業平なりひら)” の例文
天蓋てんがいの下をのぞくと、だんなが業平なりひら、あっしが名古屋山左衛門さんざえもんていう美男子だからね。ときに、この尺八ゃどこへどう差すんですかい
業政は在五中将業平なりひらすえであり、智謀すぐれた人物で、七年このかた武田氏に攻められながら、好防善戦かたく守ってゆるがなかった。
一人ならじ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたくしが業平なりひらの方までまいりまして、その帰りに水戸様前からもう少しこっちへまいりますと、堤の上は薄暗くなって居りました。
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いや、その間だけは恋の無常さえ忘れていると申してもよい。じゃによって予が眼からは恋慕三昧れんぼざんまいに日を送った業平なりひらこそ、天晴あっぱれ知識じゃ。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
業平なりひら橋を渡って数丁行くと、とある山側のやしきへいから枝をさし出した一本の桜が、早くも見事な花を着けているのに心づいた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
業平なりひらという人は文芸に優秀なることは言うまでもないが、その人となりについてどれほど根底のたしかな人か知らんが、その臨終りんじゅうになって
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
千兩の持參金で、業平なりひらと言はれた男の嫁にはなつたが、男は二人も女を持つて居た。その一人などは、嫁が來て三月も經たないうちから、嫁を
業平なりひらや小町や物語の光君という人などが花やかな貴族生活をくりのべていたころでも、古都は明るいものではなかった。
街はふるさと (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「さあ、あっしゃあ、まだ、どんづまりまでは突きとめていねえんで——業平なりひらばしから先きのことは、親分や、作太が、いでまわっているはずです」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
二人の前には六歌仙が、在原業平なりひら、僧正遍昭、喜撰法師、大友黒主、文屋康秀、小野小町、こういう順序に置いてあったが信輔筆の名筆もズクズクに水に濡れている。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
や、百人一首でおさ馴染なじみ業平なりひらの冠に著けた鍋取なべとりによく似た物を黒革作りで高帽の一側に著けあり。
魚北 (後から振り返って、拳固で鼻を鳴らす)ちえッ、業平なりひら様のお通りに気が付きゃがらねえ。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
かの恋の英雄として有名な業平なりひらのごときも二世の源氏(皇孫にして臣下の列に下った人)である。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
伊勢いせ物語を描いた絵もあって、妹に琴を教えていて、「うら若みねよげに見ゆる若草を人の結ばんことをしぞ思ふ」と業平なりひらが言っている絵をどんなふうに御覧になるかと
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
虫蝕むしくいと、雨染あまじみと、摺剥すりむけたので分らぬが、上に、業平なりひらと小町のようなのが対向さしむかいで、前に土器かわらけを控えると、万歳烏帽子まんざいえぼしが五人ばかり、ずらりと拝伏した処が描いてある。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
廃頽して行く筋道となつて開展される、王朝時代のデカダン詩人、業平なりひらの東下りは、哀れにも華やかな序幕を明けた、さうしてそれから後に、多くの「東下り」なる悲劇が
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
在原の業平なりひらが東へ下ってきた時に、隅田川の言問ことといの渡船場あたりで、嘴と脚の紅い水鳥を見て、いかにもみやびているところから『みやこ鳥』と呼んだという伝説があるが
みやこ鳥 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
此人の乱行らんぎやうの一ツをいはば、叔父をぢたる大納言国経卿くにつねきやう年老としおい叔母をばたる北の方は年若く業平なりひら孫女まごむすめにて絶世ぜつせい美人びじんなり。時平是に恋々れん/\す、夫人ふじんもまたをつとおいたるをきらふの心あり。
俺の英語は本物じゃ。よう聞いとけ。ロイドちうのは色男の事ぞ。舶来の業平なりひらさんの事ぞ。セルロイドと間違えるな。その日本の業平さんと、小野小町とこの村で結婚さっしゃる。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「見てみろ、また高楼に灯が入った。道益の一ノ姫は、今夜も船澗ふなまをあけて、谷戸の業平なりひらに夜舟を漕がせる気とみえる。これでもうつづけうちだが、ようまァ精の出ることだ」
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
男の素袷に兵児帯へこおび無雑作に巻いたも悪からず、昔男の業平なりひらにはこうした姿も出来なかったろうが、かきつばたのひんなりなりとした様は、なおかつ江戸ッ児の素袷着たるにも類すべく
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
本所業平なりひら陋巷ろうこう、なめくじばかりやたらにいる茅屋ぼうおくにいて、その大きい大きいなめくじはなんと塩をかけると溶けるどころかピョイと首を振ってその塩を振り落としてしまうというのである。
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
向島ではこれらの風流人を迎えて業平なりひらしじみとか、紫鯉とか、くわいとか、芋とか土地の名産を紹介して、いわゆる田舎料理麦飯をって遇し、あるいは主として川魚を御馳走ごちそうしたのである。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
聚落じゅらく安芸あき毛利もうり殿のちんにて連歌の折、庭の紅梅につけて、梅の花神代かみよもきかぬ色香かな、と紹巴法橋がいたされたのを人〻褒め申す」と答えたのにつけて、神代もきかぬとの業平なりひらの歌は
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
業平なりひらの歌ではないが、「わが身ひとつはもとの身にして」と、心の中でつぶやきながら、家の中を歩いてみると、むかし寝室であったところの板敷のゆかをとりはずして、土を積んで塚をこしらえ
井手ゐでかはづの干したのも珍らしくないからと、行平殿のござつた時、モウシ若様、わたし従来これまで見た事の無いのは業平なりひら朝臣あそんの歌枕、松風まつかぜ村雨むらさめ汐汲桶しほくみをけ、ヘマムシ入道の袈裟法衣けさころも小豆あづき大納言の小倉をぐらの色紙
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
曳きて通る男に聞けば女夫松めをとまつとて名高きものなりといふ丘の上に便々館湖鯉鮒べん/\くわんこりふの狂詠を彫りし碑あり業平なりひら如何どうしたとかいふヘボ歌ゆゑ記臆をすべり落ぬすべる赤土に下駄を腰の臺としてしばらく景色を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
娘に書かせたる事論なしとここの内儀が人の悪き目にてにらみぬ、手跡によりて人の顔つきを思ひやるは、名を聞いて人の善悪を判断するやうなもの、当代の能書に業平なりひらさまならぬもおはしますぞかし
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そしてとつぜん、伊勢物語の業平なりひらの歌を、朗々と吟じ出した。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつこえたるがといふ者は長三郎とて今茲十九になる男子一にんさるに此長三郎はうまれ附ての美男にて女の如き者なればたれいふともなく本町業平なりひらまた小西屋の俳優息子やくしやむすこと評判殊にたかかるより夫婦は何卒なにとぞよきよめとつ樂隱居らくいんきよ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「さあ、これからが宇津うつ峠。業平なりひらの、駿河するがなるうつの山辺のうつゝにも夢にも人にあはぬなりけり、あの昔の宇都の山ですね。登りは少し骨が折れましょう。持ちものはこっちへお出しなさい。持っててあげますから」
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
業平なりひら橋を越えたところで下して呉れ」
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この里に業平なりひら来ればここも歌
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
本所業平なりひらのほうのめし屋でひょいと出会ったんでさ、辰あにいはあっしより二十日ばかりまえ、御放免になっていたんです。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「浅草から手繰たぐって、本所の業平なりひらに木賃宿を巣にして居る事は直ぐ判ったんだが、どうした事か、三日も帰って来ない」
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
牛若にこしらえた者は四谷伝馬町で糸屋業平なりひらといわれている大通りの若主人がふんしていたものでしたから、将軍家はそれほどでもありませんでしたが
業平なりひら朝臣あそん実方さねかたの朝臣、——皆大同小異ではないか? ああ云う都人もおれのように、あずま陸奥みちのくくだった事は、思いのほか楽しい旅だったかも知れぬ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二、三人たずねたのですが、あいにくどいつも留守で手間取りました。だが、すっかり判りました。浅井の妾の親許は小梅の植木屋の長五郎、うち業平なりひら橋の少し先だそうです
彼は耳に異状がありしとするも、くちなりはななり業平なりひらをしのぐほどの形をしていたかも知れぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
此人の乱行らんぎやうの一ツをいはば、叔父をぢたる大納言国経卿くにつねきやう年老としおい叔母をばたる北の方は年若く業平なりひら孫女まごむすめにて絶世ぜつせい美人びじんなり。時平是に恋々れん/\す、夫人ふじんもまたをつとおいたるをきらふの心あり。
村田というのがその姓で、聞き香、茶の湯、鞠、揷花、風流の道に詳しい上に、当代無類の美男であったので「色の村田の中将や」と業平なりひら中将に例えられて流行唄はやりうたにさえ唄われた男。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
箇程かほどまでに迷わせたるお辰め、おのれも浮世の潮に漂う浮萍うきくさのようなさだめなき女と知らで天上の菩薩ぼさつと誤り、勿体もったいなき光輪ごこうまでつけたる事口惜し、何処いずこ業平なりひらなり癩病なりんぼなり、勝手に縁組、勝手にたのしめ。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ウム、いかにも俺、っこくて江戸前だから、業平なりひら蜆ってところだろう。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
余り降り方が物凄ものすごいのと、自警団の青年などが水の警戒にけ歩いているので、廻り道をして蘆屋川の堤防の上へ出、水量の増した川の様子を見て戻って来て、業平なりひら橋の辺は大変でございます
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
むすめかせたることろんなしとこゝの内儀ないぎひとわるにてにらみぬ、手跡しゆせきによりてひとかほつきをおもひやるは、いてひと善惡ぜんあく判斷はんだんするやうなもの、當代たうだい能書のうしよ業平なりひらさまならぬもおはしますぞかし
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
自分では業平なりひらなんだからたまらない。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一玄は口の中でそっと、その歌を繰り返してから、在五ざいご中将でございますな、と云った。甲斐は、さよう、業平なりひらだとうなずいた。
業平なりひらと言われた、二十九の美男の殿様が、烏帽子岳の中腹で、羽を焼かれたツグミのように、綺麗に裸に剥かれたのは、想像を絶する奇観でした。
つまり旅人は業平なりひら以来の隅田川の渡りの水にも、犬の土左衛門の流れ得る事実をちよつと思ひ出させ過ぎたのである。これは勿論旅人になつた能役者の罪でも何でもない。
金春会の「隅田川」 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
近ごろのだんなの色男ぶりときちゃ業平なりひらもはだしの人気なんだから、ひょっとするとなんですぜ、だんなに首ったけというどこかの箱入り娘が、ご番所の名まえをかたって、だんなを