びん)” の例文
棚の上には酒のびんや缶詰のたぐいも乗せてあった。ふたりはまん中に据えてある丸いテーブルを囲んで、粗末な椅子に腰をおろした。
麻畑の一夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
机の上にはアルコホル漬けにした蜘蛛くもびんがいくつも並んでおり、その前の硝子器の中にも一匹大きなやつがじっと伏せられている。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
ターネフは、安楽椅子あんらくいすに、どっかと身をなげかけた。その前に小さいテーブルがあって、酒のびんさかずきとソーダ水の筒とがのっている。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
安ものの青い絨毯じゅうたんが敷かれて、簡素な卓子テイブル椅子いすが並んでおり、がっちりした大きな化粧台の上に、幾つかの洋酒のびんも並んでいた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
司厨夫バットラーのスタッブスがどこからとなしに現われて、アルコールなしのシャンパンのびんを持って来たので、だれかかった一座が救われた。
入れていたもので、なかなか評判でありました。硝子器のびんは「ふらそこ」といって、きりの二重箱へなど入れて大切にした時代です
壁に五段ばかり棚を釣って、重ね、重ね、重ねてあるのは、不残のこらず種類の違った植物の標本で、中にはびんに密閉してあるのも見える。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
コップもビイルのびんも、こわれなかったけれど、たしかに未だ半分以上も壜に残っていたビイルが白い泡を立てつつこぼれてしまった。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
机の上には大理石のくず、塩酸のびん、コップなどが置いてあった。蝋燭ろうそくの火も燃えていた。学士は手にしたコップをすこしかしげて見せた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
天王寺公園の市立動物園へ象のふんをもらいに行く男があれば、獅子の尿を四合びんを提げて取りに行く女もある。ずいぶんときたない話。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
彼はそのテーブルの上に胸をかがめ、両腕にぐったり頭を押しつけ、杯やコップやびんにとりまかれて、常に同じ姿勢のままでいた。
ドクトルは其後そのあとにらめてゐたが、匆卒ゆきなりブローミウム加里カリびんるよりはやく、發矢はつしばか其處そこなげつける、びん微塵みぢん粉碎ふんさいしてしまふ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
菓物くだもののシロップを沢山こしらえておいてそれを湯冷ゆざましの水へしてびんへ入れて井戸の中か氷で冷しておけば美味しい飲料が何でも出来ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
かたわら卓子テーブルにウイスキーのびんのっていてこっぷの飲み干したるもあり、いだままのもあり、人々はい加減に酒がわっていたのである。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
酒を飲みたい、と一言いえば、たとえ借金をし、眠っている店をたたきおこしてでもウィスキイびんを買ってきてくれるのである。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
酒倉は地下室にある。まもなくそこを捜索しておあつらえのびんを持って来て、葡萄酒の方は、まあこれでいいが、その五日後である。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
それでいながら彼は、朝飯の時にも昼飯の時にも夕飯の時にも、自分の前に立っているウイスキイのびんに、絶え間なく手を出すのだった。
咽喉のどしめしておいてから……」と、山西は一口飲んで、隣の食卓テーブル正宗まさむねびんを二三本並べているひげの黒い男を気にしながら
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
玄関は踏板のところまで、びんの見本が雑然と並んでゐて、むせるやうな香料の匂ひが、煤けた屋内の隅々から這ひ寄つて来る。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
夜になると、坊ちやんが寝てゐられる枕もとに、三匹の小さい金魚が這入つた硝子のびんが、電気のあかりを受けて、赤いのが大きく見えてゐた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
そうして向うでちろりを借りておかんをつけて、余った酒は又びんに入れて持って帰ってさかしおに使うと云うんだが、実際ありゃあいい考だね。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ゆき子は黙つて、部屋の隅のびんを二三本かして見てゐたが、「ないわ」と云つた。富岡は毎晩酒がなくてはゐられないやうになつてゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
数輪の薔薇ばらの花がびんにさしてあって、古いフロレンス画家の写真で飾られてる四方壁の室に、春の気を少しもたらしていた。
自殺者はツララ型をした鋭い氷片を魔法びんに入れて、蒸し風呂の中へ持ちこみ、それで自分の心臓を刺して死んだのである。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
が、まずその電気広告費を稼ぐために、彼は毎日違法倶楽部の酒台の向側でカクテルびんを振らなければならなかったのです。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
どこまで行っても同じような焼跡ながら、おびただしいガラスびんが気味悪く残っているところや、鉄兜てつかぶとばかりが一ところに吹寄せられている処もあった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
西洋人に異様な興味を持つ年頃であるお京さんは配達夫が持って行く牛乳のびんに日本の名所の絵葉書なぞ結びつけてやった。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼女はまもなく肉切れの一皿と一びんのぶどう酒とをもってやってきたが、それはどう見ても食事の残りものにすぎなかった。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
實際じつさいおもつたよりもはやく、それを半分はんぶんまないうちあいちやんはあたま天井てんじやうにつかへたのをり、くびれない用心ようじんかゞんで、いそいでびんした
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
硝盃コツプさきに水をれて、ポタリ/\とびんの口をけながらたらすのだが、中々なか/\素人しろうとにはさううま出来できない、二十てきと思つたやつが六十てきばかり出た。殿
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
インクびんをぶら下げて歩くのは、若い娘達の一つの見得で、東京の山の手から、田舎の進歩的な娘の間に、恐ろしいいきおいで流行していたものです。
おしのは草履をゆわいつけてはき、煎薬せんやくを詰めたびんと、綿や紙を入れた包みを持って、釣台のわきに付いて本石町をでかけた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そうしてオキシフルのびんを手にしたまま、スティムで蒸されている息苦しい廊下のなかを歩きだす。かばんにつまずいたり、靴をふんづけそうになる。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
彼は、河底の砂の上にびんが一本転がっているのを見つける。中には水がいっぱい入っているだけだ。私はわざとを入れておかなかったのである。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
一杯売の外には多量に分けられぬというのを、近所のよしみでと無理に頼み込んで、時々一升びんを持たせて買いに遣る。
鶴子は涙を見せまいと台所へ行って見ると、老人の言った通り、酒屋の男が醤油しょうゆびんを置いて立去るところであった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「どうだ、一ぱい遣らないか」と、前にあった葡萄酒ぶどうしゅびんを持って振って見せた。中にはまだ余程這入っていた。梅子は手をたたいて洋盞コップを取り寄せた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は毎朝台所へ来る牛乳のびん軽蔑けいべつした。又何を知らぬにもせよ、母の乳だけは知っている彼の友だちを羨望せんぼうした。
そこには、すずりや色々のびんが入っておりましたが、そのうち特に俊夫君の興味をひいたものがありました。それはビタミンAという薬剤の入った壜でした。
自殺か他殺か (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
美しい彫刻ほりのある、銀の台付の杯を、二つ並べて、浪路は、黄金のフラスコ型のびんから、香りの高い酒をみたして
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「ブランデーのびんを大急ぎで持っておいで。それから、吉川様へぐおいで下さるように電話をおかけなさい! 直ぐ! 主人が危篤きとくでございますからと。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「お約束のカシミヤブーケは之だけしか上げられませんよ。」そして、前へ出した彼の女の黒い手には、二三滴の香水をひそませた一個のびんが握られてゐた。
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
びんの腰をわらで巻いた赤い葡萄ぶだう酒はうせ廉物やすものだらうが、巴里パリイで飲んだ同じ物より本場だけに快く僕を酔はせた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そうした外敵からは彼らは安全であったと言えるのである。しかし毎日たいてい二匹宛ほどの彼らがなくなっていった。それはほかでもない。牛乳のびんである。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
その隣には「陳列びん店」という看板が掲げてあって、店をのぞくと、たとえば諸君がお前餅屋せんべいやの店先で見られるであろう、あのお煎餅の入っている電灯型の壜
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
万全を期するため、ついでにコピーを一通つくつて、びんに密封して海中に投じることにしよう。この早手廻しの遺書(?)が、結局無用に帰することを僕は祈る。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
カッスル社から「びんの悪魔」と「ファレサの浜辺」とを合せ、「島の夜話」として出そうと言って来る。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そこには、二人の一等卒が、正宗の四合びんを立てらして、テーブルに向い合っていた。ガーリヤは、少し上気したような顔をしてしゃべっている。白い歯がちらちらした。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
咽喉のどから下全部を、一つの袋かびんの類と見なした言葉だと思う、そしてボタンはその度盛どもりである。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
角柱はよく知られているもので、第8b図(第4図版)に見られるように、両底面からビールびんの揚げ底のような形のあながはいり込んでいることは前から知られている。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)