一年ひととせ)” の例文
「螢狩だ。朝顔日記宿屋の段、以来僕は『一年ひととせ宇治の螢狩に、焦がれめたる恋人と』というところを聴くと、涙滂沱ぼうだたるものがある」
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
我若しヴィルジリオとを同じうするをえたらんには、わが流罪るざいとき滿つること一年ひととせおくるゝともいとはざらんに。 一〇〇—一〇二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
昨年の春より今年の春まで一年ひととせ三月みつきの間、われは貴嬢きみわるるままにわが友宮本二郎が上をしるせし手紙十二通を送りたり
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
『いとしき人よ、ひととき見ざるに、はや一年ひととせも相見ざる心地こそすれ。わが生を呪ひつつ、そもわれは生くべきや、かくわれは言ひぬ。』
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
……中に人の数をはさんだばかり、つい同じ車に居るものを、一年ひととせ、半年、立続けに、こんがらかった苦労でもした中のように種々いろいろな事を思う。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この国のことわざにも、光陰に関守せきもりなしと申す通り、とかうする程に、一年ひととせあまりの年月は、またたくひまに過ぎたと思召おぼしめされい。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こちらから押しかけあそばしますてんだ——一年ひととせ、宇治の蛍狩り——こがれめたる恋人と語ろう間さえ夏の夜の——とおいでなさる……チチンツンツン
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
四十五年の御代みよ長く、事しげき代の御安息みやす無く、六十路むそぢあまり一年ひととせ御顔みかおに寄する年の波、御魂みたましたふ西の京、吾事終へつとうそむきて、君きましぬ東京に。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
母は大磯の長者父は一年ひととせ東に流されて伏見大納言ふしみだいなごん実基さねもと卿、男女の習い旅宿の徒然つれづれ一夜の忘れ形見なりと見えるが、『類聚名物考るいじゅめいぶつこう』四十に『異本曾我物語』に
「侍の家庭いえとは、淋しいものよ。母と子でさえ、一年ひととせのうち、幾日朝夕を共にすることがあろうぞ、などとお留守中も、時折、仰っしゃっていらっしゃいました」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冬あたゝかく夏涼しき土窖つちぐらの中に、地獄天堂を超えたる不可思議の月日を送り行くに怪しむ可し、一年ひととせの月日もめぐらさぬうちに、何時いつとなく気力衰へ来る心地しつ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
げふとして暫く此山中に住居しが次第々々に同氣どうき相求あひもとむる手下の出來いできしかば今は三十一人の山賊さんぞく張本ちやうほんとなり浮雲ふうんとみに其日を送りける然るに一年ひととせ上方に住し折柄をりから兄弟のやく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お花は心のさまさして悪しからず、ただ貧しき家に生れて、一年ひととせ村の祭礼の折とかや、兄弟多くして晴衣はれぎの用意なく、遊び友達の良き着物着るを見るにつけても、わがまとえる襤褸つづれうらめしく
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
一年ひととせ前の、それはニール河の水が薄紅色に煙つてゐましたから、たしかに春なのです。宮殿の窓からはその美しい河の流れも、夢のやうに咲き誇つた花々も……一眸の下に眺め渡されて居りました。
青白き公園 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
養和やうわの秋、富士河の水禽みづとりも、まだ一年ひととせぬ夢なれば、一門の公卿こうけい殿上人てんじやうびとは言はずもあれ、上下の武士何時いつしか文弱ぶんじやくながれみて、嘗て丈夫ますらをの譽に見せし向ふ疵も、いつの間にか水鬢みづびんかげおほはれて
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
君死にしよりまる一年ひととせになるといふ五月ごぐわつはじめに君死にしかも
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
年の内に春は来にけり一年ひととせ去年こぞとや言はむ今年ことしとや言はむ
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
年の内に春は来にけり一年ひととせ去年こぞとやいはむ今年とやいはむ
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
相模のや三浦三崎はありがたく一年ひととせあまりも吾が居しところ
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
色変はる秋のきくをば一年ひととせにふたゝびにほはなとこそ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
一年ひととせまへの真夏の日
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
なれと見し一年ひととせのち
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ここに一年ひととせかりのいお
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
かくて治子は都に近きその故郷ふるさとに送り返され、青年わかものは自ら望みて伯父おじなる人の別荘に独居し、悲しき苦しき一年ひととせを過ぐしたり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
大島守のやしきに、今年二十になる(白妙しろたえ。)と言つて、白拍子しらびょうしまいだれの腰元が一人あるわ——一年ひととせ……資治卿を饗応の時、酒宴うたげの興に、此の女がひとさし舞つた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一年ひととせ、藤原純友が、伊予ノ国へ帰るというので、友人ども大勢が、一舟いっしゅうさおさし、江口の遊里で、盛大な壮行の宴をひらいて、夜もすがら大乱痴気らんちきをやって別れたことがある。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はやりかぜ一年ひととせおそれ過ぎ来しが吾はこやりてうつつともなし
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
一年ひととせや、筑紫つくし崗田をかだの宮。
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
青年わかもの別荘に住みてよりいつしか一年ひととせと半ばを過ぎて、そのとしも秋の末となりぬ。ある日かれは朝く起きいでて常のごとく犬を伴い家をでたり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
が、まだ潮音と一年ひととせぶりの想いを果しただけで、世間へはどこへも顔出ししていない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伯母上はいかにしたまいけむ、ものけて花がるたしたまいたりとて、警察に捕えられたまいし後、一年ひととせわが県に洪水ありて、この町流れ、家のせし時にも何の音信おとずれも無かりしとか。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一年ひととせや、筑紫つくし崗田をかだの宮。
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
一年ひととせと二月はあだに過ぎざりき、ただ貴嬢きみにはあまり早く来たり、われにはおそく来たれり、貴嬢きみ永久とこしえに来たらざるをこいねがい、われは一日も早かれとまちぬ
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
忍剣にんけん恵林寺えりんじにいたころ、一年ひととせ、その盛時せいじを見たことがあるので追憶ついおくがふかい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
杜若かきつばた一年ひととせうゑたが、あのむらさきのおいらんは、素人手しろうとであかとりぐらゐなところではつぎとしかうとしない。ばかりのこして駈落かけおちをした、どろのまゝの土鉢どばちがある。……それうつして、ふたをした。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一年ひととせの独居はいよいよこの自信を強め、恋の苦しみと悲しみとはこの自信と戦い、かれはついに治子を捨て、この天職に自個をささぐべしと自ら誓いき。後の五月いつつきはこの誓いと恋と戦えり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
一年ひととせ、比野大納言、まだお年若としわかで、京都御名代ごみょうだいとして、日光の社参しゃさんくだられたを饗応きょうおうして、帰洛きらくを品川へ送るのに、資治やすはる卿の装束しょうぞくが、藤色ふじいろなる水干すいかんすそき、群鵆むらちどりを白く染出そめいだせる浮紋うきもん
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「せめて、もう一年ひととせ」と、拝むばかりに、引き止めるのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはあずまの銭なしが、一年ひととせ思いたつよしして、参宮を志し、かすみとともに立出でて、いそじあまりを三河国みかわのくに、そのから衣、ささおりの、安弁当のいわしの名に、紫はありながら、杜若かきつばたには似もつかぬ
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年紀とし六十に余れる隣の扇折おうぎおりおじわかき時は、夜ごとにその姿見たりし由、近き年は一年ひととせに三たび、三月に一たびなど、たまたまならでは人の眼に触れずという。一尾ならず、二ツ三ツばかりある。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一年ひととせ、激しい旱魃かんばつのあった真夏の事。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一年ひととせ、激しい旱魃かんばつのあつた真夏の事。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)