伯母おば)” の例文
あの婦人は僕の伯母おば、死んだ僕の母の姉だったのだ。僕の母は僕が三つの時死んでいる。僕の父は僕の母を死ぬる前に離婚している。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
曾祖母ひいばあさん、祖父おぢいさん、祖母おばあさん、伯父おぢさん、伯母おばさんのかほから、奉公ほうこうするおひなかほまで、家中うちぢうのものゝかほ焚火たきびあかうつりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ある日曜日に彼は、サン・スュルピス会堂に行き、小さい時いつも伯母おばから連れてこられたそのヴィエルジュ礼拝堂で弥撒ミサを聞いた。
梅雨つゆ降りつゞく頃はいとわびし、うしがもとにはいと子君伯母おば二処にしょ居たり、君は次の間の書室めきたるところに打ふし居たまへり。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
... これからはちょうどお花見になって向島でも上野でもどんなに人が出てにぎやかだろう」お代「鎮守様ちんじゅさまのお祭りより賑やかなの」伯母おば
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかしA村のおいがK市の姉すなわち彼の伯母おばのために状袋のあて名を書いてやったという事もずいぶん可能で蓋然がいぜんであるように思われた。
球根 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一夜を妓楼ぎろうに明かした彼は伯母おばへの手前、そういう場合にすぐそれと気取けどられるような憔悴しょうすいした後ろ暗いさまを見せまいとして
彼女の実家は仏教の篤信者とくしんじゃで、彼女の伯母おばなぞは南無阿弥陀仏なむあみだぶつとなえつゝ安らかな大往生だいおうじょうげた。彼女にも其血が流れて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その頃いつも八重さくらがさかりで、兄はその爛熳らんまんたる花に山吹やまぶき二枝ふたえだほどぜてかめにさして供へた。伯母おばその日は屹度きつとたけのこ土産みやげに持つて来た。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
茶の間へ来て魔子は私の妻を見てた繰返した。「伯母おばさん、パパもママも殺されちゃったの。今日新聞に出ていましょう。」
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
わたしの子供たちは伯母おばの所へ残っていますが、それぞれ財産を持っていますから、わたしという人間は別に用がないのです。
「もう、正雄まさおは、あかぎれができたのね。伯母おばさんのいえへいって、へちまのみずをもらってくるといいわ。」といいました。
へちまの水 (新字新仮名) / 小川未明(著)
阿父おとつさんや阿母おつかさんにもよろしく云つてください。病人も御覧の通りで、もう心配することはありませんから。」と、大野屋の伯母おばは云つた。
僕は熱もあったから、床の中に横たわったまま、伯母おばの髪を結うのをながめていた。そのうちにいつかひきつけたとみえ、寂しい海辺うみべを歩いていた。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
十か二十か悉皆みなとははずたゞまいにて伯父おぢよろこ伯母おば笑顏ゑがほ、三すけ雜煮ぞうにのはしもらさるゝとはれしをおもふにも、うでもしきはかね
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
クリストフはそれに驚かされた。彼はマンハイム家で、ユーディットの伯母おばたちや従姉妹いとこたちや友だちらに出会った。
いよいよ帰るという日になって、伯母おばは大変名残りをおしんだが、伯父の方は案外平気だった。「何処どこにいるのも同じこった。来年の休みにはまた来い」
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それを甘んじて、この若い娘さんのために割愛した伯母おばさんなり、姉さんなりの心意気も、嬉しいものではないか。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は、春木君が家へたずねてこなかったことを知り、念のために、春木君が起き伏している伯母おばさんの家へいった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小侍従も童女時代から伯母おばの縁故で親しい交情があったから、だいそれた恋をする点では、迷惑な主人筋の変わり者であると面倒には思っていたものの
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼が生れた日だけしか彼を見なかったその伯母おばさんが「ほう、おまえが隆坊。まあ大きくなりましたね、おお。よく似ているわね、うちの子に。ほほほ」
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
女が酒の醸造をつかさどったことは、近昔の文学では狂言の「うばが酒」に実例がある。無頼ぶらいおいが鬼の面をかぶり、伯母おばの老女をおどして貯えの酒を飲むのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
王はおんみずか太刀たちふるって防がれたけれども、ついにぞくのためにたおれ給い、賊は王の御首みしるしと神璽とをうばってげる途中とちゅう、雪にはばまれて伯母おばみねとうげに行き暮れ
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
伯母おばめい同士が奉公していると言いますが、おさのの方は、弾三郎のめかけだったという近所の噂が本当でしょう。
……若先生は伯母おばからあの鼓のことを聞かれたのです。あの鼓はほんのお飾りでホントの調子は出ないものだと或る職人が云ったが、本当でしょうかってね。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ずいぶん長くかかっていらっしゃいましたね。鎌倉の伯母おば(高氏の母、草心尼の姉)さまへですか」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道にふ人も、田畑に見る人も、隣家に住む老人夫妻も、遠きまたは近き血統で、互にすべての村人が縁辺する親戚であり、昔からつながる叔父おじ伯母おばの一族である。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
江戸を落ちた徳川のながれの末の能役者だったという、八郎の母方の祖父おおじ伯父また叔父、続いて祖母おおば伯母おばまた叔母などの葬られた、名も寺路町てらみちまちというのの菩提寺ぼだいじであった。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
降り続く大雪に、伯母おばに逢ひたる心地ここちにや、月丸はつま諸共もろともに、奥なる広庭に戯れゐしが。折から裏の窠宿とやかたに当りて、鶏の叫ぶ声しきりなるに、哮々こうこうと狐の声さへ聞えければ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
これを伯父さんへ持っていったらどんなに喜ぶだろう、かれはこう思いかえした、そうしてたいは伯母おばさんと母が好きだからかまぼこだけは家へかえってからぼくが食べよう。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
安斉あんざいさんから校長先生へ添書てんしょを持ってきたのである。校長さんは家来でない。しかし家来のところへおよめにきている人の伯母おばさんのご主人だから、つまり、家来の伯父おじさんだ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
伯母おばに連れられて帰京し、思いも掛けぬ宣告を伝え聞きしその翌日より、病は見る見る重り、前後を覚えぬまで胸を絞って心血のくれないなるを吐き、医は黙し、家族やからまゆをひそめ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
まきの言ふところによるとひろ子の店は、ひろ子の親の店には違ひないが、父母は早く歿ぼっし、みなしのひろ子のために、伯母おば夫婦が入つて来て、家の面倒をみてゐるのだつた。
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
そこで早くを失った終吉さんは伯母おばをたよって往来ゆききをしていても、勝久さんと保さんとはいつとなく疎遠になって、勝久さんは久しく弟の住所をだに知らずにいたそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
友達の伯母おばさんが、その女をつれて来たとき、笹村は四畳半でぽかんとしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
……それに第一、伯母おばさんも御存知の通り、僕はこんな下手な字は書きません。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そりや、あたしにア腹を立つてもおありだらうけども、何もね、伯母おばさんが知つておいでの事じやあるまいし、いつまでもそんな真似をしていて、伯母さんに苦労を掛けていやうといふの。
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
湖畔の逍遥かられだって帰って来た二人は彼のへやで遅くまで話した。女は伯母おばの家で作ったと云う短歌を書いたノートを出して見せたり、短歌の心得こころえと云うようなありふれた問いを発したりした。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかし未亡人なら母の姉か妹か知らないけれども伯母おばさんに違いはない。たとえそれが伯母であろうと父を奪い、母を殺し、自分の命までも狙う鬼にも等しい伯母なら復讐するのは当然ではないか。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
今朝けさ伯母おばさんたちもきっとこっちの方を見ていらっしゃるわ」
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
伯母おばか、知合いか、なんだ?」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ま「伯母おばさん、御免なさい」
幾度も繰り返してジルノルマン伯母おばは、六十ピストルを贈ってみた。しかしマリユスはいつも必要がないと言ってそれを送り返した。
「ハア? 違ったかな。すると、あれはしず嬢だったかな。そうだ、思い出した、前の日に伯母おばさんにぶたれたと言ったっけ。」
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
大きな松が枝を広げて居る下に、次郎さんの祖母ばばさんや伯母おばさんの墓がある。其の祖母さんの墓と向き合いに、次郎さんの棺はめられた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その翌日、彼が伯母おばに揺り起こされた時にはもうひるを過ぎたうららかな日がま上から長崎の町を照らしているころだった。
そうして自分の青年時代に八十余歳でなくなるまでやはり同じようなおばあさんのままで矍鑠かくしゃくとしていたB家の伯母おば
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
母は津藤つとうめいで、昔の話をたくさん知っています。そのほかに伯母おばが一人いて、それが特に私のめんどうをみてくれました。今でもみてくれています。
文学好きの家庭から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この女房というのがすなわちお万殿で、もとは、美濃国岩村の城主遠山勘太郎が妻、信長のためには実の伯母おばです。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
伯母おばさんが、おまえのしょうだから、今年ことしから自分じぶんいえでも、へちまのみずるといいといったんだよ。」
へちまの水 (新字新仮名) / 小川未明(著)