矢張やっぱり)” の例文
井戸辺いどばたに出ていたのを、女中が屋後うらに干物にったぽっちりのられたのだとサ。矢張やっぱり木戸が少しばかしいていたのだとサ」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「おや。」と思って又大きな声を出して見たが矢張やっぱり聞えない。いよいよ不思議に思って、月野博士に追付いて、その袖を引きながら
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
そうすると、今の啼声は矢張やっぱりポチだったかも知れぬと、うろうろとする目の前を、土耳其帽トルコぼうかぶった十徳姿の何処かのお祖父じいさんが通る。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
父親は、お島から養家の色々の事情を聞いて、七分通りあきらめているようであったが、矢張やっぱりこのまま引取ってしまう気にはなっていなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
『行っても、行っても、青い壁だ。行っても、行っても、青い壁だ。何処どこまで行っても青い壁だ。君、何処まで行ったって矢張やっぱり青い壁だよ』
火星の芝居 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
白山はくさんに芸者家が出来たって云うはなしだがあの辺はどうだ。矢張やっぱり芸者家のある土地の方が仕出屋しだしやや何かの便利がきくからね。」
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
母は薄暗い行燈あんどうのかげでつづれをさしたり、網のつくろいをしたりすると、お光は学校めて後も矢張やっぱり手習読書をせっせと勉強する。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
島か、みつか、はたきを掛けて——お待ちよ、いいえう/\……矢張やっぱりこれは、此の話の中で、わにに片足食切くいきられたと云ふ土人か。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
杉戸すぎどてゝ店へ往って寝てしまいましたが翌日になって見ると、まさか死ぬにも死なれず、矢張やっぱり顔を見合せて居ります。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それは屹度きっとお前も矢張やっぱり昨夜死神につかれたのだが、その倒された途端に、さいわいと離れたものだろう、この河岸かしというのは
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
全く敗亡まいって、ホウとなって、殆ど人心地なくおった。ふッと……いや心の迷の空耳かしら? どうもおれには……おお、矢張やっぱり人声だ。ひづめの音に話声。
敬愛する吉村さん——しげるさん——私は今、序にかえて君にてた一文をこの書のはじめにしるすにつけても、矢張やっぱり呼び慣れたように君の親しい名を呼びたい。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
薄暗いから何となく物凄いのだ、そのそばの細い椽側えんがわを行くと、茶席になるのだが、その矢張やっぱり薄暗い椽側えんがわの横に、奇妙にも、仏壇が一つある、その左手のところは、南向みなみむきに庭を眺めて
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
「真人間にするッて……。𤢖は矢張やっぱり人間でしょうか。」と、冬子は眉をひそめた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その夜その男がはなしたが、これ矢張やっぱり、テレパシーとでもいうのであろう。
感応 (新字新仮名) / 岩村透(著)
再度にど吃驚びっくりしたというのは、仰向きに寝ていた私の胸先に、着物も帯も昨夜ゆうべ見たと変らない女が、ムッと馬乗うまのりまたがっているのだ、私はその時にも、矢張やっぱりその女を払いける勇気が出ないので
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
その人が 或る闇夜あんやに道を歩いていて、突然知らずに、高い土手の上からすべり落ちたそうだが、その際土手をすべり落ちて行く瞬間に、矢張やっぱりその人自身の過去の光景が、眼に映ったといっていた。
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
前置まえおきづきだが、ようするにことというものは何だか一種凄みのあるものだということにすぎぬ、これからはなすことも矢張やっぱりことに関係したことなので、そののち益々ますます自分はことを見ると凄いかんじおこるのである。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
その時ばかりは、そんな気が少しも出ない、何というてよいか、益々ますます薄気味がるいので、此度こんどは手で強く払って歩き出してみた、が矢張やっぱり蝶は前になり後になりして始終私の身辺に附いて来る
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
身代しんだい釣合つりあい滅茶苦茶めちゃくちゃにする男も世に多いわ、おまえの、イヤ、あなたのまよい矢張やっぱり人情、そこであなたの合点がてん行様ゆくよう、年の功という眼鏡めがねをかけてよく/\曲者くせものの恋の正体を見届た所を話しまして
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
屹度そうだと思いますと、妾は最早もはやすっかり疑いが晴れました。妾は矢張やっぱり美留藻であった。行く末は、この国の女王になる美留藻であった。こう思って妾は最早もはや女王になったように喜び勇みました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
ふとある朝——五時前後と思う——寝室のドアがガチリといた様な音がしたので自分は思わず目が覚めてみると、扉のところに隣の主人が、毎日見る、矢張やっぱり巡査の様な服装を着けて、茫然と立っている
闥の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
両親も其は同じ事で、散々私に悩まされながら、矢張やっぱり何とも思っていない。唯影でお祖母ばあさんにも困ると、お祖母ばあさんの愚痴をこぼすばかり。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「ウン梶原君が!? あれが矢張やっぱり馬鈴薯だったのか、今じゃア豚のようにふとってるじゃアないか」と竹内も驚いたようである。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
おとら夫婦は、金ができるにつれて、それ等の人達との間に段々隔てができて、往来ゆききも絶えがちになっていた。生家さととも矢張やっぱりそうであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
八町畷はっちょうなわてすなぽこりでお徒歩ひろいになりますより、矢張やっぱり船を待たして置いてお乗りになれば、この風ですから、帆も利きます、訳無く行ってしまいますよ
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
三「坂をあがったり下りたりするので己も余程草臥くたびれたが、馬へ乗って少し息をいたが、馬へ乗ると又矢張やっぱり腰が痛いのう」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
仕方なしに今度は梯子段の下口おりくちの方へ廻って見たが、矢張やっぱり同じこと家中はまるで人のいないも同様である。慶三は無暗むやみ咽喉のどが渇いて堪らなくなった。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その親の子だからしてに、源さも矢張やっぱりあの通りだ、と人に後指をさされるのが、私は何程どのくれえまあ口惜くやしいか知んねえ
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「むゝ、雨はんだ、けれどもおばあさんの姿は矢張やっぱり人間だよ。」と物狂ものくるはしく固唾かたずを飲んだ。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私はとこの上に起直おきなおって見ていると、またポッと出て、矢張やっぱりおくの方へフーと行く、すると間もなくして、また出て来て消えるのだが、そのぼんやりとした楕円形だえんけいのものを見つめると
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
矢張やっぱり俳優やくしゃだが、数年すねん以前のこと、今の沢村宗十郎さわむらそうじゅうろう氏の門弟でなにがしという男が、ある夏の晩他所よそからの帰りが大分遅くなったので、折詰を片手にしながら、てくてく馬道うまみちの通りを急いでやって来て
今戸狐 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
先刻さっき、八時頃先方のうちを出て、矢張やっぱりこの隣の裏門から入ったが、何しろこんな月夜でもあるし、また平常ふだん皆が目表めじるしに竹の枝へ結付むすびつけた白い紙片かみきれ辿たどって、茶席の方へ来ようとすると、如何どうしたのか
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
これも、矢張やっぱりメリケン幽霊だ。
大叫喚 (新字新仮名) / 岩村透(著)
矢張やっぱり一種のテレパシーなのだ。
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
矢張やっぱり私共でなければ出来ぬ高尚な事のように思って、しきりに若い女に撞着ぶつかりたがっているうちに、望む所の若い女が遂に向うから来て撞着ぶつかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
矢張やっぱりこんなような町?」お島は汽車が可也かなり大きなある停車場へ乗込んだとき、窓から顔を出して、壮太郎にささやいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
武「是は御家内か、わしも酒が嗜きでな、此処を通る度に御亭主が飲んで居る、今一寸ちょっと買物をして見ると矢張やっぱり飲んで居て羨しくついやる気になりました」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「それに何だか我が折れて愚にかえったような風も見えるだ。それを見ると私も気の毒でならん、やかまし人は矢張やっぱり喧しゅうしていてくれる方がえと思いなされ」
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「牧野は矢張やっぱり牧野だ。もっと弱ってでも来るかと思ったら、君の元気なのには感心した」と岡が言った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
初めに話した静岡のうちにも、矢張やっぱり十三四の子守娘が居たと云う、房州にも矢張やっぱり居る、今のにも、娘がついて居る、十三四の女の子とは何だかその間に関係があるらしくなる。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
苦しみながらに眼を無理にみはって、女の顔を見てやろうとしたが、矢張やっぱり召縮緬めしちりめん痩躯やせぎすひざと、紫の帯とが見ゆるばかりで、如何どうしても頭が枕から上らないから、それから上は何にも解らない
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
それにわしゃア馬が誠にきれえだ、たまには随分小荷駄こにだのっかって、草臥くたびれ休めに一里や二里乗る事もあるが、それでせえ嫌えだ、矢張やっぱり自分で歩く方がいだ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
矢張やっぱり馬鹿サ、初から君なんかの柄にないんだ、北海道で馬鈴薯ばかりくおうなんていう柄じゃアないんだ、それを知らないで三月も辛棒するなア馬鹿としか言えない!」
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「惜しいことをした。矢張やっぱり君には髭が有った方が好い。国へ帰るまでには是非はやして行き給え」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その下蔭したかげ矢張やっぱりこんなに暗かったか、蒼空あおぞらに日の照る時も、とう思って、根際ねぎわに居た黒い半被はっぴた、可愛かわいい顔の、小さなありのようなものが、偉大なる材木を仰いだ時は
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多「久八さんはもう来そうなものだなア、来た/\、久八さん今日は負けたんべいと思ったが、矢張やっぱり己が早かった」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
矢張やっぱり内端うちわぢや、お前様立つて取らつしやれ、なになう、わしがなう、ありやうは此の糸の手を放すと事ぢや、一寸ちょっとでも此の糸を切るが最後、お前様の身があぶないで、いゝや、いゝや
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「最早お前さんも子供では無いから、三度々々御茶受おちゃうけは出しませんよ」なぞと言いながらも、矢張やっぱり子供の時分と同じように水天宮の御供おそなえ御下おさがりだの塩煎餅しおせんべいだのを分けてくれた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もっとも僕と最初から理想を一にしている友人、今は矢張やっぱり僕と同じ会社へ出ているがね、それと二人で開墾事業に取掛ったのだ、そら、竹内君知っておるだろう梶原かじわら信太郎のことサ……
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)