ひね)” の例文
首をひねった、「つまりもっとも肝心なもの、竜の眼、要するに点ずべきひとみといったふうなものが、この辺になくてはならないと思う」
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その二階もなか/\にひねつて居り、その頃町家に珍らしく、孟宗竹まうさうだけの太い柱をつけた置床に、怪し氣な山水の小幅が掛けてあります。
ひねくる拍子に簪を海へ落してしまった。蒔蔵はその時たいして惜しいとも思わなかった。まわりの景色だけに何故かよく気がついた。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
人目を避けて、うずくまって、しらみひねるか、かさくか、弁当を使うとも、掃溜はきだめを探した干魚ほしうおの骨をしゃぶるに過ぎまい。乞食のように薄汚い。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あゝ臭い。」と、お駒は長い袂で其の煙を拂ひながら、定吉の新らしい煙草入を引き寄せて、緒締めの赤い玉なぞをひねくつてゐた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
くわを肩に掛けて行く男もあり、肥桶こえたごを担いで腰をひねって行く男もあり、おやじの煙草入を腰にぶらさげながらいて行く児もありました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「叔父の手前何と云ッて出たものだろう?」と改めて首をひねッて見たが、もウ何となく馬鹿気ていて、真面目まじめになって考えられない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
さて、三つの開閉器スイッチひねられて、この一帯が暗黒になると、その時、何故に、テレーズの像が現われなければならなかったのでしょう
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
両側の家から、紙にひねったお賽銭を投げるのが、誰を目的めあてであろうはずはない、みんな米友の身体をめがけて投げられるのだから
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「殺さねえように捕まえる。それで、相手が刃物を持っていると、こっちも刃物でむかって行かにゃならねえ」と、考え考え首をひねって
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
考えても見ろ! 何百人という人間を髭をひねり稔りあごで使って来てる大請負師おおうけおいしだぞ。何は無くっても家柄いえがらってものだけは残っているんだ。
栗の花の咲くころ (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
詩人ウイレムは華奢きゃしゃな脚を組み合わせ、肱をつき、指を口髭くちひげにあて、やがて、のべつにそれをひねるのである。顔を影に向けて眼をつぶる。
この畜類ちくるゐ、まだ往生わうじやうしないか。』と、手頃てごろやりひねつてその心臟しんぞうつらぬくと、流石さすが猛獸まうじうたまらない、いかづちごとうなつて、背部うしろへドツとたをれた。
「多勢子供もってみたが、こんな意地張いじっぱりは一人もありゃしない」母親はお島をひねりもつぶしたいような調子で父親と争った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
実際テオドラ夫人の手料理は美味うまかつた。尾崎氏は肉汁スープで汚れた胡麻白ごまじろの口髯をひねりながら、料理について色々な事を話した。
「なるほどそうだね」と圭さん、首をひねる。圭さんは時々妙な事に感心する。しばらくして、ねった首を真直まっすぐにして、圭さんがこう云った。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
思いきってその時計の横のスイッチをひねって、白い文字板の二時十分を指している長針と短針をチラリと見ると直ぐにまた、消してしまった。
継子 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
森君はそう云って、犬の脚を離そうとしたが、その時にオヤと云って首をひねった。見ると、脚の裏に何だか赤黒いものがベットリついている。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
赤ん坊の手をひねるのは、造作もねえこった。お前は一人前の大人だ。な、おまけに高利で貸した血の出るような金で、食い肥った立派な人だ。
牢獄の半日 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
この時、これまでずっと法廷の天井を眺めていた例の仮髪かつらの紳士が、小さな紙片に一二語書いて、それをひねって、その弁護士に投げてやった。
まだ冬枯れのままの延び放題な、そして風にひねられみたてられたまま茫々として、いかにも荒れた感じだ。そのあたりでは風がまだ相当強い。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
それまで、どこを転々として、何をしてゐたかと、朦朧もうろうとして頭をひねつて跡を辿ると、恥づべき所業だけしか手繰り得ないのもいつもの通りだ。
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
れほどの物好ものずきなれば手出てだしを仕樣しやうぞ、邪推じやすゐ大底たいていにしていてれ、あのことならば清淨しようじよう無垢むく潔白けつぱくものだと微笑びようふくんで口髭くちひげひねらせたまふ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
八雲は、二人の武士に、左右の手をうしろへひねり気味に取られて、烈々と燃える篝火かがりびの前にひきすえられているのである。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人の手だ! 私は枕元のスイッチをひねった。鉄色の大きな手が、カーテンの外に引っこんで行くところである。妙に体がガチガチふるえてくる。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
飛ぶがごとく駈け寄った要太のひねりに、この小さな生命はもう超四次元の世界の彼方に消えてしまったのであった。
鴫突き (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
道節も宝刀をひねくり廻して居合抜いあいぬきの口上のような駄弁をろうして定正に近づこうとするよりもズドンと一発ブッ放した方が余程早手廻しだったろう。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
『あ、もう十二時がとうに過ぎて居る。』と云ツて、少し頭をひねツて居たが、『どうだ君、今夜少し飮まうぢやないか。』
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
首をひねって一つ奇抜な名を付けてみようなどと、考えている余裕はないのが常であった。人が評定をして多数決できめたということも想像しがたい。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼は暗闇の中で幾度も体をひねった。それから、そっと手を伸ばしてあたりを探ってみた。すると、その手にれて、絹夜具がばりばりと音を立てた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
電力を通ずるスイッチのようなものをひねったと思うと、回転式溶鉱炉ともいうべきものが響きを立て運転を始めた。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
先生せんせいさん、わたしやれでもどうしたものでがせうね」おしな突然とつぜんいた。醫者いしやたゞ口髭くちひげひねつてだまつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
うっかり舁夫が向川岸むこうがしを見る隙をねらいすまし、腰を居合にひねって不意に舁夫の胴腹へ深く斬りかけ、アッと声を立てる間もなくドンと足下そっかにかけたから
このマアガレット・ロフティの変死事件が新聞にると、二人の人が英国内で地方を異にして同時に首をひねった。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
廊下から掛った鍵をひねって三階の表部屋をあけると、緑色のドレスを着けた娘が手足をばくされて椅子にくくりつけられたまゝ、部屋の隅に小さくなっている。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「人の耳に入ってまこと悪くば、聴いた其奴そやつひねりつぶそうまで。臙脂屋、其方が耳を持ったが気の毒、今此のわしに捻り殺されるか知れぬぞ。ワッハハハ」
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なかんずく天明ぶりの本町側が盛んで、十七年に『狂歌共楽集』を始め絵入りの『月並集』を出版、少し気のある連中はこうなると己れも一つと頭をひねる。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
米国アメリカまで来て、此様こんな御馳走になれやうとは、実に意外ですな。』と髯をひねつていかめしく礼を云ふもあれば
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
とそのころは誰もがザラに懐中してゐた日本紙におひねりを包んで、一ばん先にポーンと高座へ投げて呉れた。
落語家温泉録 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
何か日本の特産品で彼方の人に喜ばれそうな物はと頭をひねった末、ふと服部はっとりの地下室で螺鈿らでん手筥てばこを見付けたので、それを幸子からの進物とすることにきめ
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
僕は眼鏡と聴音器の連結された奇妙なマスクを頭からかぶせられる。彼は函のそばにあるスイッチを静かにひねる。……突然、原爆直前の広島市の全景が見えて来た。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
宮地君はこの色彩の配列を考えるのに殆ど一週間の間も食事も忘れるほど頭をひねっていました。彼がひどい神経衰弱に罹ったのは、この氷柱を作った頃からです
凍るアラベスク (新字新仮名) / 妹尾アキ夫(著)
「……れいの馬内侍の辞世だが、あれには俺もかんがえた。……いや、どうも、だいぶ頭をひねったよ。……ひょろ松、あの辞世には、やはりわけがあったんだ」
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
とそれから東屋氏は、そばの椅子へしずかに腰を下ろし、両膝りょうひざ両肘りょうひじをのせて指を前に組み合せ、ためらうように首をひねりながら、ボツリボツリと切り出した。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そして鼻ひげをひねりあげてじろッと阿賀妻の顔を見た。短かいあごでこちらを示し、傍らの下役にたずねた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「わたし扱帯しごが一つしいの。あなた買ってくれる?」お宮はまぶしいばかりに飾った半襟屋はんえりや店頭みせさきに立ちどまってそこにけつらねた細くけをひねりながらいった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
これは彫刻なら立体的に物の形が現われて都合が好いと考えたからであります。それで牛込うしごめ辺の鋳物師の工場で、蝋作りを習って、蝋をひねって馬をこしらえました。
「やあ、何時いつ帰った、ブルジョアはちがったものだね、ちょっと俳句をひねると云っても、あんな処まで出かけて往くのだから、どうだ、好い女でも見つかったかい」
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、武兵衛はそれを見ると、体を一方へひねったが、片脚を上げて猪の腹を砕けよとばかり蹴り上げた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かう云ふ彼の言葉を聞き流しながら、葦原醜男はその白髪を分けて、見つけ次第虱をひねらうとした。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)