假初かりそめ)” の例文
新字:仮初
只、假初かりそめの風邪だと思つてなほざりにしたのが不可いけなかつた。たうとう三十九度餘りも熱を出し、圭一郎けいいちらうは、勤め先である濱町はまちやうの酒新聞社を休まねばならなかつた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
いま友人の語つて居るやうに、此家ここの細君は確かにちがつた性質をつて居る。萬事が消極的で、自ら進んでどう爲ようといふやうな事は假初かりそめにもあつたためしがない。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
ものいふこゑがけんどんであららかで、假初かりそめことにも婢女をんなたちをしかばし、わたしかほをば尻目しりめにおにらあそばして小言こごとおつしやらぬなれどもそのむづかしいことふては
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
げに汝は假初かりそめの物の第一の矢のため、はやかゝる物ならざりし我に從ひて立昇るべく 五五—五七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
だからこの女が、ほんの假初かりそめの氣まぐれからそうしてくれと言いだしたなら、彼は即座にどんな奇怪きわまる馬鹿げたことでもやってのける氣になったに相違ないのである。
切害せし證據假初かりそめにも將軍家の御落胤に有べからざる凶相きようさうなり僞物にせものと申せしがよもあやまりでござるかと席をたゝいて申ける天一坊始め皆々口をとぢ茫然ばうぜんたりしが大膳こらへ兼御墨付おすみつきと御短刀たんたう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其詞つきの、唯だ假初かりそめの旅路など出立いでたち給ふにかはらぬぞ、なか/\に哀なりける。アントニオに暇乞いとまごひせずやといふは、フアビアニ公子の聲なり。坐上にて、獨り此君のみは面に憂の色を帶び給へり。
假初かりそめにもかゝるものたま
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こまかに觀察して東京公論へ載するにつきまぎれぬ爲にしたるなり此の旅行の相談まとまるやあたかも娘の子が芝居見物の前の晩の如く何事も手につかず假初かりそめにも三十日のことなればやりかけたる博覽會の評も歸つてからまた見直すとした處で四五日分は書き溜てザツト片を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
假初かりそめ愚痴ぐち新年着はるぎ御座ござりませぬよし大方おほかたまをせしを、やがあわれみてのたまはもの茂助もすけ天地てんちはいして、ひとたか定紋でうもんいたづらにをつけぬ、何事なにごとくて奧樣おくさま
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
急ぎて當所たうしよ迄來りし所此病氣に取付とりつか假初かりそめの樣なれどもハヤ二年越しの長煩ながわづらひに貯はへ殘らずつかひ捨其上お花のくしかうがひ迄も賣盡うりつくし外に詮方せんかたも無りしに此家の主人がお花の苦勞する樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼はどんなにか自分の假初かりそめの部屋を愛し馴染なじんだことだらう。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
信如しんによ何時いつ田町たまちかよときとほらでもことめどもはゞ近道ちかみち土手々前どてゝまへに、假初かりそめ格子門かうしもん、のぞけば鞍馬くらま石燈籠いしどうろはぎ袖垣そでがきしをらしうえて、縁先ゑんさききたるすだれのさまもなつかしう
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
無念なりと蹉跎あしすりなしていかり給ひしが今更詮方せんかたも無りしとぞ假初かりそめにも十五萬石にて播州姫路の城主たる御身分ごみぶん素性すじやうもいまだたしかならぬ天一坊に下座ありしは殘念ざんねんと云も餘りあり天一坊は流石さすが酒井家さかゐけさへ下座されしとわざ言觸いひふらし其威勢ゐせいおほなみの如くなれば東海道筋にて誰一人爭ふ者はなく揚々やう/\として下りけるは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
口惜くちをしげに相手あひてにらみしこともありしがそれは無心むしんむかしなり性來せいらい虚弱きよじやくとて假初かりそめ風邪ふうじやにも十日とをか廿日はつか新田につた訪問はうもんおこたれば彼處かしこにもまた一人ひとり病人びやうにん心配しんぱい食事しよくじすゝまず稽古けいこごとにきもせぬとか
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
稻荷いなりさまが社前しやぜんなるお賽錢箱さいせんばこ假初かりそめこしをかけぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
假初かりそめならぬ三えんおなじ乳房ちぶさりしなり山川さんせんとほへだたりし故郷こきやうりしさへひがしかたあしけそけし御恩ごおん斯々此々かく/\しか/″\はゝにてはおくりもあえぬに和女そなたわすれてなるまいぞとものがたりかされをさごゝろ最初そも/\よりむねきざみしおしゆうことましてやつゞ不仕合ふしあはせかたもなき浮草うきくさ孤子みなしご流浪るらうちからたのむは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)