樺太からふと)” の例文
祖父は私が四年生のときに死んだが、祖父の死後、樺太からふとのおじいさんという人が尋ねてきたことがあり、子供の私達も引合された。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
同十年に到り、彼を送還し、かつ先年来樺太からふと択捉えとろふみだせしは、露国政府の意にあらざるを告げ、かつ八人の俘虜を還さんことを請う。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
樺太からふとハロ人雑居ノ地ナルヲもっテ、彼此ひし親睦しんぼく、事変ヲ生ゼザラシメ、シカル後手ヲ下シ、功ヲ他日ニ収メン」とするものであり
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
その箒状の結晶は、よく見ると内部に樹枝に近い結晶質の骨組があるもので、天然には樺太からふと豊原とよはら近郊で同種のものが撮影された例がある。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
樺太からふとでオホーツクの灰色の海ばかり見てゐた私には、釧路の海はるり色に光つてゐて天氣のいゝせいか一望にして港の中が眼にはいつて來る。
小学校でつかう千八百万分の一地図で、樺太からふとの端から台湾までたった六寸五分だ。幅はと云えば一等ひろいところで五分だ。
ズラかった信吉 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「わたしゃね、これから弟のいる樺太からふとへ帰ろうと思う。すまないけれど源ちゃん、この車で、上野駅まで送っておくれなね」
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ジャワとバリを最南限とし、東は樺太からふと、西は土領ジョルジアに達すれど日本およびセイロン、ボルネオ等諸島にこれなし
浦塩斯徳ウラジオストック露西亜ロシアの手にそのまま保存しておくことはよほど危険であるから、戦勝の権利としてこの軍港を収むる。沿海州えんかいしゅうの割譲、樺太からふとを取る。
東亜の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
また、樺太からふとには、人間にんげんのはいらないおおきなもりはやしがある。それにがつくと、それこそたいへんだ。どこまでもえるか、わからないからな。
赤土へくる子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
北海道開拓次官となって樺太からふとつのが明治三年七月二十七日(『大久保利通日記』)、井上清氏の労作『日本の軍国主義』につぎの記載がある。
黒田清隆の方針 (新字新仮名) / 服部之総(著)
中山氏は北海道樺太からふと地方に事業を起し、今日では樺太屈指の豪商となっている。で、その弟息子に金谷の家の跡をがせることになっております。
こんな話をしているうちに、聯想れんそうは聯想を生んで、台湾の樟脳しょうのうの話が始まる。樺太からふとのテレベン油の話が始まるのである。
里芋の芽と不動の目 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
第二、ウラジオストック放棄、ならびに日領樺太からふとにおけるソ連空軍基地の進出による日本海・空軍の戦略の全般的攪乱。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
黒板には只一つ樺太からふと定期ブラゴエ丸の二等料理人の口が出ているだけで、その前の大テーブルの上に車座に胡座あぐらいて、いつもの連中が朝から壷を伏せていた。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「君のものなんぞ出さなくったってい。何しろ、樺太からふとで、蟹の缶詰で一儲ひともうけしようと思ったのだが——蟹はあるが、缶の方がうまくいかなかったんだ。」
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
材木堀が家を南横から東後へと取巻いて、東北地方や樺太からふとあたりから運ばれて来た木材をぎっしり浮べている。
晩春 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今日こんにちでは日本全國につぽんぜんこくいたところきた樺太からふと北海道ほつかいどうから本州全體ほんしゆうぜんたい四國しこく九州きゆうしゆう西にし朝鮮ちようせんみなみ臺灣たいわんまで、どこでも石器時代せつきじだい遺蹟いせき發見はつけんされぬところはありません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
いっそう命名の本意を辿たどりがたくする例は、すでに奈良朝の大昔の、国郡郷里二字の佳名があり、近くはまた北海道・樺太からふと等の村名・駅名が好い証拠である。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かれもちふるしたかばんよ。手摺てずれもやが一めんに、しみかた樺太からふとうかぶ。汽車きしや白河しらかはいたのであつた。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いずれも樺太からふとのツンドラ地帯に生ずる小灌木の名である。採りて酒を製する。所謂いわゆる樺太葡萄酒である。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
波のしぶきで曇った円るい舷窓げんそうから、ひょいひょいと樺太からふとの、雪のある山並の堅い線が見えた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
(ニ)寒帶林かんたいりんまた白檜しらべ椴松帶とゞまつたい)。 このたい水平的すいへいてきには北海道ほつかいどう中央ちゆうおう以北いほく、つまり温帶林おんたいりん北部ほくぶで、同温線どうおんせん攝氏六度せつしろくど以下いか地方ちほうと、千島ちしま樺太からふと全部ぜんぶめてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
名高い歌妓うたひめ黒繻子くろじゅすえりを掛けて、素足で客を款待もてなしたという父の若い時代を可懐なつかしく思った。しばらく彼は、樺太からふとで難儀したことや、青森の旅舎やどやわずらったことを忘れた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三十八円の樺太からふと狐でも狐で、八十円のカムチャツカ狐も狐なら、二百円の白狐でも狐である。
大阪を歩く (新字新仮名) / 直木三十五(著)
むかし、神武天皇の当時は日向ひゅうがより東北に向かって発展し、明治時代になっても北海道から千島へ向け、または樺太からふとへ向け発展しているのは、みな鬼門を破っているわけである。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「はじめの願書は、樺太からふと、新京などからも来て、ざっと六百通ちかく集ったのですよ。」
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それの近頃の号にある博士の樺太からふと旅行談が連載されていてそれが私には面白かった。そのなかの絶滅せんとしつつある樺太オオヤマネコの話、というのが強く私の空想を刺戟しげきした。
黒猫 (新字新仮名) / 島木健作(著)
「うん。そうだってさ。いやだね、樺太からふとまできてさ、せっかく骨休めに来たのに……」
(新字新仮名) / 楠田匡介(著)
妙義山麓みょうぎさんろく陣場じんばはらに集合した暴徒を指揮して地主高利貸警察署などをほふった兇徒の一人として、十年に近い牢獄生活を送り、出獄後は北海道の開墾に従事したり、樺太からふとへ往ったり
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
同年七月私は、新設された樺太からふと軍の国際法顧問にされた。樺太の占領にかんして、私は大いに人類のために働いた。その事業は、意義の大きいものであったが、詳細はここにはぶく。
私の歩んだ道 (新字新仮名) / 蜷川新(著)
そちこち転々した果てに樺太からふとまでし、大泊おおどまりから汽車で一二時間の豊原で、有名な花屋に落ち着いたのだったが、東京へ舞い戻って芳町へ現われた時分は、もう三十の大年増おおどしまであり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
絶対鳴らないところ? そんなところは、日本中探したって、ありゃしませんよ。樺太からふとには、一カ所そういうところもありますが、その代りそこは、冬雪の降ってる最中に、鳴りますよ。
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
咸竟かんきょう南北道、図們江ツーメンキャン、沿海州、樺太からふと、千島、オホーツク海、白令ベーリング海、アリュウシャン群島に到る暖流、寒流の温度百余個所をノート無しでスラスラと列挙し、そこに浮游する褐藻かっそう緑藻りょくそうの分布
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
樺太からふとりて
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
取る物もとりあえず、樺太からふとからの引揚民の中にまじって、地獄絵のような場面を見続けながら、三日がかりで東京へ出た。
硝子を破る者 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
泡鳴が樺太からふとへ蟹の事業をはじめる前に別れたのだが、清子は友人同棲をはじめてからも、幸子に同情して、泡鳴に復帰するようにさえ勧めたこともある。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
樺太からふと? たいへんさむいところまでいったんだね。」と、子供こどもたちは、あのきたのはしにつきて、あおうみいろにとりまかれた、ほそながしまおもしました。
赤土へくる子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
戦後樺太からふとを旅行した時処々の山野に燕麦えんばくが雑草となって繁茂しているのを見たが、この稲も何かの事情で立ち退いた前住民の残したものであったかも知れぬ。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
朝飯にかぎらず、食事のまずいのは東北。しかも樺太からふとあたりに行くと、朝からなまぐさい料理を出される。
朝御飯 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「いまの大戦争は北極を中心として、シベリヤ、アラスカ、カムチャツカなどという、日本の樺太からふとや北海道よりもずっと北の方へひろがるだろうといってたぜ」
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これでまた、汽車きしや半分はんぶんいなしつ一つわればかりをのこして、樺太からふとまで引攫ひつさらはれるやうながしたのである。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
足掛二年の月日は遠く離れている親戚しんせきの境遇をも変えた。姪の愛子は夫にしたがって樺太からふとの方に動いていた。根岸のあによめは台湾の方へ出掛けて行って民助兄と一緒に暮していた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
本州ほんしゆうでは中部ちゆうぶ諸高山しよこうざん六千尺ろくせんじやくから九千尺くせんじやくまでのところが、このたいにはひり、北海道ほつかいどう中央ちゆうおうでは三千五百尺さんぜんごひやくしやく樺太からふと日本領地につぽんりようちでは二千尺にせんじやくから二千五百尺にせんごひやくしやくたかさまでがそれです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
また新井白石あらゐはくせきのようなえら學者がくしやは、これはむかし北海道ほつかいどうから樺太からふとんでゐた肅愼しゆくしんといふ民族みんぞく使用しようしたものであらうとかんがへ、百年ひやくねんほどまへ日本につぽんたシーボルドといふ西洋人せいようじん
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
遂に文化三年(千八百六年)より四年にわたり、露人来りて樺太からふと及び蝦夷えぞかすめぬ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
当時、博士は、樺太からふとの西海原で腕足類や藤壺の繁殖状態を調査していた。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
祖母はその人に対して相当酷い仕打もしたらしいのだが、祖父が死んで、またその人を家に迎えたりしていたのである。樺太からふとのおじいさんのもとからは、折にふれて海産物の小包が送られてきた。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
解いた帯を、縦に敷布団の真中に置いて、跡から書くので譬喩ひゆが anachronism になるが、樺太からふとを両分したようにして、二人は寝る。さて一寐入して目がめて云々しかじかというのである。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それも樺太からふとのツンドラの下にある基盤粘土中の氷層状態によく似ているので、実験室内で、再現の見込は十分にある。
永久凍土地帯 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)