一日ひとひ)” の例文
あやしや三らう便たよりふつときこえずりぬつには一日ひとひわびしきを不審いぶかしかりし返事へんじのち今日けふ來給きたま明日あすこそはとそらだのめなる
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
僕の気のせいででもあるか、民子は十三日の夜からは一日ひとひ一日とやつれてきて、この日のいたいたしさ、僕は泣かずには居られなかった。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
朝な夕な、琴弾きたまうが、われ物心覚えてより一日ひとひも断ゆることなかりしに、わが母みまかりたまいし日よりふとみぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
み、くるしみ、疲れた冬の一日ひとひは次第に暮れて行くのである。其時白衣びやくえを着けた二人の僧が入つて来た。一人は住職、一人は寺内の若僧であつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
何日いつとて云うて來ぬかモウ今日あたりは來然きさうな物と親父おやぢいへ女兒むすめもまた戀しい人と二世のえんむすぶに附てうれしさの一日ひとひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
晩秋おそあきの晴れた一日ひとひが、いつか黄昏たそがれて、ほんのりと空を染めていた夕映ゆうばえも、だんだんにうすれて行く頃だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
一日ひとひ一日と限りなき喜悦よろこびに満ちた世界に近づいて行くのだと、未来を待った少年の若々しい心も、時の進行すすみにつれていつかしら、何気なく過ぎて来た帰らぬ昨日きのう
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
うつくしき汝兄なせの命、かくしたまはば、いましの國の人草、一日ひとひ千頭ちかしらくびり殺さむ」とのりたまひき。
かくて、吾等われら二人は、過来すぎこかたをふりかへる旅人か。また暮れく今日の一日ひとひを思ひ返して、燃えいずる同じ心の祈祷きとうと共に、その手、その声、その魂を結びあはしつ。
いまなむよ我背わがせこひすれば一夜ひとよ一日ひとひやすけくもなし 〔巻十二・二九三六〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
来む二十一日の日曜には舟をむなしうして吾等を待てと堅く約束を結ばしめつ、ひたすらに其日の至るを心楽みにして、平常つねのおのれが為すべきわざを為しながら一日ひとひ〻〻と日を送りけり。
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
然し東京の近郊にも遠くの方々が予想も出来ないだらうと思はるゝやうに美しい然も小ぢんまりとした原や流れが武蔵野の面影を残して——秋の一日ひとひは私達の野遊ピクニクを待つて居ります
〔編輯余話〕 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
ロミオ たのもしらしいゆめつげまことならば、やがてよろこばしい消息たよりがあらう。わがむねぬし(戀の神)もいと安靜やすらかに鎭座ちんざめされた、さればいつになくうれしうて/\、がな一日ひとひこゝろかるゝ。
帰るべき家なしと言張りて、一日ひとひ二日ふたひすぐうちに、漁師夫婦の質朴なるに馴染なじみて、不幸なる我身の上を打明けしに、あはれがりて娘として養ひぬ。ハンスルといふは、この漁師の名なり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
人にも知られず、我身一つの恥辱ならんには、このおもて唾吐つばはかるるもいとはじの覚悟なれど奇遇は棄つるに惜き奇遇ながら、逢瀬あふせは今日の一日ひとひに限らぬものを、事のやぶれを目に見て愚にはやまるべきや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
考えてみると、私は私の一生を送るうちに,否きょうの一日ひとひを暮らすにつけても、見も知らぬおおぜいの人々から実に容易ならざるお世話をこうむっているのである。しかしこれは私ばかりではない。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
すがの根の永き一日ひとひいいもくはず知る人も来ずくらしかねつも
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
住みつかぬ山のいほりはけうとけどまだそぞろなり一日ひとひ二日ふたひ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
にのせてたはむれあひつ文鳥と一日ひとひのいのち獄にいとしむ
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
なごやかに空くもりつつ咲きさかる桜を一日ひとひうちなごめたり
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
さすがにこれらの光華くわうくわひて、一日ひとひ、神を造りぬ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
廻して暮らすには、あまり等閑な一日ひとひゆゑ。
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
にほなきにうらびれて、一日ひとひうろ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
一日ひとひが明けて行つた 暮れて行つた
優しき歌 Ⅰ・Ⅱ (新字旧仮名) / 立原道造(著)
一日ひとひ去りまた一日去る林にいたり
艸千里 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
われ一日ひとひ心ゆるさば、いかにかは
夏の日、一日ひとひ、南の山そばにて
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
暮らせし一日ひとひを忘れじと思ふ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
おい一日ひとひ落花もあたに踏むまじく
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
寄切よせぎれの前にのみ一日ひとひありき。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ぼに一日ひとひれはてゝ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
鳩酢草はとかたばみも、一日ひとひ
夏の日 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
けふ一日ひとひまた金の風
同じ一日ひとひの空合も
天地有情 (旧字旧仮名) / 土井晩翠(著)
一日ひとひたてし誓に
今歳ことしはいかなれば、かくいつまでもたけのひくきなど言ひてしを、夏のすゑつかたきはめて暑かりしにただ一日ひとひふつか、三日みつかとも数へずして驚くばかりになりぬ。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
月給を受取つて来て妙に気強いやうな心地こゝろもちにもなつた。昨日は湯にも入らず、煙草も買はず、早く蓮華寺へ、と思ひあせるばかりで、暗い一日ひとひを過したのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
たぎり湧く湯のとどろきを聞きながらこの石原いしはら一日ひとひすぐしぬ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
秋深みひにけにもみづ山山のはえのきわみに一日ひとひくらしつ
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
母と子と花の木かげの廻り道廻りて永き一日ひとひなりけり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
匂ひなきにうらびれて、一日ひとひうろ
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
一日ひとひのすがたゆるされて
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
しむ風の一日ひとひや船のうへ
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
秋雨や旅の一日ひとひを傘借りて
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
一日ひとひすでに暮れたり
故郷の花 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
丑松は絶えず不安の状態ありさま——暇さへあれば宿直室の畳の上に倒れて、独りで考へたりもだえたりしたのである。冬の一日ひとひは斯ういふ苦しい心づかひのうちに過ぎた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
には芭蕉ばせをのいとたかやかにびて、垣根かきねうへやがて五尺ごしやくもこえつべし、今歳ことしはいかなればくいつまでもたけのひくきなどひてしをなつすゑつかたきはめてあつかりしにたゞ一日ひとひふつか
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けふ一日ひとひ腹をいためてしをればきよきまとゐに行きがてなくに
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
干柿ほしがきは一つ十銭と聞きつつもけふの一日ひとひに三つ食ひけり
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
ただ一日ひとひ青く光れる金縞の蜘蛛。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)