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尾花
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をばな
其の
錦の
淵に、
霧を
被けて
尾花が
縁とる、
緋の
毛氈を
敷いた
築島のやうな
山の
端に、もの
珍しく
一叢の
緑の
樹立。
眞黄色な
公孫樹が
一本。
靄の
中を、
此の三
人が
來て
通りすがつた
時、
長いのと
短いのと、
野墓に
朽ちた
塔婆が二
本、
根本にすがれた
尾花の
白い
穗を
縋らせたまゝ、
土ながら、
凩の
餘波に
其處に
居合はせた
禿頭白髯の、
見も
知らない
老紳士に
聞く
私の
聲も
震へれば、
老紳士の
脣の
色も、
尾花の
中に、たとへば、なめくぢの
這ふ
如く
土氣色に
變つて
居た。
雲暗し、
雲暗し、
曠野を
徜徉ふ
狩の
公子が、
獸を
照す
炬火は、
末枯の
尾花に
落葉の
紅の
燃ゆるにこそ。
途すがらも、
此の
神祕な
幽玄な
花は、
尾花の
根、
林の
中、
山の
裂けた
巖角に、
輕く
藍に
成つたり、
重く
青く
成つたり、
故と
淺黄だつたり、
色が
動きつつある
風情に
堪へやらぬまで
身に
沁むは、
吹く
風の
荻、
尾花、
軒、
廂を
渡る
其ならで、
蘆の
白き
穗の、ちら/\と、あこがれ
迷ふ
夢に
似て、
枕に
通ふ
寢覺なり。よし
其とても
風情かな。
その
尾花、
嫁菜、
水引草、
雁來紅をそのまゝ、
一結びして、
處々にその
木の
葉を
屋根に
葺いた
店小屋に、
翁も、
媼も、ふと
見れば
若い
娘も、あちこちに
線香を
賣つてゐた。
その
夥多しい
石塔を、
一つ
一つうなづく
石の
如く
從へて、のほり、のほりと、
巨佛、
濡佛が
錫杖に
肩をもたせ、
蓮の
笠にうつ
向き、
圓光に
仰いで、
尾花の
中に、
鷄頭の
上に
彼は
慌しく
窓を
開いて、
呼吸のありたけを
口から
吐出すが
如くに
月を
仰ぐ、と
澄切つた
山の
腰に、
一幅のむら
尾花を
殘して、
室内の
煙が
透く。それが
岩に
浸込んで
次第に
消える。
……
知つてゐるのは、
秋また
冬のはじめだが、
二度三度、
私の
通つた
數よりも、さつとむら
雨の
數多く、
雲は
人よりも
繁く
往來した。
尾花は
斜に
戰ぎ、
木の
葉はかさなつて
落ちた。
紺青の
海、
千仭の
底よりして
虹を
縱に
織つて
投げると、
玉の
走る
音を
立てて、
俥に、
道に、さら/\と
紅を
掛けて
敷く
木の
葉の、
一つ/\
其のまゝに
海の
影を
尚ほ
映して、
尾花、
枯萩も
青い。