緞子どんす)” の例文
絹羽二重は二つ割りにして、又支那から渡来いたしました繻珍しゅちんだの緞子どんすなどと申しますものは、三つ割りに致して用いておりました。
帯の巾が広すぎる (新字新仮名) / 上村松園(著)
……すると……その背後の天井裏から新調らしい、真白い緞子どんすの幕がスルスルと降りて来て、一切の舞台面を霧のように蔽い隠した。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのわけは、赤児を包んでいるきれ緞子どんすという立派な布で、お神さんが城下のお寺で、一度見たことがあるからということでした。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
武松は日をいて、隣近所の衆を茶菓で招き、また、あによめの金蓮には、緞子どんす反物たんものをみやげに贈った。——和気藹々あいあいたる四、五日だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
窓には燃えるような真赤な緞子どんすのカーテンがある、それはそれは立派で欧米のどこへ出しても恥かしくない贅沢なホテルでした。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
... 思切って緞子どんす繻珍しゅちんに換え給え、」(その頃羽二重はぶたえはマダ流行はやらなかった。)というと、「緞子か繻珍?——そりゃア華族様のッた、」
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ましてその男は、大将まげに束ねた頭をつや/\と光る黒漆くろうるしの枕に載せて、緞子どんすとか綸子りんずとか云うものらしい絹の夜着を着ているのである。
と言って道庵、あごを撫でながら、太夫さんのすすめてくれた舞台用の緞子どんすの厚い座蒲団ざぶとんの上に、チョコナンとかしこまりました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と朝から晩まで食ごのみくい草臥くたびれれば、緞子どんすの夜具に大の字なりの高枕、ふて寝の天井のおしに打たれて、つぶれて死なぬが不思議なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほう、ねえ、だんな、座ぶとんは緞子どんすですぜ。また、このしゃれた長火ばちが、いかにもうれしくなるじゃござんせんか。
はでな織模様のある緞子どんすの長衣の上に、更にはでな色の幅びろいふちを取った胴衣をかさね、数の多いそのボタンには象眼細工ぞうがんざいくでちりばめた宝石を用い
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
荒凉こうりょうとした鉱山区が、遠く見える丘の斜面に、杏黄色きょうおうしょく緞子どんす長掛子チャンクリツーを着て、横たわっている春生の姿は痛ましかった。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
浮橋はすぐに花魁の部屋へ行って見ると、八橋はあお刷毛はけでなでられたような顔をして、緞子どんす緋縮緬ひぢりめんのふちを取った鏡蒲団かがみぶとんの上に枕を抱いていた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
黒紋附に細身の大小、緞子どんすの袴を穿いた様子はうして中々立派なものです。千石以上の旗本の先ず御隠居という所です。が夫れにしてはお供が無い。
赤格子九郎右衛門 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
別に取り繕った様子もないが、さっぱりした豊かな優美さをそなえた服装みなりをしていた。黒い緞子どんすの長衣と同じ布の肩衣と白い縮紗クレープの帽子をつけていた。
地味ではあるが緞子どんす野袴のばかま、金銀の飾目立たぬほどにこしらえた両刀など、さすがに尋常ならぬものがあります。
太織縞のあわせや、厚板の緞子どんすの帯や、若いころ着たらしい華やかな色の長襦袢ながじゅばんなどが、手入れよく十二三品あった。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのうちでも金襴きんらん羽二重はぶたえ縮緬ちりめん緞子どんす繻珍しゅちん綾錦あやにしき綸子りんず繻子しゅす、モミ、唐縮緬、白地薄絹、絹糸、絹打紐、その他銀塊、薬種等も多く輸入されます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
マホガニの頑丈な柱が支へた寢臺は深紅色しんくしよく緞子どんす帷帳カアテンが垂れて、部屋の中央に、幕屋のやうにすわつてゐた。
これでいて御馳走ごちそうがむやみに出る。胃の悪い余のごときものは、御膳おぜんの上を眺めただけで、腹がいっぱいになってしまう。夜は緞子どんすの夜具に寝かしてくれる。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
安楽椅子、肱掛ひじかけ椅子などにも、わざとならぬ時代が付いて、部屋の中に落着いた空気が漂っている。窓ごとに、房のついた鳶色とびいろ緞子どんすの窓掛が重々しく垂れている。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
中には純白の緞子どんす張りの壁が見えた。その中から浮彫りのようにぬけいでた一個の麗人があった。
十八時の音楽浴 (新字新仮名) / 海野十三(著)
向う側の板壁、そこに貼ったこまかい模様の壁紙を背景にして、丸胴の桐の火鉢と、妖婦の唇の様に厚ぼったくふくれ上った、緋色ひいろ緞子どんすの蒲団の小口とが視野に這入った。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
骨組の岩畳がんじょうな二十七八の若者で、花色裏の盲縞めくらじまの着物に、同じ盲縞の羽織のえりれて、印譜散らしの渋い緞子どんすの裏、一本筋の幅の詰まった紺博多の帯に鉄鎖をからませて
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
たとえば、帯は緞子どんすの帯ならば、そのなめらかな地質がその物の如く現われ、また緋鹿ひがの帯上げならば、鹿の子に絞り染めた技巧がよく会得されるように精巧に試みました。
すると其処にはどう云ふ訳か、あると思つた窓がなくて、緞子どんすの蒲団を敷いた紫檀したんの椅子に、見慣れない一人の外国人が、真鍮の水煙管みづぎせるくはへながら、悠々と腰を下してゐた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
……暗幕を張った奥座敷に、飛きり贅沢ぜいたく緞子どんす炬燵蒲団こたつぶとんが、スタンドの光に射られてあかく燃えている、——その側に、気の抜けたような順一の姿が見かけられることがあった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
窓々のどつしりした絢爛けんらんな模様の緞子どんすのカーテンが明暗を調節した瀟洒せうしやな離れの洋館で、花に疲れた一同は中央の真白き布をしたテエブルに集まつて、お茶を飲み、点心てんじんをつまみ
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
と、でっぷり肥ったる大きな身体を引包む緞子どんすはかま肩衣かたぎぬ、威儀堂々たる身を伏せて深々と色代しきたいすれば、其の命拒みがたくて丹下も是非無く、訳は分らぬながら身を平めかしらを下げた。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
華美はでな装をして吉原へまいりましたことがなにやらの書物にございましたが、千蔭先生は紫縮緬の紋付のついで、千蔭緞子どんすの下着に広東織かんとんおりの帯を締めて遊びにまいったということが
祖母は、自分の喜の字の祝のとき貰った厚い緞子どんすの座蒲団を火鉢の向う側に置いた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
土地の名物白絣しろがすりの上布に、お母さんのお古だという藍鼠あいねずみ緞子どんすの帯は大へん似合っていた。西日をよけた番神堂の裏に丁度腰掛茶屋に外の人も居ず、三人はゆっくり腰を掛けて海を眺めた。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
本願寺の生菩薩いきぼさつさまが来られるときいて有頂天うちょうてんになり、座ぶとんはそろえて、緞子どんす、夜具類はちりめん、ふすまをはりかえさせ、調度は何もかも新しく、善つくし、美を尽さねばならぬときめた。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
中にも面白きは清国人しんこくじんの何れの身分ある人物にや、緞子どんすの服の美々しきが、一大皿だいへいを片手に、片手はナイフ、フオクを握りて、魚と云はず、鳥と云はず片端よりりては載せ、截りては載せ
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
そこは懲々こり/″\だよと口の内で云って、こちらへおいでとあごで招いて居ると、やがて来のは同じ年配で、御召の大縞の上着に段通だんつう織の下着、鼠緞子どんすの帯を締め、芸子潰しに銀のあばれよりという扮粧こしらえ
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
金糸銀糸で刺繍した長袍を着、赤い緞子どんすの袴を穿いて現われて来たのはコン吉であった、西班牙スペインの海賊の扮装をした公爵に腰繩を打たれ、長い弁髪を朝風になぶらせながら、鬱々とした面持で
ふちに大きい花模様があって、金糸銀糸のふさを垂れている真っ紅な緞子どんすの窓掛けをかかげて私は美しい死人をうかがうと、彼女は手を胸の上に組み合わせて、十分にからだを伸ばして寝ていました。
多くの僧俗に出迎はれて出て来た人は田鶴子姫たづこひめではなくて、金縁の目鏡めがねを掛けて法衣はふえの下に紫の緞子どんすはかま穿はいた三十二三のやせの高い僧であつた。御門主ごもんしゆ御門主ごもんしゆと云ふ声が其処此処そこここからおこつた。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
『弥次郎』黒羽二重、古渡り緞子どんすの野袴。
噺家の着物 (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
祭壇の、緞子どんすの上で香を焚き
どォれも緞子どんす前掛まえかけ
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それから赤い頭巾に赤い緞子どんす(であったと思う)のチャンチャンコを引っかけて、鳩の杖を突いて、舞台の宴会場から帰りしなに
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
年はザット四十前後か、衣服大小も立派、ただちょっとなことには、御府内だというのに、緞子どんす野袴のばかまをはいている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
店員が新しくそこに並べ直したがらものの中から、緞子どんすのすばらしい一本を選び出すと、宝の小づちを背負ってでもいるような顔つきで尋ねました。
量目はかりめ約百万両。閻浮檀金えんぶだごん十斤也。緞子どんす縮緬ちりめんあやにしき牡丹ぼたん芍薬しゃくやく、菊の花、黄金色こんじきすみれ銀覆輪ぎんぷくりんの、月草、露草。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてそこを、その要塞ようさいの大砲の下を、通ってゆく時、恐ろしく胸が動悸どうきするのを感じた。彼女は前日のとおり、緞子どんすの長衣と縮紗クレープの帽子とをつけていた。
そこで、書きものを始末をして立ち上ると、緞子どんす馬乗袴うまのりばかまを穿き、筒袖の羅紗らしゃの羽織を引っかけ、大小を引寄せて、壁にかけてあった大塗笠おおぬりがさを取卸しました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
緞子どんすと云うのか朱珍しゅちんと云うのか、黒地に金糸と濃い緑とで竜を描いた丸帯を締めているのでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
桔梗様の年は二十歳ぐらいで、痩せぎすでスンナリと身長せいが高い、名に相似わしい桔梗色の振り袖、高々と結んだ緞子どんすの帯、だが髪だけは無造作にも、うなじで束ねて垂らしている。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
外記は天鵝絨びろうどに緋縮緬のふちを付けた三つ蒲団の上に坐っていた。うしろにねのけられた緞子どんすよぎは同じく緋縮緬の裏を見せて、燃えるような真っ紅な口を大きくあいていた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)