瓔珞ようらく)” の例文
のみならず高い天井などからは、瓔珞ようらくを垂らした南京龕ナンキンずしなどが、これも物々しく下げられてあるので、見る人の眼を奪うには足りた。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
天衣、瓔珞ようらくのおんよそおいでなくても、かかる場面へ、だしぬけの振袖は、狐の花嫁よりも、人界に遠いもののごとく、一層人を驚かす。
ささげ持った経机、さしかけられた天蓋傘、ゆらめく瓔珞ようらく、美しくお化粧した男の子は男の子故にさらに不思議な、美しさが出ていた。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「眼ばかりじゃねえ、宝冠の瓔珞ようらくから、襟も肩もぐっしょりだ。頭の上から涙を流すのは、仏様にしても可怪おかしくはないか、八」
片足を瓔珞ようらく鈴環れいかんにかけ、そろそろと手をのばして、屋根の青銅瓦せいどうがわら半身はんしんほど乗りだしたところで、小文治こぶんじのさしだしたやりをつかんでやる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうですか。もうじきです。」三人はむこうをきました。瓔珞ようらくは黄やだいだいみどりはりのようなみじかい光をうすものにじのようにひるがえりました。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
従来の型の如く観音は置き物にするように製作こしらえましたが、厨子ずしなどは六角形塗り箔で、六方へ瓔珞ようらくを下げて、押し出しはなかなか立派であった。
戸をけると、露一白つゆいっぱく芝生しばふには吉野紙よしのがみを広げた様な蜘網くものあみが張って居る。小さな露の玉を瓔珞ようらくつらぬいたくもの糸が、枝から枝にだらりとさがって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
朝まだき、とつぜん銅鑼どらや長喇叭らっぱの音がとどろいた。みると、耳飾塔エーゴや緑光瓔珞ようらくをたれたチベット貴婦人、尼僧や高僧ギクーをしたがえて活仏げぶつが到着した。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
画像が行なわれたのは同経に「まさに我が像を画き種々の瓔珞ようらくもて周帀しゅうそう荘厳しょうごんすべし」とあるによったものと思われる。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
のみならず首飾りの作りは、いかにも昔風の好みで、いわゆるルフィール型とか瓔珞ようらく型とか呼ばれるあれだった。
出来上がったものは結局「言語の糸で綴られた知識の瓔珞ようらく」であるとも云える。また「方則」はつまりあらゆる言語を煎じ詰めたエキスであると云われる。
言語と道具 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
幸子は内裏雛だいりびな女雛めびなの頭へ瓔珞ようらくの附いた金冠を着せながら、悦子の甲高い声がひびいて来るのを聞いていたが
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
雪は燦々と、瓔珞ようらくをかけた如くきらめき、峯頂のある部分は、すでにツルギの「窓」式の裂開を示している。まだそこには、樺の大木などが落生しているけれども。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
どうかすると、ときどき揺らいでいる瓔珞ようらくのかげのせいか、その口もとの無心そうな頬笑みが、いま、そこに漂ったばかりかのように見えたりすることもある。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
紅玉石ルビーか真珠でも一杯に刺繍ぬいとってあるらしく、それが今きらめいて煙々と瓔珞ようらくの虹を放っている光耀こうようさ!
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
古寺の軒端のきばからも玉雫たまだれが落ちて瓔珞ようらくの音をたてる。外はしめやかな時雨。柴の乾きがよいので、炉では焚火の色が珊瑚さんごを見るよう。お絹は飽かずに語りつづける。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
肌の色はダボ沙魚はぜに似て黝黒ゆうこくのものもあれば、薄茶色の肌に瓔珞ようらくのような光沢を出したのもあるが
冬の鰍 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
みにくいひゞの手のように、カサカサに冬ざれていることは?……むかしながらにひかりのささない堂内には、天井から、むかしながらの千羽鶴のむれが瓔珞ようらくのように
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
金銀の瓔珞ようらく、七宝の胸かい、けしの花のような軽い輿。輿を乗せた小さい白象は虹でかがられた毛毬けまりのように輝いて居た。輿は象の歩るくびにうつらうつらと揺れた。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ないないかような大難にうて、天主でうす様の御救おたすけにあずかり、天国はらいそうへ生れて、安楽な活計たつきに、ひもじい目にもわず、瓔珞ようらくをさげていたいと願うていたところじゃ、早う打ち殺して
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
さまざまの宝石を瓔珞ようらくみたいに下げて、ニヤニヤ笑っているかと思うと、円盤投げの日本青年はまっ黒によごれたメリヤスのシャツを着て、これも宝石の首飾り、腕環をはめて
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
瓔珞ようらく耳瑜みみわ、耳飾塔、腕輪、指環等の粧飾品で、大変金の掛って居るものが沢山有るですけれども、それらはみな娘の父母がその女子に与えますので、式場に用うる衣服、帯、下着
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
第一これは顔を除いて、他はことごとく黒檀こくたんを刻んだ、一尺ばかりの立像である。のみならずくびのまわりへ懸けた十字架形じゅうじかがた瓔珞ようらくも、金と青貝とを象嵌ぞうがんした、極めて精巧な細工さいくらしい。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
またこれを桜というのはその果実が瓔珞ようらくの珠に似ているからだとの事である。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
すなはち京都四条坊門しじょうぼうもんに四町四方の地を寄進なつて、南蛮寺の建立を差許さるる。堂宇どうう七宝しっぽう瓔珞ようらく金襴きんらんはたにしき天蓋てんがいに荘厳をつくし、六十一種の名香は門外にあふれて行人こうじんの鼻をば打つ。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
賊すなわち王にいたり請うて、女人の飾具瓔珞ようらくを種々出し、多く猴を集めこれをけて宮内に置くと、先から宮中にいた猴これを見て劣らじとぬすんだ珠をびて立ち出づるを賊が捕えて王に渡した。
彼は酔ったような心持で、そのがくの流れて来る方をそっと窺うと、日本にっぽん長柄ながえ唐傘からかさに似て、そのへりへ青や白の涼しげな瓔珞ようらくを長く垂れたものを、四人の痩せた男がめいめいに高くささげて来た。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
胸に垂れ下げた頸飾と額の瓔珞ようらくとを揺がせながら、静々と這入って来た琅玉はホートンの姿を眺めても、少しも驚きはしなかった。
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その子供らはうすものをつけ瓔珞ようらくをかざり日光に光り、すべて断食だんじきのあけがたのゆめのようでした。ところがさっきの歌はその子供らでもないようでした。
マグノリアの木 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そして微妙の身体を有するこの瓔珞ようらくを戴ける像の前に跪かないではいられない気がする。そして人身の悲哀と彼岸の思慕とを感ぜずにはいられない。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
万花まんげいろどりには、琥珀こはく、さんご、真珠をちりばめ、瓔珞ようらくには七ツの小さい金鈴と、数珠宝珠ずずだまをさげるなど、妙巧の精緻せいち、ただ見恍みとれるのほか、ことばもない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳥の羽を飾った五彩赫々かっかくたる宝石のちりばめられた王家の紋章が輝き、太子の服のえりからボタンことごとく、ただ瓔珞ようらくのごとき宝玉で、燦々さんさんとしてカーテンを引いた部屋の中に
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
青銀色の、鱗の底から光る薄墨ぼかしの紫は、瓔珞ようらくの面に浮く艶やかに受ける印象と同じだ。
雪代山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「玉虫色の小さな馬に乗って、猩々緋しょうじょうひのようなものの着物を着て、金の瓔珞ようらくをいただいた」女が空中から襲って来て「妖女ようじょはその馬の前足をあげて被害の馬の口に当ててあと足を ...
怪異考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もとどり結いたる下髪さげがみたけに余れるに、色くれないにして、たとえば翡翠ひすいはねにてはけるが如き一条ひとすじ征矢そやを、さし込みにて前簪まえかんざしにかざしたるが、瓔珞ようらくを取って掛けしたすきを、片はずしにはずしながら
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
捜して見るまでもなく、火の側に滅茶滅茶にほうり出してあるのは、仏体を入れた俵でしょう。月の光に覗くと、金箔を置いた御仏の足や手や、光背や瓔珞ようらくやが、浅ましくも散乱して居ります。
御堂みどう犬防いぬふせぎが燦々と螺鈿らでんを光らせている後には、名香のけぶりのたなびく中に、御本尊の如来を始め、勢至観音せいしかんのんなどのおん姿が、紫磨黄金しまおうごんおん顔や玉の瓔珞ようらく仄々ほのぼのと、御現しになっている難有ありがたさは
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
桜桃の実は円くて瓔珞ようらくの珠のようだからというので、それで初めは桜といったが、後ちにそれが桜桃となった。また鸎桜とも書かれているが、それは鸎という鳥がその実を食うからだといわれる。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
耳にはエーゴル即ち黄金耳飾塔(平たい黄金塔にて中に緑玉の飾りあるもの)を掛け、胸にはドーシャル(瓔珞ようらく)を掛けて居る。この瓔珞は一番高価なものであると三千五、六百円もするそうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
天蓋てんがいには、瓔珞ようらく羅網らもう花鬘けまん幢旛どうばん、仏殿旛等。
瓔珞ようらくを下げた龕である。さあその容積? 一抱えはあろうか! 他界的な紫陽花色の光線が、そこから射しているのであった。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
粟田あわた山の春は、その部屋いっぱいににおって、微風が、がんか、瓔珞ようらくか、どこかのれいをかすかに鳴らした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まん中の人はせいも高く、大きな眼でじっとこっちを見ています。ころものひだまで一一はっきりわかります。お星さまをちりばめたような立派な瓔珞ようらくをかけていました。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ファン・エックの聖母は高貴な瓔珞ようらくをいただいているが子どもにはぐくませる乳房のふくらみなく、その手は細く、しなやかであるが、抱いてる子どもの重さにもたえそうにもない。
女性の諸問題 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
たてに、ななめに、上に、下に、散り、飛び、あおち、舞い、漂い、乱るる、雪の中に不忍の池なる天女の楼台は、絳碧こうへきの幻を、うつばりの虹にちりばめ、桜柳の面影は、靉靆あいたいたる瓔珞ようらく白妙しろたえの中空に吹靡ふきなびく。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
銀とビードロとの瓔珞ようらくを垂らした、彫刻ほりのある巨大ないかり形の、シャンデリアが天井から下がっていて、十数本の蝋燭が、そこで焔を上げていた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
天人のころもはけむりのようにうすくその瓔珞ようらく昧爽まいそう天盤てんばんからかすかな光をけました。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
とふたりは、東のすみの欄干に足をかけたが、そこから九りんのたっているとうのてっぺんへのぼるには、どうしても、千本びさしにつってある瓔珞ようらくに身をのばして、ブラさがるより道がない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たまらず袖を巻いて唇をおおいながら、勢い釵とともに、やや白やかな手の伸びるのが、雪白せっぱくなる鵞鳥がちょうの七宝の瓔珞ようらくを掛けた風情なのを、無性髯ぶしょうひげで、チュッパと啜込すすりこむように、坊主は犬蹲いぬつくばいになって
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)