んだ路が、日に照らされて艶々つやつやして、何だかすべっこい工合に町の中へ上っている。しばらくして、僕たちはその方へ降りて行った。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
と、横蔵が、恨みがましい言葉を口にしたように、何よりフローラは、彼の艶々つやつやしい髪の毛に魅せられてしまったのだ。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その光で見ると、白麻のきぬ黒絽くろろ腰法衣こしごろも。年の頃四十一二の比丘尼びくに一人。肉ゆたかに艶々つやつやしい顔の色。それが眼の光をけわしくしているのであった。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
濃いまゆ、大きな目、デップリと太った、如何にも重役型の紳士であったが、いつも艶々つやつやと赤らんでいる豊頬ほうきょうも、今日は色を失っているように見えた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
重たげに艶々つやつやしい若衆まげ、黒く大きく切れ長な目、通った鼻梁はなばしらほころびる紅花にも似てえましげな唇、そして白つつじをかざした手のあのしなやかさ!
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
塩基性輝石安山岩の岩側は、数千万年の風湿のために研磨されて艶々つやつやとした滑肌なめはだになり、黒曜こくよう石のようなどっしりとした深みのある光沢を持っていた。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いなせに刈ったばかりの角がりのほおのあたりに肉つきが眼につくほど好くなって、浅黒い顔が艶々つやつやと光っている。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
あたかも私の友人の家で純粋セッター種のが生れたので、或る時セッター種の深い長い艶々つやつやした天鵞絨ビロードよりも美くしい毛並けなみと、性質が怜悧りこう敏捷すばしこく
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
しかもそのあらわにした胸! 赤い篝火かがりびの光の中に、艶々つやつやうかび出た二つの乳房ちぶさは、ほとんどオルガンティノの眼には、情欲そのものとしか思われなかった。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
悪阻つわりの軽かったかれは、ほとんど臨月の姙婦とは見えないほどにすこやかであった。その顔色も艶々つやつやしかった。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二人とも有名なドーヴィル愛好者だ。カルタをして居るボニ侯爵は年の割に艶々つやつやして居る。容色の為午前二時より以上夜更よふかしをせぬ真剣な洒落しゃれものだ相だ。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
湯上りらしく、その顔は、白絹か何かのように艶々つやつやしく輝いていた。縮緬ちりめん桔梗ききょうの模様の浴衣ゆかたが、そのスッキリとした身体の輪廓りんかくを、艶美えんびに描き出していた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
艶々つやつやしい頭髪かみの中から抜き取ったのが、四寸ばかりの銀の平打ひらうちかんざし。これが窮したあげくの思案と見えて
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さと顔打ちあかめて、ランプの光まぶしげに、目をそらしたる、常にはあおきまで白き顔色いろの、今ぼうっと桜色ににおいて、艶々つやつやとした丸髷まるまげさながら鏡と照りつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
家主いえぬしの婆あさんなんぞは婆あさんでも最少もすこ艶々つやつやしているように思われるのである。瀬戸はこう云った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
艶々つやつやした鮮紅色の石榴ざくろの花が、家を取りかこむ濃い緑の木立の間に咲いている所は、まことに美しい。
おときはいそいそと台所に立って行って、塗盆ぬりぼんの上に四つのせてある柿に庖丁を添えて持って来た。艶々つやつやした果実の肌は、あかりの下にくもりのない色を光らせた。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
喉元のどもとから胸へ流れる、嬌めかしい丸みの極まるところに、梅のつぼみのような乳首をつけてふっくりと固く盛上る乳房——どこに一点の塵もなく、ぬめのように艶々つやつやとした皮膚は
嫁取り二代記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
男は二十二三の艶々つやつやしい皮膚をした、外国人に負けない背のすらりと高い、肩はばも広い運動選手風の大学生で、女は十八九のこれも体格のいい、新鮮なピチピチした肢体したい
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
私は朝飯前から畑へ出て丹精の植物うゑものながめ、艶々つやつやした葉の緑の吹流し見た様なところ、アツサリした茶色の髪が奇麗に垂れた間から黄金色の実の見える塩梅あんばいなどをト見カウ見して
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
ただ艶々つやつやしく丸髷まるまげった年増としまかみさんが出て来て茶を入れたことだけは記憶して居る。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
無帽の黒い艶々つやつやとした髪が女の児のように房々と波打っている様子と言い、睫毛まつげの長いパッチリとした涼し気な眼がさかし気に今涙を含みながらみはっている様子と言い、青白い頬
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その雪のような白いえり、その艶々つやつやとした緑の黒髪、その細い、愛らしい、奇麗な指、その美しい花のような姿に見とれて、その袖のうつり香にたれて、何もかも忘れてしまい
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
葉子は和らぎかけた人々の気分にはさらに頓着とんじゃくなく、壁に向けていた目を貞世に落として、いつのまにか寝入ったその人の艶々つやつやしい顔をなでさすりながらきっぱりといい放った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
夫人の頬は、新鮮な果物のように、艶々つやつやしく、黄金きん色の生毛うぶげが、微かに光っているし、その腰は、典雅な線で、その豊満さを現しているし、それから、その下肢は、張切って、滑かだった。
ロボットとベッドの重量 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
黙ってしきりに麦酒をほしていたらしい吉良兵曹長が、身体からだをずらして私の正面にむきなおった。もはや上半身は裸になっていた。堅そうな、筋肉質の肩の辺が、汗にぬれて艶々つやつやと光った。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
艶々つやつやした血色の上瞼の脹れぼったい凡俗な顔、皮膚が黒ずんで目鼻立の粗い、恐らくは口中が臭そうな容貌、又は、頬から口の辺にかけて肉の薄い、粘液質らしいすべすべした皮膚の持ち主。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その艶々つやつやした卵形の顔にいつも剽軽な笑ひを漂はせてゐる人物である。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
老兵士みたいな灰色の口ひげを生やし、赤筋の立った薄青いぼんやりした眼をし、眼の下の眼瞼まぶたが落ちくぼみ、頬はいつも汗ばんで柔らかで艶々つやつやしていて、神経痛の足を引きずり加減に歩き、息が短く
加野はなつかしい気がして、何の匂ひだらうかと鼻をうごめかしてゐたが、椿油つばきあぶらの匂ひだと思ひ当つた。ゆき子の髪が艶々つやつやと光つてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
一筋の日光が落ちかかって、首を下げている浪江のうなじの、後れ毛を艶々つやつやしく光らせていたが、いたいたしいものに見えなされた。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
髪だけは艶々つやつやと島田に結っていました。色の白い吃驚びっくりするほど人柄な、その若いのが、ぽッと色を染めて、黙って手をついた頸脚えりあしが美しい。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
深い谿谷たにあいの空気にまれたお母さんの頬の皮膚の色は捨吉が子供の時分に見たまま、まだ林檎りんごのような艶々つやつやとした紅味も失われずにあったが。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お母様はい上げたばかりの艶々つやつやしい丸髷まるまげに薄化粧をして、御自分でお染めになった青い帷子かたびらを着ておいでになりました。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その隣りには、半年前に夫をうしなったというまだ艶々つやつやしい未亡人だの、そのめいにあたるという若い女だのが居流いながれていた。帆村はひとり離れて下座しもざにいた。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)