まわ)” の例文
彼等がストオヴのまわりで、身仕度をしながら話をしていると、ロシア人が四、五人入ってきた。——中に支那人が一人交っていた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
もはや母の身のまわりには監視の眼もなく、草の庵の柴の戸ぼそは近づく者を拒まないで、誰に向っても開放されている筈であった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
神楽殿のゆかを見ているのであるが、まわりの人々のように舞楽に陶酔している眼ではない。むしろ怖いといえばいえもする眼ざしなのだ。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その辺にはかなり手広な空家がぼつぼつ目に着いたが、まわりが汚かったり、間取りが思わしくなかったりして、どれも気に向かなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ついに視力が弱まり、自分のまわりがほんとうに暗くなったのか、それとも自分の眼が錯覚を起しているのか、わからなくなった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
這入はいって見ると八畳の真中に大きな囲炉裏いろりが切ってあって、そのまわりに娘と娘のじいさんとばあさんと僕と四人坐ったんですがね。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふた足三足送ってゆくうちに、胸はいよいよ詰まってきて、不思議な暗い影がお園のまわりにまつわって来るように思われた。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
魚のはらわたが腐ったような異臭が、身のまわりにただよっているのだった。胸の中は、灼鉄やきがねを突込まれたように痛み、それでせき無暗むやみに出て、一層苦しかった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
陽気な陽気な時節ではあるがちょっとの間はしーんと静になって、庭のすみ柘榴ざくろまわりに大きな熊蜂くまばちがぶーんと羽音はおとをさせているのが耳に立った。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
まわりは高低に面白く地取って、小規模ですがこまかく心が配ってあります。築山だけはまわりに遠慮したものでしょうか、型ばかりに設えてあります。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
クリスマスの木のようなあの十勝のたちに会うことも、この老人からストーヴのまわりで「カムチャツカへ歩いて行った話」を聞くことも皆楽しみの種である。
誰にもしかられなかったが、若し私たちがその奥の門から更に寺の境内に侵入して、其処そこのいつも箒目ほうきめの見えるほど綺麗きれいに掃除されている松の木のまわりや、鐘楼の中
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
今度目をあけて見ると、部屋の中にはただ、一筋の日の光と、それから、彼のまわり中に、彼が一生かかってため込んだ金がきらきらと輝いているのとが見えるばかりでした。
「観音堂よりはまだ大きい。一まわりももっとも大きいかな」「それは随分大きなものだな」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼はもう可なり酔つていたけれども、その言葉が、たゞのキザなお座なりとは響かず、まわりを取巻く女たちの蓮葉はすつぱな笑い声に交つて、気味わるく尾を引き、チクリと脳天にこたえた。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
話に聞くさい河原かわらとは、こうもあろうかというようなあさましい風景であった。島まわりは、一里ほどもあるふうだったが、断崖の入江にさえぎられて廻ってみることが出来なかった。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
かれまわりを掃除そうじするニキタは、そのたびれい鉄拳てっけんふるっては、ちからかぎかれつのであるが、このにぶ動物どうぶつは、をもてず、うごきをもせず、いろにもなんかんじをもあらわさぬ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
郵便は一日に一度午後の八時頃に配達して来るので彼は散歩から帰って来ると来ているのが常であった。彼は狭い村を彼方あちらに一休み此方こちらに一休みして、なるべく時間のかゝる様にしてまわった。
恭三の父 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
あまり上等でない火鉢を想像してもらいたいからであるが、その上に大きな真黒なテカテカ光った鉄板をせたもののまわりを、いずれも一目見てこれもあまり上等の芸人でないと知れる男女が
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
林檎りんごいまいっぱいのはなざかり、かぐわしい接骨木にわどこはビロードのよう芝生しばふまわりをながれる小川おがわうえにそのながみどりえだれています。なにもかも、はるはじめのみずみずしいいろできれいなながめです。
軒には品のいい半蔀はじとみを釣るんだ。……家のまわりには檜垣ひがきをめぐらしてもいい。それから、小ざっぱりした中庭を作ろう。切懸きりかけのような板囲いで仕切って、そいつには青々とした蔓草つるくさわせるんだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
池のまわりのツガザクラ、偃松はいまつは、濃き緑を水面に浮べている。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
まわりの田の稻のくき
と、右近は、まわりにいる棟梁とうりょうや下役たちをかえりみて、自分の大きなところも見せるつもりか、笑い捨てて、藤吉郎へ後ろを向けた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お銀はその時、母親と一緒に押入れから子供の着替えのようなものを出したり、身のまわりの入用なものを取り揃えたりしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ただ大きな顔をするんでしょう。そうして何もしないで、また何も云わないで地蔵のまわりを、大きな巻煙草まきたばこをふかしながら歩行あるいているんですとさ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんだか急に、目に見えぬ長い触手しゅくしゅがヒシヒシと身体のまわりに伸びてくるような気がしてきました。私はいつの間にか、兄のたもとをしっかり握っていました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
昼間は分らなかったけれども、鼻の下やくちびるまわりにひげかすかに生えかかっているのが(彼は毛深いたちなのである)見えて、それがまた薄気味が悪かった。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
日よけに半分垂れたすだれの外には、自然に生えたらしい一本の野菊がひょろひょろと高く伸びて、白い秋の蝶が疲れたようにそのまわりをたよたよと飛びめぐっていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
海岸などにいると、いつも私たちのまわりには人だかりがした程に。そうして村の善良な人々は、私のことを、お前の兄だと間違えていた。それが私をますます有頂天にさせた。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
肛門のまわりには、糞がすっかり乾いて、粘土のようにこびりついていた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
そうって子家鴨こあひるまわりにあつまってました。子家鴨こあひるはみんなにあたまげ、出来できるだけうやうやしい様子ようすをしてみせましたが、そうたずねられたことたいしては返答へんとう出来できませんでした。野鴨達のがもたちかれむかって
山岸もそのまわりの社員たちも椅子から立上って加奈江を取巻いた。
越年 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だから、ほんの身のまわりの物だけ持って発ちなさるんだよ。まあ結局、ねえばあやさん、あのご夫婦はここじゃ暮せない随性ずいしょうだったんだね。そうした随性だったんだね。……これも前世の約束ごとさ。
その負け惜しみの口悔しそうなていが、真実味をただよわせて、見ている家光やまわりの者にはおもしろかった。人々のおもてにかるい苦笑がながれた。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
急いで家へ帰って来ると、父親はランプの下で、苦い顔をして酒のかんをしていた。子供たちは餉台のまわりに居並んで、てんでんに食べ物をあさっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まわりの者が智慧をつけたりそゝのかしたりしなかつたら、よもや不縁にはならなかつたらう、自分がこんな憂き目を見るのは、全くおりんだの、福子だの
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大勢雇って、地蔵様のまわりをわいわい騒いであるいたんです。ただ地蔵様をいじめて、いたたまれないようにすればいいと云って、夜昼交替こうたいで騒ぐんだって
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
下へ降りてみるとなるほど石炭の山の中を、かごが通るたびごとに、かご一杯の石炭を詰めこんで、上に昇ってゆく。辻永は石炭庫せきたんこまわりをしきりに探していたが
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それがその……嘘か真実まことか存じませんが、道中で路銀を失くしたので困るから、身のまわりの物を払って、差引きの代金が欲しいというお話。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
笹村もそのたんびにその湯に浸った。それにそこは川を隔ててすぐ山の木の繁みの見えるところで、家のまわりを取りめぐらした築土ついじの外は田畑が多かった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まわりの者が智慧をつけたりそゝのかしたりしなかつたら、よもや不縁にはならなかつたらう、自分がこんな憂き目を見るのは、全くおりんだの、福子だの
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そればかりか、肩もせなも、腰のまわりも、心安く落ちついて、いかにも楽に調子が取れている事に気がついた。彼はただ仰向あおむいて天井てんじょうから下っている瓦斯管ガスかんを眺めた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は、艇にのったまま、クロクロ島のまわりを、いくども、ぐるぐると廻って、損傷個所そんしょうかしょをしらべた。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なにかと怪しまれるような音が、どすっとまわりの者の耳にひびいたと思うと、せんを抜いたような血しおとともに、腕は付け根から落ちていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆるいかゆを一碗、卵黄、林檎りんご汁等。私がさじすくって食べさせる。病人は小池さんよりも、なるべく私に身のまわりの世話をして貰いたがっている風が見える。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
するうちに、よどんだようなあおい水のまわりに映るの影が見え出して、木立ちのなかには夕暮れの色が漂った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「天気のわるいのによく散歩するですね。——岩崎の塀を三度まわるといい散歩になる。ハハハハ」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見ると、アンは、そこにかがんで、腰のまわりについていた綱を、解いているところだった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そう二人が問答を交わしている間、まわりの仲間は、つばをのんで聞いていたが、七内が最後に、ちぇッと舌打ちして口を結んだのをきっかけに
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)