がら)” の例文
この競売オークションを一層効果的にするために、時局がら、光栄ある石井長六閣下の愛嬢を、近親として手元にひきつけておく必要があったのだ。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
細い釘店くぎだなの往来は場所がらだけに門並かどなみきれいに掃除されて、打ち水をした上を、気のきいた風体ふうていの男女が忙しそうにしていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
木綿の紺絣のほかに、上布があって生麻きあさの上等のを用い、がらの細かいよい品を手機てばたにかけました。決して粗末な仕事ではありません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
一座の空気が次第に濃厚になると、一番調子づくのは芦名兵三郎で、この男のがらは、不思議なほど浮滑うわすべりな空気にピタリとはまります。
悪魔の顔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「ええ、毎日注文があります。しかしがんの方が、もっと売れます。雁の方がずっとがらがいいし、第一手数がありませんからな。そら。」
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
大兵の男の朱胴しゅどうはまだ新しく燃え立つばかりに見えるのが、竹刀は中段にとって、気合はがらに相応してなかなかすさまじいものです。
今このこけ猿の壺を眼の前にして、じっと見つめていると、その作ゆきといい、がらといい、いかさま天下にまたとあるまじき名品。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
後にその松木が寺島宗則てらしまむねのりとなって、参議さんぎとか外務卿がいむきょうとかう実際の国事に当たのは、実は本人のがらおいて商売ちがいであったと思います。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
もう追ッつけ来る時分だ……手はずをきめておかなくっちゃいけねえ、蜘蛛太くもた、てめえはがらが小さいから人目につかなくっていい。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いろいろな事を見たり聞たりするにつけて日本の将来と云う問題がしきりに頭の中に起る。がらにないといってひやかしたまうな。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
机の前のメリンスの坐布団の牡丹のがらは、彼女が一緒に見立てたものだった。その色褪せた花模様を、彼女は夢み心地に見やるのである。
夢の図 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
私の衣類のがらの見立てなども父がしたようであったし、肩揚かたあげや腰揚こしあげのことまでも父が自分で指図さしずして母にはりを採らせたようであった。
『これはまた、向うの村で受けたのとは、まるで違った挨拶ですね。一体、あなたはどうしてこんなにがらの悪い所に住んでいるんです?』
愉快に感じると同時に自分も知らず知らずその趨勢すうせいに刺激されて、ついがらにない方面にまで空想の翼を延ばしたくなったようなわけである。
日本楽器の名称 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「ええ、あんまり——何です。みんなあんまり、よく出来ないようだって云っています。」と、がらにもなくはにかんだ返事をした。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
矢野はふたりをさそうて自分の室にもどった。元来こういうことをやるは矢野のがらでないのだ。矢野にしては今夜はよほど調子はずれである。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
炭坑の爆発はその後もかなり頻繁ひんぱんにあって、時局がら重大な問題なので、私もその人と一緒に少し手をつけて見たことがあった。
「参ちゃんか」と彼はまた云った、「おちついたらやって来るよ、親方なんてえがらじゃあねえ、これからもずっとそう呼んでもらいたいな」
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あの慾張婆よくばりばばあめ、これもすたれたがらだ、あれも老人としよりじみてるといっちゃ、かねの生きてるうちから、ぽつぽつ運んでいたものさ」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
呼出し吟味ぎんみ有けれども事がらしかと分らず小松屋よりは安五郎多分たぶんわきへ賣たで有んとの訴へなり又儀左衞門の女房も訴へ出しに付無量庵柴屋寺むりやうあんしばやでら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そうかとおもうと、いま西京さいきょうでは、こういう着物きものがらがはやるとか、東京とうきょうひとは、こういうしなこのむとか、そういうようなはなしっていました。
草原の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「少し違うぜ、春のが、山姫のおつかわしめだと、向うへ出たのは山の神の落子おとしごらしいよ、がらゆきが——もっとも今度の方はお前にはえんがある。」
若菜のうち (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これもまた、やむを得ない。ただ、あの、自惚うぬぼれだけは警戒しなさい。お前は、ポローニヤスの子だ。父と同様に、女にれられるがらでない。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
「せつかくですが、僕にはもう、金儲けという仕事に情熱も自信ももてないんです。このへんで自分のがらに合つた仕事をみつけるつもりです」
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
がらにもない華奢きゃしゃ洋杖ステッキ蝙蝠傘などを買って来たのがそもそもの過りであった、私は苦笑して、その柄とさきとを両手に持った。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
僕の所の婆やなんかも、僕ががらにもなく朝起きをして、一日も休まず自動車学校へ通学するのを見て、たまげているよ。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
利かして、寝酒の一杯も、差し入れてくれそうなものだと思っていたのだよ——がらこそ不意気ぶいきだが、どこかこうおつなところのあるお人なんだから——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
大原「僕も豚ではないと思った、実に美味くって頬が落ちる。これは全く御令妹ごれいまいのお手料理だからこんなにおいしいのだね」とがらになきお世辞を言う。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
へッへへ、ね、おい三的! 何をがらにもなく恥ずかしがっているんだ。気を鎮めて下さるんだとよ。お酒でね、おめえの気を鎮めて下さるというんだよ。
一体私は衣服反物に対して、単に色合が好いとかがらいきだとかいう以外に、もっと深く鋭い愛着心を持って居た。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこへホームスパンのがらの見本をしらべに行った由。そしたら「ありゃ心臓のつよさだけでやっているんですな」
そうだお前が笑い出すと、俺だってちょっと気味悪くなるよ。笑うってがらじゃアないからな。がらでないやつを出されると、一時は吃驚びっくりして身に沁みるよ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さうこたへて玄関げんくわんにあがると、機嫌きげんのいいときにするいつものくせで、青木さんは小がらおくさんのからだかるせながら、そのくちびるにみじかせつぷんをあたへた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
日本探偵小説の嚆矢こうしとは此無惨を云うなり無惨とは面白し如何なることがらを書しものを無惨と云うか是れは此れ当時都新聞の主筆者涙香小史君が得意の怪筆を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
文壇の風潮たとへば客観的小説を芸術の上乗じょうじょうなるものとなせばとてひてこれに迎合げいごうする必要はなし。作者すなわちおのれのがらになきものを書かんとするなかれ。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
大杉は直情径行でスパイの勤まるがらではない。もしその一本気いっぽんぎ肝癪かんしゃく傍若無人ぼうじゃくぶじん傲岸ごうがんが世間や同志を欺くの仮面であるなら、それは芝居が余り巧み過ぎる。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それでけりだ……なんだっておれは義侠ぎきょうぶって、余計な口出しをしたのだろう! おれなどが人を助けるがらかい? おれに助ける権利があるのか? なあに
読み返してみたが、やはり駄目だめだ。第一、文章も平生へいぜいと違い、言うことも珍妙不可解で、およそ其許のがらでも、また余の柄でもないと思われることばかりだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
猿廻さるまわしに来た。此は呂昇のがらにも無いし、連れ弾もまずいし、大隈おおすみを聞いた耳には、無論物足らぬ。と思いつゝ、十数年前の歌舞伎座かぶきざが不図眼の前に浮んだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
清浦氏はその呼吸を見て帰つては、こつそり手習ひをした。そしてやつと自分のがらひれをつける事を覚えた。
そういう時には、「栗橋のにそう言って出してもらってやろうか」などとがらにもない口を清三はきいた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
翻訳の稽古けいこでもしていたら、今ごろはこうしたことにもならずにすんだものを、創作なぞとがらにもないことを空想して与太よたをやってきたのが間違いだったかしれん。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
その下役の参謀などにかえって人物がいても、時代は識見と相応せずに人柄と取引するような場合が多いので、がらが時代に合わないと、どうにもならないものである。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
がらに無い聞書きゝがきをするが、椰子やしが成長して実を結ぶまでには七八年を要し、の𤍠帯植物と同じく常に開花し常に結実するので、一じゆが一年に平均八十個の実を産し
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
私は考へるのです。小屋や劇團のがらから言つても、第一流のものが必ずしも好きにはなれません。
砂がき (旧字旧仮名) / 竹久夢二(著)
谷間の淡靄は、その光りに飽和して、大がらの段だら縞に、山谷を染め分ける。真向うの空清水からしみずの直線的な深い山峡には、残雪が今しもめざめて、蒼白い上わ眼を見はる。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
しかし着物のがらや、四肢ししの発達ぶりから考えますと、まず二十五歳前後というところでしょうナ
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ロンドンのちまたに喧嘩けんかがあると、職務がらの礼状を発することなく、みずからその渦中かちゅうに飛びこみ、「サアここにヒュースが来た、ヒュースの拳骨げんこつを知らぬか」と名乗なの
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
お前に似ている男だからといって特別に好意を持たなければならん訳があるのかい? 人に好意を持つなんてことはお前のがらじゃない。それはお前も承知しているはずだ。
この上、お坊ちゃまに御厄介ごやっかいをお掛け申すのは、この衛門、とても忍びのうございますでな。それに、お坊ちゃま。(がらになく恥しそうに笑う)へ、へ、へ、へ、へ、………
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)